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戦の香り

弘治元年(一五五五年)十一月 若狭国 後瀬山城 武田氏館


 若狭にも寒い冬が来た。戦国時代は小氷河期と言われていたが実感して納得する。非常に寒い。

 戦乱が続いたため、どうやら京で先月に改元が行われたらしい。それで何かが変わるとは思えんが。


 部屋に籠もって伝左と源太と共に火鉢に当たる。この数か月の間に様々な出来事があった。そのことについて源太が口を開く。


「まさか大内が滅びるとは夢にも思いませなんだ」

「然り」


 これに伝左が追随した。まずは何と言っても厳島の戦いである。これで中国は毛利が覇権を握ったと言っても過言ではないだろう。


 大内も尼子も落ち目よ。やはり謀聖と呼ばれた尼子経久が居なければどうにも。いや、彼の孫である尼子晴久も良くやってると思うがな、流石に独力で毛利と当たるには力が足りない。


 あくまでも大内——いや、この場合は陶という方が正しいのか——が毛利の西を抑えてくれていたから尼子はやって来れたのだ。だというのに、西の陶が崩れてしまった。このままだと史実通りに近いうち、毛利が中国を制覇するだろう。


 そしてホクホク顔なのが目の前に居るこの男、組屋の源四郎である。どうやら米を転がして相当儲けたらしい。


 米は小浜から陶氏に運んだようだ。確かに海運を使えば陶の本拠地にすぐである。まあ、その陶氏も滅んでしまった訳だが。


 米が無ければ戦も出来ぬ。安く仕入れてくれる源四郎から買う一手しか残されていなかったのだろう。どういう商いをしたのか分からぬが、さぞ儲けたのだろうな。


 その証拠に俺に一尺の脇差を送ってきおった。鎌倉時代末期、越中の則重が打った名刀らしい。鞘から抜いて刃を露にする。


 厚く、そして鋭い脇差だ。その重みをずっしりと感じる。 直刃に小湾れのある刃紋も美しく、源四郎が褒める程の名刀であることが俺にも分かった。


「どうにも越中が豊作でしてな。米を買い付ける折にそちらを見つけまして。良い刀でございましょう」

「確かに良い脇差だな。俺には勿体無い程に」


 とは言え、そうは言うが俺もの子。刀は大好きである。初めて自分の刀を持ったのだ。浮かれ気分になるのも無理はないだろう。気もそぞろになってしまうことを危惧した俺は脇差を一度、源太に預けた。


「お約束通り、熊川の沼田上野之助殿に武具と兵糧、お言伝を届けて参りました。すぐに人を集め、調練に入るとのことでございます」


 ふむ。これで年明けには百人を動かせるだろう。いや、そもそも人が集まるだろうか。どちらにしても、捕らぬ狸の何とやらという奴ではあるが、考えずにはいられない。


 練度を考えるのであれば、もう半年は欲しいところである。まずは弓兵の訓練をしてもらいたいところだ。戦の死因の多くは矢や石等の飛び道具である。接近戦は二の次よ。


 それから俺が気に掛けなければならないのは祖父と父の確執だ。今、溝は如何ほど広がっているのか。伝左からも伝え聞いているが、源四郎からは客観的な意見が貰えるはずだ。


「源四郎。俺の御祖父様と父上について、ご存じのことをお教え願いたい」


 何も彼らの趣味を教えて欲しいと言ってる訳ではない。祖父と父の確執がどこまで深く、互いにどのような行動を取るつもりなのかを知りたいのである。源四郎は顎に手を置き思案しながらこう述べた。


「どうやら武田治部少輔様は家督を嫡男の武田伊豆守様ではなく弟君の三郎様にお譲りしたいご意向のようで」


 ふむ、となると父は廃嫡されるのか。ただ、黙って廃嫡を承諾するような父ではない。これは一波乱あるだろう。俺の見立て通り祖父様は将軍が煩わしくなったのだろう。源四郎もそのような見立てである。


「父上は勝てるか?」

「如何にございましょう。武田治部少輔様には三郎様の他、重臣の粟屋越中守様や逸見駿河守様もお味方になったとお伺いしておりまする」


 逸見の名を聞いて源太が顔を曇らせる。やはり逸見は祖父に付くか。


「御祖父様は父上ではなく叔父上に家督を継がせたい。父上は御祖父様に口出しさせたくない。意見が食い違っているという訳か。しかし、身内で争うなどと、他国に食って欲しいと申しているようなものではないか」


 脇息にもたれ掛かって溜息を吐く。さて、この内乱にどう介入するべきか。下手に手を出して噛まれては敵わん。問題を整理しよう。つまり、足利にとやかく言われるのが嫌になった訳だ。であれば、足利と縁を切るか。


 いや、それは無理な話だ。母を送り返すことになる。それは畿内を敵に回すぞ。であれば、いっそのこと足利に深く深く介入してもらうべきか。今こそ征夷大将軍の威光を借りる狐になるべきだ。一人呟く。


「公方に会いに行くか」


 そうと決まれば将軍が滞在されている朽木谷に向かう他ないだろう。朽木谷であれば熊川の奥だ。熊川で一泊し、朽木谷に向かえば二泊三日で帰って来れる。いや、馬で向かえば日帰りも可能だろう。それだけ近いのだ。


「源四郎」

「はい、何でしょう?」

「手土産を用意いただきたい」

「手土産、にございますか。それは一体どちら様宛の?」

「決まっておるだろう。公方様にお渡しする手土産よ。伝左、お主は俺が新年の挨拶に伺うことを公方様、叔父上に伝えて参れ。それから父上と母上にもだ」

「ははっ」

「源太は父上と母上に根回しを頼む。勝手に出て行ったらば叱られるからな」

「……かしこまりました」

「そう暗い顔をするな。其方の父の件は上手く取り計ろうではないか」

「ありがとうございまする」


 そう言って源太を慰める。俺と将軍は伯父と甥の関係。新年の挨拶に伺っても何ら問題は無い。伝左と源太が頭を下げて部屋を出ていく。俺は源四郎に向き直り、にやりと笑ってからこう話し掛けた。


「そうそう、源四郎。どうにも戦が始まるようであるぞ?」

「それはそれは。また一儲けさせていただくとしましょう。一体どちらで?」

「無論、この若狭にござる」


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

【現在の状況】


武田孫犬丸 四歳(数え年)


家臣:熊谷伝左衛門、沼田上野之助、逸見源太

装備:越中則重の脇差

地位:若狭武田家嫡男

領地:なし

特産:なし

推奨:なし

兵数:0

若狭武田の一族ですが、皆、若くして子を産んでるんですよね。

孫犬丸の父と祖父の年の差が十二歳しかないですから。


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