やってみなはれ
因幡を割譲してもらった。問題は誰に治めさせるか、である。それも含めて皆で評定を開くことにした。この評定は先の因幡平定戦の論功行賞も兼ねてある。
今回の戦では古参も新参も頑張ってくれた。ただ、古参には父祖伝来の土地がある。その土地を増やすことは出来ない。増やせても飛び地になるだろう。それを良しとするだろうか。
子が二人以上居る者は喜ぶだろうな。その辺りを調べて考慮してやろう。家督の問題はこの時代、どこの家にも付き纏うのだ。
ただ、今回は銭や太刀、感状や唐物で代替としよう。まずは三河から流れてきた根無し草の者達をどうにかせねば。ただ、一向宗の巣にされるのも困る。どうしたものか。
その時である。昔読んだ本の名言が頭に響いてきた。やってみなはれ。これは誰の口癖だっただろうか。俺もその精神に則ってみよう。駄目だったら……その時に考えよう。
「では、第一功を発表する。第一功は渡辺半蔵とする。良く吉岡春斎を捕えてくれた。其方にはこの感状と太刀、それから八東郡を――」
「恐れながら申し上げまする」
「……なんだ?」
「某、第一功ではございませぬ故、辞退させていただきたく」
守綱が俺の言葉を遮ってこう述べた。ちょっと頭の理解が追い付かない。辞退する意味が分からないのだ。何か不満があったのだろう。
「何故だ?」
「第一功は某ではございませぬ。御屋形様にございましょう。敵をも恐れず単身乗り込み一番手柄を立て、敵大将の首級まで上げたのでございますから。それを差し置いて第一功など、末代までの恥でございまする」
感心している家臣達とは裏腹に十兵衛、藤孝、上野之助が厳しい目つきで俺を見る。ぶわっと汗が噴き出てきた。落ち着け。まずは此処は先手を取って謝罪するべきだろう。
「まあ待て。あれには俺も思うところがある。間違っても総大将の取る行いではなかった。反省している。この通りだ」
俺は皆の前で頭を下げて謝罪する。ほとんどの家臣が驚いていた。成果を上げているのに頭を下げる。普通の武士からしたら意味が分からないだろう。ただ、これが若狭武田のやり方だ。
主君であっても非があれば謝罪する。家臣とは主従であるが、対等でもありたいと思っているのだ。矛盾しているかもしれないが、それが理想だと思う。
「頭をお上げ下され! 御屋形様が頭を下げる道理などございますまい。総大将たる者、兵を鼓舞するため先陣を切って敵方に襲い掛かるべきにございましょう」
「ふむ。其方の意見は尤もだな。これに対し十兵衛、如何思う」
「某は反対にございまする。総大将が討たれては全軍が瓦解する危険を孕んでいるのでございます。今回の例ですと、御屋形様が最前線に出なくても勝てた戦にございますれば、愚策であったとしか言えませぬ」
そう述べてから十兵衛は低頭し、「御身、大事になさいませ」と述べた。流石は十兵衛、厳しいことをいうものの、落としどころを理解している。俺もその意見に答えよう。
「半蔵の言を嬉しく思うがな、十兵衛の言、尤もである。武将であれば良い行いだが総大将となれば異なってくる。今回の俺の行いは其方達を死へと追いやりかねないものであった。仕置きものよ」
そう。俺が死ぬことで大切な将や兵が死ぬのだ。今川義元が討たれた後、どうなったか知らない三河侍ではない。それを伝えると皆、嫌という程理解してくれたよ。
「だから第一功は半蔵、其方で間違いない。受け取ってくれ」
「ははっ」
「十兵衛も良く俺を戒めてくれた。これからも忠言を頼む」
「ははっ」
二人して頭を下げる。人を纏めるというのは難しい。あっちが立てばこっちが立たぬ。武と文が合わないのは自然の理だろう。石田三成を見ればよく分かる。そうならないためにも、俺は苦心するのであった。
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