そんなとこから魔法を出すな!〜最高位の魔法は、最低に下品な場所から放出される〜
手に取っていただき、ありがとうございます。
タイトル通り、少し下品な内容です。
直接的な表現は避けているつもりですが、下品なネタが苦手な方はお戻りください。
下品大好き、という方!ギャグ、コメディ大好きという方!
あなたがこの作品を取ったのはある種の運命かもしれません。
少しの間、お付き合いいただければ嬉しいです。
アスガルド・トーヴ、通称アスは優れた魔法使いだった。しかし、世に出ることを嫌い、人里離れた自分のアトリエでただひたすらに自己研鑽を重ねていた。
その期間、およそ数十年。
常人なら1ヶ月で気がおかしくなりそうな訓練に次ぐ訓練を彼は耐え抜き、最高位の魔法を次々と習得していった。
そんな彼を理解する唯一人の存在、それが弟子のホール・ミュート、通称ホールだ。
彼女はまだ弟子入りして3年と浅いが、天性の才能をもち、彼を支え、また彼に負けじとも劣らぬ魔法を習得していた。
初老の男と、若く可憐な女性、一見すると親子のようでもあったが、規格違いの魔力をもち、結束されたパートナーであった。
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「ついにここまで来ましたねっ!師匠!」
あどけない様子でホールが話す。魔王の城の最後の扉の前だというのに、遠足にでも来たような言い振りだ。
両手を胸の前に握り、上目遣いで話す姿がなんともいじらしい。目の前の男は、恋愛対象と呼べる年齢から離れているので、純粋なる尊敬という感情しかないが。
「あぁ…長かった。大分魔力も消耗してしまったしな。」
その初老の男は若い娘の純粋な眼差しにたじろぎながら淡々と伝えた。
弟子にして3年、あまり遠出はしたことが無かったので弟子の初めて見る可愛い表情だった。
「思えば、ここに行き着くまで、色んなことがありましたね…」
ホールは長い睫毛を伏せて、今まで乗り越えてきた様々なことを思い出す。
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そう、あれは数日前、冒険者ギルドでの出来事であった。
ようやく魔王を討伐できるレベルにまで到達したことで、二人でパーティを組むために冒険者ギルドに申請にきた時の話だ。
「申請用紙とやらには記入しておいた。手続きを頼む。」
アスはギルドの受付嬢に手短に伝える。一匹狼で生きてきたアスは、誰かとパーティを組むなど長い人生でも初めての事だった。
「はい、かしこまりました。アス様と、ホール様でよろしいですね。」
「間違いない。」
「パーティ名はどういたしましょう。」
そういえば、パーティ名という物があるのだった。便宜上のものだが、王国でパーティとして活動するには、必要なものだった。
アスは少し考えたが、咄嗟に浮かぶものも無かったので二人の名前を組み合わせて、申請用紙に書き綴った。
「アス・ホールで頼む。」
「か、かしこまりました…」
受付嬢の顔が引きつる。アスは気付いていなかったが、異国の言葉でアス(尻)とホール(穴)を組み合わせると、アレである。
最も、アレそのものの意味で使われることよりも、相手をクソ野郎などと罵倒したりする時のスラングだが。
「師匠、ダメですよ!パーティ名というのはもっと強そうな名前じゃないと。」
「…そうなのか?」
アスは世俗の事は分からない。そういったことは全てホールに任せてきたからだ。ホールはもっと強そうで、威厳のありそうな名前を付けた方がパーティの株が上がると、こう続ける。
「たとえば…そうですね。偉大なるアス・ホールとか………無限なるアス・ホールとか……」
そのパーティ名を聞くたびに、ギルドの受付嬢は笑いが込み上げてきた。
受付嬢という仕事について7年、今まで真面目に職務に取り組んできた。
様々な冒険者を見てきた。そして、受付嬢としてギルドの質を落とさぬよう、いたって真面目に勤めてきた。
目の前の二人もいたって真面目である。真面目な顔をして、グランドやインフィニティなどと恥ずかしい単語に、肛門を結びつけている。
「灼熱のアス・ホールはどうですか?」
「ブッッ………!!!」
受付嬢は遂に吹き出した。我慢の限界だ。もうやめてくれ。
アスはそんな思いはつゆ知らず、きっとその名がありふれた名前で格好が悪いのでそういう反応なのだろうと読み取った。
「ホール、私たちはそんな大層な名前は必要ない。ただのアス・ホールでいいだろう」
ただのアス・ホール。普通のアス・ホール。
ギルドの受付嬢は頭の中でそう変換し、悶えた。
笑いを噛み殺して、申請書に判子を押して続けた。
「か、かしこまりました。これで受理しておきますので、これからはパーティとして活動が許可されます。」
やっと終わった…。受付嬢は何とか耐え切った。
途中少し吹き出してしまったが、爆笑して仕事にならないことだけは避けられた。
「やった!これで師匠と私達は生死を共にしたパーティですね!」
「そうだな、これからはアス・ホールとして活動するぞ」
初老の男は、今後は肛門として活動するらしい。
受付嬢の腹筋は、ついに崩壊した。
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ホールはまるで気に留めなかったようだが、アスはしばらくしてから自分の過ちに気が付いた。
そういえば、アス・ホールってあれじゃないか。それに気付いた瞬間急激に恥ずかしくなり、年甲斐もなく顔を赤らめた。早くこのパーティを解散したい。いや、解散しなくても良いから名前だけでも変えてほしい。
魔王を討伐した英雄が、アス・ホールでは格好が付かなさすぎる。
アスは想像した。魔王を倒し、凱旋した王国に巻き起こる「アス・ホール!!アス・ホール!」のコール。どうして魔王を討伐したのに、クソ野郎!と罵られなければならないのか。
アスの想像は膨らむ。「我らが英雄アス・ホールに、この玉座を明け渡そう!」国王が英雄に対し、その地位を譲る。しかし、その玉座とはアス・ホールに相応しい便座だ。便座に座るアス・ホール。やる事は一つだ。
ふざけたパーティ名だ。というか狂ってる。世間体を気にしないアスであったが、さすがに、である。
それからというものの、早く王国に帰ってパーティをやり直したいという思いから、魔物に対する攻撃が激化した。
ホールはそんなことには気付かず、師匠の魔力の高さに何度も驚愕していた。
その度に、パーティを組んだおかげだと、繰り返した。そして自分たちのことを、最強のアス・ホールだなどと囃し立てた。それを聞く度にアスの頭には街で絶対に言わないでくれと願うばかりであった。
ホールに本当のことを伝えても良かったが、何しろアス・ホールと言い出したのは自分なので、知らないフリをしていた方が無難だった。
尊敬する師匠が自分たちのパーティ名に狂ったパワーワードをブチ込むなんて、生涯の失態だ。
よし、知らなかったことにしよう、アスはそう思った。
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「時は来た。ホール、覚悟はいいな?」
アスが魔王へと続く扉に手を掛ける。
「もちろんです!魔王とやらをやっつけて、王国に平和を!」
ホールは真っ直ぐにアスを見つめた。自分たちが負けるはずがないという、絶対の自信があった。
大きな音を立てた、ドアが開かれた。
魔王の城に入ってきてからと言うもの、常人ならば気を失いそうな瘴気が立ち込めていたが、魔王の棲むフロアはその何倍もの瘴気が立ち込めていた。
自然と、二人の顔が険しくなる。
「フフフ、よくぞ来た小さき者よ!!!ちょうど退屈していたところだ!」
城内に魔王のお約束の台詞が木霊する。
アスは勇しく、魔王を睨みつけた。
「魔王よ!人々を苦しめた天罰を、その胸に刻むが良い!」
「この、アス・ホールがお前に引導を渡してやるのですっ!」
魔王は一瞬眉を持ち上げ、斜め上を見た。アス・ホールって言ったか?いいや、聞き間違いだろう。魔王は小賢しい人間に向かって右手をかざし、叫んだ。
「かかってこい!!!小さき者よ!!!」
魔王は、相手の力を推し量るように、闇属性の呪文を唱えた。
魔王の右手から暗黒の炎が迸り、螺旋状に二人に襲いかかる。
「聖なる防壁!!」
ホールが聖属性の魔術を唱える。光り輝いたドームが二人を覆い、暗黒の炎を弾く。しかし、螺旋状の炎は消える事なく対象を探してドームの周りを取り囲んでいる。
「どうした小さき者よ、守るだけではこの私は倒せぬぞ?」
魔王が二人を挑発する。強者の余裕。まだ遊んでいるだけだぞ?といわんばかりに腕を組んで笑みをこぼしている。
ホールの加護に守られながら、アスは魔術を唱える体制に入った。
永い訓練の末、自ら編み出した最高位の魔法。魔王城のモンスター達もこの魔法でほとんど一撃で葬り去った。
両手で卵形の輪を作り、印を結ぶ。
背中を少しかがめ、膝を軽く曲げ、そして────
その手を股間の前にかざした。
「ショーン・ベン!!!!!」
途端、光の渦がアスの股間から放たれ、その渦は奇しくも魔王の放った技と同じような螺旋を描き、暗黒の炎を飲み込みながら勢い衰えずに魔王の元へ向かう。
「グオオオオオォォォォ…………!!!」
アスの最高位の魔法をまともに受けて、魔王が膝から崩れ落ちる。
「やったか?!」
「す、すごいです師匠っ!今までで最高の魔力です!」
ホールが目を輝かせてアスの顔を覗き込む。魔王の様子よりも、師匠の技を褒め称えるとは、何ともよく出来た弟子だ。
「まだだホール!気を抜くんじゃない!!」
さっきまで魔王が居た場所に、ビリビリと稲光と黒煙が立ち込める。
黒煙が晴れた時、魔王の姿はそこにはなかった。
────先ほどまでの魔王の姿は、だが。
凶暴。凶悪。殺意。
それを具現化したような、変わり果てた魔王の姿がそこに現れた。
先ほどまでの吸血鬼風の魔王ではなく、毒々しい濃紫色の四肢、剥き出しの筋肉と血管、そして獰猛な4本の角と怒りを表現したかのような鋭利な牙。
悪魔、そのものだった。
そしてその魔力は魔王と呼ぶにふさわしいもので、何倍もの重力を帯びているのか、目視でも魔王の周りの地形が歪んでいるのがはっきりと分かる。
「キサマァァァァア!!!コロス!!コロスゥ!!!」
怒りに打ち震え、強烈な殺意を二人を襲う。
先ほどまでの余裕はなく、ただ目の前の敵にのみ、全力の暴力が注がれた。
アスは先ほどの魔術で魔力をほぼ使い果たしていた。絶対絶命である。
そんなアスを察したのか、ホールが咄嗟に完全回復の加護をかける。
「やめろ!その術を使えば、お前の魔力が…!」
「私のことはいいんですっ!あの魔王を倒せるのは師匠しかいません!」
ホールはアスの手を振り解き、先ほどのアスと同じように卵形の印を結ぶ。
「聖女の聖水…………!」
先ほどのアスのアレと、聖水という言葉でよからぬ事を想像してしまう気持ちも分かるが、それは少し期待を裏切った。
ホールは膝をピンと伸ばし背中を理想のお辞儀の形のように曲がる、その卵形の印を口元に持っていき、その口からは────キラキラとした液体が溢れ出た。
いや、想像した聖水よりも、需要がある人には需要があるのかも知れない。
そのゲr……聖水はアスの身に降りかかり、アスは胸の奥深くから魔力が湧き出でるのを感じた。
完全回復というが、最大値を大幅に増加させるような回復量だった。さすがは良く出来た弟子。
アスは襲いかかる猛攻に対し、ショーン・ベンで対抗する。
両者の実力は拮抗していた。魔術を魔術で押し返し、魔王本体の獰猛なる攻撃に対しては、身体強化の魔術によって得た人智を超えた体術で捌く。
永遠とも思える戦闘が、そこにあった。
好敵手というのは、こういうことを言うのだろう。
一種のスポーツにも似た、ラリーが繰り広げられた。そのラリーが続く度に観客が沸く。両者の戦いはまさにそれを再現したようだった。
しかし、魔王は狡猾だった。
実力の拮抗しているアスに対し、高魔力の魔術で足止めし、先ほどの回復魔法でその魔力のほとんどを失ったホールに狙いを定めた。
目にも止まらぬ疾さで宙を舞う魔王がホールの首を狙う。
「危ないッ!避けろホール!!!」
身体強化ではこの距離は届かない。
そして魔法を放とうにも、両の手は魔王の災害級の魔術を捌くので手一杯だ。
唯一の理解者、そして最愛の弟子は魔術のほとんどを先程の回復魔法で失い、なす術もなく天を見上げている。
しかし、アスにはまだ奥の手が残っていた。
普通の術者は魔術を使用する際、手を使う。また、杖やロッドといった魔術を増幅させる装備もある。
アスは悠久とも言える修行の最中、あることに気がついた。
魔術というのは、体の中から出づる物。
それが手や指先ではなく、初めから穴が空いているところだと、どうだ?
手や指、そして杖の類よりも直接的、かつ高威力で発することができた。
もっとも、それを制御するには多数の年月を要したが。
アスは猛攻を耐えながら魔王に対して背を向け、腰をかがめ尻を突き出した姿勢で唱えた。
「オール・ド・ファートォォォォ!!!!!」
アスの尻からレーザーのような、魔法が放たれた。
それは一直線に魔王の右腕を貫き、吹き飛ばした。
機械音のような、BOOOOOOOOOO!!!という音が何とも情けないが、威力は絶大な物だった。
「オオオオウウウウワァァァァァァ!!ウデガァァァァァ!!!!!」
魔王は急降下し、頭から地面に墜落した。
すぐさまに片腕を曲げ、起き上がろうとするが、片腕を無くしたことで、上手く起き上がれない。
アスもまた、最高位の魔術を使用して、息も絶え絶えである。とうとう、足に来たのか膝から崩れ落ちた。
しかし、そうではない。アスはそれよりも先ほどの魔術で破れてしまった下着の方に注意がいっていた。
(魔力耐性Sランクのものを特注したというのに…なんということだ…。)
この時ばかりは自分の魔力の強大さを恨んだ。
こんな激戦の最中というのに、初老の男は尻がスースーすることで集中ができずにいる。
こんな姿を魔王や愛弟子に見られまいと、しゃがんだままでいる。
アスが呼吸と尻のポジションを整えながら、魔王の動向を観察していると、魔王は大きな声を上げて唸った。
この世の終わりとも思える慟哭。
その瞬間、あろうことか瞬時に魔王の片腕が生え、元の四肢に戻る。
魔王は超再生というスキルを持っていた。コアを消滅させない限りは、何度でも再生し、猛攻が続く。
消耗戦は完全に魔王に分があった。
さすがに魔王という名は伊達ではなく、アスにはこのまま戦いを続けていては勝算は無いと悟っていた。
いくらダメージを与えても、超再生を繰り返されてはなす術がない。
そこで、天を見上げていたホールの目が光る。
アスと同じく、ホールにも奥の手があった。
そもそも、魔王を討伐できるレベルに達したとアスが感じたのも、ホールがこの能力に目覚めたからであった。
態勢を立て直した魔王が再度、ホールに目掛けて飛び込む。
あのジジイは、もう既に魔術を使い果たしている。魔王はしゃがみこんでいるアスを見てそう確信し、あの女にまたあのような回復術を使われては厄介だ、と考えた。
超再生で回復した右腕がホールを直撃した。
先程まで失われたとは思えない、重い一撃。
紙切れのように吹き飛ぶホール。破れる服、露わとなるたわわに実った乳房。
その乳房を揺らしながらホールは抵抗なく、スローモーションに宙を待っていた。
「────反逆のエンチャント、起動」
突如、ホールの右目が魔王の魔眼と同じように、赤く光る。
くるりと宙返りをして、ホールは指先をついて大理石の廊下に着地をした。
ホールの奥義が発動し、その戦闘力は数万倍に跳ね上がった。
反逆のエンチャント、それは自身の魔力を打ち捨てることを代償に、受けた攻撃の何倍もを自身の身体強化に付与するというスキルである。
それを発動するには、魔力を増幅させる装備を脱ぎ捨て、裸同然の局所だけを隠した下着姿になる必要があるのだが、魔王の一撃で自分から脱ぐ手間は省けた。
「よくもやってくれたなぁ?この馬面ァァ!!」
先ほどまでの聖女ぶりはどこへやら、紐のような黒い下着姿のホールが魔王を一喝する。体は細いが、尻や乳は、平均年齢のそれよりは大きく形も良く育っている。
スキルの影響で戦闘力が増し、性格もより好戦的に変化した。
その右手に隠しておいた鞭を従え、一気に魔王の至近距離まで詰め寄る。
「オラオラオラオラァァァアア!!!」
縦横無尽に鞭を振り、魔王に着実とダメージを与えていく。
そこからの戦いは一方的であった。
反逆のエンチャントは、受けたダメージが多ければ多い程、強化される。
それが、魔王の本気の一撃ともあれば、最上級の身体強化がエンチャントされた。
「キャハハハハハハハ!!!!!楽しいねぇぇぇええ!」
「ギャアアアッーー!!!」
ホールの目は狂気に満ちており、完全に魔王を手玉に取っている。
わざと超再生の時間を待ち、再生したての四肢をすぐに、潰す。そしてあえて攻撃に緩急を付けて、魔王を飽きさせないようにしている。
とんでもない女だ、とアスはぞっとした。あの可愛らしい笑顔の裏にこんな攻撃的な一面があったとは。
ある種、魔王よりも恐ろしいかもしれない。
魔王に徹底的に恐怖心を植え付けた後、ホールの背中と首がぐにゃりと裏向き、ニヒヒという笑顔と共に妖艶な目がアスに向けられる。
頭越しに豊満な乳房が揺れるのが見えた。
「師匠、そろそろやっちゃいますかー?」
アスはその問い掛けに深く頷き、瞑想して詠唱を始めた。
「ケノナアシコマコラテルンダ…
…ツア二ルリダソカデクゲキマ…」
地の果てから出るような、深みのある声。唱える度にアスの魔力が増大していく。
「ナ、ナニヲスルキダ!?!?」
「…っせーな!黙ってろ馬面ァ!」
「絶死の呪縛!!!」
ホールの鞭により、魔王の手や足、口に至るまで、全ての部位が封じられた。
魔王は手足を亀甲型に背中で縛られ、仰向けになり身動き一つ取れずにいる。
詠唱が終わり、絶対なる魔力をその身に付け、アスの体が磨き立ての宝石のように燦然と輝いている。
ゆっくりと足を踏みしめ、一歩一歩、瞑想を続けながら、アスは魔王に向かう。
「コアを消滅させる!」
アスは瞑想を解き、目を見開いた。渾身のドヤ顔。先程破れた下着から尻は丸見えだが。
魔王のコア、それは例外なく顔面である。
より確実にコアにダメージを与えるには、至近距離で魔法を打ち込む必要があった。
普通の魔法使いなら、銃口を頭につきつけるように、その手を魔王の顔面にかざしたであろう。
しかし、アスのそれはもちろん違った。先ほどの魔法通り、穴の空いた場所。先ほどの魔法で露わになった尻である。
排泄をするように魔王に跨り、顔面に至近距離で尻を近付ける。
耐えがたい匂いと、初老の男に押しつけられる尻の感触、魔王にとっては受けたこともない最低の屈辱であった。
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魔王の使い魔は戦慄していた。
「すぐに済むからお前はそこで待っていろ。」
魔王はそう言い放ち、侵入者との戦闘に入った。
部屋から漏れる戦闘の音から、その激しさが分かる。
今回の侵入者は、きっと今までの中でもきっと強者の部類に入るだろう。
主が待てと言ったので、使い魔はその言葉を信じ、待ち続けた。
しかし、聴こえてくる主の悲痛な声。
その言葉を何度も聞くうちに、使い魔はいても立っても居られなくなり、その扉を開けた。
「わ、わが主…まさか………こんな………」
使い魔が玉座の間に入った時には、半裸同然の若い女が主に対し、鞭を奮っていた。
気の強い女に罵倒され、鞭を奮われ、一時の甘い飴を与える、一部の人間には、こういう嗜好があるという。精神の弱い、人間ならではの下卑た趣味だ。生来の魔物である使い魔はそう思っていた。
使い魔が見た光景は、思い描いているまさにそれだった。鞭で痛みつけられ、手足を縛られる。
もっとも、その対象は魔物の頂点たる魔王、使い魔にとっての主であったので、使い魔は目を疑った。
魔王の圧倒的な瘴気を前に正気でいられる人間は少なかった。何かしらの装備でそれに対応してくる挑戦者もいたが、目の前の女は黒い下着しか身につけていない。
それは完全に魔王を舐めきった挑戦であった。
尻を出してそれを傍観している老人にも目が行った。
半裸の女と尻丸出しでそれを眺めている老人、そして圧倒的な力で痛みつけられる魔王。
使い魔は頭がパンクしそうであった。一体何があったのか────
想像にもつかない事態がそこにあった。
使い魔が呆気に取られている中、更に信じられない事が起こった。
尻を出した老人が何やら念仏を唱え出すと、身体が煌めき始めた。その顔は尻を出したふざけた服装とは違い、真剣な面持ちである。
そして、その尻を、あろうことか、我が主になすりつけているではないか。
狂気に満ちた、その行為。使い魔の理解力はとうにその範疇を超えていた。
アスは真剣であったが、その行為から使い魔の頭はおかしくなっていたのか、アスが狂気じみた顔で笑っているように思えた。
アヘ顔で魔王の尊顔に対し、尻をなすり付ける老人。その傍らには魔王に絡まった手足の鞭を締め付け、身動きが取れないようにする半裸の女。
命乞いすらさせて貰えない、哀れな姿の主。
狂ってる。人間というのは、魔物よりよっぽど魔物らしい。
使い魔は気を失いそうになりながら、そう思った。
尻を出した老人は更に、何度も尻を上下させた。
使い魔にとっては信じられない光景であったが、一方でアスには理由があった。
下着が破れたことで集中出来ない。最大級の集中で、最高位の魔法を放たなければ、魔王のコアは消滅できない。そして、自身の魔力の残量からすると、そのチャンスは一度きり。
アスはここぞというタイミングを探っていた。何度か、オール・ド・ファート、いや、ただの屁が出てしまったが、それには構っていられなかった。
楽しんでいる。この魔物を超越した狂った人間は、魔物の頂点たる魔王を前に、余裕をかまして凌辱したあげく、その存在を消そうとしている。
その刹那、どういったタイミングか使い魔には分からなかったが、老人は大きな声で叫んだ。
「ビッグ・ベン・エクスプロージョン!!!!!!」
天をも轟かすような爆音、そして地震にも似た地響きと共に、魔王のコアは消し飛ばされた。そして、その魔法は魔王城自体にもダメージを与えた。
崩れ落ちる魔王城。それは魔法の威力の凄まじさを物語っていた。
──尻から、あんな別次元の魔法が──
この程度の魔王は尻で十分ってことなのか。
この人間の形をした悪魔は魔法を普通に使用すれば世界を破滅させるんじゃないか。
使い魔は主が倒されたことに涙を堪え、同盟する他の魔王の元にその小さな羽を飛ばして、息も絶え絶え助けを求めに行った。
我が主の死は無駄にはしない。せめて、より強い魔王が現れて、あのふざけた敵に仇を打ってほしい。
そして、その一部始終を伝えた。
狂ったクソ野郎、使い魔はその特徴を皮肉とそのままの意味をごちゃ混ぜにして伝えた。
魔王を手玉に取る変態の半裸女と、尻から魔法を出す狂った魔法使いのジジイ。恐らく、魔王を超えた大魔王のような存在だ、とその噂は魔物達の間で瞬く間に伝わった。
それが魔物達の間だけの噂であれば、まだ良かったのだが。
王国と敵なす魔王が突如、その居城ごと討伐されたことから、王国内にもその噂はすぐに届いていた。
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「おい、魔王が討伐されたって本当か?!」
「あぁ、何でも大魔王が勢力争いで魔王を叩き潰したらしい。」
「何だって?!それじゃ、より強い危機が王国に迫ってるってことじゃないか!!」
「俺も聞いたぞ、そいつは尻から超強力な魔法を出すと。」
「「「尻から?!?!」」」
王国には、少し誇張されて噂が伝わっていた。
しかし、その事実を帰宅途上のアス・ホールは知らない。
いや、知らない方が幸せだったのかもしれない。
ギルドの受付嬢はそんな冒険者達の噂を聞いていた。
狂ったクソ野郎。
大魔王にしては、何とも下品な呼称だ。
だが、その、アスホールという名前に聞き覚えがあった。
数日前、この仕事をしていて初めて仕事中に爆笑してしまい、上司から大目玉を貰った曰く付きの名前だ。
「まさか…ね…?」
受付嬢は自分の考えを否定する。
王国への凱旋と、討伐報告に向かっているアスとホールには知る由も無い事だった。
おしまい。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
短編というものを初めて書くのですが、内容が内容だけに書いているのも楽しめました。
今後の参考にしたいと考えておりますので、感想や評価をいただければ幸いです!
下品な内容で、すみません!