生徒会長の嗜み
輝は昼休みに生徒会室に行く。
書記としての役割があるわけでもないこの時間にた
だ、静かな空間を手に入れたいという一心で生徒会室
のドアを開ける。
しかし、願い叶わず生徒会室には先客がいた。
それは生徒会の星、畑中羽月生徒会長である。
しかも、腕を組んで踏ん反り返っているようで、
なにやら輝をまたはそれ以外の誰かを待っていたかの
ようにドアに体を向けて座っていた。
高校2年生でありながら生徒会長に座するその頭の良
さ、人気、そこには容姿のスペックも大いにある。
いわゆるボンキュッボンと言った、一般的に望ましい
とされている体のパーツを悉く揃えているのが彼女で
ある。
そんな彼女が近づいてきたのならば、普通の男子なら
ば呼吸が荒くなったり、舌足らずになりうまく喋れな
いのだが、輝は違う。
寧ろ、先客がいたという不幸を顔と口に出さないよう
に無表情で、「こんにちは。」といった。
すると、羽月は、「うむ、先輩に先んじて挨拶とは相
手や他の状況までも考えた行動だと私は認めよう。」
と言った。
輝は生徒会長の口調に一般の人よりどこか重み、苦手
意識があるので、先輩として立場を立てて挨拶を、そ
して足早に退散しようとしたのだが、背中からハグの
ような形で体を拘束され、生徒会室から出ようとした
足までも誰にも見られずに生徒会室に引き込まれた。
輝は「何ですか?」と短く、本質的な意図を聞き出そ
うとした。
すると、羽月は、「愛ゆえのハグ。」といってさっき
よりも力を入れる。
体が思ったよりも悲鳴をあげていないのは、羽月先輩
の体が女の子にして柔らかいものであったからだ。
輝は「苦しいです。固いです。」と本来と逆の感想を
交えて返した。
すると、羽月先輩は、「そんなことないでしょ!」と
自分の胸やおしりを触って試した後、
笑顔に戻って、「どうしてそんなこと言ったんだ
い?」と笑みを浮かべて近づいてくる。
輝は、「あなたはそういう人です。あなたみたいな肉
つきだけの小悪魔は、純粋な好意を持った天使のよう
な方に全て劣ります。」と肉つき以外を否定するとい
う範囲の広い拒絶に、羽月先輩は、「ふむ、肉つきに
は満足か?ならここでハッスルしても良かったのだ
ぞ?ほら、そのための携帯ゴムだ。」というと、生徒
会室の棚を開けて、その中から出てきた覆うような形
をした薄いゴムをこちらに投げてくる。
もちろん、これを先生に渡せば、鬼のような表情で持
主に処罰を与えようとするのだが、輝はそこまでの仕
打ちはしたくないので、それを拾って、「お返ししま
す。」と羽月先輩の手のひらにきちんとそれを乗せて
退散をした。
羽月先輩は、「今回も動じなかったな。君を惑わせる
のは至難の業だ。色仕掛けは以ての外か、ふふふ、次
はどんな搦め手がいいだろうか。」とそれはもう楽し
そうな笑みを浮かべて、輝が拾ってくれたゴムをゴミ
箱の中に入れ、鼻歌混じりに生徒会室をあとにした。