表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
163/270

やってやれないことはない

「どうであった?」


 俺は日が暮れて、虎口から戻ってきた遠藤秀清に訊ねた。秀清は満足そうな顔をして「上々にござる」と手短に答えた。聞けば敵方の武将首も挙げることが出来たとのこと。


 勿論、首を城内に持ち帰ることは叶わなかったが、敵将を減らすことが出来たのは重畳だ。聞けば攻め込んできたのは宇喜多勢だという。と言うことは討ち取ったのは宇喜多の手勢の誰かだ。


「旗印は?」

「星梅鉢に。おそらくは戸川平右衛門尉かと」


 戸川秀安を討ったとあらば、初戦はこちらの勝ちである。夕暮れから襲って来た時は不意を突かれて驚きはしたが、返って良い結果となった。戸川秀安といえば、腹心中の腹心よ。


 どうやら神楽尾城も無事のようだ。向こうはこちらより寄せがぬるいようである。この調子ならば防ぐことも難しくない。あと我らにできることは……寄せ手の内部分裂を誘うか。


「黒川衆は居るか?」

「はっ。此処に」


 現れたのは黒川与四郎であった。どうやら遠藤秀清と共に入城していたようだ。その与四郎を呼び寄せて俺はこう告げる。


「毛利と宇喜多の仲違いを狙いたい。今から書状を一通用意する。それを宇喜多勢に悟られるように毛利の粟屋に手渡すことは可能か?」

「悟られるように、でございまするか。悟られぬようにではなく」

「そうだ。悟られるように、だ」

「それであれば容易いことにございます」

「そうか! では、今書状を認める。待っていてくれ」


 俺は毛利の粟屋元通充てに手紙を用意する。一度もあったことが無いのに、昵懇の仲であるかのような手紙だ。


 それから同族の粟屋勝久には良くしてもらっていること。今回の件の首謀者は宇喜多であり、彼らを誅することで和睦に同意することを認めた。そういえば、粟屋勝久、尼子勝久の両名は無事だろうか。


 それから必要な個所を黒く墨で塗り潰していく。敢えて必要なところをである。ただ、所々、宇喜多という名だけは残しておく。


「よし」


 何度も読み直して、完成した手紙を黒川与四郎に手渡した。これを宇喜多勢にばれる様に手渡してもらえば宇喜多は疑心暗鬼に陥るだろう。たしか、三国志で使われていた策だったはずだ。


 勿論、三国志の時とは状況が違う。我らが一枚岩なのに対し、向こうが連合軍というのが一緒だろうか。そこを何とか突きたい。


「承知仕った」

「この手紙を三日後以降に渡してくれ。ああ、そうだ。手紙を渡す際、一度会って話をしてみたいと伝えて欲しい」

「はっ」


 これで毛利と宇喜多の連合が瓦解すれば我らとしては毛利と和睦して宇喜多を叩き潰したいところだ。我らが宇喜多を食らえば毛利はこれ以上、東進することが難しくなるだろう。


 後は結果が出るのを待つのみである。


 それからというもの、城への攻撃は続いたが初日の傷が癒えていないのか、虎口攻略の糸口が見つからないのか、そこまで激しい攻撃ではなかった。このままであれば我らの本隊が此処へ到着するのも時間の問題である。


 要は時間を延ばすことが出来れば良いのだ。それで我らの今の勝ちは見える。ただ、毛利とは争いたくない。国力差が大き過ぎる。毛利元就が存命の内は特に。


 ただ、今を生きられなければ未来が無いのも事実。なので、此処は勝ちを重ねるしかないのだ。幸いにも火縄銃をふんだんに用いているため、防衛はそこまで追い詰められていない。


 食料も大量にあるため――主に蕎麦であったが――飢え死にすることもないだろう。水も川があるので安心だ。後は後詰めがどれ程で到着するか、である。


 そう考えていた時、一人の武者が此方に駆け寄ってきた。手には一本の矢を持っている。そのお尻には手紙が括り付けられていた。


「こちらを」


 その手紙を解いて俺に手渡す。手紙は伝左からであった。内容としては直ぐに後詰めとして駆け付けようとしたが、明智十兵衛や本多正信が止めているらしい。


 俺と遠藤秀清の配下が居るから直ぐには落城しないと考えているのだろう。急いで駆けつけるよりも、しっかりと準備して軍としての質を上げてから向かうべきだと主張したというのだ。


 なので、一か月程持ち堪えられるか、という内容の手紙のようだ。それであれば問題は無い。俺は可とだけ紙に書いて矢に括りつけて射返させた。念のため毛利にあやかって三本。


 万が一、盗まれたとしても、「可」と花押しか書いていない矢文だ。何のことだか分からないだろう。これならば問題はない。


「又次郎、一か月持ち堪えさせることは能うか?」

「勿論にございまする。昨日の戦にて確信いたしました。この城であれば能いましょう」

「俺もそう思う。又次郎は虎口を死守してくれ。それ以外は俺が見る。と言っても侵入する道が無いのだがな」

 

 もう水堀に足を向けて寝られないな。まあ、川に囲まれている以上、それは無理なのだが。


 さて、一か月をどうやって乗り切るか。兵糧も十分、士気も高い。出来ないことはない。籠城になって良いことと言えば、次期将軍争いに加わらなくて済むことだろうか。


「やってやれないことはない、か」


 俺はそう独り言ちてから、本丸へと戻るのであった。

励みになりますので、評価とブックマークをしていただければ嬉しいです。

ブックマークだけでも構いません。登録していただけると助かります。


評価は下の☆マークからできるみたいです。評価がまだの方は押してみてください。


私の執筆意欲の維持のためにも、ご協力いただけますと幸いです。

今後とも応援よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

餓える紫狼の征服譚の第2巻が予約受付中です。

あの、予約にご協力をお願いします。それなりに面白く仕上がってますので、助けると思ってご協力ください。

詳しくはこちらの画像をタップしてください。

image.jpg

応援、よろしくお願い申し上げます。


― 新着の感想 ―
[一言] 内政パートも良いけどやっぱ戦はあがるなー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ