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弔い合戦

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永禄七年(一五六四年)三月 因幡国 鳥取城


 まだ寒さが残る中、俺は動かせる全兵力を因幡の鳥取城に集めた。三月ともなれば田畑を起こす時期でもある。なので、農兵は使わず雇い兵だけの編成にした。


 そして因幡の村々では黒川衆に噂を流させた。武田伊豆守が家臣を殺されて激怒している。降伏しなければ住民もろとも根伐りを辞さないらしい、と。これで田畑を捨てた逐電が多く見込めているはずだ。


 東の美濃でも動きがあったようだ。稀代の軍略家である竹中半兵衛が稲葉山城を乗っ取ったと言うのだ。それもたった十数人の手勢で。佞臣である斎藤飛騨守を誅するために事を起こしたらしい。俺も負けていられない。ちなみに斎藤飛騨守は斎藤道三の一族とは関係が無いようだ。


 今回は山県孫三郎の弔い合戦である。少ない兵数では出兵することはできない。無理に無理を重ねて総勢約三千の雇い兵を用意した。


 さて、気になる編成だが俺の他に鳥取城代の井伊直親。それから叔父の武田信景と因幡の主攻である遠縁の武田高信の親族二人である。


 その他に内藤重政、市川定照、熊谷直之、一宮賢成、畑田泰清、山県源内、宇野勘解由、広野孫三郎、菊池治郎助、梶又左衛門、白井光胤と古参で揃えた。更に渡辺守綱と遠藤兄弟も連れている。


 というのも、嶋左近が国友村から種子島の鍛冶師を多く連れ帰ってきてくれたからだ。お陰で種子島の量産目途が付いた。本格的に種子島隊の運用を考えたい。種子島は今までの全て合わせると四百丁程用意してある。


 そしてその種子島は遠藤兄弟によって調練されている。彼等二人を召し抱えて正解だったと言えよう。種子島に関して、俺はさっぱり分からんのだ。


 ここに武田高信の軍勢、およそ千も加わるのだ。流石にもうどうすることも出来ぬだろう。毛利も援軍を送ることはできないはずだ。ただ、伯耆の東側も毛利派になっている。そこから後詰めが届けば戦になるだろう。


 俺もそれは想定済みだ。今回は尼子と連携して事に当たるつもりである。勝久が尼子の切り札である山中鹿之助と宇山久兼を動かしてくれたのだ。彼らは尼子家でも良識派だと思っている。


 そして誤解しないでいただきたいのは尼子義久が無能な人物ではないということを理解いただきたい。彼は彼なりに為すべきことを考えている。


 どうやら大友氏と結んで毛利に当たるようだ。大友氏は最盛期と言っても過言ではないだろう。まだ島津が伸びて来る前だ。それであれば万に一つくらいの可能性はある、か。


 尼子義久にとって不運だったのは親の急死と毛利の台頭だ。若くして後を継いだ経験の浅い義久が老獪な毛利元就に勝てるはずがない。ジリ貧に追い込まれているのだ。


 何が問題なのかというと、家臣が分裂してしまうことが問題なのだ。親毛利か反毛利か。そして若い義久にそれを止める術は無い。


 話が逸れてしまった。つまり、何が言いたいのかというと、尼子と組んで毛利を因幡と伯耆から追い出すということである。


 あれだけ俺が怒っていると言う噂を流したにも拘らず、どうやらほとんどの国衆達が残っているようだ。だいたい二割減というところだろう。


「では、軍議を始めようか。残すは八上郡と気多郡、高草郡だ。武田又五郎殿、貴殿には八上郡をお任せしたい」

「承知いたした。必ずや落として見せましょう」

「では、我等はこのまま西進して気多郡と高草郡を攻め落とす。孫三郎の弔い合戦である。各々方、抜かりなくお願い申す」

「「「ははっ!」」」


 大枠だけを決めて軍議を終わらせる。武田高信のやることに口出しはしない。さて、まずは山中鹿之助率いる尼子軍が伯耆に、武田高信の部隊を因幡に攻め掛からせたい。


 一番槍は武人の誉れではあるが、それと同時に危険も大きい。俺はそんな危険は侵さん。勿論家臣にも侵させたくはない。


「井伊肥後守と内藤筑前守は残ってくれ」

「「はっ」」


 二人を残し、今度は策を綿密に練る。先程のは因幡平定戦という戦略のための大枠の作戦を決めたに過ぎない。今回は二郡を落とすための戦術を決める打ち合わせだ。


「気多郡と高草郡を押さえているのは誰だ?」

「高草郡は丸山城主の吉岡春斎でございましょう」


 そう応えたのは井伊直親だ。流石は鳥取城を押さえているだけあって周辺の調査も抜かりなく済んでいるようである。また、布勢天神山城に山名の旧臣が集まっているようだ。


「また、後ろには南条勘兵衛なる者が控えておりまする」


 伯耆の羽衣石城と打吹城を押さえている南条宗勝か。恐らく彼奴が裏で糸を引いていたに違いない。そして毛利と繋がっているのも恐らくは。


 であれば、尼子に南条の相手は荷が勝ち過ぎるかもしれない。俺が南条ならば毛利本隊に知らせて西から尼子を攻めてもらうことにする。挟撃の形を取るのだ。


 これは時間が無いぞ。急いで攻めなければ南条を牽制することはできない。だが、急いては事を仕損じる。


 まずは高草郡だ。気多郡は後で考えよう。高草郡は吉岡春斎の居城だ。そして子の吉岡定勝も油断ならない相手である。


 この吉岡定勝、豊臣秀吉が中国平定に乗り出したとき、散々に打ち破って馬印まで奪う活躍をした勇の者だ。父ではなく子の方だったはずだ。油断して良い相手ではない。さて、そんな相手に対してどう対処するか。


 幸いなのは俺がこの男を知っていることだ。吉岡定勝の得意戦法はゲリラ戦である。ゲリラ戦の怖さは歴史が物語っているところでもある。ベトナム戦争を思い出して欲しい。


 では、このゲリラ戦に対し、どう対応するか。我が隊も更に細分化してゲリラを撃退するのはどうだろうか。それとも一か所に固まって数の暴力で制圧していくか。ううむ、最適な解答が導き出せない。


 そんなときであった。一人の使い番が鳥取城に駆け込んできたのは。


「御注進! 吉岡勢および山名勢が丸山城から打って出ました! その数はおよそ千!」

「なんだと!?」


 俺は思わず立ち上がる。なぜ劣勢の吉岡勢がわざわざ打って出たのか。ここは籠城し、南条の援軍を待つのが最適ではないのだろうか。


 それに兵数も少ない。この兵数で打って出てくるのであれば、周囲に伏兵を潜ませているのではないかと勘繰ってしまう。いかんな。意図が読めん。


「仔細理解した。ご苦労。下がって休まれよ。さて、両名はどう考える?」

「中々に意図が読めませぬな。寡兵で打って出るとは。考えられるのは伏兵か罠か。或いはその両方か」


 考え込みながらそう述べるのは白井光胤だ。やはりまずはこれを疑うのが常道だろう。そして次に口を開くのは内藤重政である。彼は真っ直ぐ俺を見てこう述べた。


「惑われますな。某に意図は読み取れませぬが、何かしらの考えはあるはず。敵方が何を求めているのか、我らが最も嫌がるのは何か、それを考えれば自ずと見えてくるのでは」

「敵方の望むこと、我らの嫌がることか」


 敵方が望んでいるのは和議、和睦だ。そして領地の保全である。つまり、農繁期を待って兵を引かせることが常道の策だと考えられる。であればやはり籠城のはずだ。


 一当てしてから籠城する。此方の戦意を削いで農繁期までの時を稼ごうというのだろうか。だとしても此方は雇い兵。兵を引くことはない。


 そして我等が嫌がることである。それは何かと考えると思いつくのは後詰めが来ること。後詰め、後詰めかぁ。後詰めが来る当てはあるのだろうか。


 来るとするならば南条からであろう。しかし、南条は尼子の相手で手一杯のはずである。いや、待て。西から毛利が攻めてきたら尼子は兵を引く。そうすれば後詰めに向かうことができるという算段だ。


 であれば、我等が嫌がるのは後詰め。そして敵方が求めているのは刻ということになる。しかし、果たしてそれで合っているのだろうか。こうやって俺が悩むことも視野に入れられているのだろうか。考えは尽きない。


 もし、そうだとしたら中々の策士が控えているはず。いや、もしかしたら謀神と呼ばれる毛利元就が裏で手を引いているのかもしれない。流石は毛利、一筋縄ではいかない。


 仮にこの策略が俺を研究し尽くされて立てられていたものであれば、舌を巻かざるを得ないだろう。確かに俺は悩んでいる。


 今までの戦の傾向から慎重に動く、家臣の意見を尊重すると思われているのであれば。背中が震える。冷たいものが背中に流れる。


「まさかこんなに手古摺るとは。十兵衛か弥八郎かを連れてきて頭を使わせるべきであった」

「無いものねだりしても好転しませんぞ」


 内藤重政に釘を刺される。相変わらず手厳しい。決めた。総攻撃に移ろう。もう、悩み疲れた。ただし、こちらも策を弄してである。


「こちらも打って出るぞ。諸将には準備をさせよ」

「「ははっ」」


 俺は一抹の不安を常に胸に抱えながら打って出る判断を下したのであった。

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[良い点] 飛騨守の諱は自分も気になって随分調べてみた事があるんですが、諱どころか家族関係から出身地から何から、全く出て来ませんでした というか、竹中半兵衛の稲葉山乗っ取りと小便の逸話以外で名前を見か…
[良い点] 他の登場人物は諱表記でも一人だけ必ず官途名で表記される斎藤飛騨守さんw
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