終、あのときの発言の意味
終、あのときの発言の意味
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●照月さんの件について 発信者:ロック
事情が飲み込めていない方もいると思うので、ボクの方から補足しておきます。
先日、『弾痕のメタファー』の監督である照月さんがプライベートで何かがあったようです。
その影響なのか、彼女は錯乱気味に「『メカニカル・コンチェルト』の制作から抜ける」という旨の発言をSNSでしました。
そうした発言はこれまでにも三回、今回抜けたのを合わせれば四回目となります。
実はボクが他に参加しているサークルでゲームを作ったときも、同じように四回ほど辞めて戻ってを繰り返した人がいました。
その人も照月さん同様、毎回、戻ってくるときには「ごめんなさい、もう二度とこんな事がないようにします」と言っていました。
でも、最終的にはやはりボクらに罵詈雑言を浴びせかけて、抜けていったわけです。
幸い、その人は在籍していた半年間、ほとんど作業をしていなかったので問題はありませんでしたが……大事な役目を負っていたら、最悪完成しなかったことでしょう。
そのときの件も今回の件も、ボクは序盤はおおらかに対応して「一緒にやりたいです」と言い続けていました。
でも、それが他の方を巻き込んで、プロジェクトそのものが壊滅するような危険をはらんでいたのです。
だからこそボクは、もしもあのときのような可能性を見つけた場合、それを徹底的に排除しなければならないと思っていました。
照月さんの中では「アタシを信頼されていないなら辞める」ということらしいですが、信頼というのはそんな単純な図式ではありません。
そもそも、信頼関係というのは簡単に構築できるようなものではないのです。
大体、今までの彼女の振る舞いから「アタシを信頼して」だなんて都合の良いことはありえません。
信頼というのは失うのは一瞬ですが、一度失ってから取り戻すことは簡単ではありません。
せめてそのことを理解した上で、照月さんが具体的に誠実な行動を示して下されば、一考の余地はありましたが……結局、それもなかったのです。
それは二〇一四年十二月二十一日『弾痕のメタファー』制作板にロックが書いた文章である。
ただ、エターナルの目には、この文章の意味が今では違うものに見える。
エターナルはロックが他に所属しているサークルの内情を知らないのだが、その抜けた人物というのは本当にそんな人物なのだろうか。
もちろん、本当に問題のある人物であった可能性もあるが、そうでなかった可能性も同じぐらいにあるのではないか。
「ワタシは知らない人だし、邪推していたって仕方がないけれど……」
――このような言いをされるというのは、何が何でもアタシからシナリオを奪いたいから……ロックさんが、何もかも全部奪っていきたいからなんじゃないですか?
そして、同時に思い出すのは『メカニカル・コンチェルト前編』の際、照月がロックに向けて放った言葉である。
あのときのエターナルは照月の心境に同意するも、照月の「全部奪っていく」という言葉を神経質な被害妄想だと思っていた。
しかし、あのゲームシナリオの件やbowyが遭遇した件というのを思うに、照月の指摘はロックの本質を言い当てていたのではないだろうか。
「よく考えると、ロックさんって、元々信用できる人じゃなかったのにな……」
ロックというのは、しばしば『全くの別名義で他人になりすまして創作活動をする』などということをしている人間でもある。
エターナルの場合、一度これと決めたペンネームを原則使い続けるという主義なので、そんな彼女の流儀を前々から信用ならないものだと思い続けてきた。
邪推に邪推を重ねて良いのなら、もしかしたらあの童顔三十路女は、今までにも別の名前で幾人もの人々を傷つけ続けてきたのではないか。
だからこそ、何か問題が生じたときに『いつでも切り捨てられる名義を複数作っている』のではないか。
「……いや、それは邪推が過ぎるか」
ロックを弁護する証拠もないが、ロックを糾弾できる証拠もほとんどない。
疑わしきは罰せずとは戦後日本のとり続けてきた司法判断だが、エターナルとしてはその方針におおむね賛成している。
ただ、それを知ってあの三十路女が各種証拠隠滅をしているというのなら――あまりに悪辣に過ぎるのではないか。
「あの人が何なのか、本当に、分からない。分からないから、ワタシにもどうすることもできない……」
彼女のやった諸々のことの確実な証拠があるのなら、多分、エターナルは徹底抗戦の構えを取っていたことだろう。
あるいは彼女のことを地の果てまでも追いかけて――いや、それはさすがにやり過ぎかと自嘲する。
では、何が出来るだろうか。
そう考えたところで、エターナルはようやく気付いた。
「そうだ。ワタシは、創作家だった……」
そう思ったときには、自然と手が動いていた。
多分、司法の場などに持ち込んでも勝てないのかも知れないが、これならば勝つ見込みがある。
いや、どうしても勝ちたいし、勝たなければならないと思っている――あんな人物になど負けたくない。
だからこそ、彼女はキーボードを打つ手を止めなかった。
〈第三章 了〉
第三章あとがき
作者代理エル
まず、今回は著書の全文引用をご許可くださったpowyさんに謝意を示したいと思います。
快く許可いただき、ありがとうございます。
重ね重ねとなりますが、お礼申し上げます。
いえ、まあ、あとがきを作者本人ではなく作中人物に喋らせている状況で「ありがとうございます」もありませんけれど……ともかく、ありがとうございます!
さて、何だかんだで、思った以上に早く仕上がってしまいました『第三章』いかがでしたでしょうか。
今回の生け贄……じゃなくてメインは、『メカニカル・コンチェルト』の制作指揮を執ったロック女史です。
そしてこれこそが、『創作の協奏曲』という作品を書くに当たって、どうしても書きたかったことのひとつでもあります(うちの作者って性格悪いですねー)。
ちなみにこの『創作の協奏曲』という作品群、毎回異なる書き方をしていますが、今回もまた少し違った書き方となっています。
また、作品全体を通して色々な試みがあるわけでして、そのひとつが『あえて時系列順になっていない』ということです。
既存の有名作だと、たしか『物語シリーズ』がそうだと聞いたことがあるのですけれど……まあ、やっぱり少ないですよね、そういう作品。
ともあれ、うちの作者は「いつかそういうのを書いてみたい」と思っていたわけでして、そんな思いから出来たのがこの分かりづらい構造なわけです。
もっとも、そもそも複雑に絡み合っていて時系列順になりようがないわけでもありますが……まあ、とにかくそういうのが書きたかったようなのです。
あとは今回、久々に『明星のチューリングマシン』の企画主橘なるが出てきます。
これには、ひとつ理由がありまして……。
つい最近、全文を見直したところ「登場人物を悪く描かないようにしているはずなのに、この人だけ印象悪いかも」と思ったからです。
物語の尺や配分の都合上、橘なるの立場、並びに謝罪と反省シーンを書く余地がなかったので……本当、申し訳ないとしか。
次は、順当に行くと第二章となるのでしょうけれど……。
うちの作者、プロット段階で挫折したので。
やはり無理かもしれませんので、一応、再びシリーズは完結扱いにしておきます。
最後に、いつもの惹句を。
この作品はフィクションです。
ドキュメンタリィの類ではありません。
類似の事例が実在したとしても、偶然の一致とは言いませんが、事実と同一ではありませんのでご了承下さい。
二〇一七年六月九日




