6 最低な2人と純粋な彼女
どうすればいいと思う?
タモツにこんな風に頼られるのは久々だ。
気分がいい。
先ほど命の危機から脱したこともあり、最高に近い。
そんな気分が最高な俺はこの答えに対して最高の答えを出すことにした。
恐怖を刻み込まれた代償に・・・いやいや、友人のことを思って・・・。
俺はタモツのことを思ってやったんだ。
と、公的には言っておく。
・・・ふふふ・・・面白くなるといいな♪
まったく・・・伝える時に口元が緩むのを抑えるのには苦労した。
悪友から・・・いや、親友?から最高のアイデアをもらった。
名付けて、押してダメなら引いてみろの逆作戦。
要するに、引いてダメなら押してみろ作戦。
ならその表現でいいだろうと思うかもしれないが、
メガネがつけた作戦名だ。
大事にしたい。
まったく・・・残念なやつだ。
すこしばかり親友?を馬鹿にしつつ、
内心感謝していた。
女の姉弟がいるのは、知り合いではあいつくらいのもの。
そして、見るからに仲が悪い姉弟。
一緒にいるところをみれば、
よくくだらないことを言い争っている。
きっとお互いを憎しみ合っているのだろう。
何度か家に行ったことがあったが、
会えば必ずといっていいほど舌打ちをされた。
そう友人である俺に対しても家に行けば舌打ちをするほどなのだ。
それも時折、毒を吐かれる。
これは期待できる!!
流石にここまでにはなりたくはないが、
今回のこれをすればきっと・・・。
さあ、一世一代の演技をやってやろうじゃないか。
目を引く容姿の少女は下駄箱で溜め息を吐く。
「・・・はあ・・・。」
周りにいた男子がそんな様子に見惚れるほどに絵になる姿だが、
彼女はそんな様子には気が付かない。
彼女は悩んでいた。
後悔と言ってもいいかもしれない。
兄にはああ言ったが、少女は内心残念に思っていたのだ。
兄弟にはじめての一緒の下校ができないことを。
もう少し我が儘を言えばよかっただろうか?
今朝はすこしばかり用があったせいか、
早く行かねばならず、
その要件のために兄を起こすのは憚れた。
その結果、登校は一緒にできなかかった。
そのことに記念するべき兄妹の学園生活の第一歩を少しばかり踏み違えてしまった気がしていた。
兄は何かと気難しい人だ。
そんな人物と仲良くなるには何か理由らしい理由がいるだろう。
彼の方からも歩み寄ってくれそうな。
彼女の思いは一つだった。
兄とただただ仲良くなりたい。
少女はそう考えていたのだ。
まあ、ただただというのは少しばかり語弊がある。
お世話ができていることにすこしは満足しているが、
彼女にだって人間だ。願望はある。
・・・あわよくば・・・甘えられたら・・・なんて。
昔から片親で一人っ子ということもあって、
家ではほぼほぼ一人だった。
母が早めに仕事を切り上げてきてくれたことはあったが、
子供の願望というものは思いのほか強く、
その程度では満たされなかった。
だからか、
母がいないときにはよく夢想していた。
もし兄弟がいたら?
部屋に一人ぼっちということはない?
きっと一緒に遊んでくれたんじゃないか?
勉強を見てくれたんじゃないか?
寂しい時は慰めてくれたんじゃないか?
そんな事実があったからか、
兄弟姉妹というものへの憧れは普通の人間よりある。
今の兄妹の仲良し目標は・・・でへへへ・・・。
そんなことを考えていたからだろうか、
すこしばかり顔が熱くなっていくのを感じる。
内心だらしない笑みを浮かべていたのが、
顔に出そうだったのかもしれない。
下駄箱を閉め、靴を履く。
いけないいけない、今日は買い物をしていかないと・・・。
早足で校門へと向かう。
すると、噂をすれば影。
「部活が思いのほか早く終わってな。
・・・いっしょに帰らないか?」
兄の方から私に歩み寄ってきてくれた。