5 呼び出し
タモツは彼女が教室から出て行くや否や、
机に突っ伏す。
残りの休み時間はずっとそのままだった。
テストになったら顔を挙げて、
いつものような面倒そうな表情で受けていたから、
きっと寝て機嫌がよくなったのだろうと思ったが・・・。
・・・どうやら違ったようだ。
テストが終わってすぐのことだった。
「メガネ、ちょっと面貸せ。」
・・・兄さん、その眼は何人か殺っているやつの眼ですぜ・・・。
いつもならこんな冗談で茶化すところだが・・・(まあ、内心では茶化しているが・・・。)
俺がそれを(表に出すのは)控えるほどに、
・・・タモツの機嫌は最悪だった。
見たことないほどの怒気を秘めた瞳で見つめられた。
家に潜んだ怒気が隠し切れないような声で声を掛けられた。
・・・内心でもおふざけはやめよう。かまを掛けられたらヤバイ。
要するに蛇に睨まれた蛙状態だ。
・・・返事は当然、決まっていた。
「はいっ!!お供しますっ!!」
こう答えるほかなかった。
まったくテストが終わったら何をしようという幸せな未来設計もどこへと飛んで行ってしまった。
そして、俺は屋上に連れて行かれた。
着くや否や、
彼は話し始めた。
「はずは話を聞け・・・。」
どうやら俺の予想は正しかったようだ。
あのおじさん?再婚したのか。
ずっとあのままだと思ってた。
まあ、男と女いろいろあるってことか?
その結果、彼はかの有名な才女の兄という存在にクラスアップしたらしい。
・・・まあ、能力ゲージなんかに変動はなさそうだが。
クラスアップボーナスのおかげか、体重をいうステータスに変化はあったみたいだけど。
さらに言うならば、
さらにボーナスがあって介護をされるようになった・・・と・・・。
それもこの2ヵ月ずっと。
可愛い子にそんなことしてもらうなんて羨ましいぞ、このこのっ!!
中々に余裕が出てきた。
ここまでふざけた発想ができる程度には。
この怒気になれてきた俺は茶化すように振ってみる。
「なるほど・・・。
これでもう貴様には用がないと・・・
もしかしてだけど、これって突き落とされるやつ~?」
「・・・は?」
彼は呆けたように口を開く。
けれども、すぐさま言葉の内容を理解したらしく、
・・・少しばかり・・・いや、明らかに怒気が膨れ上がった気がした。
・・・ひえぇぇぇっ!!こ、これマジっ!マジのやつっ!!
う、後ろに何か見える・・・鬼・・・悪鬼羅刹?
俺は思わず後ずさる。
・・・下がりすぎてしまった。
後ろはもうフェンスっ!!
男は近寄ってくる。
「く、来るなっ!!」
けれども、男は止まらない。
少しずつ、一歩ずつ一歩ずつこちらに歩みを進める。
その歩みがやたらと長く感じる。
・・・もしかして走馬灯の前段階っ!?
いや、いや・・・「いやん・・・。」
思わず声に出してしまった。
恐る恐る恐怖の大王を見る。
すると呆れたような顔でこちらを見つめるタモツがいた。
大きく溜め息を吐いていた。
「・・・望むならな。」
ほれ、といわんばかりに肩を軽く押す。
ふざけるのはそこまでにしておけ・・・ってことかな?
「まあ、お前なんぞを突き落としても俺に得るものなんぞない。
得るとすれば、ただの犯罪者の汚名だけだ。」
・・・相変わらず口が悪いな。
まあでも、声のトーンはいつものそれに戻ったし、
朝の瘴気?も羅刹もいなくなったみたいだし、
俺・・・命がけのファインプレー?
メガネのおかげか、
すこしばかり追い詰められた気持ちが軽くなった。
・・・でもまあ、それでも少しばかり。
この2ヵ月の溜まりに溜まったものはそうそうなくならない。
元を絶たねば、
元の木阿弥だ。
こいつにアイデアをもらうのは癪だが、
何か奇想天外なことを思いつくかもしれんしな。
「なあ、メガネ、俺はどうすればいいと思う?」
そう親友(仮)に問いかけた。