読書はほぼ個人の時間といっていい
輝は、本を読んでいるのが好きだが、そういった時間は限りあるもので、ものすごく不満であることが多い。
これは、誰にでもあるかもしれないが、基本的に群れるのが嫌いな者に偏るであろう一人の時間が欲しいというやつだ。
もちろん、群れるのは悪くない。仲良くするとか、親交を深めるなど、とても大事なコミュニケーションのように聞こえるだろう。
しかし、輝からすれば、そんなものはアルバイトやらボランティア活動やらで近しいクルー、パートのおばさん、熟練の店長、層の広いボランティア隊員、そういう人たちのほうが、会話とかしゃべるのに気を使うこともあり、それが世間一般としての「群れる」ということではないかと反論するだろう。
話は戻るが、それくらい人を避けて読書に時間を使いたい輝は、誰にも相手にされないと思うと、ライトノベルを読みだすのであった。
しかし、そんな輝よがりな時間は、とある女子の一言で終わる。
「ねぇ、今日は何読んでるの?私もその、ライトノベル読んでるんだ~。」
そんなのは聞いてないし、知らなくてもいいと思いつつ、輝は、その声の主である橋琴杏奈に仕方なく、体ごと傾けて話を聞く姿勢だけを作った。さっきのコメントに対しての言葉はなさそうだ。
すると、また唐突に橋琴が、「そ、その、結構面白くて、ね?もっと他のも読みたくなっちゃったんだけど、良かったらお勧めの本とかあったら、ね?その、教えてくれたり、その、貸してくれたりなんてしないかな、なんてあはは...」と、優等生な美少女が文法を型破りしたような喋り方で話しかけている。
輝は、普通になんか声がどもってるなとしか思わず、それよりも何倍もうざい男子の視線をどうにかしたくてこういった。
「今俺が読んでいる本は連載小説だから、途中からという意味で貸したりはしない。代わりに知っている範囲で文庫本や小説の面白いものなら教えることはできるが?」
輝にしては、硬すぎずフレンドリー過ぎずを狙ったしゃべり方で、特に怒ったり、機嫌が悪いなどというわけではない。気分が悪いとしても、外野の男子が数ある視線の中でも、気になる視線とか、面白がっている視線やらで、めんどくさい方向に話が進むのが一番の懸念だったりするだけだ。
しかし、相手はクラスの美少女橋琴杏奈であり、大抵の男子であれば、教えるとか上から目線か、とか、敬語使えというダメ出し連発の聞き返しだったが、当の橋琴杏奈は、「教えてくれるの?やったー。あ、もう休み時間終わっちゃうね。それじゃあ、後でね。」と嬉しそうに自分の席に戻っていった。
そして、更に嫉妬の視線を浴びることとなった輝は、後でもなのか、とこういうときもマイペースに読みかけだった小説をチャイムが鳴るまで読み続けるのだった。