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ワケあり召喚術士、まかりとおる!  作者: 鈴木えんぺら
第3章 帝国の召喚術士
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第25話 帝都への道 その1


 光のトンネルを抜け、再び森の中を駆ける。

 エルフの護衛部隊を先頭に、オレとグリューネルトとその護衛が後に続き、

 さらに後ろを残りのエルフ部隊が固める。


 大人数の進軍になるが、前を行くエルフの先導が素晴らしく、

 一団は森の中でも木や茂みに邪魔されることなく進んでいたが――


「きます!」


 左後方からエルフの声と共に風を切る音。

 続いて軽い音を立てて何本もの矢が木々に突き刺さる。


「なッ……人間どもの法螺ではなかったのか!?」


 今さらなことを口走る声は無視。


「きゃっ」


「お嬢様、こちらへ!」


 護衛騎士に引っ張られるように真ん中に移動するグリューネルト、

 その金髪に向けて飛来する矢を叩き落とす騎士。


「『ヘルハウンド』こい!」


 雨は去り、生い茂る葉の間から漏れる陽光から本日の天候を確認し、

 炎を纏った冥界の猟犬を召喚。

 その背中に乗って杖を構え『雷撃』の魔術をセット。


「このまま速度を落とさずに行きます!」


「……皆殺しの方がよくないか?」


「こちらは戦えない者を抱えておりますので」


 せめて見通しの良い場所に出ることを優先したいとエルフの護衛が口にする。


「了解!」


 ちっと暴れてくるわ、と告げてヘルハウンドを先行させ――


「ブッ込め!」


 溜めていた『雷撃』を前方に拡散。

 数えて十の紫の矢が森を切り裂き、

 向かい来るダークエルフの視界を灼く。


『もう少し狙いをつけてはどうだ?』


 今回も盛大に外れた『雷撃』に、

 胸の奥に座するエオルディアから苦言が出る。


――今は数撃って味方を援護するのが先だろ?


 当たる魔術しか撃たない魔術士は敵にとって脅威にはなりえない。

 ガキの頃にわざわざウチに魔術の講義に来てくれた、

 長年軍に在籍していたという人間が言っていたのを思い出す。


『なるほど……そういう考え方もあるか』


――お前だって結構適当に火を吹いてなかったか?


 アールス戦ではそこら中にばら撒きまくっていた記憶があるのだが。


『あの時は心が荒れていた。本来の我ならば――』


「ともかく説教は後!」


 再び『雷撃』をばら撒いてダークエルフの足を止め、

 その隙をついて仲間のエルフたちが黒マントに矢やら刃を叩き込んでいく。


「最終的に『オレ達』が勝ってればいいんだよ!」


『障壁』で中央の非戦闘員たちを護りつつ、

 近寄ってきたダークエルフはヘルハウンドの爪と牙で引き裂かれていく。

 斥候とハンドサインで連絡を取り合い、一時的にとはいえ前方の敵を排除できたと確認してから、

 中央部に戻って騎士たちと斬り結ぶ黒マントに背後から『雷撃』を叩き込む。

 今度は騎士が足止めしてくれていたおかげで直撃。

 痺れて動けなくなったダークエルフは騎士の一撃で首を刎ねられ、赤い血潮をまき散らす。


「ステラ=アルハザート、あなたはこんなことを繰り返して……」


「ハッ、味方がこんなにいるのは珍しいぐらいだがな」


 グリューネルトの死角から飛んできた矢を『障壁』で防ぎ、

 返しに『雷撃』をお見舞いする。

 体勢が整っていたかった黒マントの胸に紫電の矢が突き刺さり、

 続いて四方八方から矢を浴びせられて倒れ込む。


「ダークエルフ、後方に撤退していきます!」


「前を確保してる。走れ」


 足を止めて襲撃者と対峙していた連中に進軍を促すと、


「ステラ殿、上!」


 護衛の声に頭を上げれば、枝から飛び降りてくるダークエルフ。

 両手に毒の刃。その顔に仮面はなく、嗜虐に満ちた笑みが丸見えで、


「邪魔なんだよ!」


『万象の書』から『証』を引っこ抜き、

 刃を交わしつつその歪んだ口に突っ込んで――


「来い『スライム』!」


「ぐぎゃぼえぇ」


 体内を酸で焼かれ、口から鼻からスライムを溢れさせて、

 転がり落ちる黒い身体。

 すかさずヘルハウンドが首を踏み砕く。


「早くしろ、グリューネルト!」


「わ、わたくし、腰が……」


 目の前の殺戮劇に怯んだか、腰を抜かしてへたり込むグリューネルト。

 護衛が抱え上げようとするが、彼らは貴重な戦力であり、

 お嬢様を抱きかかえたまま戦うというのは無理がある。


「じゃあ、こっちこい」


 現在唯一の騎乗可能なヘルハウンドを寄せてやる。

 二人乗りになってしまうが、コイツなら大丈夫だろう。

 突っ込んでくる奴は『障壁』で止めればいいし。


「え、いや、わたくし魔物はちょっと……キャッ」


「さっさと乗れっての」


「そ、それでは失敬して……あの、この方燃えてますが大丈夫なのかしら?」


「早よ乗れ!」


 おずおずと燻る毛皮に跨るグリューネルト。


「ステラ様、お嬢様をお願いします」


「あいよ。距離開けないように続けよ」


「了解!」


 ダークエルフの第一次襲撃を退け、一行は森の外を目指して再度走り出す。



 ☆



「ひぃ」


 ヘルハウンドにしがみつくグリューネルトの頭の上を矢が走る。

 

『『障壁』を張るのではなかったのか?』


「隙をつかれたんだよ!」


 襲撃されて以来、魔術の連発で、

 魔力的にも精神力的にも厳しい展開。

 エルフの里で貰った薬を飲んでおくべきかもしれない。


『よくない傾向だ』


「お前、今日はずいぶん辛口だね!」


「……随分と大きな独り言ですのね」


 少し声を落とした方がよくってよ、などとこちらの事情を知らずに暢気なことを口走るお嬢様。


「ウルセェっつってんだよ!」


『雷撃』をばら撒きつつエルフたちと連携して第二陣に当たる。

 敵ダークエルフの動きが先ほどと異なる。

 具体的にどこが違うかというと、オレの『雷撃』をまるで警戒してこない。


『当たらないことが露見すればこうなる』


――いちいち狙いをつけてる時間がねぇんだよ!


『だから言っているのだ。目で狙わずに心で撃てと……』


「またそれかよ!」


「だからどなたと……」


「オレの中にいるドラゴンが色々口出ししてくんだよ」


「あら、まあ」


 変わった知り合いがおられますのね、などとコイツときたら……


『そもそも犬の使い方がよくない』


 こ奴は単騎で駆けさせて、敵陣を切り裂く手札だろうに。

 エオルディアが召喚術にまで口出してきて――


「ホントに今日はよくしゃべるな」


『猫たちがおらぬのだから、我が契約者に助言をするのは当然である』


 何が当然なのかはよくわからんが、コイツの中では理屈が通っているらしい。


「しょうがねぇだろ、脚代わりになるのがコイツしかいないんだから」


『日頃の研鑽不足』


「お前……辛辣すぎない?」


 ガインと耳障りな音が『障壁』を擦り、口げんかは中断。


「なんだ、なんも見えなかったぞ?」


『精霊術だ』


「精霊術?」


『ダークエルフはエルフの同族。精霊の力を借りることができても不思議はなかろう』


「そういうことはもっと早く言ってほしかったかも!」


 不意の一撃は、たまたま『障壁』で防げたからよかったものの、

 アールスの街でリデルから喰らったような不可視の拳に晒されるとあっては、

 こちらから撃って出るのは難しい。

 ただでさえ足を止められない局面なのに、

 どこから来るかわからない精霊術に対抗するのは厳しい。


「敵に精霊術があるぞ!」


「何っ!?」


 味方に警戒を呼び掛けてみれば、

 いち早く反応するのは集落でオレをからかってくれた族長の孫。


「ならば技比べと行こうではないか」


 耳慣れない言葉と共に風が吹く。

 どうやら奴も精霊に呼びかけたらしく、

 森の中がこれまでとは別質の騒々しい空気を孕む。


「若は集落屈指の精霊術の天才です。お任せくだされ」


 騎士とともに中央の守りに徹してきたエルフが誇らしげに語る。


「……精霊術ってエルフなら誰でも使えるわけじゃないのか?」


「逆にお聞きしますが、人間は誰でも魔術や召喚術を扱えますかな?」


「そういうもんか」


「はい」


 説明を受けている間も敵ダークエルフの攻撃がやまない。

 どうやら実際に精霊術を扱える奴は殆どいないようで、

 どちらが支配しているものかはわからないが、見えない風礫に殴られて仰け反る奴も見える。

 すかさず『雷撃』をブチ込んで痺れさせるが、続く矢は風に逸らされて当たらない。


「め、めんどくせぇ」


 どこにいるのかわからない敵術士と精霊術で争っているようだが、

 風の吹きぶりで『何かあったな』と感じることができるくらい。

 森の風の支配権をとった方がこの場の優位を奪えるみたいなんだけど――


「見てもわかんねぇな……」


『確かに』


 伝説に残るほどのドラゴンにも分からない様子。


「な、何が起こってますの?」

 

 震えるグリューネルトの声に応える間もなく、


「そこを狙え、人間!」


 族長の孫の声とともに大きく茂みが揺れる。

 咄嗟に構えておいた『雷撃』を一本放ってみると、

 風が味方の側から敵の側に強く吹き始める。


「ハァッ」


 グリューネルトの護衛が茂みに剣を叩きつけると、

 隠れていたダークエルフが頭を潰されて転げ出てきた。


「これで風は我々のものだ!」


「よくわかりませんが、さすがですわ!」


 敵はここまでの戦いで消耗し、

 さらにリーダー格である精霊使いを失い、

 戦いの趨勢は大きくこちらに傾いている。


「よし、残敵を掃討しつつ突っ走るぞ!」


「「了解」」


 再びエルフに先導されながら森を進む。

 徐々に周囲の光が増し、森の境が近づいている。


「森を出たら待ち伏せ注意。背後からの奇襲にも備えろ!」


「おう!」


 幾つもの傷を負いながらなおも血気盛んな男たち。

 彼らに守られながら、エルフの領域を突破する。


 空は青く、視界は広く。

 目の前には整備された街道が走っている。


「どの辺だ、ここ?」


「き、北へ向かってくださいな」


 へばりついていたグリューネルトの声。


「北?」


 空を見て太陽の位置を確認すれば方角ぐらいはわかる。

 街道は南北に走っているようなので、このまま道沿いに進んでいけばよいのだろうが――


「北に何があるんだ?」


「……えです」


「聞こえない、もっと大きな声で!」


「わたくしの、サスカス家の領都に続いていますの!」


 なるほど、この辺はコイツの地元か。

 一気に帝都まで駆け抜けることは難しいのだから、

 サスカス家の助力を受けるのは妙案だ。

 オレにしたって、グリューネルトの脚代わりにヘルハウンドを呼びっぱなしにすることはできない。


――休息は……必要だ……


「みんな、北へ向かう!」


 警戒しつつ続け!

 隊列を整理して街道を北へ向かうこと数時間、

 見えてくるは石造りの街。


「よし、あそこで一休みだ。最後まで気を抜くなよ!」


「「了解!」」

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