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不満の募る夜

永禄七年(一五六四年)十二月 若狭国 後瀬山城


 若狭でも雪が降ってきた。日本海側の宿命だろう。寒さが堪える中、政務に精を出す。政は待ってくれないのだ。手を止めたら溜まるばかりになってしまう。


「こちらも御屋形様の花押が必要にございまする」

「ん」


 内容に目を通し、確認してから指定された場所に名前と花押を記載する。それを延々と、気が遠くなるほど行っていくのだ。段々と頭がぼーっとしてくる。


 そして立ち上がった瞬間、それが来た。頭がくらっときたのだ。そのまま意識を手放し、倒れ込んでしまう。俺が最後に見たのは慌てて駆け付けた堀菊千代の姿であった。


 ◇ ◇ ◇


「――ん」

「御屋形様! 気が付かれましたか!」


 どうやら眠っていたようだ。体調を崩して倒れてしまったらしい。冬の寒さに充てられたようだ。堀菊千代が心配そうに俺を覗き込んでいる。


「ああ。えっと、何があったんだっけ?」

「政務の最中にお倒れになられたのでございます」


 そう言われて段々と思い出してきた。連日の政務で疲れが溜まっていたのだろうか。その弱った身体が風邪でももらってしまったのだろう。不摂生が祟ってしまったようだ。


「お身体に問題はございませんか?」

「ああ、問題ない。菊千代、水を持ってきてくれないか?」


 やはり布団が無いのが痛い。冬なのだから温かくして寝ないといけないのだが、木綿がない以上、布団を作ることが出来ないということなのだろう。


 木綿の栽培を推奨しようか。いや、それだと時間がかかる。そうだな、物は試しだ。羽毛布団を作ってみることにしよう。と言っても、羽毛は羽毛でも養鶏している鶏の羽根だが。


「菊千代、それと上野之助に伝えて欲しいことがあるのだが」

「はい、何でしょう」


 俺は先程考えた羽毛の掛け布団と敷布団の作り方を菊千代に伝えた。羽毛が偏らないよう、十二分割して羽毛を入れるつもりだ。本来ならば水鳥が良いのだが。鴨の羽根でも良いのだろうか。


「かしこまりました。それまで安静になさってくださいませ」


 参ったな。まさか風邪で倒れるとは思ってもみなかった。この時代、病院も無ければ薬もない。漢方が明から伝わっている程度である。


 医療と漢方をもっと発達させる必要があるな。曲直瀬道三や永田徳本を招聘して後進の育成にあたらせるのも考えねばならん。身体は資本である。昨日の俺に言い聞かせてやりたい。


 ◇ ◇ ◇


 それから暫くして上野之助が駆け込んできた。手には布団を抱えている。後ろには菊千代も同道していた。彼の手にも布団がある。おそらく上野之助が敷布団で菊千代が掛け布団なのだろう。


「こちらをどうぞ」

「う、うむ。済まないな」


 そんなに早く作らなくても良いのだが、上野之助としても俺が倒れたと聞いて焦ったのだろう。俺の手落ちよ。


 畳の上に布団を敷き、その間に身体を滑り込ませる。うん、やはり暖かい。流石は羽毛布団だ。そして上野之助の配慮だろうか。羽根の一つ一つから固い部分が取り除かれている。


 俺は布団でぬくぬくしたいのだが、上野之助も菊千代もこの場を立ち去らない。


「如何した?」

「御屋形様、お世継ぎをつくられませ」

「ぶっ!」


 てっきり寝心地を聞かれるのかと思っていたが、予想を裏切られる斜め上の指示が俺に降りてきてしまった。思わず、呼吸がうまくできずに噎せ返ってしまう。


「な、何を――」

「もし、御屋形様に万一のことがあれば家中は上を下への大騒ぎにございますぞ。領内外に安寧をもたらすためにも、何卒、お世継ぎを」


 そう言って低頭する上野之助と菊千代。いや、跡継ぎと言われても……。回答に困る。

 何せ相手はあの藤姫だ。つっけんどんな高飛車をどう御せというのだろうか。


 かといって他の女性と関係を持ってしまった場合、また違った方向で跡継ぎ問題が生じてしまう可能性が出てくる。さて、困ったぞ。


「まて、話せばわかる。俺と藤との関係は冷え切っているのだ。いや、向こうが俺を嫌っているのだから致し方ないだろう。流石に無理やりは忍びないぞ」

「であればでございます。我らで側室を探して参りましょう。当家と家格が釣り合う武家か、はたまた公家か。お任せくださいませ。では、御免」

「御免!」

「え、あ、ちょ――」


 そう言って立ち去っていく上野之助と菊千代。これまた厄介なことになったぞ。

 甲斐の武田を敵に回すような真似はしたくないのだが、これがどうなるか。考えたくもない。


 俺は布団に包まり、考えを放棄してただただ体調を良くすることだけを考えたのであった。というか、あ奴らは俺が死ぬとでも思っているのだろうか。些か不満が募る夜であった。

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