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03.【 新婚の女たち 】

< ブリジッドの場合 >


 幼いころに結婚相手は決まっていた。

 私の父と母は恋愛結婚なのに、私は親同士の約束で結婚相手が決められたのだ。

 父と母は、自分たちの経験をもとに私が他の誰かを好きにならいよう細心の注意を払っていたし、私自身にも貞淑であれと言ってきた。


 結婚相手のアンドリュー様はそれなりにいい男で、手紙やプレゼントなどの気遣いも忘れない優しい人だ。

 アンドリュー様のご両親も政略結婚だが、今も仲睦まじく、お茶会でも羨ましいと話題に上がる。だからなのか、彼もまた政略結婚に抵抗はないようだった。

 恋愛に興味ないこともあるのかもしれないが、長い婚約期間、私以外に誰かを好きだとか、それに類する噂もない。本当に、誠実で良い婚約者だと思う。


 私は彼を特に好きでも嫌いでもない。いや、どちらかといえば、好き、だ。

 好き、だけどそれは、確かに“愛”ではない。


 政略結婚だから、と私は“愛”を諦めようとしていた。

 “愛”がなくても家族として幸せになれるのではないかと考えていた。

 だが、私の両親は恋愛結婚だ。

 政略結婚もアリといえばアリだが、淑女の噂話ではやはり恋愛結婚に軍配が上がる。

 誰でも、一度は燃えるような“愛”に憧れるものなのだ。


 アンドリュー様が私を好きではあっても、“愛”していないことは分かっていた。

 でも私は、試したかったのだ。アンドリュー様の心を。


「……アイ、が足りないんじゃないでしょうか?」


 花に包まれた寝室のベッドの上で、私はそう、首を傾げた。






< ユーニスの場合 >


 わたしは、お世辞にも「きれい」とか「かわいい」とかという言葉が出てくるような容姿をしていないことは自覚している。

 まあ、かなり良く言って普通だ。

 謙遜でも、卑下しているわけでもないから安心してほしい。

 鏡と周りの令嬢、世の男どもの様子を見ればおのずと分かることだ。


 きっと、綺麗な結婚はできないと半ばあきらめていたが、わたしも一応貴族社会に連なる女だ。

 結婚をして、家と貴族社会の役に立たなければならない。

 そう言うわけで長い間結婚相手を探してきた。

 性格もこの通りなのでなかなかお相手は見つからなかった。


 わたしの希望は、政略結婚でも、私を嫌いでも、それなりの誠意を見せてくれる人だ。

 わたしと結婚してくれるだけでもありがたいのだから、お相手が誰か他に好きな人がいようと、いずれ離婚しようとかまわない。ただ、それを隠し、せめて約束の数年間、私を愛しているふりをしてくれればいい。それくらいは我慢できる、そんな人がいいと思っていた。


 もう限界かなという年齢になったころ、ようやく一通の返事が来た。

 それは、社交界の華に熱烈な愛を奉げ、長く独身を貫いているレスター様からだった。

 この話を聞いた時、完全な政略結婚だとわたしは思ったが、両親はこれを逃せば後はないと、わたしの意見を聞くこともなく返事をしてしまった。

 レスター様は、さすが社交界の華を狙っただけある、恋人への行動としては恋愛小説なみに立派なものだった。

 わたしも嘘だと分かっていてもその行動に喜び、それなりに婚約期間を楽しんだ。

 そして、わたしたちは結婚した。


「私は貴方を愛することはない。私が結婚したのは後継ぎがほしいからだ」


 薄暗い部屋の花に囲まれた寝台を前に、夫となったレスター様が冷たい声でそう言った。

 わたしは、ついくせで腕を組んだ。なにか考える時、腕を組むくせがあるのだ。

 暫く思案した、いやその時は、思案したフリをした後、わたしは夜着のリボンをほどき裸になった。

 正面に立つと、レスター様が目を見開いて、わたしを上から下まで見た。


「そう言うことなら、わたしとはすぐに離縁の手続きをした方がよろしいですわ。絶対に子供はできませんもの」


 ちゃんと誓約書にサインしたんだから、最後までネコをかぶっていてよね、と思いながらわたしはそうため息をついた。






< ニコラの場合 >


 ぶっちゃけあたしはかわいい。

 かわいいし、つくれば美女にもなれる。

 子供のころから老若男女、ありとあらゆる人からちやほやされて生きてきた。

 わがままをしてもかわいいからと許され、慈善をしても流石かわいい人は心も綺麗と言われる。

 でも、その注目があたしの外見だけに注がれるものだと知っていた。


 初めて好きになった人は、お隣のお兄さんだった。

 あたしの知る中でもカッコよく、優しく、ハイスペックな人だった。

 でもお兄さんには幼いころから婚約者がいて、二人は誰が見てもお似合いだった。

 あきらめきれないあたしは、何度も二人の仲を裂こうとあの手この手を使ったが、二人が静かに深く思いあっているのが分かっただけだった。


 いつしか学園に通うよう年になった。

 婚約者がいる人も、そうでない人も、あたしの周りに溢れ、あたしに愛をささやく。

 あたしの愛は、子供のころからお隣のお兄さんに向いている。

 あたしは彼らに、あんな風に愛されたいの、と言い、それを言う度に何故か勝手に涙が出た。


 卒業が近くなり、あたしは誰かを選ばなければならなくなった。

 婚約者のいる人は最初からお断りだ。そんな愛は重すぎるし面倒だ。

 婚約者を持たず、見た目も良く、軽すぎず、身分も合うような人をあたしはいつも探していた。

 毎日告白に来る人、ときどき話しかけるだけの人、遠くから見つめる人、さまざまな人がいる中で、強い視線を感じていた。

 その視線は、オーフェン様だった。


 オーフェン様は爵位も低く、学園での成績はすべて中くらい、背も高くなく、だが見た目はかわいらしい方だった。いつも笑顔で小動物のような愛らしさを振りまき、学園の中を明るくする、あたしとは違う意味で愛される存在。


 あたしはオーフェン様がどんどん気になっていった。

 だから卒業式の日、青くなり震えながら


「あなたを誰よりも愛しています。僕と、結婚してください」


 と、告白をしてくれた時、彼の言う“愛”を信じてしまったのだ。

 本当は“愛”じゃないと知っていたのに、頷いてしまったのは自分なのに、


「オーフェン、貴方はあたしを愛しているのよね?」


 花に囲まれた寝台の上で、あたしは泣きそうになった。

 見上げるとオーフェン様も、泣きそうな顔をしていた。


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