07.【 新婚女性の言い分① 】
< ブリジッドの言い分 >
「私の父と母は恋愛結婚なんです」
ブリジッドは静かにそう言った。
「私は政略結婚なんです。アンドリュー様はとてもいい人で、私をとても大事にしてくれています。私は彼を愛してはいませんが、好きではあるんです」
「好きなら、何故? 彼をそのまま受け入れても良かったのでは?」
ブリジッドはうーんと首を傾げた。
「私、アンドリュー様ともっとお話ししたり、デートをしたりしたかったんです。だから私アンドリュー様を試したんです。私をいつか“愛”してくれるつもりがあるのかを」
「愛は育ちますよ」
「そうですね。そう言いますけど、私とアンドリュー様はただの“好き”なんです。恋でも愛でもない、好き、なんです。今そう言う関係になったら、私たちはただの家族になってしまうような気がしたんです」
夫婦はもう家族ですよ?
「私、アンドリュー様と恋愛関係になりたかったんです」
はぁ、そうですか。
< ユーニスの言い分 >
「政略結婚なんです。そんなこと分かっているんです。なのにあの男わざわざ
『私は貴方を愛することはない。私が結婚したのは後継ぎがほしいからだ』
って言いやがったんです」
レスターのまねらしき仕草を合間にいれて、ユーニスはそう言った。
思わず似てる!と、噴き出しそうになったが、我慢した。
「あの男の頭はなんなんですか? 中身入っているんですか? 恋愛脳の女子ですか? 誓約書も読めない馬鹿なんですか?」
「そのことにはお答えしかねます」
「……そうですよね。すみません。興奮しました」
ユーニスは大きく深呼吸する。
「私、こんな容姿でしょう? 子供のころから、いずれ修道院のお世話になるんだろうなと思っていたんです」
「そんなことはありませんよ。貴方は充分美しいです」
容姿で修道院、それは困ります。修道院も財政難なんです。
「嘘もお世辞も結構です」
「嘘でもお世辞でもありませんよ」
「……ありがとうございます」
ユーニスは私を見て、目をパチクリとさせた。
私は、にっこりと笑って先を促す。
「それで?」
「それで、あの……どんなこと言われても、結婚してもらえただけ良かったっていうのは分かっているんです。でもたった数年夢を見たかった。たとえそれが嘘でも、愛された記憶がほしかったんです」
細められた瞳から一筋の涙がこぼれた。
< ニコラの言い分 >
「あたし、どうしたらいいんでしょう?」
気が抜けたようにニコラはそう言った。
あんなに泣いていたはずなのに、化粧も落ちていない。
「彼、オーフェンがあたしのことを愛していないことは分かっていたんです。彼のあれは愛でも、恋でもないんです」
「それが分かっていて、どうして結婚したんですか?」
「それは、彼があたしみたいだったから」
ニコラは言って息を吐く。
「あたし、好きな人がいたんです。お隣のお兄さん。絶対いつかお嫁さんになるんだってそう思ってたんです。でも、彼には素敵な婚約者がいて、あたしなんか入る隙もなくて。でもある日オーフェンの視線に気がついたんです。で、あぁ、あの目、どこかで見たなって」
「どこで見たんです?」
ニコラはフフフと笑う。
「あたしです。自分の目」
「?」
「あたしが、お兄さんを見るときの目なんです。それに気が付いたら、急に分かったんです。私お兄さんのこと好きじゃなかったって。自分以外の女の人に取られるのが嫌だったんだ、って。そしたらオーフェンのことがすごく気になるようになったんです。オーフェンのことを知りたいって」
表情が暗くなる。
「でも、知れば知るほど、その」
「少年のよう」
「そうなんです、なんか弟みたいで。あぁ、この人を私のような気持ちにさせたくないなぁって思っちゃったんですよね」
「だから?」
「だから、一生懸命告白されて、その可愛さに思わずハイって言っちゃったんです」
分かります。彼は、癒し系なんですよね。
彼が言うと、逆らえない気がします。
もう一話更新します。(12/1)