3、「これは、アタシの作品じゃないぃぃっ!」
3、「これは、アタシの作品じゃないぃぃっ!」
*
橘なるは多忙を極めていた。参加しているサークルでは自企画『明星のチューリングマシン』のゲーム制作が延期されてしまったが、それもよく考えると、ちょうど良かったかもしれない。この忙しさの中でゲーム制作の監督指揮を執るとなっていたら、倒れてしまってもおかしくなかった。
大学四年の後期ともなれば就職活動も一段落したものが大半だが、その代わりに卒論論文の執筆に時間を割かなければならない。卒論のテーマとして選んだ司馬遼太郎に関しては、各地の図書館を巡り、書き上げるのに必要なだけの資料は収集し終えている。特に、『ロボつく』の短編アニメ制作に関する打ち合わせで東京へ行けたのは僥倖だった。地元では入手できなかった文献が国会図書館にあり、研究を大きく進めることが出来た。教授から好評価を得ているようであるし、まとめ上げれば良い出来になるだろう。ただ、まだ内容に不足があるので、その詰めの作業はしなければならない。論文も四〇ページ以上が必要であるから、加筆にどれだけかかることだろうか。
もちろん、『ロボつく』関連の宣伝活動もしていかなければならない。『明星のチューリングマシン』は三分程度の短編アニメ制作が決定しているとはいえ、最終選考で勝てなければその後に控えるテレビアニメシリーズ化はできないのだ。現在、『ロボつく』の短編アニメ化まで進んでいる企画は『明星のチューリングマシン』の他に、『SMプロジェクト』『ジェットストリーム!』『eternal force blizzard』『Star Carriage――星の乳母車』の四つがある。その中で、テレビアニメシリーズ化が出来るのは、たった一作品だけ。三月にネット上で各作品の短編アニメを公開し、再生数が一番多い作品が選ばれるという選考方式だ。いずれも各企画者の趣味や嗜好が前面に押し出された作品だが、幸いなことに事前評だと『明星のチューリングマシン』が頭一つ抜けている。それもこれも、橘自身の積極的な宣伝広報活動と、メカニックデザインに選出された千子村正の美麗なイラストのおかげだろう。
ちなみにキャラクタデザインについては、いずれの企画も選出されていないのであるが、『明星のチューリングマシン』では原作者である橘がデザインしたイラストが使われる方針になりそうである。いや、本来は原作者といえども公募で落選した(『ジェットストリーム!』の企画者はメカニックデザインに自ら応募し選出されているのに対し、橘は自企画のキャラクタデザインに応募しながらも落選した)のだから、それは横紙破りも良いところなのだろう。実際、SNSのフォロワーであったぬんさという作家に「それはズルい」と言われている――ちなみに不愉快だったので彼(彼女?)のことは即日ブロックした。そう、自分の希望や要望を主張しないで、どうして原作者だといえるのだろうか。作品は自分の子供も同然なのだから、自分の思うような形にしてやって、当然ではないか。そして、ゲーム制作サークルでの活動でも、それらのことを痛感することは多い。親は、子供のことを好きに出来るものなのである。
「本当、エターナルさんは、すごいなぁ……」
今でこそ『明星のチューリングマシン』のゲーム制作は延期されたが、それでも第一話のシナリオは完成していたのであるし、キャラクタデータや立ち絵などは最低限のものができあがっていた。そのため、せっかく作った部分については形にしておこうということで、エターナルが第一話を完成させてしまったのだ。戦闘バランスなどは全く調整していないので、あくまでも『最初から最後まで動く』という程度の完成でしかないが、戦闘前シナリオはかなりのボリュームで見応えがある。さらにエターナルの絶妙な演出調整のためもあって、自分の『明星のチューリングマシン』という作品に命が吹き込まれたのだということを肌で感じることが出来た。
ただ、エターナルの加えた演出はどれも素晴らしかったものの、彼女の言うところの『ADVパート』はイメージと少し異なったので外してもらった。彼女の意見としては『明星のチューリングマシン』のシナリオは量も質も優れているものの、プレイヤの中には『シナリオが長いとボタン連打で飛ばす』という人種が一定層いるということで、そうした人々に読ませるための工夫ということらしい。たしかに、その意見には橘としても納得せざるを得ない部分はあった。ただ、橘としては「そういう人々のことを考慮するよりも、自分のイメージに近づけることを優先したい」という考えだ。エターナルも「これはどちらが絶対的な正解という問題でもないので、監督である橘さんの言うとおりにしますね」と、割とすんなり受け入れてくれたのである。
ちなみに件のADVパートはエターナルからの提案だったが、全体的に見れば橘からの提案の方が多かっただろう。ゲーム制作ツールであるSGCの貧弱で旧時代的なメッセージ表示機能の改良を最初に提案したのは橘であったし、エターナルがネット上から拾ってきたプラグインの各種仕様変更を提案したのも橘だ。メッセージウインドウのデザインや配置なども、ピクセル単位で細かく調整を依頼した。さすがのエターナルも「さすがに無理かも知れません」と言葉を濁した要求がいくつかあったが、それでも彼女は多くの要求にこたえ、中には一度無理だと言いながらも「執念深くやったらできました」と一ヶ月後に報告してくれることさえあった。そうして期待にこたえてくれるからこそ、橘も「背景切り替え方法、緞帳が下りるような演出にできませんか?」「ユニット編成画面のレイアウトって変更できませんか?」などの要望を多く出し、エターナルはそれらもまた実現してくれるのだった。
それだけ良くしてもらったからこそ、橘はエターナルの企画である『機兵少女フリージア』のイラスト担当を打診されたときには快諾した。ゲーム制作以前から、エターナルは『明星のチューリングマシン』の長編小説を仕上げてくれたりと、『チュリマシ』の世界観を広げてくれている。正直、やるべきことは山のようにあるが、立ち絵イラストを数点であれば何とかなるだろう。ただ、そうして数多くの恩があるからこそ、いい加減な仕事は出来ない。ただ描くだけであれば、一ヶ月で着色まで済ますことも可能だが、それでは彼女の行ないに報いているとは言いがたい。自分の持っている全てを出して、彼女の期待にこたえなければならないと橘は思っていた。
『初期のプロットより、大幅に登場人物を減らしています。決定したものについてはこちらの掲示板の固定部分にまとめておきますので、確認してくださいね』
エターナルが『機兵少女フリージア』の制作管理をするスレッドにそんな書き込みをしたときには、だからこそ念入りに確認したつもりだった。
どうやら第二章に繰り上げられた都合で、『機兵少女フリージア』は内容的にも登場人物的にも、大幅なカットがされているらしい。それまではメインヒロインである十六センチメートルの機兵少女フリージア以外に、複数体の機兵少女が設定されていたのだが、そのほとんど全てがカットされている。『ロボつく大戦(仮称)』は名称の通りメカ作品なのだが、こんなにカットして大丈夫なのだろうか――ふと、そう思ったものの、彼女がそれで良いというならそれで良いのだろう。エターナル・ミキという人物は、言うべき事ははっきりと言うのだから、どうしても許容できないことがあれば声を上げるだろう。
今のところ、『機兵少女フリージア』で登場が決定しているのは、主人公のリョウとヒロインのフリージア、そしてサブヒロインのイサミの三人(二人と一機)である。『弾痕のメタファー』では四人のキャラクタを描いたということを考えると、あとひとりぐらいまでは許容範囲といったところだろうか。ただ、フリージアに関しては『衣装を切り替えて性能を変化させる』という仕掛けがあるので、差分イラストが必要だろう。そのことを考えると、もしかしたらこれが限度かも知れない。もっと増えたとしても、描けないことはないとは思うが、おそらくその場合は手が回らずに完成度が下がることだろう。
ともあれ、今は決定しているものについてだけデザインを始めることにする。幸い、フリージアについてはエターナル自身がイメージイラストを複数描いているので、それを参考にすれば良さそうだ。主人公とサブヒロインのリョウとイサミについては、完全新規のオリジナルデザインにする。
『現在、『弾痕のメタファー』が完成し『機兵少女フリージア』の制作が順調に進んでいますが、皆さんお忙しいためか第三章として制作開始できる作品がない状況です。しかし、だからといっていつまでも完成を延期していては、ブラッシュアップ作業を続けている『メタファー』や『フリージア』の制作陣に長期の負担を強いることになります。そこで、短期間で確実に制作できる企画をボクが立ち上げて第三章とし、『メタファー』『フリージア』と合せて三章構成の『ロボつく大戦(仮称)前編』として公開してしまいましょう。そして、完成を来年の一月、公開日を来年の三月と期限を切ってしまいます。なお、そもそも十章構成を前提としていたのですから、他の作品は順次『中編』『後編』として三作品ずつパッケージングしてリリースしていく方針です』
リーダのロックがそんな宣言をしたのは、橘がキャラクタデザインを始めてすぐのことだった。今が十一月下旬だから、イラストの完成期限は二ヶ月あるかどうかといったところだろうか。ただ、十二月は『明星のチューリングマシン』の宣伝のために冬コミ出展する予定なので、そちらの締め切りもある。実質的に、潤沢に作業時間が取れるのはその後、一ヶ月弱である。そう考えると、少し急がなければならないだろう。
橘は『弾痕のメタファー』のキャラクタイラストも担当しており、あちらも本来はもう少しブラッシュアップが必要だ。優先順位は迷うところだが、さて、どうしたものだろうか。しかし、こうしてみると『明星のチューリングマシン』のゲーム化が延期になっていなかったら、もっと大変なことになっていただろうことが分かる。大幅に内容をカットするか、どこかしらで妥協しなければならなかったに違いない。あるいは、以前のスケアクロウのように、周囲に罵詈雑言を撒き散らして遁走することになっていたか――橘は彼のことがあまり好きではなかったので、一度、SNSでブロックしたことがある。お互いこのサークルに所属した際は「操作ミスでブロックしてしまっていたみたいです」と言って一端はブロック解除したのだが、やはり言葉遣いが乱暴だということもあるので、あまり近づきたい相手ではない。
しかし、リーダのロックも、なかなか性急な決断をしたものだ。ただ、ロックはゲーム制作経験もあるようだし、彼女が強くそう言うからには意味のあることなのだろうとも納得する。そういえば、以前、SNSでエターナルも「ゲーム制作を初めとした各種プロジェクトは開発期間が伸びると加速度的に頓挫しやすくなる」と言っていただろうか。制作開始が八月であるから、三月リリースなら五ヶ月。それが長いのか短いのか、橘にはよく分からないが、ロックやエターナルは長いと判断しているということなのだろう。
とにかく、今はただイラストを仕上げるだけだ。そのことを自分に言い聞かせ、橘はペンをとった。
*
●テコ入れが必要だと思われます 発信者:ロック
先月完成した『弾痕のメタファー』ですけれど、早期完成を目指したため、内容的に詰め込めなかった部分も少なからずあると思います。
そのためのブラッシュアップ作業が必要だというのは以前も言ったとおりですけれど、ここでボクから提案がいくつかあります。
まず、『弾痕のメタファー』『機兵少女フリージア』『KUMA-SAN部隊(※現在制作中のボクの企画)』のクロスオーバーシナリオを作りましょう。
このクロスオーバーシナリオで中核を担うのが、第一章『弾痕のメタファー』であり、そこに徐々に『フリージア』『KUMA-SAN』が参入するという形です。
そもそも、エターナルさんは『フリージア』の、ボクは『KUMA-SAN』の作業がまだ残っているので。
ここは作業に余裕がある照月さんに、是非とも中心となって制作を進めていただければと思います。
また、シミュレーションRPGというマニアックなゲームの導入となるよう、第一章の前にチュートリアルマップを作りましょう。
そしてこれについても、『弾痕のメタファー』のプレシナリオとしてまとめていただけたらと思います。
チュートリアルの内容についてはボクやエターナルさんがまとめますので、照月さんにはシナリオをお願いいたします。
グループウェア掲示板の書き込みを読んで、照月は燃えていた。クロスオーバーシナリオを作るとなると、いよいよもって『スパロボ』のようではないか。今までは思うようなシナリオが書けず、思うようなシステムが実装できず、「これは何かが違う」と思いながらもそれが言葉に出来ず悶々としていた。だが、そのロックの書き込みを見て、彼女の脳細胞は通常の三倍近く活性化した。
そう、これだ、これが自分の作りたかったものだと奮起し、超特急でプロットを立てた。キーボードを打つ手が止まらない。いや、むしろ彼女の意志に反して指の動きはあまりに遅く、ままならない体に苛立ちさえも憶えた。それでも何とか書き上げると、なかなか悪くない出来だった。それこそ『弾痕のメタファー』の企画書を書き上げたときと同じぐらいの高揚感があり、達成感があった。念のため、リーダのロックに見せる前に他人に確認してもらったが、その人物からも好評価をもらえたので独りよがりな自己満足ということもないだろう。
そうしてプロットが完成したことをロックに報告すると「それでは、明日、エターナルさんも交えて監督三人で会議をしましょう」ということになった。照月としては、興奮冷めやらない中、本当は今すぐにでも会議をしたいところだった。ただ、さすがに全員の都合が合うわけもないかと思い直し、何とかワガママを言うことはこらえる。だから殊勝に「はい、了解ですっ!」とだけ返し、今日は床につくことにした。ただ、やはり会議のことを考えると寝付けず、父から処方された精神安定剤を二錠ほど飲み下す必要があった。
翌日、目が覚めてから会議の時間になるまで、始終ソワソワとしていた。精神修養のために通っている古武術道場でも気がそぞろで、師範代からは「気が乱れている」と厳しく叱責されてしまったが、それもこの高揚感があれば気になることではなかった。それぐらい自分のまとめたプロットに自信があったのだし、これなら市販のゲームとも遜色ない――いや、それを超えるほどの物語になると確信していた。
「うーん、これはダメですね」
だからこそ、ロックのひとことは衝撃だった。
いざ会議が始まり、プロットの趣旨を立て板に水のごとく説明し終えた照月に対して、彼女はばっさりと切り捨ててきたのだ。
「あの、ダメって、どこがダメなんですか? アタシ、これ、すっごく自信があるんで。正直、自分じゃ、どこに問題があるか分からないというか……」
「話としては、悪くないとは思います。ただ、照月さんのプロットだとボクの『KUMA-SAN部隊』の登場人物、ヒロインの兄であり行方不明であるキュウが出てきているのですけれど……ボクが想定しているキュウはこういうキャラクタではないのですよ」
「あっ……」
ロックに指摘されて、照月はすぐさま己の失敗を悟った。興奮すると言葉が止まらず、少々エキセントリックな発言や行動でしばしば他人を困惑させてしまうことの多い彼女だが、それは彼女の頭の回転が速いことに起因している。そしてだからこそ、相手の意図に気付きさえすれば、理解するまでは早い。
サークル代表の言葉を聞いて、彼女がすぐに連想したのは、彼女の好きな仮面ライダーの平成シリーズ第十作目『仮面ライダーディケイド』だった。これは主人公の仮面ライダーディケイドが、それまでの平成ライダーシリーズの各世界を旅するという趣旨の話である。しかし制作の都合上、各世界は本編とは異なる設定のパラレルワールドとなっている上、『仮面ライダーディケイド』という作品自体の完成度を優先した結果、各作品の本当に大切な要素が壊されてしまっている面が多々あった。照月も大筋では『仮面ライダーディケイド』という作品を認めているが、大好きな『仮面ライダーBLACK』におけるシャドウムーンの設定改変だけは許せなかった。
そう、今回、照月がしてしまったこと。それは、作品の完成度を高めることを優先して、元作品の大切なものを壊してしまう行為に他ならないのではないか。それも『仮面ライダーディケイド』の場合は公式が公式の設定を破壊したという、いわば自分が責任を負える範囲での破壊だったのに対して、照月がやったのはロックの作り出した大切な世界を他人である照月が壊してしまうという行為だ。
「あ、あの……。そ、それは、えぇと……」
「あと、ボクが気になっているのが、もう一点。これ、『機兵少女フリージア』の物語中盤で死ぬことになっているヒロインが、クロスオーバーシナリオだと『歴史改変された』ということで生き返っていますよね」
「あっ、それは、『スパロボ』とかでもあるじゃないですか! ほら、別ルートをとることで、原作だと本当は死んでしまうキャラクタを救うことが出来るって。正直、『スパロボ』とかをやっている人って、そういうのが見たくてプレイしている人っていうのも相当数いるんですよ。だから、これは是非とも入れたいなって思っていて!」
「……でも、エルさんとしては、これ、許容範囲でしょうか?」
「あっ……。あ、あの、でもでも、これは……」
「照月さんには、聞いていません。……エルさん、どうですか? 少なくとも、ボクは『フリージア』のシナリオを書かせてもらっているとき、このキャラが死ぬことそのものに意味があると思っていたんです。なので、例えクロスオーバーであろうと、生き返るのはマズイ気がするんですけれど」
「彼女は……イサミは、『機兵少女フリージア』という話の構造上、何がどうなっても必ず死ぬように出来ているんです」
会議が始まってからここまで、エターナルはずっと発言してこなかった。
それこそオフ会では誰よりも饒舌に語っていたはずの彼女だというのに、この会議が始まってから、気味が悪いぐらいに言葉を発していなかったのだ。
そしてだからこそ、その言葉には重みがあった。
「それというのも、彼女、本来は別の作品の主人公なんです。そして、主人公の三村良というのも、メインヒロインのフリージアも本来は別作品の主人公だったものを引っ張ってきているんです。それでも、フリージアとリョウの組み合わせは、まだ良いのです。あるいは、フリージアとイサミの組み合わせも、問題ありません。ただ、リョウとイサミという組み合わせの場合、これは不味いんです。その二人がずっと並立していると、『機兵少女フリージア』という物語は、構造上、必ず破綻するんです。どちらかが死亡しないと、物語が崩壊してしまうのですけれど……でも、リョウは主人公であるから殺すことが出来ません。だから、イサミは例えどんなことがあろうとも、『機兵少女フリージア』の話の中では死ぬんです。これは揺るぐことがない、確定事項なのですよ」
エターナルの言葉は長かった。
今まで沈黙していた分を吐き出すかのように、息継ぎをすることもなく言い切る。
それからしばらく、照月もロックも何も言えない。
「……じゃあ、やっぱりイサミを生き返らせるわけにはいきませんね」
ただ、しばらくの沈黙が続いて後、ロックがようやく絞り出したその言葉がとどめとなった。
そしてエターナルはそれ以上、何も言わなかったのであるし、照月も言いようがなかったのである。
*
SNSのフォローユーザ一覧から照月が消えた。雁間がそのことに気付いたのは、登校途中のバスの中でのことである。今朝はSNSのタイムラインが物静かで、何か物足りないなと思っていたのだ。少し不審に思ってタイムラインを遡っていたら、フォロワーのひとりが「照月さんが消えた」と書き込んでいた。そして雁間がフォロワー一覧を眺め渡してみたら、たしかにフォローユーザからもフォロワーからも照月の名前が消失していたのだ。
さらに別のフォロワーが「照月ハルヒの消失www」などとくだらないことを書き込んでいたものの、それよりも妙な胸騒ぎが勝った雁間はグループウェアを開き、参加メンバ一覧を確認していた。しかしメンバ一覧には照月の名前はなく、彼女が書き込んだ掲示板の発言の部分には『退会したユーザの書き込みです』という、無味乾燥な表示があるだけだった。
何故――それが、雁間の脳裏によぎった言葉である。これが『弾痕のメタファー』の制作中に起こっていたということなら、まだ分かる。他のメンバと意見が対立して、原作者である照月が「お前らとは一緒にやれない」と叫ぶのなら、十分に想定可能な事態だ。あるいはシナリオが書けなくて逃げたというのなら、分からないでもない。ただ、『弾痕のメタファー』は既に完成しているのだ。逃げる意味もなければ、誰かと意見対立するはずもない。
いや、もしかしたら話題に上がっていたクロスオーバーシナリオの件だろうか――その可能性も考えたものの、それも合点がいかない。それというのも、一昨日、照月はクロスオーバーシナリオのプロットを立て終え、かなりの自信を示していたのだ。実は、雁間は先日、個人的にそのプロットのテキストデータを照月から渡されている。「ロックさんたちに見せる前に、ガンマ君に確認してもらいたい」と。そして、雁間はそのプロットが『弾痕のメタファー』本編に勝るとも劣らぬ完成度を誇っていることを、この目で確認したのだった。
ちなみに雁間と照月は『ロボつく大戦(仮称)』の中では直接的な関わりはなく、それ以前の『ロボつく』企画募集のときにも雁間は『弾痕のメタファー』には作品を応募していない。ただ、接点が少ないからこそむしろ気兼ねなく接することが出来るらしい。そのためか最近、雁間は照月に絡まれることが多かった――というよりも彼女の性格上、ある程度親しくなるとむしろ意見が対立し、誰もが喧嘩別れしてしまう『人気のドーナツ化現象』があるのだが。
そうだ、彼女はあれで案外血の気が多いというか、感情的になる部分がある。感情を抑え、やりたいこともやりたいと言い出せないことが多い雁間とは、まるで正反対の性質だ。だからこそ、普通の人であればなんとか溜飲を下げるべきところで、彼女は激高してしまう。SNSでのやりとりを見ていると、彼女は何度も、そして何人ものフォロワーとの関係が破綻していたではないか。大多数の人間と同じ尺度で考えれば不可解だとしても、彼女の性質を考え合わせれば、何が起きても不思議はない。
何か、ひとことでも掲示板に書き込むべきかとも思った。ただ、照月が何を切っ掛けとしてこんな行動に出たのか分からない中では、迂闊なことを言うと混乱に拍車をかけてしまうかも知れない。そう思ったので、雁間は静観することにした。まだ、誰も書き込みはしていないようであるし、それを見てからでも遅くはないだろう。そう思い、彼はスマホを鞄にしまった。
何よりも、今日は二学期末試験の日だ。最悪、今後の進路にも関わってくるのだから、余計なことに気を回している余裕はない。そうして気持ちを切り替えたところで、バスは「工業高校前」とアナウンスを流し始めたので、彼は慌ててボタンを押し、降りる支度を始めるのだった。
●何ですか、これ? 発信者:スノー・クロック
この二ヶ月、仕事が多忙でこの掲示板も全く確認できなかった状況なのですけれど……何ですか、これ?
照月さんが『退会したユーザです』って、何? 何があったの?
えっ? 何でエターナルさんの『機兵少女フリージア』が、第二章になっているんですか? まあ、これは以前から形になっていたんで、良いですけど。
でも、『KUMA-SAN部隊』が第三章とあるんですけど、こんな企画、今まで影も形もなかったですよね? ゲームとして形が出来ていたのでプレイしてみましたけど、クソつまんないですし。
『明星のチューリングマシン』の件は了承しましたけど、第三章って僕がシナリオで参戦する『おもてがわ企画(仮称)』じゃなかったんですか?
大体、えーるさんの『逆転勝機ブリュンヒルデ』の方が、エターナルさんのより優先度高かったのに、何で?
そもそも、『おもてがわ企画(仮称)』のスレッドが消滅していますし、何で? 僕のやること、なくなっちゃいましたよ?
クロスオーバーシナリオって、何? チュートリアルシナリオ? 聞いたこともありませんね。
三章をまとめて、『前編』にする? 一月に完成して、三月にリリース予定?
そういう大事なこと、僕、何も聞いていませんよ。
ああ、そうか。僕が完全にアクセスできないでいる間に、こういう無茶苦茶な状況になっていたんですね。
それで、照月さんも抜けたんですね。
そういうことが出来るんだったら、じゃあ、僕も抜けようかなぁ。
●ちょっと待ってください! 発信者:ロック
ちょっと、発言は慎んでくれますか、スノーさん。
とにかく、今、対応しているところですので!
●発言するな……ですって? 発信者:スノー・クロック
対応しているって、何ですか?
何で、僕が発言しちゃいけないんです?
僕は変だと思ったことを変だと言っているだけで、その発言を、どうして封じようとするんですか。
僕に発言されちゃ、何か不味いことがあるからですか?
そんなことよりも、僕が疑問に思ったこと、ちゃんと説明してくださいよ。
一応、僕もこの掲示板のログを辿って、流れは見たつもりです。
でも、それがさっぱり分からない。
むしろ、時折ある「ネット会議をします」というところで色んなことが勝手に決まっていて、それが周知されることもなく決定事項として進んでいる印象です。
ログを見る限りだと、エターナルさんが「会議報告がないので、短くても良いので全体周知のためにまとめてくださいね」と書かれています。
でも、会議とやらが開かれた後の書き込みを見ると、それもされていないことばかりなんですよ。
件のエターナルさんについては、『機兵少女フリージア』などの会議で決まったことをまとめているようですから、それはちゃんと飲み込めるんですけれど……。
ロックさん、アナタが主催した会議は半分ぐらいが報告皆無で、報告があっても全て断定口調で書かれて反論の余地がないんです。
たしかに、以前、僕はロックさんと照月さんが口論になったとき「リーダ権限を使え」というようなことは書きましたよ。
でも、それは決して「暴君になれ」と言ったわけじゃない。
他の人たちの迷惑になるヤツがいたら、リーダとしての権限で事態を収拾しろという意味です。
なのに、今のアナタのやりかたは、まるきり独裁だ。
●だから、 発信者:ロック
事態を収拾させているときなので、口をつぐんでいてください!
●あっ、そう 発信者:スノー・クロック(退会したユーザです)
ふーん、やっぱり、そうやって意見を押さえつけるのがアナタのやり方だったんですね。
分かりました、じゃあ、抜けます。
期末テストの一日目が終わり、時刻は正午となっていた。
主要な理系科目も半数が終わり、これで一山越えたことになるだろう。
そう思い、スマホでグループウェアを開くと――そこに広がっていたのは、今朝よりも酷い状況だった。
「えっ、何で……?」
間が悪いというのは、まさにこのことを言うのだろう。ここ二ヶ月、私生活の関係でSNSを初めとして一切の連絡がなかったスノー・クロックが復帰したこと自体は、本来なら喜ばしいことである。それというのも雁間がメカイラストを担当する『おもてがわ企画』のシナリオ担当者がスノー・クロックであり、彼の帰還は本来、停滞していた企画を再始動するのに不可欠なことであったのだから。
それなのに、よりにもよって何故この時期――照月が謎の消失をした時期だというのだろうか。あと一日前であれば、おそらく何の問題もなかっただろうに。いや、あるいはロックの書き込みを見る限りでは今日明日中に事態の収拾は出来るような口ぶりであるから、あと一日後であったとしても良かったかもしれない。それなのに、どんな運命の悪戯なのか、この最悪の時節に彼は帰還してしまった。
スノー・クロックの立場になって考えてみれば、確かに、これは衝撃的だっただろう。前後の事情をある程度知っているつもりの雁間でさえ、照月の消失は寝耳に水で、先行きに不安を覚える事態なのだから。それが、ここ二ヶ月ほど全くアクセスできず、前後の状況が分からなかったとあればどうだろうか。それもスノー・クロック自身が言っているとおり、まるで「お前はいらない」と告げられでもしたかのように、本来なら自分が参加するはずだった企画が後回しになっている。また、ここ二ヶ月の間にエターナルやロックが急ピッチで『機兵少女フリージア』や『KUMA-SAN部隊』を仕上げてプレイ可能な状態までしていたが、その結果として『ロボつく大戦(仮称)』は二ヶ月前に予定されていたのとはまるきりの別物になってしまっている。
加えて、ロックの書き込みも不味い。おそらく、現在進行形で照月の説得か何かに当たっていて、神経質な彼女を刺激したくない状況なのだろう。そしてスノー・クロックが言葉を書き連ねるものだから、それが説得に悪影響を与えているのだ。だからこそ、「少しの間だけ、黙っていてくれ」と言いたいのだろうが――ロック自身も余裕がないから、どうしても掲示板への書き込みに余裕がなくなって、誤解されてしまうような言葉を選んでしまっている。
「こういうとき、いつもならエルさんが間に立ってくれていたけど……。もしくは、薩摩さんでも……」
以前、ロックと照月とスノー・クロックが口論となったとき、間に立って諫めた人間のひとりがエターナルでもうひとりが薩摩隼人だった。あるいは、スノー・クロックと橘なるが口論となったときも、それを諫めたのはエターナルである。そしてどちらの時も、エターナルは中立公正を心がけながらもスノー・クロック寄りの仲裁をしていた印象がある。以前のオフ会でも薩摩やロックを賞賛すると同時、「ワタシはスノーさんがいてくれて非常に助かっているんです」と、スノーを賞賛する言葉も口にしていた。その意味では、是非とも、ここで仲裁役になってほしいところだった。
しかし、彼女は「十二月から三月にかけて多忙になる」とSNSでも言っていた。そして実際、今までは誰かの発言に対して即日返信していたはずの彼女は、十二月に入ってからは返信遅れが目立つようになっている。それこそ、最近では「返信が遅れましたけれど」と頭につけることが多い。彼女の職業がなんなのか、雁間は聞いていない。ただ、どうやら彼女が今まで凄まじい速度で作業が出来ていたのは、たまさか仕事が暇な時期だったかららしい。そして薩摩隼人も仕事が忙しいのだろうか、ここ最近はグループウェアの掲示板でもSNSでも、その書き込みを目にすることは稀となっていた。
もっとも、それらの事情についても、ここ最近はSNSにも出没していなかったスノーは把握していないだろう。場合によっては、これだけ色々と言っているのに「何で、エターナルさんは何も発言しないんだ」ぐらいのことを思っているかも知れない。いや、あるいはここまで疑心暗鬼になっていれば「もしかしたらエターナルさんも、このサークルで立ち位置が悪くなっているのかも知れない」「薩摩さんに至っては気配すらない」ぐらいの邪推をし始めているかも知れない――もちろん、そうしてスノーの内心を推測していることこそ邪推ではあるが、あながち的外れでないだろうと彼は思う。
いずれにしろ、スノー・クロックの驚愕と落胆と疑心暗鬼は最高潮に達し、照月に続いてサークルを退会するという極端な行動に走らせてしまった。
「何で、こんなことになってしまったんだろう……」
たしか、これは『弾痕のメタファー』の中の台詞だっただろうか。世界改変を物語の主軸に置いた『弾痕のメタファー』らしい台詞だ。だが、今はまさにそんな状況だ。どこかで、自分がやれることはなかったのか。何かひとつでも行動が違っていれば、こんな結果にはならなかったのではないか。そんなことばかり考えてしまう。
例えば、雁間の担当した『おもてがわ企画(仮称)』だ。たしかに、この企画が停滞しているのはおもてがわが詳細プロットを上げず、シナリオ担当であるスノー・クロックが多忙で作業に取りかかれなかったからだ。だが、メカデザインの雁間がメカイラストを仕上げ、おもてがわに発破をかけていたらどうだろうか。以前、エターナルは「イラスト担当者が素晴らしいイメージイラストを上げたら、それが起爆剤となってシナリオなどを動かしてしまうことがある……かもしれません。それが、チーム開発の醍醐味のひとつであり、イラストの皆さんが『外部委託』ではなく『制作メンバ』となっている理由のひとつなのですよ。なのでイラスト担当の方も、積極的に、攻めで関わってください」と言っていたことがあった。しかし、雁間はその言葉のようにできていたことがあっただろうか。
あるいは今朝、グループウェアの掲示板を確認したときのことだ。あのとき、もし、何らかの書き込みをしていたとしたら。スノー・クロックがここまで疑心暗鬼に駆られることもなかったかもしれない。いや、先日、照月にクロスオーバーシナリオのプロットを見せてもらったときに、もう少し違う反応をとっていたらどうだろうか。あるいは、もっと他の点でも、雁間が積極的に関わっていたとしたら。
「……また、だ。……また、父さんと、母さんが別居したときのことを思い出しちゃったよ」
三年前、彼の父と母が別居を決めた日。あのときも、雁間は同じようなことを考えていた。
――もし、自分が何かをしていたら、結果は変わっていたのではなかっただろうか。
――自分がもっと良い子だったら、父と母はケンカすることもなかったのではないだろうか。
そして今も、そのことは考える。
実際、彼は何をしたというわけではないのだ。
「中学二年生だった僕に、何が出来たというわけでもない。そのことは、今では分かっているけど。……でも、今回は、違うだろ! ……僕は、何かをすることが出来る立場だったハズなんだ! 大人と子供、両親と息子という関係じゃなかっただろう、今回は! あのときとは、違う……違うんだ! 『ロボつく大戦』の皆は、年齢性別、住所や職業、そんなことは関係なしに集まった人たちなんだ。誰もが平等に、創作者で、企画者だったんだ! ……なのに、なのに、僕は何もしていない! 薩摩さんやエルさん、ロックさんのことを『すごい』とか『狂っている』とか、傍観者じみて眺めているばかりで。僕も……僕たち自身も、それと対等だっていうはずなのに!」
誰が悪いとか、何が悪いというのではない。
自分の不甲斐なさが、雁間は何よりも悔しかった。
その日の夜には、何とか連絡手段を駆使したロックが照月を連れ戻してきた。そして照月が消失した理由だが、「この集まりとは関係のないことで……私生活で嫌なことがあって、持病の悪化もあってパニックになっていただけです」という実にくだらないものだった。そして「実はアタシ、具体的には言えないんですけれど、ちょっと重い病気がいくつかあって……」と、謝罪とも言い訳ともつかないことを長々と掲示板に書いていた。
ただ、スノー・クロックについては、二度と戻ってくることはなかった。SNSのアカウント自体は残っているものの、話しかけても反応が返ってくることはない。彼が創作関連のまとめに使っているアカウントもあったのだが、そちらも無反応。どうやら、サークルメンバとの関わりを完全に断つことにしたらしい。
リーダであるロックは「さすがに彼までは手が回らない」と冷たく一蹴し、この件はそれで決着をつけるつもりのようだった。それから半日ほど遅れて、エターナルが「何故、スノーさんを連れ戻さなかったんですか!」と、彼女にしては珍しく語気荒く主張していたものの、他のメンバの反応はなかった。考えてもみれば、スノー・クロックのことを評価していたのはエターナルとおもてがわぐらいなもので、照月や橘なるは彼と幾度か口論していて関係が悪い。そして件のおもてがわに至っては、「なんか、スノーさんから『シナリオを書いてやれなくてゴメン』というメッセージが来て、それからぷっつり連絡が取れなくなったッスけど?」と、事態を重く見ているのかどうなのか分かりづらい反応をとるだけだった。
そんな中、幸いなことがあるとすればここ二ヶ月ほど全く姿を見せていなかった『弾痕のメタファー』のシナリオ担当のひとりであり、『逆転勝機ブリュンヒルデ』の企画主であったえーるが復帰したということだろうか。そして彼(彼女?)はスノー・クロックのような過敏な反応をすることもなく、「私のいない間に色々大変だったようですけれど、とにかく頑張っていきましょう! いなかった間の穴を埋めるつもりで、私も働きますので!」と、前向きな意見を口にしてくれるのだった。
*
●『弾痕のメタファー』のテストプレイしてみました 発信者:えーる
二ヶ月の沈黙を取り返すべく、プレイしてみました。
いや、私がいない間に、戦闘の演出などがすごくなっていますね。
あれだけチャチだったSGCのデフォルト戦闘が、カットインが入ったりして、格段に良くなっています。
メタファの装甲パージを使った際も、イベントやアニメーション演出などが入って、格好良く仕上がっていますね。
戦闘バランスも、SRPG初心者の私ですら全滅しなかったので。
少し簡単かも知れませんが、初期ステージとしてはこんなものかと。
最初期は即死ゲーだったので、よくここまで調整したものです。
ただ、シナリオについては、少しプレイヤに不親切な印象です。
何をしたい物語なのかスッと入ってこず、キャラクタへの感情移入もしづらいかと。
いえ、シナリオ担当は私なのですけれど(汗)、その私ですらよく分からないとは。
さすがに問題ありだと思ったので、私の担当部分に関しては、修正提案をさせていただきました。
●チュートリアルシナリオについて 発信者:ロック
『弾痕のメタファー』のチュートリアルシナリオについて、こんなのが良いのではないかという案を置いておきます。
あくまでも参考程度で、この通りに作れというものではありません。
まず、チュートリアルシナリオの意義を考えます。
チュートリアルは非常に取っつきにくいシミュレーションRPGを説明するものですから、物語は親しみが持てた方が良いです。
また、現状の『メタファー』で足りていないのは、主人公やヒロインへの感情移入なのでそれを補う意味もあります。
その際のテクニックとして、キャラクタのギャップを狙うという方法があります。
【チュートリアルシナリオ案】
百戦錬磨の名指揮官ミナミ艦長だけれど、今日は指示のミスが多い。
おかしいな、何でだろうということで、新人メカニックのヒシガタちゃんはオキタにたずねます。
「ミナミさん、そわそわして落ち着きがないですよ」
「今日の演習相手は、強敵だからな。そのせいじゃないのか?」
ミナミの恋人でもあるオキタ大佐がそう言うのなら、間違いないのでしょう。
ヒシガタちゃんは納得して、メタファの整備に戻ります。
でも、いざ演習が始まっても、やはり精彩を欠く指示ばかり。
そこにきてようやく、オキタは何かに気付きます。
(※オキタのユニットをミナミの母艦ユニットに接触させるミッションが開始)
「ミナミ、これを受け取れ!」
「こ、これは……!(何を受け取ったかはこのとき表示されず)」
そして、ミナミの母艦ユニットの能力向上。
MAP兵器が使用可能になります。
(※MAP兵器を使用することでイベント進行)
MAP兵器の使用により、敵演習艦隊を全滅させ、戦闘終了。
さて、戦闘中にオキタはミナミに何を渡したのか。
どうしても気になったヒシガタちゃんは、オキタ大佐にたずねます。
「実は、ミナミには致命的な弱点がある」
「弱点、ですか?」
「毎月、二十日前後には集中力が落ち、弱体化するんだ」
「えっ、でも、オキタさんが何かを渡してからは急に元に戻りましたけれど……」
「気になるのだったら、ミナミの部屋をそっと覗いてごらん」
さて、ミナミ艦長の弱点とは、一体何なのだろうか。
部屋に近づくと、そこから、ミナミ艦長の笑い声が。
「ふふ、うふふ、いいわぁ……」
一体、何をしているのか。
おそるおそる、部屋をのぞき込むと、そこには一冊の本を手に微笑むミナミの姿が。
「うふ、う腐腐腐腐腐、やっぱり良いわぁ……。毎月二十日は『腐士見 腐ァンタジア文庫』と『ドラァッーゴンマガジン』の発売日。このために生きていると言っても、過言ではないもの。うふ、う腐腐腐腐腐腐腐腐」
なんと、艦長さんは全裸男性が抱き合うイラストを表紙とする雑誌と、同様のイラストが描かれた文庫本を愛おしげに眺めている。
そう、艦長さんは脳内腐乱状態、お腐りになられている方だったのだ。
それを確認し、ヒシガタちゃんは、そっと扉を閉じたのだった。
……あくまでも一案ですが、気に入ればそのまま使っても良いですし、部分部分に手を加えても構いません。
●演出、さらに強化しました 発信者:エターナル・ミキ
SGCの戦闘エフェクトをイベント中に呼び出す方法を、ようやく見つけました。
物語のラスト、母艦がレーザーを発射するシーンで、MAP兵器の戦闘エフェクトをつけました。
通常、これは敵と味方の位置関係が一致していないと見た目におかしくなるのですが、それもちょっと工夫してみました。
多分、これで自然な演出になり、文章の説明だけになっていた部分が理解しやすくなったはずです。
また、SGCの機能を駆使して『弾痕のメタファー』のOPムービーもどきを作り、ゲーム起動時に流れるようにしました(キー入力でスキップ可能)。
同様のものは『機兵少女フリージア』のEDにもつけましたが、こちらは橘さんのイラストがまだなので、未調整です。
本当は『KUMA-SAN』のも作りたかったのですが、どうしましょうか?
あと、クロスオーバーシナリオ後にでも流せばよいだろうということで、スクロール式のスタッフロールも作りましたので、ご確認ください。
●エターナルさん、グッジョブです! 発信者:えーる
うわっ、すごい、こんなことできるんですね。
あと、スレ違いですけれど、『フリージア』と『KUMA-SAN』もプレイしました。
『フリージア』で、敵に一定ダメージを与えると『大破』とかいうカットインが出るのは笑いました(笑)。
『KUMA-SAN』は戦略性が高くて、かなり難しかったですが、戦闘だけで三作品とも全く違う個性がありました。
●クロスオーバーシナリオについてですが 発信者:ロック
照月さん、作業時間がとれないようであれば、ボクがサッと作ってしまいましょうか。
それで照月さんとエルさん両監督には、最終的に台詞回しなどの確認してもらう……という形にした方が良さそうです。
現状、照月さんは『弾痕のメタファー』のブラッシュアップ作業も手がつけられていないようですし、エルさんは三作品全てのスクリプト調整で忙しいので。
そしてクロスオーバーシナリオは一話程度にして、「何でこんな状況になったんだ……?」と、次回作への引きを残す形で終わらせます。
先に照月さんが立てたプロットはそのままでは使えませんが、部分部分見直して、次回作以降に回しましょう。
ボクがささっとまとめても、やりようによってはいくらでも、照月さんの案につなげることができますから。
三月のリリースを目指し、作業は急ピッチで進んでいた。橘なるは自身も冬コミなどの準備で多忙ながら、まずは何とか『弾痕のメタファー』のブラッシュアップイラストを仕上げた。『機兵少女フリージア』のキャラクタデザインはフリージアの彩色ラフが完成し、実際にゲームに組み込まれている。エターナルからは「指示書にも書きましたけれど、ジアにはできるだけ目のハイライトを入れないで下さい」「背景に使っているフリー素材とかぶるので、明度をもう少し上げてください」など、何度かリテイクを受けたが、おおむね気に入ってくれたようだ。「他のイラストも、この調子でお願いします」と言われ、作業が遅れ気味であるものの、今は主人公のリョウとサブヒロインのイサミのラフを描いているところだった。
十二月の半ばにはロックが公式サイトを作成し、そこに情報公開までのカウントダウンを設置することを提案した。彼女が言うには「カウントダウンを用いることにより、『何があるんだろう』と好奇心を刺激し、衆目を集められます。また、何度もサイトに訪れさせる効果もあります」ということだった。そしてカウントダウンページには登場機体のシルエットを配置し、時間が経つごとにシルエットが増加、情報解禁時には全機体勢揃いのイラストになるという。ちなみに、最初、シルエットとして表示されているのは『弾痕のメタファー』に登場する機体だ。
今までは『ロボつく大戦(仮称)』だった作品名も、先日、メンバの投票で『メカニカル・コンチェルト第一楽章~metaphor~』と決まった。初期投票ではエターナルの提案した『鋼鉄のmetaphor』だったのだが、次点で橘が提案した『メカニカル・コンチェルト』と合体させたのだ。そうして様々なことが決まっていき、何だかんだあっても首の皮一枚でつながって、なんとかリリースにこぎ着けそうだ。橘は学業や趣味に忙殺されながら、そう思っていた。きっと、全てが終わった後には「そんなこともあったなぁ」という程度に、色々なことが流せるものなのだろうと。
ただ、そんな彼の認識は甘かったと言わざるを得ない。
●ご提案ありがとうございます 発信者:照月
でも、アタシとしては、ロックさんの案には半分賛成半分反対といったところです。
一話程度ではプレイヤに「あれ、もう終わり?」と思われてしまい、むしろ拍子抜けを誘います。
こうしたクロスオーバーシナリオというものは、ゲーム全体で一番盛り上がるところです。
そこで肩すかしを食わされては、プレイヤは次回作をプレイしてくれません。
そしてロックさんはアタシの作ったプロットにつなげられると言いますが、それは不可能です。
ロックさんの案だと、最初から全員が合流してしまい、アタシのやりたかったシナリオが根本的に矛盾をきたすからです。
なので、アタシとしては是非、この間提示したクロスオーバー案を前編のラストで書かせていただきたいです!
それがダメなら、いっそクロスオーバー自体をなくして、例えば次回作の予告となるムービーを作成して流すとかどうでしょうか。
最近の『スパロボ』などではそのような演出も少なくないですし、この間、エルさんがOPムービーなどを作っていたじゃないですか。
エルさんの負担が大きくなってしまうのが申し訳ないですが、そちらの手段も検討してはどうでしょうか。
下手に作るよりも、アタシはそちらの方が、ずっと良いと思います!
あと、この件についてはアタシとロックさんの議論だけで進めず、他の方の意見も交えた方が良いと思います。
●つなげることは不可能ではないですよ? 発信者:ロック
前編のラストで合流した『メタファ』『フリージア』『KUMA-SAN』のメンバが、何らかの事情で再び離散すれば良いじゃないですか。
そして、その理由付けはいくらでも出来ます。
照月さんは柔軟に物事を変える思考が出来ないようですが、クロスオーバーのようなシナリオを書くのに必要なのは、そうした柔軟さです。
その意味では、全てのシナリオに関わったボクが担当した方が、むしろ適任かもしれませんね。
●何ですか、それ! 発信者:照月
ロックさん、『照月さんは柔軟に物事を変える思考が出来ないようですが』ってなんですか、決めつけないでください!
柔軟な思考が出来ないのは、どっちですか!
いっつも、アタシの提案に、ふたことめには「ダメだ」って言って!
ロックさんの言い様は、まるでアタシにクロスオーバーシナリオを書かせたくなくて、無理矢理難癖をつけているみたいですよ!
それと、アタシの質問に全部答えてください!
ムービーを作れば良いのではないかという提案、無視ですか!
それって、自分にとって都合の悪い提案だからですか?
それこそ、他の方の意見も聞かず、なんですぐにダメだって言うんですか。
このような言いをされるというのは、何が何でもアタシからシナリオを奪いたいから……ロックさんが、何もかも全部奪っていきたいからなんじゃないですか?
だって……だって、そうでしょう?
エルさんの『機兵少女フリージア』だって、薩摩さんが書くはずだったのにロックさんが全部とっていきましたし、おもてがわさんの企画だってあったはずなのに『ボクがサッと書ける企画を第三章にします』って言って、奪っていって!
結局、スノーさんが抜けたのだって、それは切っ掛けはアタシの身勝手な行ないのせいかもしれないですけれど、要因を作ったのは全部ロックさんじゃないですか!
ロックさんの言っていること、やっていること、色々と矛盾しているんです!
●正直なところ 発信者:ロック
ボクとしては、照月さんにクロスオーバーの担当を降りて欲しいというのが本音です。
照月さんのこれまでの行ないに加えて、先ほどSNSで叫んでいた内容を見て、確信しました。
ボクにはこのサークルのリーダであり、『メカニカル・コンチェルト第一楽章~metaphor~』を完成させる義務を負っています。
そして、照月さんにクロスオーバーシナリオを任せると、いつまで経っても完成しないと結論したのです。
●了解しました 発信者:照月(退会したユーザです)
ロックさんのおっしゃることは、もっともです。
責任を考えると、おそらく本来のロックさん自身の意志にかかわらず、そのような発言をせざるを得ないのでしょうから、もしかしたらそう言わざるを得ないロックさん自身が一番傷ついているのかも知れませんね。
そしてロックさんにそのようなことを言わせてしまったのは、今までのアタシの振る舞いのせいだということはよく分かっています。
アタシも、それが分からないほど愚かではないです。
ただ、そうしてリーダであるロックさんの信頼を得られないアタシが、いつまでもこの集まりにとどまっているわけにはいきませんよね。
アタシがここにいたら、アタシや『弾痕のメタファー』だけにとどまらず、他のありとあらゆるものさえも壊してしまうことでしょう。
このような対応をとることは、今まで尽力してくださった皆さんの気持ちや費やした苦労を全て不意にしてしまうことになるのでしょうけれど、それでも、やはりこれ以上アタシがここにいちゃいけないんだなということはよく分かりました。
いくら罵っていただいても構いませんが、アタシはこれで退会させていただきます。
本当にすみません。
今まで本当にありがとうございました。
「何だろう、コレは……」
橘は掲示板のやりとりを見て、思わずこぼしていた。それはおそらく、他のメンバからしてもそうだっただろう。
タイムスタンプを確認すると、最初に照月が投稿した『●ご提案ありがとうございます』は十七時八分、最後の『●了解しました』は十九時六分。ロックと照月のやりとりはわずか二時間だったということだ。それだけの短時間にあれだけのやりとりをして、唐突に照月が抜けていった。ついこの間、その行ないについて反省したばかりだというのに。橘が掲示板を確認したときには全てが終わった後で、何か意見を挟む暇さえもなかった。
全身から、力が抜けていくのが分かった。本当は『機兵少女フリージア』のリョウやイサミのデザインを上げようと思っていたのに、それが手につかなくなってしまっていた。冬コミに出すものについては、先日完成させ既に印刷に出していたが、下手すればそちらも手がつかなくなっていたかも知れない。そして、同時に思い出したくないことまで思い出していた。大好きで――そして大嫌いな母親のことを。
最高の年末になると思っていたのに、最悪な年末になりそうだった。いや、そもそも年始も、どうなることだろうか。色々と作業をして、皆で完成に向けていたのに、これからどうなるのだろうか。
「ああ、でも、私には『明星のチューリングマシン』があった……」
ただ、そこで橘は思い直す。そう、自分には、他にも居場所があるではないか。『ロボつく』で採用され、三月には短編アニメが公開される自分の企画が。
今は、そちらだけを見ていよう。こんな、嫌な思い出がフラッシュバックするような場所には、しばらくはいたくない。
そう思い、橘なるは、この現実を無視することに決めた。