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ワケあり召喚術士、まかりとおる!  作者: 鈴木えんぺら
第2章 南海の召喚術士
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第13話 お仕事の日々、始まります! その2


 あけて翌朝、支度を整えて朝食を頂いたオレ達は、

 島の反対側にある浜辺に案内された。


 黒のビキニ上下に皮のブーツ、

 髪を後ろで括ってショートローブを羽織り、

 杖をつきつつ先導する村民の後について、

 数え切れないほどの往復によって硬く踏みしめられた道をゆく。


「あんたらに頼みたいのはねぇ、干物の見張りなんだわ」


 前を行く初老の男性がのんびりと今日の仕事を説明してくれる。

 村民が主に居住しているのは島の西側。

 その反対側である東側の浜辺では、

 主に島の名産である魚の干物作りが行われている。

 

「見張りですか……泥棒とかいるんですか?」


「泥棒!」


 許せんにゃと息巻くクロは置いといて、ちょっと奇妙な気がした。

 島の人口は過疎とは言わないまでも、それほど多くはない。

 よそ者のオレ達はともかく、島民同士なら大抵は顔見知りだろう。

 外部からの出入りだって、何日かに一度往復する船があるだけ。

 こんなところで盗みを働いても速攻でバレてしまいそうなもの。


「おるよぉ、やっかいなのがねぇ」


 おじいさんがそう言いながら空を指さす。

 その先には、優雅に青空を背景に円を描く海鳥たち。


「なるほど」


 空を舞う怪盗どもからしてみれば、

 地上の人間を出し抜くことは容易かろう。

 長閑な見てくれと現実のギャップが激しい。


「あとはあれやね、熊」


「熊」


 森の中からねぇ、出てきよるんよ。

 熊は大きくて怖いから、年寄りだけじゃどうにもならんの。

 悔しそうに項垂れるする老人。

 

――若い衆がいたらどうにかなるのか?


「大丈夫ニャ!」


 クロが老人の前に回って胸を張る。


「吾輩とご主人がいれば、熊の一匹や二匹楽勝ニャ!」


――楽勝か?


 頭の中で疑問に思うも、クロのやる気を削ぐ気にはならないし、

 爺さんの不安を煽ることもしない。


「最善を尽くしますんで……」


「ああ、ああ、期待しとるでぇ」


 でも、無理はせんといてなぁ。

 怪我でもされたら、えらいことや。

 口から出た言葉とは裏腹に、

 どうにもあまり期待されていない雰囲気。


『む』


――初めてのところじゃよくあること。


 魂の中で機嫌を害したエオルディアをなだめ、


「ご主人、熊狩りにゃ」


「出てきたらな」


 魚を護るために入れ込むクロを押さえつつ、

 しかし実力を見くびられるのは面白くないオレとしても、

 完全否定するつもりはなかった。



 ☆



 向かって左は陽光を反射してキラキラ輝く大海原。

 向かって右は陽光を反射してキラキラ輝く魚の干物たち。

 そして上には……


「3,2,1……『雷撃』!」


 杖の先から発射される圧縮された電撃が青空を走り、

 浜辺に並べられた宝物を奪おうとする不届きものに直撃。


「っしゃ来たー!」


 真っ逆さまに大地に墜落する海鳥。


「やったにゃ、ご主人!」


「晩飯いただき!」


「吾輩、焼き魚希望!」


 落っこちた鳥はクロが颯爽と回収し、そのまま血抜き処理。

 あとは近くの木にでも引っ掛けて帰りに回収する予定。

 再び空を見上げれば、仲間をやられた海鳥たちが少し高度を上げてなおも旋回中。


「珍しくご主人の魔術があたったのにゃ」


 ふっふっふっ


「『珍しく』は余計だよ、クロ君」


 にゃにゃにゃ~

 左右のこめかみを拳骨でグリグリしてやると、

 いやいやと首を振りながら悲しげな声を上げる。


「ふむ、干物の監視と言われたときはどうしたもんかと思ったが」


 今更クロに指摘されるまでもなく、

 オレは魔術、特に『雷撃』はあまり狙いをつけず適当にぶっ放す癖がある。

 速攻と線を利用した制圧を優先した結果だが、命中率が上がるに越したことはない。


 相手が魚を狙う海鳥というのは微妙だが、

 空を舞う小さな的を狙い撃つというのは、

 魔術の訓練としてはなかなか悪くない。

 ついでに仕事も兼ねているので効率的だともいえる。


「いや~大したもんだ、お嬢さん」


 干物職人のじいさんにも褒められた。


「こ~んな若い別嬪さんが来て、大丈夫かいなと思うとったけんど」


「いやいや、それほどでも」


 素直に褒められると、にやける顔を押さえるのが難しい。

 褒められるって嬉しいなぁ。


「あと何羽か落としてやれば、ビビッてどっか行きませんかね、あいつら」


 どうじゃろうのう。

 あやつらにとっても、ここはおいしかろうしのう。

 なかなか逃げんのじゃないか?


 と言いつつも上機嫌なじいさん。

 普段よっぽど海鳥にやられている模様。

 

「ご主人!」


 鋭く放たれたクロの声に上を向くと、新たな魔の手!

 慌てて杖を構えなおして呪文を詠唱し――


「『雷撃』!」


 空を裂く紫電は、しかし垂直落下してきた鳥の脇をかすめて飛散。

 海鳥も魚を手にすることなくコースを逸れて浮上。


「は~ずれ~」


 褒めるとすぐこれにゃ~

 ワザとらしくため息をつく黒猫。


「うるさい!」



 ☆



「とまあ、そんな具合でして」


 目の前で焼けて香ばしい匂いを放つ鳥と魚を眺めながら、

 宿の女将さんに本日の業務報告。

 あのあと更にもう一羽海鳥を落としたあたりで、

 約束の時間が過ぎ、本日の仕事は無事完了。

 持ち帰った二羽のうち、片方を魚と交換し、

 どちらも仲良く火に焙られてパチパチと音を奏でている。


 魔術の訓練に食糧確保、任務達成とよい一日だった。

 あとは晩飯を美味しくいただけば完璧。

 宿の女将さんも上機嫌で料理中。


「そう言えば、あっちは雨が降らないんですね」


 ふと、そんな話題が口を付いた。

 今の今まで頭から抜け落ちていたけれど、

 一日数回、晴れたままいきなり雨が降る南海諸島の天候は、

 魚の干物づくりには致命的に向いてない気がしたのだけれど。


「あっちの浜で雨が降るときはねぇ、こう、黒い雲が湧くんよ」


 もくもく、もくもくと。

 目の前で立ち上がる煙のように。


「へぇ、そうなんすか」


 ちょっと意外な気がした。


「おかしいでしょう?」


――いや、あっちの浜は『普通』の天候なんだ。


「おかしな話もあったもんですね」


「ねぇ」


 微妙にかみ合わないままだが、別に無理して修正することもなかろう。


――島の内側と外側で天候が異なる。一応覚えておこう。


「そんなことより、そろそろかにゃ?」


 ウキウキ気分で焦げ目がついていく魚を眺めていたクロが、涎を垂らしながら聞いてくる。

 鼻はヒクヒク目許はうっとり。全身が小刻みに揺れて喜びを表現している。


「そやねぇ。もうええんとちゃうかな」


 焼きあがった魚は、サザナ島で食したものより小ぶりで、

 女将さん曰く小さな骨が多いらしい。


「ご主人、お願いするにゃ」


「ん~、そいつは頭から丸かじりでいいんじゃね?」


 焼き鳥を口に運びつつ応えると、

 にゃ~と悩む素振りを見せるクロ。

 鳥の方は普通に美味いが、

 せっかく南海諸島で暮らすのならば、

 オレも魚を食った方がいいかもしれない。

 

――鳥はどこでも食えるしなあ。


 手に持った串に刺さった肉を眺めながら思う。

 チラリと隣に視線を向けつつ、


「ほれ、早く食わねーと冷めるぞ」


 その一言にビクッと驚いたようで、

 大きく開いた口に魚を放り込んだ。


――ひと口で食えとは言っとらんのだが……


 無言で口をもごもごと言わせながら魚を味わっているクロ。

 こちらも黙って水を差し出すと、それは飲まずにゴクリと喉を鳴らす。


「は~、美味しいにゃ」


 夢見心地で肘を台に乗せたまま頬をすりすり。


「そうかいそうかい」


 そんなにおいしそうに食べてくれると、嬉しいねぇ。

 女将さんはニコニコ笑って昨日と同じ汁をよそってくれる。


「お前、骨は大丈夫なのか?」


「吾輩の喉は、あの程度では傷つかんのニャ」


「さよか」


 心配無用だったか。

 しっかし、一匹だけじゃ物足りなさそうだな。


――明日はもうちょい頑張ってみるか。


 鳥撃ちもとい『雷撃』の練習を。

 目に見えてわかる成果があると、やる気も出るというもの。


「女将さん、明日も干物の監視でいいんですか」


「ええ、ええ」


 しばらくの間、よろしくお願いしますよ。

 湯気の立つ椀をオレの前に置きながら、

 嬉しそうに女将さんは微笑んだ。

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