伊勢伊勢守
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「御屋形様、何やら御目通り願いたいと申す者が」
「何者だ?」
「それが……ご内密に御屋形様にお目通り願いたいと」
また怪しい輩がこの後瀬山城にやって来た。なんでだ。おかしな奴らを引き寄せる何かが俺から発せられているのだろうか。
軽々に会うべきではない。このまま会わないという選択肢もあるが、俺も怖いもの見たさで会ってみたくなる。内密に会いたいというのがまたそそるではないか。
それに前回の嶋左近の例もある。そういうところから埋もれていた知恵者を探し出す楽しみを覚えていた。会うことを伝える。
するとやって来たのは一人の老人と二人の子供。兄弟だろうか、とても身なりの良い子供だ。それから外に数人の下人が荷を背負っている。それだけで身分がわかるというものだ。
上の子は四、五歳くらいのようだ。下の子に至ってはまだ生まれたばかりではないか。兄が必死に下の子をあやしている。しかし、凛として如何にも公家である様相をしていた。
「お目通りが叶い、恐悦至極にございまする。この方々は伊勢虎福丸様、弟の伊勢熊千代様にございまする」
連れの男がそう述べる。伊勢……伊勢とはあの伊勢か。公方である足利義輝に歯向かって反旗を翻した伊勢貞孝の子か。これは頭を抱えてしまう。外れを引いた。
しかし、何故わざわざこの若狭にやってきたというのか。俺は義輝の甥だぞ。あれか。懐に入ってしまった方が居場所がバレないとでも思っているのだろうか。
いや、違う。ああ、そういうことか。気が付いた。間を取り持てということか。そして高祖父だかその更に父が伊勢から嫁を貰っていたはず。つまり縁戚だ。
「この御両名は伊勢伊勢守様の孫にございまする。どうぞ、お匿い下さいますよう、お願い申し仕りまする」
「あい分かった。お二人の御身は私が責任を持ってお預かりいたす。公方様にもご赦免いただくようお願いしておこうではないか」
どうやら彼等は伊勢貞孝の孫のようである。ということは祖父と父は討ち死にしたか。まあ、許されないだろうな。とりあえず、ほとぼりが冷めるまでは大人しく過ごしてもらうとしようか。
彼らの祖父は幕府の重役、政所を担っていた人物である。これから数年もしない内に京は更なる混乱を迎えるはず。そのときに役立ってもらうとしよう。有職故実の類は大事だ。
「伊勢虎福丸にございまする。御迷惑をおかけいたしまする」
「武田伊豆守にござる。さぞ大変だったでしょう。御ゆるりと滞在なされよ。乳母も用意致す」
「忝のうございます」
取り合えず、彼らには小浜の湊に屋敷を用意した。伊勢兄弟にはすくすくと育ってもらいたい。どうやら彼等の他にも下人や女中も一緒に若狭に落ち延びているようだ。
俺は家臣に命じて荷解きの手伝いもさせる。彼等の持ってきた物に興味がある。勿論、タダでさせる訳ではない。なにかしらの利は求めさせてもらう。
日記や古文書など貴重な資料なんかは写させてもらうことにしよう。伊勢の礼法なんかは細川兵部が興味あるだろうな。当家でも保管しておこう。
しかし、これは結果だけを見れば望外だったな。若狭に行けば何とかなると思われているのかもしれない。人が流れ着いてくれるのはありがたいことだ。しかし、そうなると犯罪も増えるだろう。
警邏の数も増やさねばならんし、治安維持のための兵も用意する必要がある。そして何より法だ。法を定めて治めなければならん。俺の気分で裁定を下すなど以ての外だ。
祝言の時に貰った分国法を早く読み込んで法を制定しなければ。良い見本が二つもあるのだ。これを使わない手はない。しかし、法を制定するのはそう簡単ではないのも事実である。
ただ、この伊勢の二人のことは松永久秀の弟である内藤宗勝にだけは伝えておこう。まあ、保険だ。そして我等は彼等を匿い続けるつもりであるということも。
しかし、このことが後々になって面倒なことになるとは思ってもみなかった。
そんなことは露程も気付かず、気を良くした俺の元に沼田上野之助がやって来る。後ろにいるのは古関利兵衛だ。
「如何した?」
そう訊ねると口を開いたのは古関利兵衛であった。逼迫した口ぶりで俺に必死に陳情に上がる。流石の上野之助も参っているようであった。
「どうしたもこうしたもございませなんだ! どうして敦賀の湊に荷を入れてくれないんです!? こちとら商売あがったりですよ!」
俺にこの口の利きよう、どうやら相当に切羽詰まっているようだ。このままだと破産まっしぐらなのかもしれない。しかし、それは企業努力が足りないのではないだろうか。軽く突っぱねる。
「いや、そうは言うがな利兵衛。俺は若狭と丹後、但馬を束ねる国主だ。悪いが敦賀のことは越前の朝倉殿にお頼みするのが筋というものでは?」
「いや、それはそうなんですが……」
そう言って口籠もる利兵衛。勿論これは俺が前々から仕組んでいた計画である。敦賀を俺無しでは生きられないようにしてから、サッと手を引く。今頃、組屋の源四郎はウハウハだろうな。
「とはいえ、利兵衛の申すことも理解できなくはない。源四郎に話をつけておくので、後は商人同士で話し合って欲しい。私からも蔑ろにしないよう、申し伝えておくぞ」
「あ、ありがとうございます!」
深く頭を下げて立ち去ろうとする利兵衛。俺は彼を呼び止める。
「利兵衛」
「はい?」
「これは一つ、貸しにしておくぞ」
「これは高くつきそうで……」
どうやら敦賀の民心はこちらに靡きつつあるようだ。朝倉の無関心と俺達の積極的な投資によるものだろう。計画通りである。
そして上野之助から聞いた話ではあるが、敦賀郡司の朝倉景紀の心も朝倉景鏡のお陰で朝倉義景から離れつつある。祝言の留守中に景鏡が暗躍したようだ。敦賀を俺に貸し出そうと提案しているらしい。
もう少しだ。もう少しで敦賀を俺の物にできるはずだ。だが、ここで焦ってはいけない。仕留め損なわないよう、機を慎重に選ぶのだ。そのためにも周囲を固める。まずは甲斐の武田を味方につける。
面倒だが、新年の挨拶に向かわねばな。俺は一つ息を吐き出したのであった。
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