10.【 夫婦初めての話し合い 】
< ブリジッドとアンドリュー >
「アンドリュー様」
「ブリジッド」
二人は見つめ合う。
もう、言葉はいらない、なんてことはない。
なんてことはない、のだが。
「お二人とも、お座りください」
「あ、はい」
「あぁ」
見つめ合い、手を取り合って、二人は椅子に座った。
「アンドリュー様、私、アンドリュー様のこと、嫌いじゃないんです」
「分かっている」
「私、アンドリュー様のことをもっと知りたいんです」
「俺も、ブリジッドのことをもっと知りたい」
二人は微笑み合う。
あー、辛い。
この仕事の何が辛いって、こんな時が辛いんだよ。
「ブリジッド、いつか俺と幸せな夫婦になってくれるか?」
「アンドリュー様、私と恋愛してくれますか?」
微妙にすれ違っているような気もするけど、アンドリューさん、幸せな夫婦、になるんですね。
「お二人とも仲直りできて良かったですね。アンドリューさんはもっとブリジッドさんのお話を聞いてくださいね。そしてブリジッドさんは、……パンツを大事にしてください」
< ユーニスとレスター >
「ユーニス、誓約書のことなんだが」
「ご存じなかったんですか?」
「ああ。これから屋敷に帰って確認してくる」
「そうですか、それではわたしはこちらで暫く御厄介になろうかと思います」
ちょっと待ってください。勝手に決めないで。
修道院は手ごろな宿泊所じゃないんです。
「そうか、それで、その、君は自分を不器量だと思っていると聞いたが、私はそうは思わない」
「はい?」
「私は君をずっとちゃんと見ていなかった」
レスターは、顔を赤くしてユーニスから目をそらした。
「昨日の夜、初めて君の素顔を見た」
「ひどい顔でしたでしょう?」
ユーニスが泣きそうになる。
「いや、そんなことはない。私は美しいと思った」
レスターは、今度はユーニスをまっすぐに見た。
「ユーニス、君は化粧が下手だ。あの絵姿も、今の君も本当にひどい」
「は?」
「だが、そのおかげで、君は私のところに来てくれた」
「はぁ」
「私は一度屋敷に帰り、誓約書を見てくる。」
それ、さっきも言いましたよ。
「戻ってきたら、誓約書を二人で見直そう」
レスターは、ここぞとばかりにほほ笑んだ。
あぁ、これが、見える恋愛小説なんですね。
もう勝手にしてください。
< ニコラとオーフェン >
オーフェンはニコラを見て、ニコニコしている。
ニコラはオーフェンを見て、ニコニコしている。
二人はニコニコしながら椅子に座っている。
かわいい男子代表と、かわいい女子代表が、二人仲良く座っている。
ほわほわと漂う空気は、食べたら蕩ける綿菓子並みに甘い。
あー、この二人が並ぶと、マジ天国だわ。
「僕、ニコラのこと、好きだよ」
オーフェンはニコニコしながら、そうニコラに言った、
ニコラはニコニコしたその瞳を少しだけ細めた。
「あたしも、オーフェンのこと好きよ」
決意を込めたその声は、オーフェンにちゃんと届いているのだろうか?
「オーフェン」
「なに? ニコラ」
「いつかあたしのパンツ、オーフェンがちゃんと脱がしてくれる?」
オーフェンの顔がゆがむ。
ニコラの顔もゆがむ。
あーまた二人で泣くのかな……。
「僕、必ずニコラを幸せにする。今はまだ無理かもしれないけど」
オーフェンは泣きそうな瞳を大きくして涙を抑えると、ニコラにむかってほほ笑んだ。
そして、決意を込めた声で言った。
「僕、ニコラのパンツを必ず脱がしてみせるよ!」
あぁ、せっかくの感動のシーンがだいなしです。