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誘い水に乗って

 小高い丘の上に城が建っていた。周りは水で囲まれ、攻め落とすのが難しい城であることが一目で分かる。余程の知恵者が城を建てたのだろう。立地というものを把握している。


 城に詰めている兵数は二千にも満たない。対して我らは五千である。普通の城ならば、我らの力をもって落とせなくはない。落とせなくはないが、この城は如何だろうか。


「粟屋縫殿允様に申し上げまする。宇喜多和泉守様がお越しになられました」

「そうか、通せ」


 許可を与えると三十半ばの武者が供を引き連れて我が陣幕を訪れた。その顔には自信が満ち溢れていた。充実しているといっても過言ではない。


「某が宇喜多和泉守でござる」

「うむ、粟屋縫殿允である。まずは座られよ」


 床几に腰を落ち着ける。そして軍議を開始する。議題は勿論目の前の津山城をどう落とすか、である。築城されたばかりの最新の、若狭武田の技術の粋が詰まった城である。


 そして目の前の城の中に若狭武田の当主である武田伊豆守が居るのだ。此処で奴を捕える、いや殺すことが出来れば我らは東に大きく伸びることが出来るのである。


「さて、この城であるが如何して攻めるか。もたもたしていると後詰めがやって来よう。速やかに落とさねばならん。敵方の将は武田伊豆守のみ。恐るるに足らんが……」


 此処で言葉を止めた。そう、相手は元服したばかりの豎子。恐れることはないのだ。しかし、何故だか不気味な感じを拭えないのである。


「何を恐れることがあるのか。一息に攻め潰してしまえば良いのよ」


 そう息巻いているのは戸川秀安である。どうやら武田が相当気に食わぬらしい。彼らの間で何があったかは知らぬが、前のめりになっているのであれば好都合。


「では、戸川殿が先鋒を務めて下さる、と。決まりですな」

「無論にござる。ただし、我らが攻め獲った城は我らの城に」

「承知した」


 それくらいの餌を与えなければ働きも期待できないだろう。若狭武田を排してくれるのであれば、我らとしても願ったり叶ったりよ。


 陣構えを定める。先陣が宇喜多直家殿、後詰めに林就長殿、本陣は某だ。兵数はそれぞれ千、三千、千である。さて、まずは小手調べと行こう。


 宇喜多隊の千を失っても痛くも痒くもない。それに、宇喜多は怪し過ぎる。彼奴が言うには尼子が我が領内で暴れ回っていた首謀者が武田伊豆守であると言う。果たしてどこまで信じたものか。


 彼らも疑われていることを理解しているのだろう。それを察して先陣を務めているのだ。どう動くか、某は御屋形様から全権を預かっているのだ。慎重に動かなければ。


「ご注進にございます! 戸川様が攻め掛かりましてございます!」

「なんと!」


 もうすぐ日が暮れるという時刻だというのに戸川秀安が攻め掛かった。恐らく、敵方の意表を突くため、このような時刻に攻め掛かったのだ。


 日が落ちれば一時停戦となる。それまでに一の門だけでも抜いてしまおうという算段なのだろう。そう思っていた矢先であった。城門から轟音が鳴り響いたのは。


「な、何事かっ!?」


 狼狽える兵を鎮めながら状況を把握する。あの音、恐らくは種子島であろう。どうやら城内で一斉に放たれたようである。それなりに練度の高い兵が居るようだ。


 それから何度も轟音が鳴り響く。どうやら、敵方の守りはそう易くないようだ。日が暮れ、今日の戦も仕舞いだと思ったその時である。一人の兵が走り込んできた。


「ご、ご注進にございます! 戸川平右衛門尉様、お討ち死ににございます!」


 周囲の兵が動揺する。あれだけ息巻いていた戸川秀安がこうもあっけなく討たれたのだ。前線の兵は恐慌状態に陥っているだろう。下手をしたら全滅もあり得る。


「宇喜多殿は?」

「既に動いておりまする」


 しかし、そこは戦上手の宇喜多殿だ。既に兵を纏めて退却しているに違いない。ただ、多大な損失は免れないだろう。此処で譜代である戸川秀安を失ったのは手痛いだろう。


「被害の状況は?」

「調べさせておりますが、恐らく二百程に上るのではないかと」


 二百。その数を聞いて腰が抜けそうになった。先鋒はほぼ全滅と言っても過言ではない被害を受けたようだ。此処までの被害を被っている以上、宇喜多が裏切っている心配は少ないのがせめてもの救いだ。


「戸川殿は如何様に討たれたのか?」


 馬廻りに詳しい状況を尋ねる。その馬廻りも又聞きだそうだが、門を抜けた先に更に門があったようだ。そして南の門を抜け東の門を破ろうとしたその時だった。


 東西南北の全ての塀の上に種子島が狭間から姿を現したのだという。そして斉射。


 結果は火を見るよりも明らかである。その音が何だったのか、興味をそそられた第二陣がのこのこと足を踏み入れ……ということらしい。


「誘い虎口であったか」

「はっ。一の門も破りやすいよう、朽ちた木で作られておりました。巧妙に漆で隠されていたようにございます。逆に二つ目の門は固い鉄城門でございました。そこで手間取り……」


 馬廻りの顔色も良くない。どうやら、雑兵の耳にも初戦の大敗が伝わってしまったようだ。動揺が伝播していく。良くない流れだ。


 こうして、日が山間に隠れ、長い長い夜が訪れたのであった。

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