因幡国平定
武田高信が叔父上と共に八上郡を平定して丸山城へとやって来た。二人ともホクホク顔である。まずは報告を聞こう。労いはその後だ。全員で丸山城の大広間に集まる。
その間、雑兵や雇い兵には苅田狼藉、押し入り、分捕りを行うため、村々に散らばって行った。最初に申し付けた通り、今回は根伐なのだ。それに、どうせ武田高信に渡す領地である。
その領地が荒らされようが何しようが俺は一向に構わない。武田高信も戦のことである。理解しているだろう。兵士はこれが楽しみなのだから。
ここで一度、我等武田の恐ろしさを喧伝する必要があるのだ。我等に歯向かったらどうなるのかを世に広く知らしめるためにも。
勿論、それだけではない。兵のガス抜きの意味も込めてある。兵に恩を与え、良い主と認めてもらわねば踏ん張りどころで弱られてしまう。
勿論リスクも無い訳ではないが、収益にも繋がるし、今回は大々的に行うつもりだ。申し訳なさなど、今回は無い。慈悲は無いのだ。
「御屋形様。お味方の勝利、祝着至極にございまする」
到着して早々、叔父上が頭を下げた。それに続いて武田高信も頭を下げる。これはもう、高信は俺を盟主として仰いでくれるだろうな。良い傾向だ。
「うむ。まさかここまで上手くいくとは思わなんだ」
「聞きましたぞ。御屋形様が先頭に立って敵陣に切り込み、バッタバッタと敵方の兵を薙ぎ倒しては敵総大将の首を取ったと。九郎判官もあわやの活躍ぶりでございますな」
「鵜呑みにするでない。尾ひれ背びれが付いた話よ。話半分に聞いておけ」
何処がどう拗れてそう伝わったのか、これは後瀬山城にも拗れて伝わっているだろうな。ああ、明智十兵衛や細川藤孝に怒られる未来が見える。総大将が突撃するとは何事か、と。
「して又五郎殿。八上郡はどうであった?」
「はっ、御屋形様のお送り下さった後詰めのお陰で難なく平らげてございまする」
「そうか。では約定通りに因幡国の半国は我等が貰うぞ」
「ははっ。これからも何卒、よろしくお頼み申し上げまする」
これで我等の西の備えは成った。尼子と因幡武田が居るのだ。いくら南条が動こうが我等まで影響が出る事態にはならんであろう。
「吉岡春斎の身柄は又五郎殿にお引渡し致す。良しなに」
「……承知いたした」
徹底して自分の手は汚さない。吉岡定勝を戦の流れで殺めてしまったとはいえ、出来る限り自分自身で殺さずに済むのであればそれに越したことはない。
「さて、問題は南条よ。これは又五郎殿に一任してもよろしいかな?」
俺は考えた挙句、南条の相手をすることを諦めた。ここは尼子と武田高信に頑張ってもらうことにする。そして、良きところで仲裁し、南条を傘下に収めようと思う。
それに南条の相手をするのは骨が折れそうだ。今回の戦では将兵に俺の怒りと狂気を伝え、頑張ってもらったのだ。そろそろ緊張の糸が切れるはず。
「では、叔父上。因幡国の引き継ぎをお頼み申す」
「お任せを」
「うむ」
これで因幡国の取り急ぎの仕置きは終わりだ。高信の対応は叔父上に任せて俺は軍を引き連れて後瀬山城へと帰ったのであった。ああ、怒られたくない。
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