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ワケあり召喚術士、まかりとおる!  作者: 鈴木えんぺら
第3章 帝国の召喚術士
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第49話 エピローグ その1


 オレが事の顛末をクロたちから聞いたのは、

 帝都が目前に迫った帰還の途、特別ごしらえの馬車に誂えられたベッドの上。


 身の丈を上回る超魔術『至天槌』の反動はすさまじく、

『奈落の瞳』の消失を確認したあたりで意識を失ったオレは、

 当初サスカス伯爵の城で休養させられていたらしい。

 

 しかし、どれだけたっても一向に目が覚める気配がないオレに、

 レオが帝都に戻って皇帝陛下の看病に当たっているエルフたちに見せることを提案、

 サスカス城で休ませるべきという家臣の反対を押し切って帝都への帰途に立った。


「いや~、ここで目を覚ますなんて、さすがステラ」


 空気読めてないと笑うテニアの顔には安堵の色が広がって。


「よかったにゃんにゃん」


 頬ずりしてくるクロの素直さをちょっとは見習ってほしいと思うのだ。


 なお、この二人とともにダークエルフと戦った魔物たちは、

 みな『奈落の瞳』の討伐後に姿を消した。

 ゴリラとフェアリーが最後まで挨拶すべく残ってくれたらしいが、

 ほかの魔物たちを放っておくわけにもいかず、ともに旅立ったとのこと。

 彼らはこれから『奈落』に食い荒らされた南方の復興のために尽力する。

 たとえ人とは違えども、やらなきゃならんことは変わらないってわけだ。


「ステラが望めばいつでも力を貸してくれるってさ」


「別に気にしてくれなくてもいいんだがなぁ」


 目は覚めたものの、身体を起こすのはまだ一苦労。

 寝転んだまま動くこともままならない。


「ま、もうしばらく休んでなよ」


「そうさせてもらうわ」


『うむ、ゆっくりと休むがよい』


――もし『至天槌』が外れていたら、帝国軍が壊滅してただろ!


 古王朝を滅ぼしたような魔術を使わせやがって、この野郎。

 エオルディアには言ってやりたいことが山ほどあったが、

 結果として『奈落』討伐は成ったわけで、文句も言えない。

 

「そう言えばさ」


「ん?」


「ああ、ステラは知らないだろうけど、あの日ゴブリンが陣地を襲ってきたらしいんだよね」


「ゴブリンが?」


 ゴブリン自体は珍しい魔物ではないが、

 普通あれは戦場に現れることはない。

 基本的に弱いものをよってたかって襲う性質の魔物なので、

 あれほどの軍勢相手に仕掛けてくるという話は聞いたことがない。


「まあ、結局そこにいた兵士たちが潰したみたいなんだけど」


 不思議だよねぇ。

 小鬼の性質を知っているであろうテニアはそう笑うが、


――ダークエルフにゴブリン……もしかして……


 思い出されるのはアールスでの一件。

 大量のゴブリンで街を恐怖に陥れたダークエルフのハーフエルフ。


――リデル……あそこにいたのか?


「ご主人……」


 何か言いたげにこちらを覗き込むクロ。


「クソッ」


 今すぐにでも取って返して調べたいところだが、

 この身体が言うことを聞いてくれない。


「まずは帝都に戻ってゆっくり休むニャ」


「……ああ、そうだな」


――やれることはやったんだ。今は休もう。


 仮に、この身体でリデルに再会したところで、

 何もできないことは確かなのだから。



 ☆

 


 帝都に帰還してからさらに十日あまりが過ぎた。

 南方での勝利を確定的なモノとした帝国に更なる吉報。


『皇帝陛下、回復』


 帝国錬金術士団とエルフの薬師たちの尽力により、

 長らく寝たきりになっていた皇帝陛下が目を覚ましたという。

 迎賓館に籠りっきりでまともに身体も動かせないオレは、

 言うまでもなく直に顔を合わせることはできなかったが、

 皇城に戻ったレオは、実の父である陛下と面会し、

 ここ最近の帝国の事情について詳細に報告。


 本来ならば皇帝陛下が決定すべき後継者問題について、

 霊峰ホルネスにおけるレオとヴァイスハイトとの直接対決で、

 すでに決着がついた旨を告げたとき、皇帝陛下はしばし黙し――


「すまなかったな」


 よきに計らえ、とだけ口にしたという。

 いったい誰に対して、何について謝罪したかはわからないままだが、

 少なくとも次代の皇帝を勝手に決めたことについてお咎めはなかったとのこと。

『守護者』の後押しがあったとはいえ、結構ヒヤヒヤしてたってのは内緒。


 なんで帝国中枢から距離を置いているはずのオレがそんなとこまで知ってるのって話だが、

 こうして久々に迎賓館に訪れたレオが穏やかな口調で説明してくれたってワケ。

 正直言うとまだ身体が怠いので、許されるならベッドの民になっていたいのだが、

 何やら大事な話があるとかで、わざわざ人を迎えるに恥ずかしくない程度の衣装に身を包み、

 未来の皇帝であるレオンハルトを応接室に迎え入れた。


 最近は護衛と称して傍についているクロとテニア、

 レオの肩に停まっている『守護者』には席を外してもらっている。


「まあ、よかったんじゃねぇの?」


「それはそうだけど……ステラの方は大丈夫?」


 心配そうな視線が向かう先は、肩のあたりで切りそろえられたオレの髪。

 妖精の里でバッサリ切った後、帝都で整えてもらった桃色の髪は、

 今や冬の雪原を思わせるほどに真っ白で。


「オレの中にいるドラゴンが言うには、限界を超えた魔力行使の反動ってことらしい」


『奈落』に止めを刺すために使った『至天槌』は、

 本来のオレの実力ではまともに起動しない超魔術。

 使用直後は指先ひとつ動かせないほどに消耗しきっており、

 周知のとおり、ほとんど荷物扱いでこの帝都まで運ばれてきたわけだが。


 夢の中でエオルディアを問い詰めたところ、途中で追加した詠唱の中に、

 人間が無意識的に抑えているリミッターを強制的に解除する術式が組み込まれていたなどと、

 いけしゃあしゃあと宣いやがった。これだからドラゴンって奴は……

 まあ、アレがなければ勝ててなかったのだから怒る筋合いではないのだけれど、

 納得できるかというとそれはまた別の話。


「魔術もロクに使えなくなってるんだが、しばらくすれば治るってよ」


 ちょうど季節は冬に差し掛かる。

 仕事が済み次第帝国とは縁を切ろうかと思っていたが、

 もうしばらくは世話になろうと手のひらを返したところだ。

 この状態で冬の寒空に放り出されたらと考えるとゾッとするね。

 メイドたちが用意した熱い茶を啜る。美味い。


「無事ならよかった。あの時は本当に驚いたからね」


 動けなかった頃の姿を見られているから、何も言い返すことができない。

 帝都に戻る間も、暇ができるたびにオレの馬車に様子を見に来ていたらしい。

 まあ、ほとんどクロとテニアに追い返されてたというのが現実だが。


「ところで、一体どんな魔法を使ったんだ?」


「なにがだい?」


「とぼけんな。皇位継承権の話だよ」


 応接間のソファに腰かけているレオの手には一冊の書物が抱えられている。

 黒地に金と銀の装丁がなされた、言わずと知れた『万象の書』

 それも、皇家に代々伝わる『皇家の書』だ。

 正式に次期皇帝として認められたレオが、皇帝陛下より授かったもの。

 この書物こそがレオが間違いなく次の皇帝であるという何よりの証。


 さっきはレオの話を適当に聞き流していたが、どう考えたっておかしい。

 話そのものは霊峰にて当事者同士でまとめられたとは言うものの、

 皇帝陛下本人や皇后ほか周りの大貴族たちがそんなことで納得するはずがない。

『守護者』が認めたと言えば『はい、わかりました』などと大人しくなるような奴は、

 そもそも権力者なんてやってないわけで。


「ああ、その話ね……」


 目を閉じて、しばらく何を言うべきか迷うような仕草を見せるレオ。

 熱い茶を啜りながら次の言葉を待っていると、

 ややあって――


「その前に、僕の話を聞いてほしい」


 先ほどまでの軽く、それでいて穏やかな口調ではなかった。

 どうやら、真面目な話らしいが……


「……何だよ?」


 居住まいを正し、堅い表情になったレオ。

 ……かと思ったら急に視線を彷徨わせ、

 組んだ両手の指をせわしなく動かす。

 どう見ても思いっきり挙動不審なのだが、

 先を急かしていいような雰囲気でもない。


――さて、一体何だってんだ?


 重苦しい緊張感の中、無言でしばらく時は流れ、

 やがて意を決したらしいレオの視線がオレの顔に固定される。

 その瞳の圧力に、思わずこちらも背筋が伸びて身構えてしまう。


「ステラ、僕と結婚してほしい」


 レオの口から発されたのは、

 とっくの昔に破談になったと思われていた、

 オレ達の婚約――もとい結婚についての話だった。

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