長雨、不作、そして天運
長雨が終わらない。気温も上がらないし、この調子だと不作になりそうな気配がある。早めに組屋の源四郎を使って他所から買い付けておきたい。
せっかく領内が安定してきたのに、文字通り全てを水に流されては堪ったものではない。しかし、こればかりは運だ。今回は運が悪かったとして諦めよう。
「今年の税は収穫量の四割から三割まで引き下げる。ただし、賦役を増やすことにする。あと、米を隠させるな。もし、隠していたら厳罰に処せ」
「承知いたしました」
十兵衛に指示を出す。不作になったら最悪の場合、他の領地から分捕ることを視野に入れなければならない。
これじゃあ国全体で山賊行為をしていると言っても過言じゃないだろう。いやそれをやってるのが甲斐武田か。
組屋の源四郎の他、道川兵衛三郎と古関利兵衛も呼び出し、同様の依頼をかけた。
「済まないが米を買い込んでくれ。いや、米じゃなくても良い。蕎麦でも何でも食べられるものであれば構わない。今のうちに急ぎ手配を頼む」
「かしこまりました。お早い動きでございますね」
「貯蔵はあるが、念には念を入れたい。高騰していない範囲で頼む」
領民が食うだけの食料は確保できるはずだ。問題は賦役を何に使うかである。銭と食料の備蓄が減ってしまったのだ。賦役で元を取らなければやってられない。
賦役としてわかりやすいのは築城に街道整備、治水工事だろう。しかし、街道の整備は行っている最中である。既に人員は割り振っているのだ。
それらを加速させるという考えもあるかも知れぬが、今回の例もある。それであれば治水工事だろうか。
とはいえ、氾濫を起こす川は若狭にはない。もう既に祖父と父上が治水工事に乗り出していたのだ。であれば、新たに開墾した棚田と湊町を新たに整備するか。若狭の高浜に丹後の下岡だ。
そうすれば鳥取から下岡、高浜を通って小浜へと繋がる。船中で何かあっても直ぐに対応できるようになるはずだ。大事なのは人命と荷駄である。
それから河川の舟運も整備しよう。今は新庄から熊川までしか整備できていない。山間を抜ける川を整備するのは山の多い若狭、丹後、但馬、因幡にとっては良い普請となるだろう。
それから田畑である。今は大根とカブを中心に育ててもらっている。しかし、それだけだと栄養が偏ってしまう。何か良い野菜は無いだろうか。
膳に上がってくるのは葱、里芋、牛蒡、蓮根、柿、胡瓜、瓜、大豆、韮、後は山菜か。胡瓜に瓜に蓮根って。なんか栄養が無さそうな印象がある。
そして、まだ牛蒡と蓮根の栽培は始まっていない。なので、それらの栽培に取り組んでもらおう。栄養価的にも牛蒡が有るのと無いのとで大きく変わってくる。
やはりジャガイモとサツマイモが無いのが響いている。やはりそう簡単に食料の改善が出来るはずないのだ。どうにかして手に入らないものか。もっと、簡単に手に入れば良いのに。
諦めかけていたそんなときであった。堀菊千代が手にしていたそれを見て、思わず息が止まってしまった。驚く菊千代。
「き、菊千代! それは何だ!?」
「え? あ、これですか?」
手に持っていたのは橙色のごつごつしたアレであった。思わず菊千代から受け取る。ずっしりと重く、身が詰まっているのが実感できた。
「こちらは豊後で栽培され始めた『宗麟かぼちゃ』なるものにございます。珍しいかと思い、小浜に上がってきたものを買い御屋形様にと」
「流石は菊千代。大手柄ぞ!」
まさかカボチャに出会えるとは思ってもみなかった。栄養価が豊富だし、保存も利く良い食料である。豊後で栽培されていると言ったな。船を出して買い占めよう。
「菊千代、豊後からその『宗麟かぼちゃ』の種を仕入れろ。それから詳しい栽培方法もだ。組屋の源四郎と協力して行うのだ」
「ははっ」
カボチャの栽培が可能となれば話は大きく変わってくる。ジャガイモやサツマイモを手に入れることはできなかったが、カボチャは手に入れられそうだ。
天運が開けてきた。
俺は再び机に向かい、カボチャを何処でどう栽培するかワクワクしながら頭を悩ませるのであった。
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