先んじて功を争う
俺は篠の丸城に入って将兵に休息を命じる。まずは此処で官兵衛と直家の報告を待つことにする。少なくとも官兵衛の方は上手く事が運んでほしい。でなければ挟撃される形になるのだ。
まずは別所の出方に注目する。赤松は既に風前の灯だ。それを狙って浦上宗景が動き出してもおかしくはない。まあ、最終的には両方とも俺が滅ぼすのだが。
ひとまず、我らは侵攻停止だ。この地を掌握することに努めなければ。さて、どうするべきか。諸将を集め、俺は自分の考えを率直に述べた。
「まずは黒田官兵衛が別所を調略出来るかどうかだと考えている。なので、一時停止し、奪った領地の掌握に専念するべきだと思っている。さて、皆の意見を聞かせてもらいたい」
まず、声を上げたのが本多正重であった。
「それがよろしいかと。我らは赤松の兵を悉く切り捨て申した。置塩城のある飾磨郡北部は押さえても難しいでしょう。それに、我らは恨みを買っております故」
正論である。怒りに身を任せて根伐りにした結果、恨みを買ったのだ。家臣に嫌味を言われても致し方のないことである。甘んじて受け入れよう。
「確かに三弥の言う通りだな。耳が痛いわ。他に意見がある者は居るか?」
しからば某が、と述べて発言したのは井伊直親であった。そういえば、そろそろ彼の息子を小姓として取り立てよう。名前は確か万千代だったはずだ。
「浦上三郎九郎から奪った領地を明け渡せと言われたら如何なされるおつもりでしょうや?」
「尤もな疑問である。悪いが俺はむざむざとくれてやる気はない。そんなことを述べてくるようならば、返り討ちにしてくれるわ。いや、そうなるよう仕向けるぞ」
備前は必ずものにして見せる。ああ、それから姫路の城を改修して堅固なものにしておかなければ。姫路城、鳥取城、国吉城、建部山城は改修したい。何故ならば海岸沿いだからだ。
貿易、商いの拠点になるのだ。絶対に死守したい地域である。逆に此隅山城や津山城は収支に大きく響いてこないだろう。勿論、だからといって奪われて良い訳ではない。
そんなことを考えていると、長坂勝繁からこのように声を掛けられた。
「御屋形様、ただ待っているだけではなりませぬ。このまま南下し、香山城を攻め落とすべきかと。赤松下野守の喉元に圧を掛けましょう」
確かに此処、篠の丸城から南に二時間ほど歩けば香山城である。勝繁の言う通りだ。香山城を我らが攻めても赤松政秀は後詰めを出せない。
今、赤松政秀は北に我ら篠の丸城が、東に黒田官兵衛の姫路城と北東に挟まれているのだ。更に南からは宇喜多直家と十河存之――と言うらしい――が迫っている。
西にある天神山城から浦上宗景がいつ来てもおかしくはない。まさしく文字通りの四面楚歌なのだ。だから別所を我らが押さえるか、それとも赤松が押さえるかで情勢が大きく異なってくるのである。
「そうだな、長坂源五郎の申す通りよ。では其方の寄騎に宇野勘解由と内藤筑前守を付ける。落として参れ」
「ははっ」
「落とした暁には褒美を授けよう。何が欲しい?」
「……某が求めるものは誉れ以上にございませぬ」
本心を隠してきたか。これはまだ信頼関係が築けていない。そういうことなのだろうか。少し凹む。だが、そんな素振りは皆の前では見せられない。笑顔を浮かべろ。
「其方は欲が無いな。もし、落としたならば加増しようではないか。いや、城持ちにしてやっても良い。励めよ」
「ははっ」
そろそろ家臣団の構想も練った。併せて国替えも考えなければ。先に述べた落とせない城は信頼のおける有能な将に任せよう。
それ以外は期待したい将には海岸沿いの土地を。内政が得意な将には平地の多い城を。戦上手には山城を任せよう。
「恐れながら申し上げまする」
「なんだ、半蔵」
これで評定は終わりかと思われたが、渡辺守綱が俺に声を掛けてきた。何か決めかねたことでもあっただろうか。
「恐れながら龍野城攻めは某にお任せく下され」
「何と!?」
他の将からも声が上がる。どうやら手柄の小さな香山城は他の将に任せ、手柄の大きな龍野城を自分にと願い出てきたのである。中々の策士だ。
「お待ちを! 龍野城攻めであれば某に!」
「いえ、是非とも某にお命じ下され!」
誰が龍野城を攻めるか揉め出したではないか。俺は頭を抱える。そしてこう宣言した。
「龍野城は俺が総大将として赴く。赤松に引導を渡してやろうではないか」
こっそり帰って政に従事しようと思っていたのに。国替えの案を練ろうと思っていたのに。増え続ける家臣を御すのも中々楽ではない。そう思うのであった。
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