表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワケあり召喚術士、まかりとおる!  作者: 鈴木えんぺら
第3章 帝国の召喚術士
97/128

第19話 襲撃 その1


 降りしきる雨の中、南方諸侯軍の陣地から撤退。

 使い潰してもいいと言われている馬を駆り、ひたすら走ること十日ほど。

 日を経るごとに誰もが自然と言葉を減らし、

 ただひたすらに目的地であるエルフの集落へ走り続けた。


 振り向けば、かつて陣地があったと思われるあたりからもうもうと黒雲が空へ昇っており、

 かの地に何があったのかと不安な気持ちに駆られながらの逃避行。

 駆けに駆け、ようやくのことで鬱蒼と茂る新緑の領域の入口へ到達する。

 残念ながら馬とはここでお別れで、あとは徒歩にて進まねばならない。


「それで、この森のどこら辺にあるわけ?」


「南方伯からは特に聞かされてないなぁ」


 この森全体がエルフの自治領だし、周囲はスィールハーツ派閥の貴族が固めている。

 南方出身で徐々に軍を北上させてきたレンダ辺境伯としては、

 なかなか足を踏み入れにくい分、情報がおろそかになるのもやむなしといったところ。


 オレ達よりも先に集落に向かっているグリューネルトはどうしたのだろう。

 派閥の連中あたりから細かい集落の位置を聞いたのだろうか。

 こんなことになるんなら――


「爺さんにエルフの情報を聞いとけばよかった」


「あのネズミを使うんじゃダメなの?」


「アイツは南方伯に渡しちまった」


 今この瞬間、最もルドルフとのコンタクトを必要としているのは、

 南方の危機に立ち向かっている彼らだろうから。


「とはいっても、ここで立ち止まってては急いだ意味がないにゃ」


「だよな」


 クロの言葉に、もし自分がエルフの族長ならばどのあたりに居を構えるか考えてみる。

 ごくシンプルに行けば森の中心部あたりということになりそうだが――


「とりあえず、真ん中あたりを目指してみるか」


「……そうなるよね」


 何か目印があるでもない。

 余裕があるわけでもない。

 それでも、立ち止まることはできない。

 

「よし、行くか」


「入り口でぐずってるよりもマシか~」


「にゃ」


 覚悟を決めて森に足を踏み入れようとしたところで、

 雨に濡れた栗色の髪を鬱陶しそうに縛りなおしながら、


「ステラさ、誰か魔物を呼ばないの?」


「それなぁ」


 たった三人で森を征く困難を鑑みれば、

 テニアに言われるまでもなく戦力を整えておきたい気持ちはある、のだが……


 使い勝手の良いヘルハウンドは雨が降ってるからダメ。

 空を駆けるグリフォンは森の中で歩かせるメリットがない。

 クラーケンは問題外。アイツは地上には上がってこれない。

 ほかに連れて行くとなると――


「出せそうなのは熊くらいかなぁ」


「う~ん、歩くの遅そう」


「だよなぁ」


 ビッグベアは力自慢の魔物ではあるが、

 探索行に向いているかと言われれば、疑問を抱かざるを得ない。

 

――戦うだけだったらアイツで良さそうなんだがなあ。


 余裕ができたら、手札を増やすために魔物の情報を集めたいところ。

 あくまで余裕ができたら、の話だけど。


「ま、そういうこともあるか」


 こちらの手札事情を理解してくれたテニアは、

 それ以上突っ込んでくることはなかった。


 こうして森に入る陣形が決定した。

 前衛に斥候のテニア、後衛が魔術士のオレ。

 オレが襲われた場合には、足元のクロが戦うことになる。

 三人組としてはごく自然な編成。


「なんか魔物がいるかもしれん」


 気をつけろよ、と前を行くテニアに警鐘を鳴らすと、


「そういうこと言われると、ホントに襲われそうだよね」


「すまん、オレもそんな気がする」


「にゃ?」


 経験則でもなければ勘でもない。

 ただ、口にした難事が現実になりかねないという不安が圧し掛かる中、

 生い茂った木々を押しのけて、先行するテニアが作ってくれた道を進む。

 しばらくの間は何もなかったのだが――


「ご主人、伏せるニャ!」


「え?」


 突然飛び上がったクロに背中から圧し掛かられて体勢を崩すと、

 先ほどまで頭があった箇所に風切り音。

 タン、という軽い音とともに傍の木の幹に突き刺さるそれは――


「矢?」


「襲撃ニャ!」


「ウソ、背後とられてる!?」


 感覚には自信があったのであろうテニアが思わず声を上げ、

 こちらに合流しつつ慌てて両手に短剣を構える。

 三人で死角を作らないように背中合わせで武器を構えて周囲を窺うも――


「今、どっから来た?」


「さっきの矢は、わりと近くから来たニャ」


 クロには弓の弦が震える音が聞こえたらしい。

 雨の音、生い茂る葉に水滴が当たる音、動物たちの鳴き声などなど、

 森という奴は静かに見えてその実なかなかうるさいものだが、

 襲撃者たちは小さな我が相棒の耳をごまかすことはできなかった模様。


「マジすか……先輩尊敬するわ」


 感心するテニアは置いといて、さてどうしたもんか。

 天候も含めて視界が悪いこの状況、

 定石どおりに『障壁』をかけたら、却って目印になりかねないが……


――いや、奴らはこの状況でもかなり正確に狙ってきている。


 だったら、今さら遠慮する必要はない。

 さっさと『障壁』を展開。

 敵手から遠距離攻撃という手段を封じてみせる。


「で、次はどうする?」


「そうだなぁ」


 エルフの里に逃げ込もうにも場所がわからないし、

 襲撃者を引き連れていくわけにもいかない。


――だったら迎撃したいところだが……

 

「クロ、さっき撃ってきた奴の居場所はわかるか?」


「移動してるけど大丈夫にゃ」


「よし、こっちから仕掛けよう」


「了解にゃ」


 先頭は、相手の居場所を捕えているクロ。

『雷撃』の用意を整えたオレが続いて、

 最後尾を二刀流のテニアが抑える。


「行くにゃ!」


「おう!」


 ぬかるんだ腐葉土をものともせずに駆けだすクロを追って、こちらも走る。

 こちらの急な動きに驚いたか、ガサゴソと揺れる茂みの様子が見て取れる。


「そこだッ! 『雷撃』(こいつ)を喰らえ!」


 紫電三連。

 森の中を照らした光が捕えたのは――


――リデル!?


 黒いマントに白の仮面。

 燃える街で見た彼女の姿と酷似しているが……


――いや、違う。


 人影はひとつではなかった。

 とは言え、リデル本人ではなくとも外見はそっくり。

 関係者の可能性は少なくない。

 しかし、今はそれを調べている余裕がない。

 どうするのかとこちらに視線を投げてきたクロに、


「今はいい、殺せ!」


「応ニャ」


 アールスで共に戦っただけあって、瞬時にこちらの考えを理解してくれたらしい。

 ここに至るまでに多くの人間の力を借りているからして、

 個人的な欲求による不用意な行動は控えねばなるまい。


「シャアッ!!」


 颯爽と黒マントに飛びかかり、喉笛を掻っ切る黒猫。

 血飛沫が舞い、聞き覚えのない言葉を漏らして崩れ落ちる影。

 さすがと言いたいところが、いつも格闘を基本に戦うクロが、

 最初から爪を使っているところを見ると、本人は余り状況を楽観視していない。


「ご主人、どんどん撃ちまくるニャ」


「了解!」


 一度火箭を開いてしまえば、あとは押し切るのみ。

 再び『雷撃』の準備を整えるオレの背後で、

 先ほどとは逆方向から飛来した矢を空中で切り払うテニア。

 

――よし。


「守りは任せた」


「魔術士一人にはしてられないね」


 不敵に笑い短剣を逆手に構え、周囲の気配を探り――更に襲い来る矢を迎撃。


「さっさと落ちろってんだよ!」


 四方八方に『雷撃』を撃ち放ち、

 当たった相手にクロが飛びかかり止めを刺していく。


『契約者、守りが薄いぞ』


「クロ、一度戻れ!」


 エオルディアに指摘されて、相棒を引き戻す。

 魔術士としての未熟さゆえに、近場の味方に対してしか『障壁』を展開できないのが辛いところ。


「どうだ?」


「三人殺ったニャが、まだ残ってるにゃ」


 しかも先ほどの連中とは違い腕の立つのが闇に潜んでいるとのこと。

 クロの攻撃を避け、森の中からこちらを覗う奴がいる。

 

「そりゃ厄介だな」


「ステラ、ちょっとこれ見て!」


 テニアの方に振り向くと、こと切れた影から仮面とマントをはぎ取っている。

 その下から出てきたのは――


「エルフ、だと……」


 長い耳、整った顔。そして弓を得意とする戦闘スタイル。

 苦痛と憎悪に塗れた表情を除けば、

 いずれもエルフ族に共通した特徴ばかり。

 さらに、やたら日に焼けた肌はリデルを思い出させる。


「エルフがここで仕掛けてくるってのは、どういうことだ?」


 奴らのテリトリーを犯したから、排除のために攻撃してきたのか?

 それなら、既にこちらに向かっているグリューネルトはどうなった?

 もし何かあったのなら、南方諸侯軍の陣地にいた間にルドルフを通じて話が来ているはずだが。


「コイツら、リデルしゃんと何か関係が?」


 警戒を続けながら足元でぽつりとつぶやくクロ。


「リデルって誰?」


「クロ、その話は後だ」


 今はここを切り抜けよう。

 半ば見捨てる形になってしまった南方諸侯に報いるためにも、

 何が何でも包囲を突破してエルフの里にたどり着かねばならない。

 皇帝陛下やグリューネルトも気になる。


「確かに、それが先決ニャ!」


 いまだにやむ様子を見せない雨が木々や地面にあたる音のせいで、

 クロ以外の二人は音で気配を探りづらいこの状況。

 相手が森に慣れたエルフであれば、格好の的にされかねない。


「もう一回『雷撃』をばら撒く」


「アタシがステラの傍にいるから、先輩よろしく」


「もうひと暴れしてくるニャ」


 小さな川のように水が流れてきている地面の上で軽く飛び跳ねつつ、

 戦意の衰えるところを見せないクロの様子からは、

 ここ最近の不調らしきものを思わせない。


「よし、行くぞ……」


「あいにゃ!」


「3……2……1……『雷撃』行ってこい!」


 今度は五本。小型の雷が森を裂く。

 一瞬晴れた視界に、こちらに向けて矢を射ろうとする影の姿。


「行ってくるニャ」


「行ってらっしゃい!」


 突撃するクロを援護するために、

 弓を構えた影に石礫を投げてけん制するテニア。

 改めて杖を構え、魔術の準備をするオレ。


 不可解な襲撃から始まった戦闘は、終わりの見えな泥沼の様相を呈している。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ