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対三村同盟

 明智十兵衛と本多正信、それから前田利家と飯富虎昌に俺を含めた五人で車座になって話し合う。まずは俺の考えを彼ら四人に伝えることにした。


「始めに言っておくが今回、俺は戦をする気はない。あくまでも毛利の後詰めを勝山城に取りつかせないのが俺たちの役目だ」

「と、申されますと?」

「勝山城は天然の要害の上に建っている。北から取り囲むように旭川が流れているからだ。我らも勝山城に駆けつけるが城攻めには参加せず、毛利の後詰めに警戒するため西に目を向けておく」


 尋ねてきた飯富虎昌は俺の意見を耳にすると顎髭を撫でながら低く唸った。前田利家は戦が無いことに残念そうである。十兵衛と正信は静かに意見を耳にしていた。そして十兵衛が口を開く。


「それは些か楽観的かと。毛利には後がございませぬ。ここで三村氏を見捨てたとなれば国衆の間に大きな動揺が走りましょう。死に物狂いで助けに来るものかと」


 毛利は意図せず因幡で国衆を一度見捨ててしまった。その時の家中の動揺を考えれば確かに三村家親を救出してくる可能性は高い。毛利家であれば二万の兵は余裕に動員できるはずだ。分が悪すぎる。


「……そうか。では良い案はあるか?」

「某が考えまするに兵は神速を貴ぶと申します。それゆえ、我らと尼子の軍勢をもって一気呵成に勝山城を攻め落とすべきかと。幸いにも西に比べて東からの攻めには弱いつくりとなっております」


 そう進言する十兵衛。確かにその通りだ。勝山城を速やかに奪取し、防備を固めれば西からの攻めには幾分か耐えることができるはずである。


「お待ちを。それを行うには、まず我らが東美作を制圧する必要がございます。制圧せずに行えば横槍を突かれますぞ。敵は三村だけにございませぬ。三星城の後藤、三宮城の村上などを下さねばなりませなんだ」


 それは骨が折れる。岩屋城の中村や倉敷城主の江見は尼子の傘下ではあるが、沖溝城主の片山や矢はず山城主の草刈など、敵は多いと言える。


「では、弥八郎はどうしろと?」

「尼子を見捨てるべきかと」

「ほう」


 これは強硬な意見が出てきた。この状況で尼子を見捨てろと言われるとは思わなかった。尼子が潰れてしまったら毛利と領地を接することになる。


 毛利元就は高齢だが、吉川元春と小早川隆景は健在だ。毛利と事を構えるのはまだ早い。向こうはこちらの倍近くの石高を誇る大大名なのだから。本多正信がさらに言葉を続ける。


「それに当家は戦が続いておりまする。丹後、但馬、因幡そして丹波に攻め込み申した。特に丹波攻めは失敗と言っても良いでしょう。まだその傷が癒えておりませぬ。まずは許諾を得られた。そう考えるのがよろしいかと」

「許諾とは?」


 飯富虎昌が本多正信に尋ねる。正信はその疑問に柔らかな笑みをもって答えた。


「美作を手中にする許可にございます。つまり、尼子と宇喜多は我らの要請で美作攻めに協力はしても攻めとることはできない、ということになります」


 もちろん彼らが黙って従うとは思えない。だが、それをした場合、声を大にして糾弾する権利が与えられるのだ。それならば悪い話ではない。


「我らも大きくなったとはいえ、未だ五十万石に満たないのです。だのに周囲を毛利、朝倉、六角、三好に囲まれている。ここは辛抱を」


 目の前に餌が落ちているのに指を咥えて待っているだけなのか。待て待て。そう焦るな。要は楔を打ち込むことが出来れば良いのだ。


 それであれば話は変わってくる。しかし、これに待ったをかけたのは明智十兵衛であった。


「それは愚策にござる。尼子を見捨てるは利あれど義と信を失いまする。そうすれば垣屋や因幡の武田が毛利に靡きましょうぞ」

「何を仰られる。毛利こそ身内の南条殿を見捨てたではないか。我らは身内は見捨てませぬ。あくまで見捨てるのは外の者に」

「であってもでござる。此処で信を失えば今後の調略が難しいものになりますぞ」


 二人の言い合いを他所に地図にもう一度目を落とす。東北条郡と西北条郡を押さえれば美作に楔を打つことができる。ここで智頭郡の南部を割譲してもらったことが生きてきた。


「わかった。今回の我らの目標を鶴山とする。東北条郡と西北条郡だけ押さえることにするぞ」


 二人の言い合いが止まる。そして俺の意見に耳を傾けているようだ。全員の注目が集まったところで俺自身の考えをつらつらと述べる。


 まず、西北条郡を押さえて対毛利の拠点とするのだ。鶴山城は山名教清が築城した城だが、今は廃城となっている。ただ、この鶴山城は立地が非常に良いのだ。


 平城だと思われがちだが、実は平山城である。そして南を吉井川、東を宮川が流れている。堀に水を引いて強固な城を築くことができるのだ。現在まで津山城として名を変えて残っている。


 そして神楽尾城を支城とする。神楽尾城は尼子の城だ。喜んで割譲してくれるはず。その代わり、やはり後詰めを出さねばならないだろう。


 なので、尼子は見捨てない。見捨てないが、手に負えないようであれば見捨てる。三村家親がどれだけの抵抗をするかで判断しよう。


 問題は誰を後詰めに向かわせるかである。こちらの事情を理解し、兵を無駄に損失しない人物。用兵が巧みで尼子にも毅然とした態度で臨める武将。そんな人物……居るわ。歴戦の猛将が。


「尼子家への後詰めは飯富に任せる。先程、弥八郎が申した通り我らの損失を最小限に食い留めて欲しい。いざとなれば尼子との関係が拗れても構わん」

「承知仕った」

「えー、俺じゃないのかよ」


 これで落城できなくても最善を尽くした。助力をしたという格好は付く。その姿勢が大事なのだ。そこまで言うなら利家を寄騎に付けようか。


 うん、だいたいの案が大体固まってきた。ここで時間切れとなった。もう一度、尼子と宇喜多の両名と顔を並べる。どうやら各軍ともに何を望むか決めたようだ。非常に晴れやかな顔をしている。


「それでは話し合いを再開しようか」


 俺がそう述べる。そして各位の出方を窺った。さて、尼子と宇喜多は何を望むか。最初に口を開いたのは尼子義久であった。


「我らは変わりませぬ。勝山城の奪還。これに尽きまする。是非ともご助力を願いたい」


 これは道理だ。このままだと西は毛利、東は三村と挟撃されかねない。兵力を集中させるためにも、後顧の憂いは断っておくべきである。問題はこれに対し、宇喜多が何を要求してくるか、だ。


「我らの願いは備前の統一である。従って三村を西備前から追い出せるなら喜んで手を貸そう」


 宇喜多はやはり三村を目の上のたん瘤と思っているようだ。これであればこの話、意外と簡単にまとまるかもしれない。そう思った瞬間だった。


「しかし、である。勝山城を奪い返したとて我らに利は少ない。兵を出すのも一苦労なのだ。殿に睨まれてしまうのでの」


 殿と言うのは浦上宗景のことだろう。確かに宇喜多直家は浦上宗景の家臣だ。しかし、そこまで忠実な臣であるかと問われると疑問が残る。家臣というよりも国衆という立場のはずだ。


 つまり、これは吹っ掛けにきているのだ。そうだ、そもそもの話である。なにも三村氏をけん制するのであれば龍ノ口城。いや出城の両宮山城を攻め落とせば良いのだ。


 この龍ノ口城。宇喜多家の城だと思ったら大間違い。実際は毛利が――というよりも毛利配下の三村が――穝所職経から奪った城である。宇喜多はこの城が欲しいのだ。


 俺ならば勝山城に三村勢が向かったのを見計らってから両宮山城を攻め落とす。それならば十分な利が見込めるはず。そして宇喜多直家が気が付かない訳がない。


 だからこれは吹っ掛けているということだ。もっと良い条件を求めているのだ。しかし、宇喜多に外れられると困る。さて、どうしたものか。いや、待てよ。


「そうであるか。では、宇喜多殿は参加されないと。仕方がない。浦上殿に助力を請うことに致そう」


 そう。別に宇喜多である必要がない。というよりも宇喜多の主家である浦上に頼んでしまった方が早いだろう。


 宇喜多に声をかけたのは俺の誤りだったのだ。前世の記憶で浦上の印象が無く、宇喜多の印象が強かったからだろう。


 宇喜多直家の顔色は変わらない。何を考えているか読めない男である。


 あくまでも家臣、国衆という立場なのだ。宇喜多が攻め取れば宇喜多の城となるはずだが、浦上の命となれば、どうなるかは別である。


「あいやお待ちくだされ。我らは加わらぬ訳ではございませぬ。勝算があるのかと聞いておるだけにございます」


 弁明の声を上げたのは岡家利だ。ふむ、弁明の声を上げたとなれば旨味を感じ取ってくれているということだろう。ならばやりようはあるはず。


 三村家親は美作の三割と備前の半国を領している。ざっと丼勘定で見積もって二十万石弱だろう。となると、動かせる兵は四千ほど。無理をすれば六千まで動かせるだろうか。


 ただ、問題はそこじゃない。毛利がどれだけの援軍を送ってくるかである。備中から兵が雪崩れ込むこと必至である。また、備前もその憂き目に遭うだろう。そしてふと閃く。


「勝算はある。しかし、ここでは言えぬな。何処に間者が潜んでいるかわからぬゆえ。ただ、私を信じるも信じないも宇喜多殿次第」


 にやりと不敵な笑みを浮かべる。さて、どう反応するか見物だ。別にどうしようと俺は構わん。我らに賭けるかどうか。その判断は宇喜多直家に委ねられた。


「……わかり申した。我らもその話に乗りましょう。我らは両宮山城に攻め入ることに致す」


 宇喜多が乗った。この機を逃すまいと考えているようだ。おそらく、龍ノ口城と両宮山城の守りに兵を五百いや千は必要になるはず。さらに居城の鶴首城には二千を割きたい。


 また、他の城を守るためにも兵は必要だ。となると、動かせるのは多く見積もっても二千である。無理して二千なのだ。千が良いところだろう。何なら戦略的に撤退しても良いくらいである。


「では、まずは尼子殿が勝山城に攻め込む。そして三村の目が北に向いたときに宇喜多殿が両宮山城に攻め入る。両名共にこちらで如何か?」


 この場に集まった面々の顔を見渡す。どうやら尼子と宇喜多のどちらにも不満はないようだ。あとは俺が上手く立ち回れば事は成せるはず。


 こうして対三村に対して尼子、宇喜多と一致して仕掛けることと成ったのであった。

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