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今回の戦は以下のGoogleマップを見ながらお読みいただくとわかりやすいかもしれません。
https://www.google.com/maps/@35.1676799,134.5434389,2816m/data=!3m1!1e3!5m1!1e4
翌朝、日の出と共に南下し、内藤重政が波賀城の周りに兵を展開する。今回の戦、俺は口出しをしない。総大将らしく後ろでどんと構えていることにした。
「内藤筑前守様はどうやって城を落とすのでしょうか?」
「さあな。俺にも分からん」
傍に控えている堀菊千代が俺に尋ねる。俺がそう答えると菊千代はしゅんとしてしまった。どうやら俺が不機嫌だと思ったらしい。いかんいかん、これでは俺の器量が知れるというものである。
この地を奪うつもりだ。城下町は荒らせない。時間をかけると赤松の後詰めが届いてしまう。急ぎ城を攻め落とす必要があるのだ。内藤がそれを理解していないとは思えない。
だというのに、内藤は城を包囲しているばかりで、城を落とそうという気概が見受けられなかった。俺の中に苛立ちが募ってくる。後詰めが来てしまうのだぞ。
しかし、内藤に任せると決めたのは他でもない俺だ。俺は内藤に全てを託したのだ。あの太刀が返ってくるまで、いくら総大将であり当主である俺でも内藤に従わなければならないのだ。
そうして包囲して罵声を浴びせるばかりで内藤重政は動かなかった。彼我の戦力差は圧倒的だというのにである!
一日が過ぎ、二日が過ぎた。そしていつの間にか七日が過ぎ、赤松の後詰めが波賀城へと向かっているという知らせが届いた。急ぎ、攻め落とさねば挟撃されることになる。
「内藤のは何をしておるのだ!」
俺は声を荒げた。力で攻め落とさなければ舐められる。下に見られるのだ。
国衆を靡かせるには力で屈服させなければならぬのだ。
「御屋形様、内藤筑前守様がお見えにございまする」
「通せ」
菊千代が陣幕に内藤重政の床几を用意する。そして内藤が入ってきた。相変わらず、優しそうな顔を浮かべ俺を見ている。
「如何した」
「はっ、御屋形様にお願いがあり参上仕りましてございまする」
「何だ」
「赤松の後詰めがこちらに向かっておりまする。このままでは挟み撃ちに遭うことは必定。御動座願いたく」
「何処にだ」
「波賀城の北西、引原川沿いにございまする」
どうやら城攻めを取り止め、後退するという。五千もの大軍を連れてきたというのにである。
農繁期に五千も動員しているのだ。だというのに、後退するなど馬鹿げている!
声を荒げて叱責しそうになる。しかし、内藤が先を制してこう述べた。
「今は某がこの太刀を握っておりまする。ご動座を」
跳ね除けることもできた。しかし、それをすると家臣が付いてこなくなる。それは深く理解していた。ワンマン経営の社長にはなりたくない。前世の記憶がそれを抑え込む。
「分かった。案内いたせ。陣を払うぞ!」
内藤の指示に従い、陣を払って後退する。未だ我らは武を見せつけることが出来ずにいた。
そして俺は指示された引原川よりも更に後ろ、迩志神社まで後退して陣を敷いた。
俺の内心は荒れた。内藤の行動は目に余り過ぎる。武を示せと言ってるのに、一向に示す気配が無いのだ。そうこうしている内に波賀城主の中村は赤松と合流しているだろう。
物見の知らせによれば赤松は三千の兵を率いて後詰めに来たらしい。
明らかに舐めている。兵数が少なくとも我らに勝てるとでも言いたいのだろう。
我らが後退した分、赤松が前進してきた。両陣が睨み合う。
どうやら赤松は我らを追い払うために野戦を仕掛けるようだ。俺はやや高い神社から文字通り高みの見物である。
我らの先鋒は飯富虎昌。対して向こうは宇野政頼なる者が先陣を務めていた。
赤松氏の一族衆の当主のようである。
法螺貝が鳴り響く。どうやら赤松が一気呵成に攻め込んでくるようだ。それを虎昌が上手くいなす。
我らはいなすばかりで攻勢に出ようとしない。被害は出ていないようだが何をやっているのか。床几を蹴り飛ばす。
その時であった。内藤の陣から太鼓の音が鳴り響いてきたのだ。その音を合図に虎昌が宇野政頼を押し返し始めた。更に両脇の山と森から渡辺守綱と本多正重が飛び出す。
三方から攻撃された赤松勢は生きた心地がしないだろう。崩れるのも時間の問題である。
しかし、内藤は赤松の兵を一兵たりとも逃がす気は無かった。
本多正信と垣屋続成の兵が加茂新明神社から南下し、中心の森を迂回して敵の背後に回っていたのだ。四方から囲まれてしまってはどうすることもできまい。
何とも鮮やかな采配だろうか。
俺は一時の感情によって力攻めを選ぼうとしていたことを恥じた。
武に寄るのは良い。だからと言って兵を消耗して良いという訳ではないのだ。
武を示す時と場所を考えなさい。内藤からそう怒られているような気がした。
城を囲み、だらだらとしていたのも相手に我らを舐めさせるためだったのかもしれない。
だから我らを甘く見て突っ込んできたのだ。そして、城を包囲している最中に周囲の地理をしっかりと下調べしていたのだ。わざと安い挑発を繰り返していたのである。
冷静になればなるほど見えてくる。俺がどれだけ愚策を講じていたのかを。
力を示すとは、こういうことだったのだ。俺は履き違えていた。頭をガツンと殴られた心地である。
程なくして赤松勢は瓦解した。そして内藤は俺の言いつけを守り、兵を逃げられぬようにしてから殲滅していた。おそらく、血の海になっているだろう。
これで我らを謗る者は減るだろう。むしろ、恐れる者が増えるはずだ。
俺はただただ自分を恥じ入ることしかできないのであった。
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