一路、東へ
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永禄六年(一五六三年)一月
俺は若狭の後瀬山城にて新年の挨拶を終えた後、北近江を抜けて美濃に居た。このまま美濃を通って信濃へ向かう予定である。
伝左以下五十名ばかりを連れて信濃へ向かう。勿論新年の挨拶として送る荷を大量に積んで、である。干し椎茸に塩漬けの海魚。澄酒に何と言ってもお米だ。
五十名と聞いて少ないと思っただろう。だが実際は五十名の職業足軽に五十名の人夫、それと荷運びの駄馬になる。つまり、実質は百名を超えるのだ。
しかし、五十人で持ってこれる量なんて高が知れている。護衛のことを考えたら量はそう運べない。ただ、誠意を見せに行くのだ。信玄公の顔も見てみたいし。
藤姫は連れて行かなかった。だって面倒なことになりそうだし、そもそもこの遠路が耐えられると思えない。全く、厄介な人物を押し付けてくれたものだ。
俺が察するに、信玄公は桶狭間の戦があってから徐々に弱体化する今川との同盟が疎ましくなってきてるのだろう。
上杉を倒して北上できなかった時の保険として南下を残しているに違いない。となると、今川と懇意にする太郎義信が邪魔なのだ。
だから遠い若狭に孫娘を送った。どうでも良いから。近くに居られると今川を攻めるとばれたときに五月蠅くて敵わないのだろう。目的のためには手段を択ばないのは流石だ。
「今日はこの辺りでお休みしましょう」
伝左がそう申し出る。確かに日も暮れ始めた。この先に人の集落があるか定かではない。休んでおくのが無難だろう。俺も伝左の意見に同意し、休む許可を取るためにこの集落の長を訪ねる。
美濃はお世辞にも栄えている様子は無かった。織田との戦で荒廃が進んでいるのだろう。そして一色義龍の死。家臣や領民が動揺してもおかしくはない、か。
「ようこそお出で下さいました。堀掃部大夫と申しまする」
この堀という男は厚見郡の郡代だろうか。俺に丁寧に挨拶を返してくれた。その後ろには八歳か九歳くらいの男の子だろうか。綺麗な顔をした少年が父の後ろでこちらを見ていた。
「これは長男の菊千代にございまする。菊千代」
「はい! 堀菊千代にございまする。以後、お見知りおきの程をお願い申し上げまする!」
大きな声でそう口上する。快活で利発な子だ。それに愛嬌もある。その気は無いがこの少年を見ていると男色が流行るのも納得できそうであった。
「そうか、私は武田豆州と申す。よろしく頼むぞ」
それから堀掃部大夫の手配で村に一泊することとなった。聞けば堀掃部大夫は郡代ではないらしい。更にその下だというのだ。
しかし、この堀菊千代という少年はなんと気の利く少年であろうか。小さな村で家屋も余ってないだろうに、見事に差配して我ら五十人に宿泊場所を割り当ておった。
これが父による入れ知恵か本人の機転かは悩ましいところだが、おそらくは後者だろう。そんな俺の視線に気が付いたのか、父である掃部大夫がオレに近づいてこう呟いた。
「恐れながらご相談したき事がございまする」
「なんだ。申してみよ」
「実は菊千代を僧となっている兄にお任せするかどうか迷っており申す。優秀な子にございましょう」
まあ、早い話が兄に家庭教師になってもらうということだろう。この時代、僧から学ぶのだ。これは今川義元に太原雪斎が居たり、織田信長に沢彦宗恩が居たりである。
「ふむ。なら私に預けてみぬか? 小姓を探しておったのだ。大切に育てることを約束しよう」
「有りがたきお言葉にございます。是非ともよろしくお頼み申し上げまする」
しかし、こんな大事な事項を本人の同意なく決めてしまって良いのだろうか。時代が時代だし、良いのだろうな。この年でこれだけ有能なのだ。ゆくゆくは若狭武田家の一翼を担ってほしい。
翌朝。堀菊千代が父に別れを告げる。少年の目にはこころなしか涙が溜まっているように見えた。彼が出世したら父を、家族を呼び寄せてあげよう。
「しかと勤めるんだぞ」
「はい!」
これにはもっと深い意味が込められているのだろう。そう易々と嫡男を手放す訳がない。おそらく、堀掃部大夫は美濃に未来が無いと考えているのだ。
斎藤(一色)義龍が死んだ今、美濃は暗黒期を迎えていると言っても過言ではない。織田信長の侵攻と評判の悪い斎藤飛騨守の重用。堀掃部大夫も悩んでいるのだろう。
「ちなみに堀掃部大夫殿。其方は織田殿に仕えているのか? いや、親織田派か?」
「……何を仰りたいので?」
「いや、すまん。ただの戯れ言だ。聞き流してくれ」
おそらく織田の調略の手が伸びているはずだ。俺に息子を預けるというのは、そのいざこざに巻き込ませないという意味もあるのだろう。間違った側に付けばお家取り潰しでは済まない。
そして、彼はその判断が出来ないのだろう。だから俺に預ける。俺の今の敵は因幡の山名のみだ。何処で調べたは知らんが、俺の周りに敵無しと思っているのだろう。気楽なものだ。
「よ、よろしくお願いいたします。堀菊千代にございます!」
「ああ、これからよろしく頼むぞ。其方は俺の小姓として召し抱える。励め」
「はいっ!」
俺は堀菊千代を連れて東へ進む。彼が後の名人久太郎であることを俺が知ることはなかった。
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