怖がりのクマ
クマは既に、大分たくさんの森の動物達を殺して食べていました。
それでも、栄養が足りているのかどうかは、わかりません。
栄養が足りなければ、死んでしまうかもしれないのです。
生来怖がりなクマは結局、殺戮ショーを続行せざるを得ませんでした。
そしてとうとう、キツネとコマドリを見つけました。
クマはなるべく自分の変化を気づかれないように近づいたつもりでしたが、すぐに気付かれて、あっという間に逃げられてしまいました。
コマドリは空高くへ、そしてキツネは森の奥へ。
しかしクマは諦めません。
森で一番強くて、森で一番速いのは、何を隠そう、クマなのですから!
(こここコマドリさんは惜しいけど、きききキツネくんなら十分捕られるな。
まままあ、きききキツネくんの方が大きくて栄養もありそうだし。
きききキツネくんに追い付くことを優先しよう)
クマはそんなことを考えながら、木の間をスルスル駆け抜けていくキツネの背中を、悠々と追いかけていました。
追いかけっこを初めて数分後、クマはキツネのすぐ背後にまで迫っていました。
後はクマがタイミングをみてキツネに爪を振り下ろすだけです。
(……いいいいまだ!)
クマは涎を垂らしながら、完璧なタイミングで前足を振り下ろしました。
次の瞬間。
「ああああああああああああああ!」
激しい悲鳴が森に響き渡り。
勝利を確信したクマは……自分がその悲鳴を上げている事実に、少し遅れて気が付きました。
「いいいいいいたい、いいいいたい、いいいいたいいいい!?」
突然激痛が走り見えなくなった右目の辺りを、クマが前足で叩くと、ペチッと手ごたえがあった後、地面に小さな動物が叩きつけられました。
「ぐぐぐぐうううう、こここコマドリさんんんんッ!?」
地面には、逃げたはずの小動物であるコマドリが横たわっていました。
まさかどの動物よりも弱いコマドリが攻撃してくるなど、弱虫で臆病なクマには想像もできませんでした。
しかもコマドリは、クマの右目を嘴で潰したのです!
自身の右側にできた突然の死角に驚いたクマですが。
(いいいいや、ままままずは目の前のキツネくんを倒してから考えよう!)
冷静に思い直し、再度キツネを残った左目で探そうとしました。
「ぎ、ぎぎぎぎぎいぎぎいいいいい!?」
そして、そう思った次の瞬間、またもや奇妙な声が聞こえて、それがまたもや自身の悲鳴であるとクマが気付くのには少しの間がありました。
クマの首筋に、キツネが噛み付いたのです。
何とかキツネを引きはがすことが出来たクマですが。
溢れ出る出血を止めることが出来ずに。
「どどど毒がまわっちゃうえええ栄養を取らないとえええ栄養をえいようえいようぇぃょぅ……」
そのまま血溜まりに頭を突っ込んだ後。
……動かなくなったのでした。