表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/5

前世を思い出したら、目がチカチカした話

誤字脱字、その他もろもろ気になったらすいません


『目に青葉 山ほととぎす 初鰹』


「あ~鰹の叩き食べたい」


新緑広がる景色を見ながらそう呟く。


『ギョ~ホロホロ』と聞こえる鳴き声はあきらかにほととぎすでは無いが。


でも、新緑を見ていると気持ちが落ち着くのはどの世界でも共通みたいだ、いや、こちらの世界には落ち着かない新緑の色もあるんだっけか。


それにしてもこの間はひどい目にあった。




前世を思い出すきっかけなんてものは何も、頭を打ったり、熱を出したり、オープニングムービーと同じ場面を見たりしなくてもいいらしい。


私が日本と言う国で生きていた前世を唐突に思い出したのは、他国から移住して来た我が家でおこなわれていたパーティーの最中だった。


思い出したとたん、いきなり襲ってくる、視覚の暴力。

まさか、色に攻撃されるとは思わなかった。


パーティー会場に溢れる、派手な色!色!色!


目から入ってくる情報量の多さに頭がくらくらとして、私はその場で意識を失ったのであった。




その時は混乱したものの、派手な色の世界で違和感なく生きて来た15年分の記憶はきちんとあり、前世の記憶との折り合いもなんとかここ数日で付いてきた。


それでも、優しい自然が作り出す色に心が癒されるのは自然な事で。


『私この家の子に生まれて良かった~』


と心の底から思ったのである。




父の兄である伯父夫婦が事故にあい、領地経営を手伝って欲しいとの連絡が他国に住む父の元へ来たのは半年と少し前であった。


幸いにも命に別状は無かったものの、王宮で仕事をしている叔父が王都から離れた領地と行き来をするには身体に負担がかかるし、それまで伯父に代わり領地の事をしていた伯母も、王都にいる方が良い治療を受けられる。二人の子どもたちはまだ学生で、すぐに後を継げない状況である事から、父に話が来たのである。


留学生として訪れた国で、商家の娘である母と恋に落ち、そのままその国に残り結婚した父は、商家を継いだ母の兄の補佐として諸国を周り新規店舗の開設や新しいルートの取り付けと言った仕事を任されていた。

ちょうどこの国でも新店舗立ち上げの話が進んでおり、この国に帰ってくるのには然程支障がなかった。とは言え、約半年かけてしっかり引き継ぎを行い半月かけて家族揃って移ってきたのはつい先日である。


そうして、行われたパーティーで私は前世を思い出したのであるが、

今はっきりと言える事が1つだけある。


『この世界はゲームの世界じゃ無い!』


前世の私は、異世界ものの話は浅く読むくらいで、乙女ゲームなんかもどんなのかは知っているがやったことは無い。

だからか、いかにも異世界なこの国や貴族の名前、歴史を聞いても『あっ!あのゲームだ!』みたいにピンとこない。

でも、ゲーム等の世界では無いことだけはわかる。

なぜなら、この世界。


『とにかく色味がおかしい!』


人々の髪や目はビビッドカラー! ドレスなんかもパートナーや家の色味で作るから派手派手! 前世で言う所のバブリーダンスの衣装を着ている人が髪の毛も衣装と同じ色にしちゃってるみたいな。

白色だって、レフ板がわりになりそうな、反射で日焼けしそうなピカピカの白だし。


しかも、人だけでなく、建物や自然の色まで王都に近いほどはっきりしているし毒々しい色の葉っぱや果実が普通にある。落ち着かない新緑の色だ。


いくらイケメンが出てきてもこんな色味のゲームは無いはずである。

画面の前に15分もいれば目が疲れて続行不可だろう。本だとしても表紙をみただけで、手に取りたいと思わないだろう。


派手な色の中でも、母の出身国はブライトカラー?って言うのかな少し落ち着いているけれど、この国はとにかくビビッド!!

パレットに出した色そのまま塗りましたよー。

って感じだ。


そんなわけで、私はこの世界がゲームの世界ではなくただの異世界だと言い切ったのである。



そんな派手なこの国で、伯父や父が生まれ育ったファーマス伯爵家は、少々特別な扱いを受けている。

王都から離れ、自然あふれる辺鄙な土地を治めているのたが、とにかく昔から縁談に事欠かないらしい。

『ファーマス家と婚姻を結ぶと出世する』などという世迷い言がささやかれてもいるらしい。

爵位が釣り合わない高位貴族との縁談もあり、とにかく色々な家と繋がりをもって来た家である。


………。


今ならわかる、みんな心の奥でこの大自然を求めていたんだろう。


ファーマス家の領地は、この国には珍しく前世で見たような自然の色に溢れており、この色味の植物はなぜかこの領地でしか育たないらしい。

都会のチカチカした色の中で生活していると、この自然の色を求めたくなるのはきっと本能だろう。

そして、年に数ヶ月でもこの地に来て大自然の中で生活すると、身体も休まり、頭もスッキリして仕事もはかどるのでは無いだろうか?


直系だけでなく、兄弟や嫁いだ姉妹もこの領地に別荘を建て、休暇を楽しむらしい事から、婚姻によってパスカル家と縁を結びたい理由はこれだと思われる。血筋じゃないとこの地に別荘等を建てられないらしいので。


そんなこんなで、婚姻によって幅広く色々な貴族の血を取り入れて来たファーマス家の髪と瞳の色は、伯父も父も会ったことのない従兄弟たちも、

「黒」である。

『これ、色んな色混じりすぎて黒になったやつじゃないかな~?』

絵の具のパレットを思い浮かべながら考える。


なんにせよ、この国で黒はファーマス家の血筋の証、どんな派手な色にも負けない黒!! この色だけでもモテそうだわ。パートナーの色の黒い衣装は派手な髪色にスッキリ合わせられそうだもんね。


ただ私が、記憶を思い出す前から、父を見るとなぜか心が休まったのは、日本人だったから懐かしさを感じていた方が大きいんじゃないかな?とも思う。


そんな私を含め、兄と双子の弟たちの色は、パスカル家の血筋ながら『黒』ではない。

母のこれまた珍しいミルキーホワイトの髪色と父のすべての色味が合わさった黒(いいかえるとすべての色を持っている)い髪色が混ざりあった結果、色はそれぞれ違うが四人とも薄い薄いペールトーンをしている。兄は赤系、弟二人は緑系、私は青系である。

少しの原色にとにかく白を混ぜた色で、赤も緑も青もほんのりだ。


瞳の色も、母の血筋を見事にひいている。

母の家は今でこそ大きな店を構えて商売をしているが、遥か昔は諸国を巡り商売をしていたそうだ。その中で色々な国の人たちと結びつき血を取り入れてきた。中には今は亡き氷に閉ざされたクリスタルのような瞳をもつ国の人なんかもいたらしく、母の血筋の瞳は透明度が高い。

クリスタルの中でも兄はシトリン、次男はアメジスト、三男はグリーンファントム、私はローズクォーツに例えられている。


鏡に向かい自分の顔を見る。

『まさか、自分の姿に癒されるとは思わなかったな~』

なんて目に優しい私! いや前世基準で言えばこれでも「どこの海外セレブか芸能人?」的まぶしい見た目だが。


トントントン


「お嬢様、起きてらっしゃいますか?朝食のお時間です」


メイドの声に部屋を出て、ダイニングに向かう。


朝食の席についている父、母、兄、弟たち、そして窓から見える自然の景色。


『本当に私この家の子に生まれて良かった~』


優しい色味に包まれしみじみとそう思ったのだ。



ただ私は知らなかった、絶対にゲームの世界では無いと断言したこの世界が、実は乙女ゲーム「colorful~あなたの色に染めて~」の世界であり、このゲームの製作者の1人が、不眠不休残業続き、デスマーチ流れる深夜テンションに、「全部の色味へんこー!お望み通り染めてやるよ!何だこの色!こんな色だとイケメンもモテないだろ!」と叫んだあと過労で倒れ、連鎖するように他の製作者たちも過労が一気に出てきて製作が一時ストップしているゲームの世界である事を。


世界の色味が変わったのと、ただのモブ扱いだった一家がとんでもチートな色合いになってしまった為にこの世界の設定も歴史もストーリーも根底から大幅に変わってしまった事も……。


「colorful~あなたの色に染めて~」

は絵の才能で学園に編入してきた真っ白な髪色のヒロインが、攻略対象者と恋愛するゲーム。

「俺の色に染まれ」

「私の色に染まって下さい」

「新雪のようなお前を染めたい」

「穢れた俺の心をあなたの無垢な色で染めて欲しい」

など、何かあれば「染める染める」と台詞がうるさい。

ゲームはその後、ブラックだけどゲームの評判は良かった制作会社がホワイト会社に吸収され、紆余曲折を経て、18Rの乙女ゲームとして販売された。

こちらは、関係を持つと、物理的に髪色が相手の色に染まってしまうので、浮気なんかしたらすぐばれると言うハラハラドキドキ、複数同時攻略無理じゃない?でもスチルは見たいと言う難易度高めのゲームとなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ