04.【 教会の憂鬱 】
結婚は人生の一大イベントである。
それをとり行う教会にとっても、いろいろな意味で大切なイベントである。
今までは、結婚の儀式を終えれば、その後誓った二人が別れようとも教会には何の責任もなかった。
くっつくのも別れるのも、個人の自由だ。
教会には何の責任もない。
しかして、昨今新婚一日目で教会へやってくる夫婦は後を絶たない。
まあそれも、教会の仕組みが変わったせいである。
今から約2年前、今までは男性のみが選ばれていた教皇の位に、初めて女性が選ばれた。
聖女に、ではない、教皇に、だ。
たぐいまれなる美貌と他を圧倒する頭脳、爆発的なカリスマを持って選ばれた彼女は、宗教上と生活上の女性の地位の向上を目指した。
その最初の改革が、新婚女性の性の保護だった。
いつの時代も女性の権利は低く、結婚しても相手によってはひどい扱いを受けることが多い。
親同士で結婚を決め、お金の取引を終えると捨てる。
他に好きな女がいるのに結婚し、子供を取り上げ捨てる。
結婚しても名ばかりで、ぎりぎりの年まで待って捨てる。
白い結婚をしておきながら、子供ができないと言って捨てる。
あげればきりがない。
デキル女なら次を探したり、そんな場所でも上手くやっていけるが、若く親のいいなりで生きてきた大多数の女性には、そんな悪意ある人間に刃向うすべはない。
どちらの気持ちも分からなくもないが、その捨てられた女性がいきつく先は、当教会の運営する修道院だ。
持参金を持ってくる人もいるし、離縁を申し渡す夫が出す人も稀にいるが、嫁の身ぐるみ剥いで捨てる者も多い。
はっきりいって、結婚式一回の寄付金じゃ、一人の人間を養うには全く足りない。
だが男性優位で、処女性を重んじるこの社会で、ただ女性を大事にしろと言っても聞く耳は持たれないだろう。
そこで考えられたのが、鋼鉄のパンツ、だ。
ただのおとぎ話だと思っていたが、凄烈なる頭脳を持つ女教皇は古文書からその秘術を探しだした。
そして、教会で結婚する新婚の女性に、その秘術を与えることにしたのだ。
発動の条件は二つ。
教会で結婚式をあげていること。
まだ男性を知らない女性であること。
教会では新婦に、パンツをはくための呪文と、パンツをぬぐための呪文を授ける。
その呪文は本人にしか作用しない。
一度男性と関係を持つと、二度とはくことはできないが、それまでなら何度でも着脱可能だ。
本人の意思で脱ぐか、女性を愛する人が持つ真実の愛がなければ、脱がせることの出来ない鋼鉄のパンツ。
実際は鋼鉄ではないのだが。
女性たちは結婚相手にそのパンツの威力を確かめる。
そうして、そのパンツのせいで、親にも友人にも、誰にも相談できない若い夫婦は結婚式をした教会へやってくるのだ。