表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワケあり召喚術士、まかりとおる!  作者: 鈴木えんぺら
第2章 南海の召喚術士
66/128

第28話 南海の少女たち その2


 テニアの立場はファナの乳兄弟兼『海竜亭』の看板娘として、

 主の視界に収まらない市井の情報を適時提供するのが主な仕事。

 さらに、首都最大の宿で荒事稼業の人間を管理することで、

 南海諸島全体の治安維持を裏から行っていたというわけか。

 確かに、これは余程信頼のある人物にしか任せられないポジション。

 本人の宮仕えの資質がどうというのも、どこまで本気かは分かったものではない。


「で、そのあとは?」


 冷めてしまった湯で唇を濡らして先を促す。

 薄明りのもと、ベッドで横になっているファナに目をやるも、

 先ほどとあまり変わらず、目を覚ます様子はない。


「う~ん、ここからあとは推測がかなり混ざるんだけど」


 もう一度確認するけど、ステラは海王からどう聞いてるの。

 こちらも湯を啜りながらテニアが問う。


――ふむ。


 ちらとクロを見れば、何やらよくわかっていない様子。

 前はテニアと二人だけでで話したから、

 クロに聞かせるために、多少面倒だがもう一度話をした方がいいか。

 大切な相棒であるクロが話に不参加というのはよろしくない。


「海王っつーとあのオッサンか」


 豪華に着飾ったいけ好かない男。

 テニアを使ってオレを宿から攫って牢屋に放り込んだ。


「そう、オッサン」


「えっとだな~」


 牢屋の中で聞かされた話を思い出す。

 ……人のことを随分と好き勝手言ってくれたなぁ、あの野郎。

 その辺は今回は省くけどよォ。

 いつかちゃんと借りは返す!

 

「たしか、オレを聖王国に引き渡すとか何とか」


「……それだけ?」


「ああ」


 なんだよそれ~。

 盛大に呆れてひっくり返るテニア。

 長いポニーテールが木製の床にばさりと広がる。

 首をひねりつつ横にころりと転がるクロ。


「一体何があるんにゃ?」


「何っていうか、聖王国の言い分を飲んでステラを引き渡したらどうなるって話したっけ?」


「どうなるってそりゃ……」


 聖王国の重要な戦力であるエオルディアを奪った形になっているわけで、

 おそらく連中はオレから奴を奪い返そうとするはず。

 でも、召喚術は基本的に本人同士の同意が原則。

 外部が何をやろうとも、力ずくでどうにかなる話ではない。

 ということは……


「拷問しても意味ないし……やっぱ、どうにもならないんじゃねって話だったよな?」


「なるって言ってるでしょッ!」


 ガバッと起き上がって迫ってきた。距離が近い。

 間近の顔と肌に気を取られていると、

 ちゃんと話思い出してと窘められる。


「あのね、帝国貴族のお嬢様にして皇子様の婚約者だよね、ステラは?」


「元、な」


「にゃんにゃん」


「そんな要人が聖王国に攫われちゃったら帝国が動くでしょ」


 最悪戦争勃発までありうるって言ったじゃん。

 なんでこんなことを再び説明しなければならないのか、などと愚痴りながらテニアが語る。


「にゃるほど」


 ピンと髭を伸ばして納得した風な我が相棒。


「そう言えば、そんな話したな」


「ご主人……」


 一息ついてから改めて説明されて、ようやくあの時の話を思い出せた。

 個人的にはファナやテニアの考えすぎではないかという気がするけど。

 こちとら帝国を出奔してからもう五年以上放浪を続けている身。

 だいたい皇子の元婚約者なんてのは、適齢期を過ぎたら用なしなわけで。

 今さら戦争してまで取り返すほど価値があるとは思えないんだが、我ながら。


「ダメだコイツ、本当にわかってない」


「ご主人だからにゃ」


「どういう意味だコラ」


「そのまんまの意味にゃ」


 クロの身体をこちらに引っ張り込み、フニフニの頬を左右に伸ばしてみる。

 当方としては、今ので納得できたクロの方が不思議でならない。


「とにかく海王はステラを使って二つの国をかみ合わせようとしてたワケ」


「なんでだっけ?」


「なんでって……うちは海を挟んでるとは言え、両大国に挟まれた小さな島国だからね」


 生き残るためには何だってするんじゃない?

 政治のことはよくわからないと言いつつそう続ける。


「で、それに反対したのがファナ様」


「その辺もう少し詳しく」


「とはいっても、ファナ様は二大国との関係を気にしていたわけじゃないけどね」


 ファナの思考は政治にかかわるものではなかった。

 自分の目で直にオレの人となりを確かめ、問題要素は数あれど邪悪とまでは言い切れず、

 アールスの件については、むしろ被害の拡大を食い止めた功労者と見るべきと判断。


「コイツがそんなこと言ったのか?」


 傍らで眠るファナの顔を覗き見る。

 口を開けば文句ばっかり言うくせに、オレのいないところだと随分とまあ。

 ……へへっ、照れるじゃねぇか。


「まあ……よくわかんないけど、多分?」


――わかんねーのかよ!


 とにかく、オレの身柄を無理やり攫って聖王国に売り渡すという話は、

 ファナにとっては受け入れがたかったということらしい。


「暴力に屈して無法を通すような国は、結局誰の信頼も得られない」


 事実はどうあれ、関係者以外の視点からは、

 聖王国の圧力に屈した南海諸島が、

 渡航者である咎無きオレを無法に攫ったように見えてしまう。


 大国と小国、その関係はただ在るだけで周囲から偏った視点で見られかねない。

 南海諸島が真にあるべき関係を他国と築き上げるために、ファナは海王の方針を許容できない。

 それゆえに海王に物申し――


「傍に仕えていた連中に裏切られて、逃げ出さざるを得なくなり現在に至る」


「ひどいオチにゃ」


 追っ手を振り切って『海竜亭』の乳兄弟を頼ってみれば、間の悪いことにテニアは不在で。

 代わりにオレの姿が消えていることに気付いて大慌てになっていたクロが、

 いきなり襲いかかってきた海王派の兵隊と交戦。

 あっという間に叩きのめしたところでフローラの正体を知り、ともに宿を出た。


「だから、今のファナ様にとっては、アタシも信用できないんじゃないかな」


 自嘲気味にこぼす。


「そういうもんか?」


「どうなんかにゃ?」


 テニアの述懐に顔を見合わせるオレ達。

 

「でも、ファナしゃんが逃げるときに案内してくれたところに、ちゃんとテニアしゃんは居てくれたニャ」


 慰めるように続けるクロに、


「あそこはねぇ、子供の頃に城から脱走したアタシたちがよく遊んだ浜なんだ」


 目を閉じて、当時を懐かしむように。


「それであそこに向かえって言ったのか」


 なんだかんだ言いながら、二人は互いを信じているように見えるけれど。

 ファナのテニアに対する信頼度がもともと高すぎて、今はちょっとだけ下がってる状態か。

 そのほんの僅かな差が二人の間に影を落としている。


「ステラたちが羨ましいよ」


 か細い吐息のような声。

 陽気で煙に巻くような言動が多いコイツも、

 今回の件で、相当疲れている様子。


 他人事ながら哀れになってくる話ではある。

 いや、オレを庇う形になってるから他人事じゃすまされないか。

 正義感の強い(強すぎる気もする)善人が陥れられるのは腹立たしい。

 それがたとえ気に食わない蒼髪女であろうとも。


――何とかなんねえのか。


 心の中に浮かんだ言葉に驚く。

 オレとは徹頭徹尾気の合わないファナに、

 いつの間にか随分肩入れしている。

 ……我ながらかなり意外だ。


「ま、そういうわけで。ファナ様は最近ちょっと落ち込んでるみたいなんだよね」


 こちらの内心に気付くことなくテニアが続ける。


 生まれてこの方十七年、海王代理に就いて二年。

 よく自分に仕えてくれていたと信じていた臣下に背かれて、

 挙句の果てには乳兄弟ともすれ違って。


 今のファナは、これまでの自分の在り方そのものを信じることができなくなってしまっている。

 もともと真面目な性格であるがゆえに、ショックも大きいのだろう。


「なるほどねぇ」


「ファナしゃん、可哀想だにゃ……」


 オレの腕の中から抜け出て、フニフニと肉球でファナの頬を撫でるクロ。

 苦しげに赤らんでいた顔は、だいぶん落ち着きを取り戻している。

 振り向いた視線は『何とかならないのか』と問いかけてくるようで。


「それ、本人には言わないでね」


 いい格好しいなんだから、この子は。

 そう言いながらもテニアの苦笑もまた優しい。


「でも、いつまでもこのままっつーわけにもいかんなぁ」


「そうなんだよねー」


 復活してくれないと困るんだけど、

 急かしてもロクなことにならないだろうし。

 その場のノリみたいな感じで決めてほしくない。


『父である海王に従うか、背いて自分の道を征くか』


 おそらくここはファナの人生にとって大きな岐路になるはずだから、

 腰を据えてしばらく様子を見たいんだよ。


 テニアはそう話を締めて深く頭を下げた。

 その様は、たとえ姿は違えど確かに『姉』であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ