お人好しのキツネ
ドングリ池で喉を潤しながら、歌上手のコマドリがお人好しのキツネとお話をしています。
「森のどこにも椅子がない。
森の中に食べ物がない。
森の中には他にヒントになるものがない……ですか……」
空を一っ飛びして手に入れたコマドリの情報を、キツネは改めて繰り返しました。
「いったいどういう~♪、ことだろうね~♪」
「『椅子』のない『椅子取りゲーム……。
……そんな……いや、まさか、そんなわけが……」
キツネは比較的早く、最悪の可能性に気が付きましたが。
生来のお人好しのせいで、その確信を得られずにいました。
そうして、神様の言葉を何度か反芻した後。
目を閉じて、顔を上げて、一言、『クソッ』と声を上げました。
「……なにか~♪ わかったの?~♪」
コマドリの言葉に、キツネは静かに話しだします。
「……まず最初に……コマドリさん、私と共闘しませんか?」
「もちろん最初から~♪ そのつもりだけど~♪」
コマドリの言葉に、キツネは少しだけ笑顔を浮かべた後、彼が気付いたことを話し出しました。
「『椅子』のない『椅子取りゲーム』。
これ、別に、なんのことはありません。
弱肉強食の生存競争……殺し合いって、ことですよ」
「……え? え? え?」
思わず歌うのも忘れて、素で言葉を返すコマドリ。
「え? え? え?
そ、そんなワケ、ないでしょ?~♪
た、たまたま、神様が、椅子を置き忘れたとか~♪
いや~♪、例えそういう意味だとしても~♪、殺し合いとまでは言ってないんじゃないかな~♪」
「……逆さ森は、豊かな土地です。
動物は、減る数より増える数の方が多いでしょう」
コマドリの疑問に対して、キツネが、なぜか唐突に当たり前のことを確認してきました。
「う、うん、そうだね?~♪」
「森の動物が100匹に達したから、大会を開いた。
その大会が、今回で5回目。
……そんなことを、神様は、言ってましたよね?」
「ま、まあ、そんなこと言っていたね~♪」
キツネは、静かに、呟きました。
「増え続ける動物。
100匹に達したら行われる大会。
……今回で、5回目。
……何か、おかしくないですか?」
キツネの言葉をしばらく反芻した後、コマドリは、言葉を失いました。
静かになったコマドリに、キツネは、畳みかけるように、言葉を吐き出します。
「理由はわかりませんが……。
定期的に、間引かれてるんですよ。
わたしたち、森の動物たちは。
……神様の開催する、『ゲーム大会』によって、ね」