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新たな武器

弘治二年(一五五六年)一月 若狭国 熊川


 俺は朽木谷に居る伯父に新年の挨拶を述べるため、伝左と源太を護衛に熊川へと向かっていた。

 勿論、上野之助にも熊川に寄ることは既に伝え済みである。


「今日は一段と冷えるのう」

「林道ですからな。冷えるのも無理はございますまい」


 伝左の操る馬に乗りながら他愛もない話に花を咲かす。俺も五歳、そろそろ馬に乗れるよう訓練を始めたいのだが。馬術は武士の嗜みである。


 それから剣術と弓の稽古も始めねばならん。四書や五経、孫子や韓非子なども覚えた方が良いのだろうか。考えることは山積みである。


 どうやら弓は、弓と馬術だけはきちんと学ばねばならんようだ。何でも若狭武田は弓の大家らしい。えーと、なんて言ったかな。有職故実だ。最終的には流鏑馬のように馬上で弓を放てるようにならねばならん。


 それを山県孫三郎が俺にみっちりと指導をしてくれるようだ。もちろん、御祖父様や父上もご指導してくださる。それだけ若狭武田とは切っても切り離せないものなのだろう。


「若殿。源四郎殿には何の手土産をご用意いただいたのですか?」

「ああ、それはだな。これよ」


 そう言って見せたのは一振りの刀である。流石は源四郎、良い仕事をしてくれた。確か、伯父である義輝は剣豪将軍などと呼ばれるほど剣術に傾倒していたはずだ。それであれば贈り物として太刀は最適だろう。


 と言っても伯父は天下五剣のうち四振りを所有するほどの刀剣愛好家である。贈る太刀がお眼鏡に叶わなければ気拙い空気が漂うだろうか、甥がわざわざ持って来た太刀だ。そこは空気を読んでくれるだろう。


「太刀でございますか。名のある太刀なので?」

「それは勿論だ。これで俺は源四郎に借りを作ってしまった。高くついたわ」


 ぼやく俺。源四郎に借りを作ってみろ。後々、どんな無理難題を言われるか。そう考えただけで肝が冷えるわ。

 だが、その甲斐あって坂倉関派の良い太刀が手に入った。正利の作と聞いている。


 その刀を大事そうに抱えながら熊川の上野之助の元へと向かった。

 その上野之助、俺を見るなり涙を流しながら全力でこちらに駆け出してきた。


「わ、わがざまぁーっ!!」

「うわ、汚い。何だ!?」


 上野之助が迫って来るや否や、俺を馬から降ろしては抱きついてきた。正直、止めていただきたい。思わず源太が警戒し、脇差の柄に手を添えたくらいである。


 おかげで一張羅が上野之助の鼻水や涙でぐしょぐしょのびしょびしょである。まあ、この程度で怒ったりはしないが。将軍に目通りできるだろうか。


「……それで、如何したというのだ?」

「はい。椎茸の栽培に成功しましてございます」

「真か!」

「はいっ!」


 満面の笑みでそう答える上野之助。これは朗報ぞ。これを展開して量産化することが出来れば大きな収入源となる。俺の頭の中を様々な考えが去来する。それと同時に不安にも駆られた。俺が当主にならなければ全てが水泡に帰すのだ、と。


「上野之助、今いくつある?」

「はっ、二十ばかしございますれば」

「その内の十を分けてはくれぬか。公方様に献上して参る故」

「勿論にございます。これから我等は椎茸を際限無く栽培できるのですから」


 俺は上野之助と顔を見合わせて笑った。それはもう大きな声で笑ったのであった。

 相当な資金が掛かってしまったが、此処からは投資した資金の回収が見込める。これからは冬だから栽培は難しいやもしれぬが、春から秋であれば存分に栽培できるだろう。


 一通り笑い終えた後、俺は上野之助に兵の調子を尋ねる。まだ調練して二月だ。大した期待はしていない。


「はっ。順調に訓練は重ねており申す。某が椎茸の栽培、我が父が調練を行ってございまする。戦に出るのであればもう三月は欲しいところにございます。しかし、百姓ですので田植え期や収穫では動かせませぬ」


 上野之助の顔から笑みが一切消え、俺の目を真っ直ぐ見て問いに答える。やはり調練に五か月間は時間が欲しいか。いや、それを言えばもっと時間は欲しいだろう。


 それに彼らは農兵。四月になれば田を起こし田畑が安定するまで戦には出られない。やはり銭で足軽を揃えるべきだ。銭の目途は立った。


「上野之助、今後は銭で兵を雇え。五十の精鋭を作るのだ。百姓もこのまま鍛えるが、五十の精鋭を、俺の馬廻り衆を用意するのだ」

「承知いたしました」


 低頭する上野之助。それから椎茸をどのように秘匿しながら栽培していくか、販路をどうするのかの話を上野之助と一晩かけて密に話し合った。これで銭、兵ともに申し分ないはずである。


「上野之助、此処からは借りを返してもらうぞ」

「勿論にございまする。一生をかけてお返しいたしましょう」


 そう言って互いに微笑み合う。これで自前の兵を用立てる足掛かりはできた。あとは大きくしていくだけである。心が弾まずにはいられない。


「良うございましたね。若様」

「全くだ。これで俺もようやく一波乱起こせるわ」


 新たな武器を手に入れた俺は不敵な笑みを浮かべながら朽木谷へと向かったのであった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

【現在の状況】


武田孫犬丸 五歳(数え年)


家臣:熊谷伝左衛門、沼田上野之助、逸見源太

装備:越中則重の脇差

地位:若狭武田家嫡男

領地:なし

特産:椎茸(熊川産)

推奨:なし

兵数:50

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