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ワケあり召喚術士、まかりとおる!  作者: 鈴木えんぺら
第2章 南海の召喚術士
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第35話 海神 その1


「な~んか懐かしいなぁ」


 どうにかこうにか城下の混乱を治め、

 逃げた海王を追って船を出したオレ達が、

 降りやまぬ大雨と荒波に揉まれながら、

 ファナに導かれるままにたどり着いたのは、

 かつて海王に誘拐されて放り込まれた牢屋があった小島。


 もはや海と言えばおなじみと化した感のあるクラーケンの『証』は、

 サザナ島制圧の日から灰色のままなので、

 今回はテニアが操る小船で海を越えてやってきたわけだが、


「おおお……」


「大丈夫か、クロ」


 ここにきてクロの船酔いが再発。

 女将さん特製酔い止め薬をもってしても、

 さすがにこの悪天候の強行軍には耐えられなかった模様。


「もうちょっと休んでいくわけにはいかなかったのかよ?」


 王城で一日ゆっくり休んだとはいえ、天候は一向に回復せず、

 たとえ万全を期すことはできなくとも、

 もう少し状況が好転してから詰めに入りたいところなのだが。


「サザナ島を制圧したと言っても、すぐ引っ繰り返されない状況だしね」


 テニアの言うことは分からないでもない。

 海王が軍や民を置いて撤退したからこそ、

 暫定的とはいえファナの統治が受け入れられたのだ。

 もしあちらが準備万端整えて戻ってくれば、

 再び泥沼の戦いが展開されることは容易に想像できる。

 だからこそ、身体性を盤石なものとするためにも、

 ここが勝負どころだということは理解できているつもりだ。


「それに、この雨はやまないからね」


「え?」


「……まあ、着いてから説明するよ」


 船から降りて、クロを背中におんぶしたまま道なりに進むと、

 程なくして岩壁ぶち当たり、そこで小さな祠らしきものを発見。


「これは?」


「海神廟」


 海王家の聖地みたいなもんかな。

 テニアの説明を受け、先導される形で中に入る。


 入り口は屈んでようやくは入れるほどに狭かったが、

 中に入ってみると意外と広く、暗闇の空間が広がっている。

 先行したテニアを押しのけて、ファナが中をいろいろ弄りまわすと、

 奥の方で大きな岩らしきものが動く音が聞こえた。


「隠し通路?」


「そ」


 ついて来て。足元注意ね。

 テニアに促されるままに奥に足を踏み入れ、

 階段を降りたその先は――


「な……」


 ここまでの石造りのオンボロとは似ても似つかない光景。

 薄い蒼色に輝く立方体を丁寧に並べて組み立てられた通路、そして壁。

 ひとつひとつのブロックに幾何学的な模様が並び、

 水が流れるようにように一定周期で光が走っている。


「『古王朝の遺跡』……しかも生きてる!?」


 何千年も前に滅びてしまった大陸唯一の統一国家こと通称『古王朝』

 その残滓である遺跡が見つかることは稀にあるが、

 すでに機能を停止しており廃墟と区別がつかなくなっているものが大半。


 しかし、この遺跡に刻まれた光の模様からは、

 まるでダンジョンのような魔力の流れを感じる。


「大当たり」


「この遺跡こそが、海王家が海王家たる真の理由」


 テニアの言葉を受けてファナが説明を続ける。

 古王朝の遺跡である海神廟の守護者、それこそが海王家。


「海神廟の真の力は、文字どおり海を支配する能力」


 天候や海流を始め南海諸島そのものを自由に操る遺跡が、

 数千年の時を経て未だに機能しているという。


「その制御鍵が『海神の標』」


 だから、海王家では『海神の書』よりも『海神の標』に重きが置かれるのだと。

 召喚術による魔物支配より、古王朝の遺産による領域制御の方が、

 南海諸島に暮らす人々にとっては強大な圧力となるから。


「なるほどねぇ……」


 古王朝は非常に優れた魔術文明を誇っていたと記録にはあり、

 リデルが持っていた雷の魔剣のように、

 現代の技術では再現不可能な『遺産』という形で、

 今なおその力の一端を顕わしている。


 中には今回の『海神の標』のように、

 わざわざ『神器』などと呼びならわされている場合もあり、

 その力は神に匹敵すると目されている点でも半端な相手ではない。


 たとえ部下をすべて失ったとしても、海王がこんな能力を自由に扱えるとなると、

 奴をどうにかしない限り、この海域を脱出するなんて夢のまた夢ってことか。


「……前は臨検がどうとか言ってたけど」


「あんなところで本当のこと言えるわけないじゃん」


 周りにも人がいたでしょ!

 ここのことを知ってるのは、南海王国でもほんの一握りの人間だけなんだから!

 テニアの声はかなり言い訳じみていたけれども、これは確かに余人には語れまい。


――じゃあ、お前はどうなんだよ!


 と、思いっきり突っ込みたいけれど我慢。


「……吾輩らはいいのかニャ?」


 ようやく復活したクロが、背中越しに問いかける。


「あなたたちは……そうね、信用しているわ」


 どこに行っても余計なことは口にしないだろうと、

 ファナは多少の躊躇いを残しながらもそう語る。


「そこまで信頼されちゃ、無下にもできんな」


 実際には釘を刺されたようなものだが、

 別にここの話を余所に流したところで、

 オレ達自身に得るものはない。


「そうそう、話が早くて助かるよ」


「コイツはいいのか?」


 オレより口が軽そうで、何とも信用しがたい奴が一名いる気がするのだが。


「大丈夫よ」


 ファナは自信ありげに笑った。

 少なくとも、この女の中ではオレ達よりも信頼度が上らしい。


「急ぎましょう。海王がここの力を完全に発揮させる前に」


 今の海王は追い詰められて自棄になっているかもしれず、

 そうなると何が起こるか分かったものではない。

 南海諸島全体の気象や海流を押さえられているとなると、

 実質的に島民全員が奴の人質のようなモノ。


 今でさえすでに外は大嵐で近距離の航行すらままならない。

 可及的速やかに身柄と神器を押さえなければ。

 これ以上奴の好き勝手に気象を暴走させるわけにはいかない。


「了解、ところで」


 海王は部下を連れずに逃げたのか。

 そう問いかけようとしたその時、周囲の空気が振動。

 壁の一部がドアのように開き、中から『何か』が近づいてくる。


「おお?」


「やっぱり来たか」


 船に乗り込む際に、見慣れないハンマーを持ち込んでいたテニアが、

 両手に得物を構えて腰を貯める。


「……何が?」


 ガシャン、ガシャンと音を立ててこちらを取り囲む人型の影。

 姿は鏡映しのように一様で武装らしきものも身につけていないが、

 その全身は薄青石に覆われており、それ自体が武器であり鎧でもある。


「遺跡が生きてるんだから、当然中身も生きてるってね」


 基本的には制御機構と居住区が残されているだけだから、

 さすがに罠はないけど、守護者の類は健在だと。


「へー」


 あんまり聞きたくなかったその情報。

 周囲に立ちはだかる顔のない人型。

 古王朝時代の命無き守護者、ゴーレム。


――部下を壁に使うような奴にはお似合いだな!


「力ずくで突破するよ!」


「ええ!」


「にゃ!」


 背中から飛び降りたクロは、

 未だ完調とは言い難いふらふらした足取りで、

 それでも果敢に戦う意思を見せる。


「あいよ」


 ここまで来たからには撤退はない。

『万象の書』を呼び出してページをめくる。


 相手は古代のゴーレム多数。

 テニアの武装を見れば分かるとおり、求められるのは質量と破壊力。

 水場はないし、そもそも『証』の色が戻ってないのでクラーケンは呼べない。

 となると――


「お前に決めた! 出でよ『ビッグベア』!!」


「ガオオオオオォ!」


 ニブル島で魚の干物を巡って争った大熊。

 経緯はどうあれ、今となってはウチ一番のパワー派にして期待の星。

 ここは是非とも頑張ってもらいたいところ。

 ……褒美は後からファナに用意させよう。


「行くぜ、野郎ども!」


「はい!」


「応ニャ!」


「まぁ、野郎はネコ君しかいないけどね」


「そこ、ちゃちゃ入れない!」


 気合を入れつつ軽口を叩き緊張をほぐし合い、

 後から後から現れるゴーレムに向かう。


「まず一体、もらった!」


 テニアの振るうハンマーが顔のない頭部に激突。

 激しい打撃音と共に粉砕された石人形は、

 その場で行動を停止し、後続に踏みつぶされていく。


「こりゃ、結構面倒なことになりそうかな」


 頭の動きに合わせて派手に半円を描くポニーテール。

 

「吾輩も続くにゃ!」


 肉球一発でゴーレムをブッ飛ばすクロ。

 そう言えば、アイツの師匠とやらは素手で大岩を砕くんだったか。

 さすがにその域にまでは達していないものの、我が相棒の戦闘力は折り紙付き。


「じゃんじゃん行くよ!」


「にゃ!」


「参ります!」


「ガオオオッ!」


 そして鋭く槍を突き出すファナ。咆える熊。

 南海諸島の明日を手に入れんとする即席チームと、

 かつての王の最後の悪あがきであるゴーレム軍団の対決が始まった。

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