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カラフルな雛たち


「お前ら妹に何してるんだよ!」


気を失った妖精のような少女を囲んで、

「どうしよう」

「大人を呼んでこないと」

とおろおろしている少年たちの所に、そう叫びながら、薄い赤色の髪をなびかせながらこれまたキレイな顔の少年がかけつけて来た。

顔に殴られた跡があり髪の毛や衣服は乱れているが、それでも話に聞く妖精のようだ。


少し年上であろうその少年は、少年たちが支えきれなかった少女の耳元で何か囁き「うっうん」と反応を示した少女の様子をうかがいながら「頭は打ってないか?」と少年たちに確かめると、軽々と少女を持ち上げ、ゆっくりと屋敷に戻って行く。


その後ろ姿を放心したように眺めたあと、我に返った少年たちは先を争うようにその姿を追いかけた。


屋敷の中はバタバタとしており、その日招待されていた子どもたちは一ヶ所に集められなんとも言えない時間が過ぎて行く。


しばらくすると、一人の少年の父親が部屋に入って来た。


「お父様、あの女の子は大丈夫なんですか?」

その少年は父に尋ねる。


『お化けみたいだな!』

『変な色』


そんな意地悪を言うつもりはなかったのだ、ただ初めて目にした色の少女にどう接していいかわからず、ついそんな言葉を投げかけてしまった。

あの瞬間、フードの奥のキレイな目に大きな涙が溢れているのが見えた。


急いで追いかけたら、その女の子は意識を失っていた。瞼は閉じられていてキレイな瞳は見えないが、涙の跡が頬についている。


「今、医者に診てもらっているけれど、身体は大丈夫みたいだよ」


父の言葉に部屋の空気が少し弛む。


「でも、熱が出てるみたいだから今日はこれで解散だね、挨拶をして帰ろう」


気がつけば他の少年たちの父親たちも部屋に入って来ており、各々自分の息子の手をとる。


「おっ、お見舞いにまた来れますか?」


誰かが父親に聞いている。


「この国にいる間に体調が戻ればまた挨拶に来よう」


「ちっ父上!あの子を僕の婚約者にしたいんですが!」


空気を読めない誰かがいきなりそんな事を口にした。


「あっ、お前抜け駆けするなよ!」

「ずるいぞ!」


さっきまで少女を心配していた他の少年たちも口々にそう叫ぶ。


その様子を見た大人たちはお互い目配せをすると、


「あの娘はなぁ…」


と苦笑いをする。


「あの娘をお嫁さんにするのは大変だぞ」


兄と比べられ、剣の稽古をサボりがちな息子にその父が言う。


「パスカル家の血筋だから、肩書きはまず役にたたないな」


地位にあぐらをかき、我が儘な息子にその父が言う。


「あの娘に素敵だと思われる男にならないとな」


本の世界に閉じ籠りがちな息子にその父が言う。


「そもそも、あの娘はこの国にいないからな~ 留学出来るくらい優秀じゃないと会いにも行けないぞ」


家庭教師が来るたびに脱走する息子にその父が言う。


「…………」


暫しの沈黙の後、一人の少年が口を開いた


「あの、お父様!あの娘、あの娘の名前を教えてもらえませんか?」


皆も同じようにすがる目をして自分の父親を見ている。


「お前たち、誰もまともに挨拶もしていないのか?」


少年たちは気まずそうに視線を下げている。


「挨拶も出来ないような男は、まず相手にしてもらえないだろうな、求婚すらさせてもらえないぞ」


「で、でも!」


気まずい空気を破るように一人の少年が口を開いた。


「私は、今日、本人に結婚して欲しいと申し込みました!」


皆の視線が集まる。


『こいつ、いつの間に!?』


という気持ちが表情にありありと表れている。


「お前思いきったな~ で、なんて返事もらったんだ?」


父親が可笑しそうな顔をして息子に聞いた。その話が本当ならあの娘の父親がどんな顔をするだろう? と先ほどまで散々娘自慢をしていた親友の顔を思い浮かべる。


「返事はもらえませんでしたが、笑ってもらえました!」


「そうか、それならさっきから言われているように、はいと返事がもらえるように頑張らないとな。あの娘の父親は手強いぞ」


実際は厳つい外見に反して、情に弱い男だが、この際まだまだ甘い息子の為に利用させてもらおう。

という父親たちの思惑にまんまとはまり、初恋泥棒な一人の少女のおかげで少年たちはこの先己を磨く努力をするようになる。


「colorful~あなたの色に染めて~」の攻略対象者たちが、ゲームとは違う一歩を踏み出した瞬間であった。



◇ ◇ ◇


~その日の大人たち~


「ここはもういいから、皆と遊んでおいで。ロイド、ソフィアの事をよろしくな。今日集まっているのは男の子ばかりだけど、ソフィアも楽しんでおいで」


「はい、お父様。それでは皆さま失礼します」

「今日はおあいできて嬉しかったです」


笑顔でそう言い出ていった兄妹を見送ると、我先にと黒髪の男に詰め寄る。


「何あれ!お前の子、天使なのか?」

「俺も今まで自分の子が一番だと思ってたのに、あれはレベルが違う」

「てか、本当にノアールの子なのか?お前の要素ないじゃん」

「奥方に似て良かったな~ どうやったらお前からあんなかわいい子が出来るんだ」


それぞれ世間ではそれなりの地位をもち、貴族としても名前を知らない者などいないような身分ではあるが、男同士集まると学生のようにくだけた話し方になるのはいつもの事だ。


詰め寄られた全身真っ黒の強面の男はどや顔で笑っている。

学生時代に「暗殺者」と呼ばれていた男が笑うと何か企んでいるかのようだ。


「あの天使たちはまぎれもなく私の子どもたちだ、二人とも俺と耳の形が一緒だっただろう?」


大人たちは、成功する商売人によく現れると言われている形をしているその男の耳を見る。

最終学年時に留学をした男が、その国で商人になると聞いた時はびっくりした。この国に居ればファーマス家と言うだけで将来の道が開けるというのに、とその判断に疑問を持ったものだ。

しかし、今となってはその判断は正しかったと思えるほど、目の前の男は充実した顔をしている。


それからしばらく嫁と子ども自慢を聞いていたが、少し慌てたように

部屋に入ってきた使用人から子ども同士の喧嘩の話を聞きみなで部屋を出る。


その部屋につくと、ファーマス家の次男が1人ふて腐れたように座って菓子を食べていた。

頬が腫れて咀嚼しにくそうだ。


「他のみんなは?」

の問いに

「みんな順番に出ていったから知らない」

と答えると、気まずそうにそっぽを向きそれ以上は語らない。


どうしたものかと顔を見合わせた時、今度はエントランスの方で騒ぎ声が聞こえそちらに向かうと、顔を腫らした天使が気を失った天使を抱き抱えていた。


『『『『うちの馬鹿息子がなんかしたんじゃないかな?』』』』


そこからは侍医が呼ばれたりの騒ぎで、それ以上旧交を温めることは出来なかった。







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