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毒を食らわば

 ただ、ずっと呆けている訳にもいかない。何とかこの場を治めなければ。俺の理想としては宇喜多直家が心の底から臣従することであるが、それはないだろう。それであるならば人知れず殺してしまいたい。


 忠誠心の無い味方など、敵よりも質が悪いのだ。それならば居ない方が良い。そう考える者は少なくないはずである。


「俺に臣従して何を望む」

「まずは祖父の仇を。赤松左京大夫をこの手で誅したく存じまする」

「それから」

「城を持ちとうございます。願わくば父祖伝来の砥石城を」

「それから」

「それ以上は何も望みませぬ」


 嘘だ。そう思う俺が九割。残りの一割は直家が家臣を失い、改心したと思う俺だ。しかし、城が欲しいか。俺は思案する。まずは我らの目的を明確化させなければ。


 目的は何だ。備前と西播磨の征服である。つまり、赤松と浦上を斃し、我ら武田の領地とすることだ。では、一番厄介なのは何だ。彼らに団結されることだ。


 浦上と赤松は団結しない。だが、三村や別所はどうだろうか。備前、播磨に付け入る隙があると見るや盟を成して攻め込んでくるだろう。それらを黒田と宇喜多に押さえ込んでもらう。それを忠誠の試金石とするのだ。


「貴殿の臣従を認めるには幾つかの条件がある」

「何なりと」

「まず、全ての領地は没収とする」


 そう宣言する。しかし直家は顔色を変えない。どうやら話はまだ続きがあると理解しているようだ。そこまで早計ではないようだ。


「そして八百石の食い扶持にて仕えることを許す」


 八百石。雇えて侍四名だろうか。これは知行ではなく、米を支給する。これはまだ俺が宇喜多直家を信用していないよ、という訴えだ。それは向こうも承知であろう。


「ただ、我らが三村紀伊守を潰した暁には備中松山城は其方にやる」


 ここで餌を撒く。とはいえ、三村家親を潰す手立てが彼らには無い。そして俺も彼らにやらせようなど微塵も思っていない。それは責任を持って我らが行う。


「調略は能うか?」

「……能いまする」

「では、俺に仕えることを許そう。ああ、そうだ。浦上家で有能な奴も引き抜け。一人引き抜くごとに百石の禄を増やそうではないか。俺に引き合わせるだけでも褒美を出そう」

「ははっ。ありがとうございまする」


 頭を下げて承諾する直家。とりあえず、宇喜多直家を丸裸にして仕えさせることにした。そこから先は俺が見極める。ただ、傍には置かない。怖いから。


 本来ならば人質を取りたいところだが、生憎と直家には子がいない。宇喜多秀家はいつ生まれるのだろうか。それならばともう一計を案じる。


「それだけでは足りぬな。まだまだ俺も甘い。正直に話そう。俺は貴殿が怖い。怖くて怖くて堪らぬのだ。だからその一切を剝ぎ取った。だが、そうすると恨まれるのではと、また怖くなる。寝首を掻かれる。殺されるのでは、と」


 宇喜多直家は俺の話をじっと聞いている。心に思い当たる節でもあるのだろうか。


「だがそれだと我らに仕え甲斐も無いだろう。なので、こうしよう。俺は貴殿が怖いから冷遇する。襲われた恨みもある。これは中々に晴れぬものだ。しかし、子に罪は無い。貴殿に子が生まれ、家督を継いだ時、其方の稼いだ功績をそっくりそのまま子に与えようではないか。これで如何か?」


 これが俺の出来る精いっぱいの繋ぎ止めであった。この条件で断られる。離れられたら仕方がない。縁が無かったのだと思って諦めることにしよう。


「具体的に教えていただきとうございます」

「というと?」

「如何程の働きを見せれば、功績と認めて下さいますでしょう。そして、褒美がどれ程貰えるのでしょうや」


 尤もである。契約が曖昧過ぎた。そこで契約の内容を明確にする。まず、調略は前述の通りとして、戦にて侍首を一つとるごとに十貫の褒美と録を与えることで合意した。


 それ以外に関しては適宜、決めることにする。また、積極的な提案も大歓迎である旨をきちんと伝えた。


「では、これで異論は無いな」

「はっ、ございませぬ」

「よし。では早速だが、付いて参れ」

「ははっ」


 俺は思う。確かにこれが直家にとって最良の道だったのかもしれない。ここまで減封されるとは思ってもなかっただろうが、それでも最良だ。


 毛利に着くか武田に着くかの二択なのである。浦上も三浦も赤松も風前の灯。三村は我らと毛利に比べると一つ落ちる。そして直家は毛利からの印象も最悪なのだ。


 俺は官兵衛の前に再び姿を現す。宇喜多直家を連れて。流石の官兵衛もこれには驚いていた。俺はあの官兵衛を驚かしたという、ある種の爽快感を覚えていた。


「すまなかったな。話を続けよう。飾磨郡、揖保郡、赤穂郡、そして佐用郡を攻め獲るという話であったな」

「は、ははっ」

「問題は赤松晴政と赤松政秀だろうな。赤松晴政はもう死に目だ。問題は無い。龍野城の赤松政秀が問題よ。間違い無く別所安治と手を組んで置塩城を狙ってこよう。さて、如何する?」


 官兵衛は考え込む。彼は義理堅い人物ではあるとは思うが、野心家でもあると思っている。それこそ、宇喜多直家に負けず劣らずの。その彼を引き入れるのも怖いものがあるのだ。


 中央に深く取り込むべきか。それとも端で燻ぶらせるべきか。

 俺は官兵衛の処遇を未だ決めかねていたのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 宇喜多直家と黒田官兵衛とはゴージャスなセットですね。宇喜田とはもう駄目だと思っていたから意外な展開。 いまさらだけど人物を知っているっていうのはやっぱりかなりのチートですね。直家はともかく、…
[一言] 修正前は宇喜田直家はそのまま仲間になりそうな感じだったんだっけ 弟すら暗殺にビビってたとか梟雄エピソード山盛りの直家 でも秀吉には裏切らずに仕えたんですよね、数年だけですが 意外と掘り下げが…
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