甲斐の虎と、相対す
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「儂が徳栄軒信玄である。よう参られたな、孫娘の婿殿」
「ははっ」
俺の前に鎮座している四十過ぎの男こそ、他ならぬ武田信玄である。堂々とした居住まい。これぞまさに王者の風格と言えよう。信玄の後ろには御旗が立てられている。
「斯様な贈り物までいただいて感謝の念に堪えんぞ」
「新年のご挨拶にございますれば。少量しか運ぶことが出来ず、申し訳ございませぬ」
重臣が左右に並ぶ中、俺は遜って頭を下げ続けた。というよりも、頭を上げるのが怖い。何だ、この圧力は。本物の英雄を見た気がする。
両脇には馬場、内藤、山県、高坂の武田四天王と思わしき男達。それから一条信龍に武田信廉、それに義信ら一門衆が勢揃いである。
他にも秋山、真田に土屋に原と本当に全員が揃っている。飯富虎昌は俺の後ろに控えている。武田義信が俺に尋ねた。
「藤は息災であるか?」
「勿論にございます、御義父上。欲しいものは何でも買い与えております」
方々から嫌味が聞こえてくる。金だけはあるみたいだ、と。流石にムッとくるも、ここはグッと堪える。あくまで俺は信玄公と話に来たのだ。
「そうか。息災ならばそれで良い」
そう言って話を打ち切る義信。何というか、信玄公と義信がギクシャクしているように感じた。気のせいだろうか。今度は信玄公が俺に話しかけてくる。
「其方は一代で丹後と但馬を落とし入れ、飛ぶ鳥を落とす勢いと聞いておるぞ」
「何を仰られます。丹後と但馬、そして若狭を加えても信玄公の落とした信濃一国には敵いませぬ。信濃平定、誠におめでとうございまする」
そう述べて再び深々と頭を下げた。頭を下げるだけならタダである。いくらでも下げてやろう。信玄公はこの祝辞に反応をしない。
「ふむ。其方が儂なら此処からどうするかね?」
「は?」
俺が信玄だったら、此処からどうするかだと。顔を上げると信玄公が真っ直ぐにこちらを見つめている。重臣達も俺をじっと見つめていた。
どうしよう。考えはあるけど、絶対に総スカンを食らう。それを言うべきか言わざるべきか。ああ、だから信玄公は言い出せなかったのか。これは俺が代わりに言うべきだろう。
「しかし、ご不興を買うかと」
「構わん。申せ」
俺は逡巡してから前置きを置いて自分の考えを述べ始めた。
「では僭越ながら。織田と同盟を結びまする。美濃の一色を牽制するために織田は喜んで同盟するでしょう。織田と同盟ということは松平とも同盟ということになりまする。そうなれば甲相駿の三国同盟を破棄し……今川に攻め掛かるのが上策かと」
「なんと!」
言ったった。周囲はどよめいており、岳父の義信に至ってはアホ面を引っ提げて呆然としていた。武田四天王も眉を上げて感嘆しているが唯一、信玄公だけは微動だにしなかった。
「何を仰られるかっ! 今川はご嫡男太郎様のご母堂の実家ぞ! 其方にとっても無関係ではないはず! そこを攻めると申したかっ!!」
激しく憤ったのは一緒に甲斐へ付いて来た飯富虎昌である。武田義信の傅役だっただけに看過できなかったのだろう。飯富は今の立場を忘れて俺をきつく叱責する。俺は即座に頭を下げて謝罪し、前言を撤回した。
「失礼をば」
「ふむ。そうよな。しかし、やはりこうなるか」
そう呟いたのは信玄公である。そして静かに右手を挙げた。その途端、場がピタッと静まり返った。どうやら信玄公が話すときの合図のようだ。
「孫娘の婿殿。此度は大儀であった。最後のが何よりの馳走よ。御礼申し上げる。ゆるりと休んでいかれよ」
「ははっ、恐悦至極にございまする」
こうして場はお開きとなった。その後すぐに義信に連行される。義信のほか、飯富虎昌に長坂昌国、曽根虎盛が居た。恐らく、先程の発言の真意を問い質したいのだろう。座らされる。
「先程のあの発言は一体何なのだっ!」
岳父に詰め寄られる。どうやら俺と信玄公のやり取りを間近で見ていたにも拘わらず、何も分からなかったようだ。それに軽く落胆をしてから説明を始める。
「簡潔に申し上げるならば、信玄公の思いを代弁したに過ぎませぬ。むしろ私は御義父上のために危険を冒したのでございますぞ!」
逆に強気に押し返す。この岳父。どうやら何も分かっていないようだ。俺は論理立てて岳父にもわかるように説明を始めた。
「な、何を……」
「信玄公は今川を攻める心積もりであったということにございます。それを私に発言させ、家臣の反応を窺ったのでございましょう。信玄公は実父を追放したお方。三国同盟を破棄することくらい造作もないはず。今すぐに事は起こさないでしょうが、数年後には今川に攻め入りましょうぞ。私はそれを確認したかったのでございます」
俺のその発言を静かに聞いている四人。これは俺の発言を信じてくれているということで良いのだろうか。恐らく、心当たりのある出来事が幾つかあったのだろう。黙り込んでしまった。しかし、これで今川を狙う心積もりなのは確実となった。
「しかし、信玄公はすぐに動くことはできませなんだ。南下を今行えば上杉に背後を狙われることは必至。北条と共に上杉を抑え込んでから南下を始めるでしょう。それまでに何とかしなければ、どうなるかは御義父上が一番ご理解しているかと」
そう伝えて義信達の意識を信玄公が向かう方向と違う方へとズラしていく。このズレが謀反へと繋がっていくのだ。そして義信の年齢の時には信玄公は家督を継いでいた。この焦りも義信の判断を鈍らせていく。
「家督のお話などは未だ?」
そう訊ねると飯富が静かに首を横に振った。どうやら家督の話は出ていないようである。義信は自身の右手の爪を噛んでいた。相当焦れているようだ。
「必要なものがございましたらお申し付け下さいませ。私の方で精一杯用意させていただきまする」
「おお! それは有り難い。頼りにしておるぞ、婿殿」
良し良し。良い感じに燻って拗れてきたぞ。俺は密かにほくそ笑むのであった。
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