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失態と落城

 俺は一も二もなく、ただひたすらに駆けた。撤退中の追い首ほど危ないものはない。俺は十兵衛と共に息を切らして君尾山城へと飛び込んだ。そこには市川信定が待っていた。


「ご無事で何よりでございます。石川と矢野は領地へと引き上げ申した」

「うむ。武藤上野介、兵の様子は如何か?」

「飯を与えておりまする。十分に戦えるかと」

「では又左衛門を連れて南条兄弟の後詰めに向かってくれ」

「承知仕った」

「残りは君尾山城を固めるぞ。十兵衛、供をせい!」

「ははっ」


 城主である市川信定と連携して君尾山城の守りを固めていく。兵数で優っている上に城を固めたのだ。そう簡単には落ちないし、落とせないはずである。


「今回は完全に俺の失態よ。嗤ってくれ、十兵衛」

「何を仰います。それもこれも全て御屋形様が挑戦したからにございます。挑戦無くしては成功無し、でございますれば」

「やはり丹波は怖い。じっくりと事を構えるとしよう。戦は止めだ」


 ここまでが調子良く勝ち上がり過ぎたのだ。一色も山名もどれも相手側の失政により勝手に瓦解してくれたに過ぎない。これが本当の戦のようだ。良い経験になったわ。


 まずは俺も腹拵えをする。干飯をそば茶で煮た粥と大根の漬物である。米の質に不満は残るが十分旨い。


 暖かいものを食すと腹の底から力が漲ってくるようだ。切り替えよう。此処で軍を引くことの、追撃を受けることの怖さを知れて良かった。


「篝火を焚いて殿軍を迎え入れろ!」

「はっ」


 南条達を盛大に迎え入れる用意をする。この戦、負けではないのだということを誇示するかのように。桐村の城を落としたことは事実。その証拠となるだろう。


 しかし、城を燃やしてしまったがために拠点にすることが出来ず、四方八方から攻め立てられるのを嫌ったため、撤退したに過ぎない。


「御屋形様、居られまするか?」

「なんだ」


 俺が君尾山城の評定の間で思案に耽っていると扉の向こうから声を掛けられた。どうやら黒川与四郎のようだ。与四郎が来たということは、何か重大な事件が起きるかもしれない、ということである。


「三好修理大夫、重病にて臥せているとの由。あれから病は重くなってござる」

「そうか。危ないのか?」

「危のうございまする」


 確か、世継ぎであった三好義興が早世してから弟の十河一存の子を養子にしていたはずだ。しかし、これには疑問が残る。何故、子が一人しかいない十河から養子を取ったのか。


 そのため、三好長慶が十河一存の子を養子にし、十河一存の跡継ぎを三好実休の子から取ることになるのだ。恐らく、三好家中で何かしらの力が働いているのだろう。それは妻だ。


 確か十河一存の妻の父は内大臣、藤原長者の九条稙通である。その繋がりを重要視したのだろう。それが見えれば、この不可解な采配も自然と見えてくる。


 どちらにしても、三好長慶が死去すれば三好家は崩壊する。となると、騒ぎ出す男が一人。そう、足利義輝である。確か、史実では足利義輝は三好長慶が死んだ後、殺されていたはずだ。


「相分かった。そのまま推移を追ってくれ」

「かしこまった」


 これで畿内が乱れることはほぼ確定した。うむ、やはり引き籠もって政に力を注ぐことにしよう。将軍から無茶を言われた場合、俺も無茶を言い返す。


「御屋形様、南条勘兵衛隊が無事に此方へと向かっているとのことにございます」

「おお、そうか。迎え入れてから門を固く閉じよ」

「ははっ」


 使い番に指示を出してから俺も彼等を出迎えに門まで赴く。さて、被害はどれ程であっただろうか。石川と矢野への褒美に討ち死にした雑兵達の家族への慰謝料など、考えると頭が痛い。


 戦の負の部分を今回はモロに受けた形となった。善の善なるは戦わずして勝つ事也。とは良く言ったものである。どうやら追っ手はかかっていないようだ。


「良し、門を閉めよ!」

「はっ。閉門! 閉門!」


 これで全軍が君尾山城に入った。まずは一息ついてもらい、その後に被害状況を南条宗勝に報告してもらうことにした。まずは一段落といったところか。


「勘兵衛、被害は如何程だ?」

「我らで二十程にございます。上林勢、渡辺勢が急に引き返し始めましてな。それに塩見勢も釣られて追撃はそこまで激しくありませなんだ」

「そうか、それは良かった。苦労を掛けたな」

「勿体のうお言葉に。道中、山内伊右衛門を厳しく指導しておき申したぞ」

「ならば俺からは何も言うまい」


 そう言って不敵に笑う南条宗勝。やはり亀の甲より年の功である。被害を余り出さずに撤退できたのは宗勝の経験に依るものが大きいだろう。


「よし、では若狭に帰るとするか」

「はっ」


 若狭へ帰る支度を整えていたところ、一人の騎馬武者が君尾山城目掛けて駆けてくるという報告が上がった。どうやら、本多正信が放った使い番のようであった。


「御注進にございまする! 本多様が上林城、十倉城を落としたとの由にございます!」

「なんと!」


 声を出して驚いたのは隣に侍っていた南条宗勝である。まさか本当に上林城と十倉城を落とすとは。いや待て。道理で我が方に上林下総守と渡辺内膳が来た訳だ。本多正信が何か細工をしたのだろう。


 そしてその隙に攻め落とした。そのようなところか。しかし、これで漢部の地は制圧できそうである。急ぎ、追加の兵を送る。漢部を押さえる拠点を築かなければ。


「十兵衛、済まないが又左衛門と兵を千程率いて本多弥八郎の後詰めに向かってくれ。漢部を押さえるぞ」

「承知仕りました」


 落ち込みつつあった気分を持ち直して若狭への帰路に就いたのであった。

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