最悪の仮定
「御屋形様、連れて帰りましてございます」
飯富虎昌が甲斐信濃より帰ってきた。後ろには二人の男が控えている。どうやら無事に長坂昌国と曽根虎盛を連れて帰ることができたようだ。
ということは、だ。信玄公が二人を手放したということはつまり武田太郎義信が粛清される日も近いということである。普通、優秀な家臣を手放したりはしない。しかし、手放した。これが意味するところは、そういう意味である。
信玄としても義信にバレないよう、彼の力を削ぎたかったのだろう。俺の提案は渡りに船だったはずだ。そして、二人を手放し俺のところへ送ったと。俺の意図を信玄が読んでくれたのだ。
しかし、それ以上の人材を引き抜くことは出来なかった。本当は真田とか原とか秋山とか春日とか小山田とか引き抜きたかったけど、信玄がそれを許さなかったのだろう。
「長坂源五郎にございまする」
「曽根九郎にございまする」
「俺が武田伊豆守である。其方等の来訪、歓迎するぞ。しかし、本当に当家に仕えるということでよろしいか?」
これは、彼等にとっては左遷に当たるものだと俺も認識している。甲斐の武田本家から若狭の武田分家へ行くのだ。本社から支社に飛ばされるようなものである。いや、子会社か。
「我等としても命あっての物種でございまする。若君の考えを否定することはいたしませぬが、御屋形様には筒抜けにございましょう」
どうやらこの二人は義信の謀反は上手くいかないとみていたようだ。それもそうだろう。手綱を握っていた飯富が居なくなってしまったのだ。上手くいくはずもない。それで早々に見切りをつけた。そんなところだろう。
「であるか。分かった。ではまずは俺の傍に侍り、我が軍に馴れよ。そしてこの地に馴染め。処遇はそれから追って伝える。郎党は何人くらいだ?」
「二人合わせて三十騎程にございまする。若君の謀反が露見すれば更に三十騎程増えるかと」
俺は二人に領地ではなく二千石に相当する扶持を与えることにする。まずはここから様子見することにしよう。
さて、これで武田義信は裸の王様となってしまった訳だ。ここから先の未来は明るくないだろう。そして、信玄の肚は定まったと見える。
謀反が発覚した後、俺が真っ先にすべきことは妻を国許に返すことだ。信玄公に俺が敵意を持っていないことを理解してもらう必要がある。
いや、逆に妻は後瀬山城に軟禁した方が良いのだろうか。一番に考えたいのは、信玄に敵視されないことだ。ここで選択を間違えるわけにはいかない。
大丈夫。俺も信玄が南下したいことは知っていた。そしてお会いした時に言葉を交わさずとも通じ合えたではないか。
しかし、後継者問題で揉めるだろうな。義信に男の子がいなかったことが不幸中の幸いだろう。もし、義信に男の子が、信玄に孫が生まれていたら勝頼か、その孫かで割れていたかもしれない。
次男は盲目、三男は夭折していたはずだ。そして正室との男児は終わりである。なので、側室の諏訪四郎勝頼に白羽の矢が立つのだ。
いや、逆に孫で家臣が結集したかもしれないな。とはいえ、たらればだ。こればっかりはどうすることもできない。いっそ藤を用いて俺が……いや、この考えは止そう。そうして思考を止めるのであった。
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