09.【 新婚女性の言い分② 】
< ブリジッドの言い分 >
「アンドリュー様は、私のこともう嫌いなのではないでしょうか?」
ブリジッドは、泣きそうな顔をした。
「彼も同じことを聞いてましたよ。嫌いにはなっていないと思います」
「あんなことしたのにですか?」
「あんなこと?」
「その、お気持を試したことです」
パンツですね。
「彼は、拒絶されたことにショックを受けているようでした」
「……そう、ですよね」
「ですが、ブリジッドさんが恋愛関係をお望みだと言いますと、嬉しそうにされていました」
ブリジッドは目を見開いた。
光明を見出したように、ほっとした表情になる。
「私たち、もう一度やり直せるでしょうか?」
いや、たぶんまだ始まってもないと思います。
< ユーニスの言い分 >
ユーニスは腕を組んで窓辺に佇んでいた。
思案に暮れるその輪郭はとても美しい。
「ユーニスさん、レスターさんは、誓約書の存在を知らなかったようです」
私がそう言うと、ユーニスは腕組みをやめ、目をパチクリさせた。
「でもお義父さまからいただいた書類には、彼のサインがちゃんとありました」
「本当にレスターさんのサインか調べたほうがいいですね。後で宣誓書を出しておきますので、誓約書をお持ちください」
「ありがとうございます」
腑に落ちない顔で、ユーニスは礼を言う。
「ところで、ユーニスさんはレスターさんのことをどう思っているんですか?」
「え? え? あの」
急に赤くなるのは何故でしょう?
「先ほどのお話ですと、何年かの契約結婚のようですが」
「はい。最低三年の約束です。レスター様には昔から好きな方がいらっしゃり、今回の結婚は後継ぎを得るため仕方のない結婚なんだそうです」
「よくそんな話を了承しましたね」
「私の結婚がなかなか決まらなくて、唯一来たこの縁談に両親が勝手に返事をしてしまったんです。でも、お義父様も良い方で、何か希望があればかなえてくださると言ったので、結婚している間は、公私ともに愛し合う夫婦を演じてもらいたいと」
そうなんですね~、それなのに、息子にあんなことを言わせたんですね。
ひどいお義父さんですね~
「婚約期間中のレスター様は驚くくらい素敵な婚約者でした。まるで恋愛小説に出てくる王子様のようで。さすが社交界の華に愛をささげる人だなと思いました。だからきっと結婚しても幸せな気分を味わえると思ったのに……」
愛は奉げてますが、何も受け取ってないんですよ?
その意味、分かります?
私は心の声をグッとこらえて、神妙な顔をした。
< ニコラの言い分 >
「オーフェンはどうしてます?」
「貴方に会いたいと言っていました」
「そうですか」
「貴方を幸せにしたいと言っていました」
「そう、ですか」
唇をとがらせて、ニコラは大きく息をはいた。
「オーフェンもいつか大人になるんでしょうか?」
「そうですね」
でも、貴方もまだ十分子供なんですよ。
「今、別れないと、いつかあたし、捨てられるんでしょうか?」
「それは、これからのお二人次第だと思います」
「ですよね~」
ニコラはもう一度大きく息をはいた。
申し訳ありませんが、今別れるのは当教会の評価が下がるので、できればせめて一年頑張ってください。
私の心の願いが聞こえたのか、ニコラは決意に満ちた表情になる。
「あたし、がんばってもいいでしょうか?」
どう頑張るのか分かりませんが、頑張るのはいいことです。
「頑張っていいんじゃないでしょうか」
「はい! あたし頑張ります」
ニコラは元気よく笑った。
夕方もう3話更新します。(12/1)