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高い指導料

永禄七年(一五六四年)九月 若狭国 後瀬山城


 若狭、丹後、但馬、そして因幡の東側ではお祭りが連日のように行われていた。豊作を祝うお祭りである。俺が治めている領では豊作となったようなのだ。


 それもそうだろう。豊作となるように手は打ったのだから。問題はこれを継続することが出来るかどうか、である。それが出来なければ意味が無い。


 だが、今は豊作を喜ぼう。税として納められた米に蕎麦、それから大根などの野菜を新設した蔵に押し込んでいく。そんな我等に抜け目の無い彼等が静かに近付いてきた。


「いやぁ、豊作ですな。流石は武田伊豆守様にございまする」

「然り然り。ここまでの手腕、日ノ本広しと言えど武田様だけにございましょう」


 そう言って手を揉みながら近付いてくるのは組屋の源四郎と古関利兵衛である。どうやら豊作だった米や蕎麦を売ってくれと頼みに来たのだろう。


「何用だ? 特に呼んだ覚えはないが」

「そのような冷たい物言いは無いでしょう。私共と武田様の仲にございます故」

「然り然り。それに伺っておりますぞ。豊作だった米を更に銭をはたいて買い込んでいると」


 何処から嗅ぎ付けてきたのだろうか。確かに、俺は百姓から余った作物を適正な価格で買い取っている。兵糧を蓄えている。


 また、不作への備えでもある。不作になった場合、蔵を開いて領民を救う義務が俺にはあるのだ。それを減らすことは出来ない。


「それはそうだ。米や蕎麦は大事な食料だ。買い込んで貯め置くのは領主として当然の行いであろう」

「それをですね、少しばかりで良いので我らに売っていただければな、と」

「何故に俺から買うのだ。領民から買い込めば良いだろう。別に売買を規制しているつもりはないが?」

「それが……どうにも百姓達が米や蕎麦を売ってくれぬのです」

「お主達が買い叩いているからではないのか?」

「そのようなことは……ない、はずです」


 そこで俺は源四郎と利兵衛の買取金額を尋ねた。すると、その値の安いこと安いこと。俺が買い取っている金額の約七割から八割であった。


 では、何故俺がそれだけの銭を出して買うことができるのか。これは至極簡単である。直接取引をしているのだ。


 源四郎や利兵衛を通さない分、同じ金額を出して領民に還元することができるという絡繰である。勿論、他にも理由はある。民に銭を浸透させたいのだ。


「それはご無体でございまする」

「然り然り。我等を餓えさせるお積もりにございまするか」


 しかし、それを非難する源四郎と利兵衛。それを見て俺は大袈裟に残念がってみせた。これが何を意味しているのか、二人は理解していないらしい。


「お主等は発想が貧困だのぅ。残念だ。それであれば新たな商人、商売相手を探すしかないかの」

「それは、如何なるご発言でしょうや?」

「俺の指導料は安くないが、それでも聞くか?」


 二人に尋ねる。すると、二人は顔を見合わせた後、コクンと頷いた。どうやら、本当に理解していないらしい。


 いや、彼等が理解しない訳がない。恐らく、頭に血が上って周りが見えていないだけなのだと推察している。


「是非に」 

「良いか。俺が領民から高値で買い取ったということはだ、領民は銭で潤っているということだ。つまり、分かるな?」

「成る程! それは盲点でございました」


 二人は俺が少しばかり助言をしただけで、理解したようである。そう、領民は銭を持って潤っているのだ。


 それであれば、領民達が欲するであろう物を小浜なり国吉なりで売り捌けば良いのである。


 そしてそれは俺にも利があるのだ。銭廻りが良ければ外から人が入ってくる。領民も村に根付く。つまり、国が一回り大きくなるということだ。


 勿論、治安の維持は一層強めなくてはならない。だが、それでも利の方が大きいと俺は見る。街道の整備や新田の開墾等の共感を持ってもらえれば、土着する流民が増えるはずだ。


 そして村々には流民を無下に扱わないよう指示している。流民を囲う毎に手当を出すと触れもしている。俺はそれ程までに人を欲しているのだ。


 だから俺は高値で買う。領民に銭を浸透させると共に銭を使ってもらうために。そして、銭をまともに使えるのはこの辺りだと我等が治める領地だけである。


「丁度良い。では、指導料の件だが誰か南蛮人に伝手は無いか?」

「南蛮人、にございますか?」

「そうだ。南蛮人の甲冑を買いたいのだ。それを種子島同様に城下にて量産させる」

「それは良いお考えですな。種子島同様、高値で取引されましょう。そういえば、京にはガスパル・ヴィレラなる者が居るとのこと。早速、接触してみましょう」


 流石に直ぐに手に入れるには無理があるだろう。そして、俺が南蛮鎧に興味を持っていると聞きつけると宣教師、イエズス会が近付いてくるに違いない。


 だが、一向宗を敵に回すことも出来ない。これは藪蛇を突いてしまったかもしれない。だが、南蛮人と仲良くする必要はあるのだ。馬鈴薯と甘藷が欲しい。


 俺は二人が退席した後、また面倒事に自分から首を突っ込んでしまったとのた打ち回りながら後悔するのであった。

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