08.【 新婚男性の言い分② 】
< アンドリューの言い分 >
部屋へ入ると、アンドリューはまだ膝に頭をつけていた。
きっと、真面目なんだろう。
私はアンドリューを見てそう思った。
「大丈夫ですか? 落ち着かれましたか?」
「ハイ」
頭もあげずに、アンドリューは言った。
「あの、ブリジッドはなんて言っていましたでしょうか? 俺と別れると?」
「いいえ。……ただ、彼女のご両親は恋愛結婚なんだそうです。知っていましたか?」
「……ハイ、噂で聞いていました」
「彼女はとても恋愛結婚に憧れているみたいなんです」
「それは、恋愛をしたいと言うことですか?」
「そうかもしれません。彼女は、貴方と恋愛関係になりたいそうなんです」
ガバッ、という音が聞こえるくらいの速さで、アンドリューが顔を上げた。
「それは、俺を嫌いじゃない、ということでしょうか?」
いや、そこまではちょっと私の口からは言えませんが。
< レスターの言い分 >
「ユーニスは、今どうしていますか?」
おや、意外と普通の質問ですね。
「……パンツについて、何か言っていましたか?」
貴方はそんなにあのパンツが気にいったんですか?
他に聞くことがあるでしょうに。
「そう言えば、誓約書とかおっしゃっていましたが、ご存じですか?」
「誓約書? あぁ、結婚式の時にサインした?」
「あーそれは宣誓書です」
「……」
レスターは考え込む仕草になった。
わが教会は、お二人から結婚の報告を受け、必要であれば結婚証明書を出します。
お二人が宣言するだけで、そこに何の契約もないのです。
あーあの二人がうんぬんってのは、あれは、ここだけの話サービスです。
「……貴方は彼女のことをどう思っているんですか?」
「それは、その、なかなか面白い人だなと」
「彼女は自分が、その、不器量だと思っているようなんです」
「そんなことはない! ユーニスは、美しい。あの個性的な化粧が残念なだけで……」
勢いよく言ったレスターは、だんだん小さな声になる。
何故か、その顔も耳も真っ赤だ。
「『私は貴方を愛することはない。私が結婚したのは後継ぎがほしいからだ』とおっしゃったようですが、その真意は?」
ユーニスがしたレスターの真似が少し入ってしまったが、それは御愛嬌だ。
運よくレスターはそれには気がつかなかったようだし。
「私にはずっと思う人がいるのです。それを知る父が、結婚は一日目が肝心だと、そう教えてくれました。あの言葉は、父が母に言った言葉なんだそうです」
「お母様に、その言葉を聞いてどう思ったか、聞かれましたか?」
「父と母は、あまり仲が良くないのです。父に似ている私のこともあまり好きじゃないらしく……」
まあ、そりゃそうでしょう。
< オーフェンの言い分 >
オーフェンはようやく泣きやんだようだ。
真っ赤な大きな瞳で、私を迎え入れてくれた。
はー、マジ癒し。
「僕、ニコラに会いたい」
「すぐに会えますよ」
「僕、ニコラが好きなんだ」
「そうでしょうとも」
「ニコラは本当にかわいくて、たくさんの人に愛されていて、優しいんだ。僕はいつも彼女を見てた。そして、ずーっと願っていたんだ。僕を選んでって」
オーフェンはそう鼻をすすった。
まずい、また泣いてしまう!
「ニコラさんはオーフェンさんを選んでくれたんでしょう?」
「うん! ニコラは僕を選んでくれた! ニコラが僕を選んでくれたから、僕はニコラを幸せにするんだ」
ニコニコ、ニコニコ、嬉しそうにオーフェンはそう言った。
ちょっとそれは違うような?
でも、まあ、いいか。かわいいし。
もう一話更新します。(12/1)