逆さ虹の『森の神様』
ここは逆さ虹の森。
空に逆さの虹がかかる、不思議な森です。
そんな森の真ん中に、光の柱が降り注いで、空の上から逆さ虹の『森の神様』が下りてきました。
食いしん坊のヘビは、慌てて神様の元へ向かいます。
集まった動物は1匹。
2回目に会う神様を興味深そうな目で見ていました。
そんな食いしん坊のヘビを楽しそうに見た後、神様は優しく言葉を発しました。
「さて、ヘビ君。
第5回『森のゲーム大会』優勝おめでとう。
気分はどうだい?」
「なんだか、力が湧いてくる感じがするぜ。
まるで100匹分の力が、体の中にあるみたいだな」
「それは、ヘビ君が『ゲーム大会』……もう気づいていると思うけど、『蠱毒』を勝ち抜いたからだね。
ヘビ君は、その存在が2つか3つくらい上がって、動物よりもむしろ、私たち神様寄りの状態になっているんだよ」
神様は、優しく答えました。
「つうか、そもそも『蠱毒』って、100種類の毒を持つ生き物でやるんじゃねえのかよ。
今回は100『種類』じゃなく100『匹』で、しかも毒を持つヤツもほとんどいなかったぜ」
「そうだね。
確かに、今回参加した動物の中には、同じ種類の生き物も何匹かいたよ。
でも、一匹たりとも、同じ『こころ』を持っている生き物はいなかった……当たり前、だけどね。
そして、皆、多かれ少なかれ、『こころ』の中に、悪い『毒』を持っていた……これも、当たり前だけどね。
だから、これは『100匹の動物を集めて行った蠱毒』じゃなくて、『毒を持つ100種類の『こころ』を集めて行った蠱毒』になるんだよ」
神様は、やはり優しく答えました。
「ふーん……まあ、そこら辺の詭弁はどうでもいいや。
それで、『蠱毒』になった俺は、一体どうなるんだ?
まぁ、こんだけ大々的にやったんだ、殺すような使い道はしないだろ?
俺の予想では、神様の使いになる、とか、森の守り神になる、とか、だと思ってるけどよ」
「うーん、そうだね。
ほとんど、正解だけど、100点満点ではないかなぁ。
どうやら、お人好しのキツネ君は、正解に辿り着いたみたいだし、ヘビ君も考えてみたら?
ヒントは、今までの優勝者と……。
この森の、有名スポット、だよ?」
神様は、とても優しく答えました。
ヘビは、『どうでも良いから早く答えを言えよ』と表情に表しながらも、渋々考え始めました。
歴代優勝者は、確か神様から最初の時に話がありました。
チャンピオンの中に自分と同じ種族がいたので、ヘビはなんとなく覚えていたのです。
確か、ヘビ、リス、ネコ、カモノハシ。
……そして、この森の有名スポットと言えば。
ドングリを投げ込んでお願い事をすると叶うという噂がある、『ドングリ池』。
たくさんの木の根っこが飛び出した、『根っこ広場』。
今にも落ちそうなくらいボロボロの、『オンボロ橋』。
……そして何よりも、空に架かる『逆さ虹』……。
「え、え、え??
あ、あ、あああああああああ!?」
「気が付いたかな。
そう、僕は、『森の神様』。
君たち、動物の神様じゃあない。
君たちの命なんて、どうでもいい。
この森を美しくすることだけが、僕の考える、至上命題なんだ」
神様は、笑顔で優しく答えました。
「そう。
『蠱毒』になった歴代優勝者たちには。
この森の『観光スポット』になって貰ったんだよ?
2代目優勝者の意地汚いリス君は、『ドングリ池』に。
3代目優勝者の嘘つきのネコさんは、『根っこ広場』に。
4代目優勝者の老いぼれカモノハシさんは、『オンボロ橋』に。
そして、もちろん、初代優勝者のあまのじゃくのヘビ君は、『逆さ虹』に。
まあ、ほとんどダジャレなんだけど、ね」
神様はそうやって優しく答えました。
「と、いうわけで。
神様に近くなった君には。
この森を美しくするためのスポットの1つになって貰う。
スポットとして存在する限り地獄の激痛が続くみたいだけど、この森を美しくするためと思えば、嬉しい痛みだよね」
ヘビが相槌を打つ間も許さず、そうやって一方的に捲し立てると。
神様は、非情に優しく。
……ヘビに、近づいていくのでした。