表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワケあり召喚術士、まかりとおる!  作者: 鈴木えんぺら
第3章 帝国の召喚術士
95/128

第17話 南部戦線異状アリ その3


 衝撃的な光景に、衝撃的な事実。

 帝都を襲う危機に負けず劣らずの危機が、

 ここに訪れているという現実を突きつけられ、

 口数少なく諸侯が集う陣幕に戻る。


「でもさ、あのお爺ちゃん将軍さんは何も言ってなかったよね?」


 声に若干の震えを残しつつも明るく振る舞おうとするテニア。

 その努力は買いだが、ちょっと痛々しい。


「何も……ですか?」


 先ほども聞いたが信じられないというレンダ南方伯以下貴族の面々。


「ああ。『正体不明の魔物』としか聞いていない」


「それは、こちらから送った情報が届いていないということでしょうか?」


 白髪交じりの頭を掻きむしり、南方伯がぼやく。

 これまでの状況を鑑みると、原因はともかく南方の情報は帝都に届いていない。

 ルドルフの爺さんの『勘』のおかげで、ようやく帝都から派遣された人員がオレ達というわけだ。


「これまでの時間が無駄になった……とは言いたくないが、現状はかなり厳しいな」


 だが、こんなこともあろうかと情報を送る手は用意してある。

『万象の書』を再度呼び出し、中からとある色付きの『証』を引っこ抜いて構える。

 怪訝なな表情を向ける貴族たちに場所を空けるよう指示。

 そして――


「出でよ『プレーリーラビット』!」


 光の中から現れたのは、クロの半分くらいのサイズの齧歯類。

 ネズミとウサギが混ざったような可愛らしい外見をしているが、

 これでもれっきとした魔物――というよりは害獣として一般的に認識されている。


 主に農作物をターゲットに農家の人々と死闘を繰り広げている奴で、

 ひどいところになると、その姿を見るなり農民がサスマタ持って飛びかかってくるくらい、

 とにかく農耕的人間社会とは相いれない生き物だ。


「あ、この子って」


「出立遅らせてまで捕まえた奴にゃ」


「おう」


 帝都の農村区域で泥にまみれた日々を思い出す。

 まあ、もっぱら泥んこになったのはクロなのだが。


「……こんなネズミで何をされるおつもりか?」


 などと問うてくるのは、最初にオレ達を案内してくれたベントハウゼン男爵。

 対して、理解した表情を浮かべるレンダ南方伯ほか何人かの貴族。


 両者の違いは――ずばり召喚術士であるか否か。


「このネズミは、ここに来る前にとっ捕まえた」


 今は軍の詰め所で飼われている。

 正確に言うと爺さんに押し付けてきた。


「では……」


「ああ、こいつに必要な文書を括りつけて送還すれば、あっという間に将軍の下に着く」


 これまで届いていないと思われるもの、新しく手に入れた情報。

 帝都に送るべきと判断されるものを片っ端から用意してくれ。

 そう願い出てみれば、レンダ南方伯は矢継ぎ早に各所に指示を出し、

 急いで用意を整えるべく人を動かし始めた。


「なるほど、そう使うんだ……」


 慌ただしくなった陣幕内で邪魔にならないよう脇に寄りながら、

 感心したようにテニアが呟く。


「南海諸島だと鳥を使って手紙をやり取りしてただろ」


 アレを召喚術でやろうってのがコレ。

 な~んて偉そうに語っているが、

 コイツはオレのオリジナルというわけではない。


『大賢者』の二つ名でよばれる今代の帝国召喚術士団長が発案し、

 皇帝陛下の許可を得て帝国貴族たちの間に張り巡らせた召喚術ネットワーク。

 帝国はこのネットワーク発足以前と以後で大きく変わったと言える。

 情報の速度が加速し、巨大ゆえに動きの鈍かった帝国のフットワークが格段に軽くなった。


 もともと親しい貴族間で互いに魔物を交換したりするという風習は存在したが、

 そこに情報伝達手段としての大きな意味を持たせたという点で、

 今代の団長は間違いなく『賢者』と呼ばれるにふさわしい人物と言えよう。


 もちろん問題はある。大いにある。

 その中でも特に顕著なのが、このネットワークに参加できない貴族、すなわち『万象の書』を持たない者の立場が、

 貴族社会の中でさらに低く扱われることになってしまったという点。

 これは中央政府も憂慮してはいるのだが、現状では利便性を鑑みて半ば放置されている。


 さらに、今回のように軍と情報交換を行おうとしても、肝心の軍には召喚術士がいない。

 この場合は、軍から皇帝陛下に願い出て召喚術士団の誰かに出向してもらう形で対応することになるが、

 今回は陛下が命令を出せる状態でなく、召喚術士団が動かせない。

 でも、オレのような流れの召喚術士を雇えばこの問題は解決できるというワケ。

 ……流れの同業者なんて、ここ五年ほどでほとんど見たことないがな!


 爺さんがオレを使いたがった大きな理由がこれだ。

 天下のルドルフ将軍が『勘』といえば、

 その背景を想い唾を飲み込むものは少なくはなかろうが、

 実際に軍や官僚団を動かすならば確たる証拠が必要になる。

 

「吾輩の苦労は無駄じゃなかったニャ」


「きゅ」


 呼び出されたままきょとんとしているウサギネズミとにらめっこしながら、

 クロが感慨深げに頷く。


「これは……本当に助かります」


 素直に頭を下げてくれる南方伯だが、


「別に礼はいいよ」


 オレが悪いとは言わないが、中央の人間が南方からのSOSに対して

 何らリアクションを起こせていない事実は変わらない。

 それよりも――


「ここから、巻き返そう」


「ええ!」



 ☆



 それからというもの、今まで倦怠感に塗れていた陣内がにわかに活発化し始めた。

 これまでに送った情報の写しをかき集めるもの、

 南方伯の指示のもと最新の状況を書き起こし図面にするものの姿が激増。


 また送られた情報をもとに返ってきたルドルフの指示によって、

 件の化け物のデータを収集すべく実験が繰り返され、

 その結果をさらに帝都に送り、次の動きを待つ。


 このネットワークに用いる魔物としてオレが『プレーリーラビット』を選んだ理由は、

 召喚に必要な魔力が少なく、一度送還してから再び『証』が『色付き』に戻るまでの時間が短い、

 つまりあまり強力でない魔物で、帝都にほど近いところに存在していたから。


 人間に友好的な魔物を使う場合はともかく、

 そうでない場合は、あまり知能の高い奴も適さない。

 オレ達の目を盗んでおかしなことをされても困る。


「これのためだけに召喚術士を雇うの、ありだなぁ」


 戦う以外でもいろいろ活躍するんだね、と、

 日々往復する文書や資料の山を眺めながらテニアがぽつりと零す。

 確かに、今は帝国内のみで運用されているネットワークだが、

 これを大陸全土に敷設することができれば、その効用は計り知れない。

 

「ファナからカエルを渡されかけたときに、貰ってもいいかもとちょっとだけ思ったんだがなぁ」


 あのミドリガエルとオレが契約し、ファナの下で飼育されていれば、

 何かの折に連絡することが容易に可能になる。

 テニアだって、今生の別れとばかりに国を出たが、

 内心では離れがたい想いくらいはあるだろう。

 

「いや、それは別にいいよ」


 下手にアタシと南海諸島に繋がりが残るのは後に禍根を残しかねない、

 テニアは自分に言い聞かせるように強い調子で反拍してくる。


「……そんなに言うなら別に良かったんだけど」


「そうそう」


 目の前で好物のニンジンを齧るネズミを見ながら、二人でそんなことを語り合う。

 クロはというと、陣地の外に広がるあの黒いスライム(仮)を見に行ったり、

 暇そうにしている騎士たちと稽古をしたりと大忙し。

 とにかく体を動かしていないと落ち着かないようで、それは騎士たちも同様だったらしい。

 南方伯は訓練を許可してくれたし、今頃は訓練のついでに賭けも行われているだろう。


「とにかく、塞ぎ込んだままというのはよくありませんから」


 自分も動き、配下も動く。

 倦怠感や徒労感は、人間の思考をネガティブな方向に誘導する。

 まず動くこと、それが肝要だと語る南方伯は、

 さすが南方の貴族たちの首領格を務めるだけのことはある。

 オレ達がこの陣に訪れた日こそ憔悴を隠しきれていない様子だったが、

 あの日以来ろくに休む間もなく動きまわり、

 今となっては陣内で一番の働き者と化している。


「なんて言うか、前線だねぇ」


「だなぁ」


 今のところネズミのやり取り以外やることがないオレとしては、

 何となくいたたまれない気分になるのだが。


「いや、ステラがそんなこと言ってたらアタシはどうなるのさ?」


「だよなぁ」


「ちょっと、そこは否定するところでしょ!?」


 まあそれはそれとして、


「クロム卿は無事に戻れたかねぇ」


 オレ達の着任を報告するために帰っていった生真面目な騎士を思い出す。


「てかさ、ネズミでやり取りできるんだったら、あの人帰らなくてもよかったんじゃない?」


「……そうなんだけど、なんか言いそびれちまってさ」


 召喚術ネットワーク自体は皇族や貴族、政治軍事の重鎮格には知れ渡っているが、

 現在のところ一般公開はされてはいない。

 今回は特例として目立つ感じに使っているが、

 普段の帝国ではあまり人目につかないように使用されるものであり、

 クロム卿の前で言いづらかったという部分もある。


「ステラ殿、今日の分をお願いします」


 陣幕から顔を出した南方伯の声。


「あいよ、すぐ行く!」


 ニンジンを食いつくして満足げな顔のネズミと、

 ポニーテールを振り振りしつつ兵士たちの視線を集めるテニアを伴い、

 ひっきりなしに人が出入りする陣幕に滑り込む。


 中に入ると、書類を構えて目を血走らせた男たちが颯爽とウサギネズミを取り囲む。

 おびえたようにこちらを見上げるネズミの視線に気づかないふりをしていると、

 あっという間にぐるぐる巻きにされて、切なげな声を上げる。


――すまないが、命のやり取りをすることなくエサが貰えるということで諦めてくれ。


「ステラ殿、準備できました」


「ああ」


『プレーリーラビット』の証を構えてウサギネズミを帝都に送還。

 オレ達の目の前からネズミが消えると、

 陣内の連中がまた慌ただしく動き始める。


「それで、ルドルフ将軍は何と?」


「……今のところはまだ何とも言い切れませんが」


 南方伯は、それでもやや声に明るさをにじませて


「火を用いるべきではないかとの見解を出されています」


「やっぱ火か」


 単にこれまでの検証結果で最も有効なものが火だったというだけの話だが。


「問題は、あれだけ大きくなった奴をどうやって焼き切るかだよなぁ」


 大地を埋め尽くさんばかりに広がった黒い半固形物を思い出すとウンザリする。

 現場の惨状を目の当たりにした者の意見としては、もう一手何か欲しくなるところ。


「帝国中の油を用意しても足りないでしょうね」


 仮に用意できたとしても、帝国人の生活に大打撃を加えることになる。

 これから冬に向かう状況下で、それは避けたいところだ。


「となると……あとは風か」


 最後の最後が風任せというのが何とも心細くはなるけれども、


「将軍のことですから、何か考えがあるのかもしれませんね」


「考えか……期待させてもらおう」


「ですね」


 厳しい状況であることに変わりはないが、

 レンダ南方伯は、それでも声に明るさをにじませている。

 先の見えない戦いから、一歩前進したということが、

 みなの心を多少なりとも前向きにしているというのなら、

 爺さんの話に乗せられてここまで来た甲斐もあろうというもの。


「こちらの状況が整うまでに何事もなければよろしいのですが……」


――ああ南方伯、それはフラグや……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ