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創作の協奏曲  作者: 久遠未季
第一章 創作の協奏曲(クリエイターズ・コンチェルト)
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1、「ゲーム、作りませんか?」

1、「ゲーム、作りませんか?」


    *


 雁間は緊張していた。ほとんど勢いで了承してしまったものの、オフ会というものは初めてである。

 高校に入ってからは、生活のほとんどを制服やジャージで過ごしていたから、ろくな衣類も持っていない。男子ばかりの工業高校では校内でガールフレンドを作るということもできず、かといって他校の生徒をナンパするだけの度胸もない。友人は少なくない方だが、合コンをセッティングできる友人はいなかった。

 十七歳童貞。年齢イコール彼女いない歴という、実に悲しい人種なのだ。

 そしておそらく、このまま行けば女っ気の少ない技術者職に就き、一生出会いがないまま定年を迎えかねない。いや、そもそも最近は家庭内の不和を目の当たりにして辟易しているのだから、彼女が欲しいとは思っても結婚したいという願望はないのだが。

「いや、でも、もしもこのオフ会で可愛い女の子やお姉さんと知り合って『雁間くん、いいことしてア・ゲ・ル』なんて言われた日には……どうすれば良いのかな? うわぁー、童貞卒業とかっ!」

 それでも基本、彼は健全な男子高生だった。人並みに、いや、あるいは家庭環境で鬱屈している分、並の男子よりもそちらの欲望に忠実である。むしろ、精神的な恋愛を信じていないからこそ、肉体的な恋愛を渇望している。だからこそ、そんなことあり得ないだろうと心の片隅では思いながらも、常以上に気分は高揚していた。

 そうして彼が浮かれているのは、秋葉原に来たのが初めてだからということもある。ロボットアニメが好きであるし、一般的に見て紛れもなくオタクに分類される以上、興味が無かったというとウソになる。いや、むしろ、今まで何度来たいと思ったことか。ただ、金銭的に問題を抱える家庭事情もあれば、定期券外の秋葉原までは脚を伸ばしにくかった。行って、せいぜい池袋ぐらいであるが、それにしても年に数度マンガや同人誌をまとめ買いに行くという程度だ。都内の山手線沿線には、基本的に土地勘がない。

 ああ、そういえば、今日のパンツはいつものユニクロパンツだ。いや、いまやユニクロは格安路線をGUに譲り、ブランド路線を行っているから別に良いか――むしろ僕はオシャレなんじゃね? などと思っているところで、彼は肩を叩かれた。

「あの、もしかして……ガンマさんですか?」

「えっ、アッハイ、雁間です。が、雁間出太でっす!」

「あぁ、良かったぁ! ……SNSのプロフィール画像で、ガンマさん、顔写真上げていますよね? ワタシ、人の顔を見分けるの苦手なんですけれど、すぐ分かりましたよ!」

 声をかけてきたのは、二十代か三十代前半といった、化粧っ気の薄い女性だ。ただ、不美人というわけではない。むしろ、モデルのようなすらっとした体型だ。

 そう、背の高い女性だった。男子の平均身長を割ってしまう雁間でも、普通、女性と並べば背が低くなるということはないものだ。それだというのに、その女性は明らかに彼よりも十センチメートルは背が高い。おそらく、一七〇センチメートルは超えているだろう。あと、ついでに胸も大きい。ただ、雁間の目の高さからだと、ちょうど胸元がのぞき込めるかどうかといったところだ。

 夏場ということもあって、その長身の女性はTシャツ一枚にハーフパンツという比較的軽装だったのだが、その分だけ体型が強調される。そしてそんな無防備な格好をされると、女子耐性のない雁間としては対応に困るのだった。

「え、えぇっと、どちらさまで……?」

「あっ、ゴメンナサイ。ワタシ、エターナル・ミキです。……えぇと、ほら、『チュリマシ』の長編小説を二週間で書き上げたりした」

「えぇっ! あの、エターナルさん! ……っていうか、女の人だったんだ」

 主にロボット絵師である雁間は『明星のチューリングマシン』のメカデザインには応募しなかったものの、気紛れでシナリオには応募した。いや、もう少し正確に言えば、既に応募されていたメカデザインを見て「あっ、これは負けた」と思ったので、一気に応募熱が冷めてしまったのだ。ただ、全企画を制覇したいという思いはあったので、せめてとばかり、さっとシナリオを書いて送ったというわけである。

 その関係で『明星のチューリングマシン』の他シナリオについてはチェックしていたのだが、エターナル・ミキという人物のことは強く印象に残っている。文字数制限一〇〇〇文字程度の所に一〇〇倍の一〇万文字の長編小説を送りつけた、少しばかり頭がおかしい人である。一〇万文字を例えるとするなら、文庫本一冊程度といえば一番しっくりくるだろうか。それもアニメのシナリオ募集なのだから、普通は脚本形式で応募するべきなのに、この御仁は小説形式で書いた上にやたらと完成度が高いと来ている。

 どうやら各所の小説新人賞で高次選考に残ったこともあるとかで、小説書きを目指す人の間では、それなりに有名な人らしい。某大型掲示板の『文芸サロン板』で、時折、話題になっている。もっとも、当人は「受賞して出版されない限り、どれだけ高次の選考で残っても価値はゼロです」と言い切っているのだが、イラストコンペで万年一次落ちの彼からしてみれば十分価値のあることだと思える。

 それまではさほどつながりがなかった人であるが、ロックがゲーム――『ロボつく大戦(仮称)』の作成を呼びかけてサークルが結成された後、SNSではお互いにフォローしあっている。そして、少しずつではあるが、会話も交わすようにはなっていたのだ。ただ、丁寧な言葉遣いの割に文体が硬いので「ああ、男の人なのかな?」と思い込んでいた。ミキというのは女性名として使われることも多いが、男性名としても珍しくはないからだ。

「ワタシ、ちょっと早く来すぎてしまって……。あの、ほら、ワタシはスマホを持っていないので。遅れてしまっても連絡手段がないというか……あっ、いえ、一応、念のために薩摩さんには携帯電話の番号をお教えしておいたのですけれどね。でも、その肝心な薩摩さんが遅れるようでして。そうすると、どこにどなたがいるか、分からなくて……」

「そ、そそ、それで、SNSで顔をさらしていた僕のことを?」

「ええ、助かりましたよー。……でも、ガンマさん、ネット上で顔をさらすのはダメですよ。どんな悪い人が、それを利用するか分かったものじゃないですからね」

「え、ええ。それは、この間、エターナルさんに注意されてから消しましたよ」

「うんうん、そうですよね。ガンマさん、ちゃんと言うことを聞いてくれる、良い子ですよね」

 そう言いながら、エターナルはガンマの頭を撫でる。

 正直、女性に声をかけられるというだけでも稀な経験な上に、頭を撫でられるとは思ってもいなかった。

「……っと、こんなこと、やっている場合じゃありませんでしたよね。ガンマさん、他の人たち、どこにいるか分かりませんか?」

「えっと、ちょ、ちょっと待ってくださいね。今、スマホで……あっ、おもてがわさんや照月さん、ちょうど着いたみたいですよ!」

 SNSに『待ち合わせ場所の駅前に着いた』という書き込みがあったのを見て、雁間はエターナルに言う。

 彼自身もその書き込みに『今、待ち合わせ場所でエターナルさんと合流しました』と返信し、他のメンバらしき姿がないかを探す。

 事前に知らされていた服装は、おもてがわしんじは『黒の半袖シャツと赤いハーフパンツ』で、照月は『白いシャツにアイボリーのスカート』ということだった。

 雁間はおもてがわや照月の性別や身長体格まで聞かされていなかったが、ふたりの姿はすぐに見つけることができた――どうやらあちらはあちらで途中合流したらしく、それらしいふたり連れが手を振っている。

「うぉーい、ガンマ君と……あれっ? そっちの……何かデッカい人が、エターナルさん? えっ、女の人? ……どもー、おもてがわッスー」

「え、えぇと、照月です! あの、ガンマさんと……エターナルさん? はわわぁ、エターナルさんって、女の人だったんだぁ……。てっきり、怖いオジサンかと思っていたんですけれど、カッコイイお姉様だったんですね! はわぁ……」

 黒シャツとハーフパンツの男が、おもてがわなのだろう。癖毛気味の頭に、度のきつそうな黒縁眼鏡で、服装に関しては不潔ではないもののどこか無頓着で垢抜けない印象がある。そして頑丈さが取り柄とでもいうべきリュックサックを背負っているとなれば、いわゆる『いかにも』なオタク姿である。ただ、いわゆる『ちびデブ禿』の『キモヲタ』ではなく、陽気でひょうきんな年齢不詳の男性といった風だ。

 そしてもう一方の照月は、想像に反して、なかなか洒落た服を着こなした女性だった。背は雁間やおもてがわよりは低い、いわゆる女子の平均身長程度といったところだろうか。人混みに慣れていないのか、あるいは初対面の人間と相対している緊張からか。肩をすくめ、しきりと外ハネの髪をいじっている姿がいじましい。籐編みのバッグを肩にかけ、小動物のように縮こまっている。SNSでの発言と合わせて考えると、世間ズレしていないお嬢様といったところだろうか。

 それこそ現状でもうひとりの女性であるエターナルと照月とは、外見的にいえばまさに正反対の印象である。雁間はエターナルが女性であるとは思っていなかったものの、SNSでは丁寧な物言いであったから、その服装も当然フォーマルできっちりしたものなのだろうと思っていた。ただ、実際のエターナルはというと、身につけているシャツとハーフパンツはそれこそユニクロで買ったのだろうという、実に簡素で活動的な服装なのだ。肩からかけているバッグも、よく見ると有名なアウトドアメーカの製品である。胸のサイズも大きいことは大きいが、ふくよかというよりも、むしろ何かのスポーツでもやっているのか、全体的に引き締まった印象だ。

「……っつーか、エターナルさんって、ぶっちゃけ言いづらくないっスか? 名前長いし、何か、痛いっス。『エターナル・フォース・ブリザード!』みたいな、いかにもなアレッスし!」

「うーん、ワタシはオフ会ってあまりやったことがなかったので。声に出して呼ばれたことがなかったから気付かなかったですけれど……たしかに、少し恥ずかしいかも知れませんね」

「あ、あのですね、それならアタシ思ったですけれど……少し縮めて『エル』さんとかって、どうですか? そうしたら、呼びやすいですし、何だか可愛らしくて女の子っぽくなるですし!」

 そして合流するなり、誰も彼もが以前からの知り合いのように、和気藹々と語り出す。

 いや、以前からの知り合いには違いないのだ。

 直接顔を合わせたことがなかったというだけで、早い人ならば半年前、遅い人でも二ヶ月前から知り合って言葉を交わしている。

「いやぁー、それにしてもエルさん、デカいッスねー! 俺やガンマ君より、頭ひとつ分ぐらいデカくないっスかー?」

「えっ、そうですか? 家でも職場でも、ワタシより背が高い人がいるので、全然、そんな気はしないんですけれどね」

「あと……そうそう、ガンマくーん。俺、前々から気になっていたんッスけど、ガンマ君のフルネーム『雁間出太』って、面白い名前っスよね」

「ええ、ワタシも前から思っていたのですよ。雁間出太……ギリシャ文字の三番目と四番目の『γ』と『Δ』ですよね。なかなか、お洒落な名前ですよ。ワタシのエターナル・ミキは高校生の時から使っているペンネームなのですけれど、それとは全然、比べものにならないぐらい良いセンスをしていますよ」

「あ、あの……一応、苗字の雁間は本名なんです」

「えっ、本名なんですか? 雁間って、ちょっと珍しいですよね。ワタシも、本名はちょっと珍しいですから、親近感が湧きますね。……ほら、ハンコがなくて困るとか、ありません?」

「あっ、あります、あります! 学校でハンコ忘れて『そこの文房具屋で買ってこい』って言われても、買えないんですよね!」

「分かります、分かります! あと……画数が多いと、テストの時、面倒ではないですか?」

「そう、そう! 面倒なんですよ、本当に!」

「あー、俺は本名、ものすごくありきたりなんッスよねー。むしろ、ここで教えても差し障りがないぐらいッスよー」

「あ、あのあの、アタシもちょっと変わった苗字で……というか、えぇと、そもそもお父様はお医者さんですし、お祖父様は旧華族の関係だとかなんだとかで、あとは小説家を少しの間やっていたりした人で、あとお父さんはバンドやっていたりお母さんはお裁縫が上手だったり、でもアタシはそんな才能らしい才能が無くて弟と比べても学力の低い大学で、これじゃ将来どうなっちゃうのかとか何とか考えていたときに『ロボつく』で企画書を出した『弾痕のメタファー』が思ってもいないところで通っちゃって、やったぁこれでお祖父様のように文筆業とかそんな感じのお仕事が出来てとか何とか考えていたとところでお父様とかお母様とかも喜んでくれていたのに、なんだか企画そのものが駄目になっちゃって、ああやっぱりアタシってダメなんだなしょうが無いんだなって思っていたら、そしたらロックさんが『ロボつく大戦(仮称)』っていう形でゲーム化してくれるとかって言ってくれて、それで他の薩摩さんとか橘さんとかエルさんとかおもてがわさんにガンマさんに……えぇと、とにかくいっぱいの人が協力してくれるって言うから、うれしいしありがたいしで……」

「あはは、照月さん、テルちゃん! ちょっと、何言っているか分からないッスから!」

「えと、えぇと、とにかくっ! ほ、本当に、感謝しているです!」

 雁間はおもてがわのようには喋れなかったものの、それでも悪い雰囲気ではなかった。

 今回のゲーム制作の発端である照月も、色々と難のある人間だなということは分かったものの、それでもその必死さは心地よい。

 やがて、他のメンバも三十分遅れではあるものの到着し、晴れて『ロボつく大戦(仮称)』の決起オフ会は敢行されるのだった。


 半数以上の出席率を確保できたのは自分の功績だ――薩摩隼人のペンネームで活動している彼は、そのように確信していた。そう、今回オフ会の開催を提案し、全員の予定調整を行なったのは薩摩だった。

 特に大変だったのは、この『ロボつく』に参加している人間というのが、全国津々浦々、様々な所に住んでいるということだった。北は北海道から、南は沖縄まで。特に、『ロボつく』公式に選出されて今なお残る企画者ふたり、橘なるとロックのふたりは共に沖縄と九州在住だった。それを東京は秋葉原まで引っ張ってこられたのは、ふたりとも『ロボつく』公式に呼び出され、東京まで二泊三日の日程で訪れていたからだ――いや、むしろこのふたりの日程に他が合わせたといった方が正しいだろうか。

 ちなみに、他のメンバは東京千葉埼玉に住んでおり、このあたりは割と問題なく招集できた。ただ、さすがに北海道在住のメンバは日程が合わなかったし、その他にも対人関係が苦手だからと顔を出すのを最後まで拒否したメンバもいる。エターナルも、実はオフ会参加をギリギリまで躊躇っていたのだが、薩摩の粘り強い説得でようやく首を縦に振ったのだ――しかし、まさかエターナルが、女だとは思ってもいなかったが。どうやら昔、オフ会で幾度か嫌な目にあったらしく、オフ会不参加と性別非公開を貫いていたというのだ。

 そして意外といえば、橘なるが男、それも長身で甘いマスクのイケメンだったというのも衝撃的であった。そして、今回の『ロボつく大戦(仮称)』の発案者であるロックが『ボク』という一人称であるにもかかわらず、その実態は非常に小柄な三十路女性――というわりには小学生女児にしか見えない姿であるというのが、一番の衝撃だった。いやはや、人間というのは直に会ってみないと分からないものだと、彼は己の未熟さを恥じ入るばかりである。

「まさか、エルさんが女性だったとは、ボクは思ってもいませんでしたよ!」

「えぇー、それを言えば、ワタシもロックさんがこんなに可愛い娘だなんて思っていませんでしたよー。……いやーん、抱きしめたい、犯したい! きゃははっ!」

「ちょ、ちょっと、エルさん……酔っ払っていますね! は、離して、離してくださぁい! ……ぼ、ボク、そんな趣味は!」

「あぁー、ロックちゃん、赤くなっちゃってぇ。もぅ、可ー愛ーいーっ! これでワタシより年上だなんて、信じられなーい!」

「あ、あのあの、エルさん! の、飲み過ぎです、飲み過ぎ! に、日本酒五合も空けちゃったら、さすがにそうもなるですよ! ……というか、なるさん! これ以上、エルさんにお酒をつがないでくださいです!」

「んっー? いえー、なんだか面白くなっちゃって……」

「大丈夫れすよー、照月さーん。ワタシ、本当にどうしようもないぐらい酔っ払ったら、笑いが止まらなくなりますから! ……きゃははっ!」

「いえ、いえいえいえっ! エルさん、もう既に、笑いが止まらなくなっているですから!」

「うぇーい、エルさーん、いいッスよー! もっとやってくださいッスー!」

「ウェーイ、ウェーイ!」

「お、おもてがわさん! ……あと、ガンマさんも、煽らないでください!」

「アハハ、ロックちゃーん、このままお洋服、脱ぎ脱ぎしましょうねー」

「ぎゃー、ちょ、ちょっとエルさん。さすがにそれは……!」

 このメンバの中で、おそらくは男性を含めてさえも最も長身だろう女性が、メンバの中で最年長でありながら最も小柄なリーダを居酒屋で押し倒そうとしている。

 SNSのやりとりを見る限り、理知的で論理的、正義感あふれるモラルの塊のような人物がエターナルであったはずであるが――実際にはこれである。

 酒が入っているからということもあるかも知れないが、やはり人間、直接顔を合わせてみないと分からないことも多いのだろう。

 以前、劇団にいたとき、先輩俳優が言っていたことを思い出す。

「『人間は言葉だけでやりとりしているわけじゃない』……か」

 そこまで深く考えて幹事役を務めたつもりはなかったものの、結果的に、これで良かったのかもしれない。

 こうして直接顔を合わせていなければ、エターナルという人物のことがずっと苦手だったかもしれない。

 何もかも見透かした、人間味の感じられない人物だと思っていたから――むしろ、こうして本来の彼女を知って安心できる。ごく普通の、気の良い人物ではないか。

 そのことだけでも、薩摩隼人にとっては収穫と言えるのだった。


    *


 同人ゲーム『ロボつく大戦(仮称)』の発案者であり、サークル代表ともなったロックは迷っていた。

 集まったメンバは多く、中にはプロ級の実力を持つものも少なくない。

 ただ、それぞれに担当可能なものには、かなりの偏りがあるというのが正直なところである。


●『ロボつく大戦』参加メンバ一覧(および担当可能箇所)

【ロック】……文章・人物イラスト・作詞作曲・スクリプト・Webデザイン ※サークル代表

【照月】……文章 ※『弾痕のメタファー』企画者

【橘なる】……人物イラスト・文章 ※『明星のチューリングマシン』企画者

【えーる】……文章 ※以前からの知人

【モエ】……文章・人物イラスト ※以前からの知人

【おもてがわしんじ】……文章

【薩摩隼人】……文章

【スノー・クロック】……文章

【スケアクロウ】……メカイラスト・文章

【雁間出太】……メカイラスト・文章

【エターナル・ミキ】……文章・メカイラスト


 特に、文章書きが異常に多い。いや、むしろ誰もが文章を書ける人材だった。ただ、文章スキルしかない人間が半数近くいるので、まずは彼らに優先的に文章を担当してもらわなければならないだろう。また、中には『ロボつく』以前からの知り合いであり、彼女自身も実力を認めている小説書きが何人かいる。なので完成度を高めるためにも、そして仁義や信頼という意味でも、彼ら彼女らを優先的にシナリオ担当につかせるべきだろうと考えざるを得なかった。

 しかし聞く話によると、エターナルは小説新人賞で高次選考に何度か残っている実力者らしいので、少し悩むところだ。『SMプロジェクト』のシナリオにも応募していたようで、それを読む限りでも悪くはないという印象はある。ただ、高次選考に残ったとはいえ受賞していないということは、まあ、その程度の実力なのだろうと判断しておく。大体、ロボットゲームなのに、現状だとメカイラストを描ける人材が不足気味なのだ。いずれにしても、そちらに回ってもらわなければならない。たしか、メカイラストが全然集まらなかった『弾痕のメタファー』に最初のメカイラストを投稿したのが彼女だったはずで、上手いというほどでないにしても全く見られないというほどの絵ではなかった――大体、メカ絵師という人種自体がイラストレータ界隈では非常に稀なのだ。

 スノー・クロックとスケアクロウについては、絡みがないので、どの程度の実力かよく分からない。特に、スケアクロウという人物の実力が皆目不明だ。このふたりに関しては、ゲームのスクリプト部分などを担当してもらうことにしようとロックは判断した。どうやらゲーム制作経験がある人物はいないようだが、それでも誰かがやらなければならない部分である。それなら、他にやれることがない人物に担当してもらい、技術を身につけてもらうべきだろう。そうして新しい技能を身につけていってもらえれば、むしろ最終的には欠くことの出来ないメンバになるに違いないのだから。

 また、全ての采配をロック自身がとるということも考えたが、それでは負荷が大きすぎる上に各人の成長にもならない。正直なところ、ロックはこの『ロボつく大戦(仮称)』を各メンバの成長の糧としてもらいたいと思っているのだ。だから、できるだけ自分は手や口を出さないようにしたい。それこそメンバの成長につながるのであれば、最悪、ゲームが完成しなくても良いとさえ考えている。


『ゲームは十章構成。そして、それぞれの章を各企画発案者が監督となって作成していくことにします。ボクは人材管理や制作進行に徹し、原則、各章の作成は監督の判断に任せることにします。ただし、どうしても意見がまとまらず作成が停滞するようなことがあった場合、リーダであるボクの権限で進めていくことにします』


 様々なことを考え合わせた上で、ロックはメンバ全員にそのように告げた。

 そして共同作業のためのWebアプリケーション――グループウェアとファイルストレージサービスへの登録を義務づけた。

 さらに、各監督と人事についてインターネット通話で会議をして、暫定的な役割配分を発表した。


●第一章『弾痕のメタファー』制作体制

【制作管理進行】……ロック

【監督】……照月

【楽曲】……ロック

【人物イラスト】……橘なる

【メカイラスト】……ヒキワリ(※新メンバとして引き入れる予定)

【文章】……えーる、照月

【スクリプト】……スノー・クロック、ロック(※暫定)

【戦闘バランス】……スノー・クロック

【ゲームマップ作成】……スケアクロウ


●第二章『明星のチューリングマシン』

【制作管理進行】……ロック

【監督】……橘なる

【楽曲】……ロック

【人物イラスト】……橘なる

【メカイラスト】……千子村正(※外部発注)

【文章】……薩摩隼人、橘なる

【スクリプト】……スノー・クロック、ロック(※暫定)

【戦闘バランス】……スノー・クロック

【ゲームマップ作成】……スケアクロウ


●第三章『(タイトル未定)』

【制作管理進行】……ロック

【監督】……おもてがわしんじ

【楽曲】……ロック

【人物イラスト】……未定(外部発注?)

【メカイラスト】……雁間出太

【文章】……スノー・クロック

【スクリプト】……スノー・クロック、ロック(※暫定)

【戦闘バランス】……スノー・クロック

【ゲームマップ作成】……スケアクロウ


●第四章『逆転勝機ブリュンヒルデ』

【制作管理進行】……ロック

【監督】……えーる

【楽曲】……ロック

※以下未定


●第五章『機兵少女フリージア』

【制作管理進行】……ロック

【監督】……エターナル・ミキ

【楽曲】……ロック

※以下未定


 最初は、『弾痕のメタファー』と『明星のチューリングマシン』の二作品を併行して作る計画である。そして、その裏で他企画の内容詰めなどを行なうつもりだった。『メタファ』と『チュリマシ』を優先したのは、そもそもこのゲーム作成の大義名分であるというのが理由のひとつ。そして『ロボつく』――オールプラネット社のポータルサイト『オールプラネット』のシナリオ募集で集まったものを著者の了解を取って使用すれば、新たに書き起こす部分が少なくて済むというのがもうひとつの理由だ。

 本当は『弾痕のメタファー』のメカイラストにエターナルを据えることが出来ればきれいにまとまったのだが、企画者の照月がオールプラネットのイラスト募集に参加していたヒキワリというイラストレータの絵に惚れ込んでいたようなので、その人物をスカウトしてくるという形になった。これは『明星のチューリングマシン』についても同様だが、こちらについてはそもそもオールプラネットの企画で公式に選出されたデザインであるから、他に変えようがないことでもある。ただ、そうするとエターナルの担当できるものがが全くなくなってしまうため、仕方が無く彼女の企画である『機兵少女フリージア』を採用するという形でバランスをとることにした。第三章におもてがわの企画を置いているのも同様の理由で、これで各人、何らかの役割が割り振られたことになる――なお、ロックがシナリオ書きとして期待していたモエは「学業が忙しくなってきてしまって」ということで、サークルそのものを抜けることになった。

 もっとも、全員に役割が振られたとは言っても、決してバランスが良いものではない。結局、スクリプトを担当できる人物がいなさそうだったので、全ての章でロックとスノー・クロックが協力してスクリプトを書くことになったし、スケアクロウについても同様に全ての章でマップ作成に参加する形だ。えーるが『弾痕のメタファー』のシナリオということになっているが、これはそもそもえーるがオールプラネットにシナリオとして投稿したものをベースにするので、実質的に作業は少ない。第二章の監督兼人物イラストの橘なるは『明星のチューリングマシン』の企画者でありながら『弾痕のメタファー』のキャラクタデザインに参加していたということもあり、さらにはやはりこれも照月がぞっこん惚れ込んでいたため、無理を押して『弾痕のメタファー』の人物イラストも担当してもらうことになった。

 それでも、とりあえずは皆、役割が振られたことに納得しているようだ。面倒なことを押しつけることになってしまったスノー・クロックも「ツールをダウンロードして、少し、いじってみます」という反応をしていたのだし、スケアクロウも「まあ、やるだけやるよ」という反応はあった。もちろん、投げっぱなしにしても作業がしづらいだろうということで、ロックも制作ツールをダウンロードして適当にサンプルゲームを作り「こんなのが出来ますよ」ということは示してやる。ただ、その際に何故かエターナルまでもが「とりあえず、ワタシも制作に使うつもりだというツールの……SGC、ですか? ダウンロードしてみます」と発言していたが、この人のやることは深く追求しても仕方が無い――そう思っていたのだが、一週間も経たずに件のエターナルが新たな書き込みをしたのだから驚きである。



●サンプルゲームをプレイしてみました 発信者:エターナル・ミキ

忌憚のない意見を言わせてもらうと、プリセットのものはかなり操作性が悪いですね。

見栄えもあまり良くないので(これは簡単に変更できそうですが)、制作に入った場合はそのあたりの工夫が必要かなと思いました。

なお、概略がつかめればいいかと思ったので、起動から五分と経たずにそっと閉じてしまいました。


ゲーム開発において、実はそこが一番難しいところではあるのでしょう。

地味ですけれど、ほんのちょっとの工夫で劇的に面白さが変わるというか……他のあらゆる部分が良くても、ここが悪いとゲームとしてつまらなくなってしまいますからね。

……いえ、私ならもっとうまく作れるだなんて言う気はさらさらありませんけれど(むしろ私はその類いのセンスが不足しています)。


そのあたり、制作者の手腕でカバーする必要がありますね。

動くものを作るだけなら簡単そうですけれど、プレイに耐え得るものとなると、結構厳しいかもしれません。

特にこれ、イラスト担当とプログラム担当の手腕が問われます。

シナリオは……言葉は悪いですけれど『日本語として理解できればいい』のではないでしょうかね、ええ。

むしろイラストやプログラムがへっぽこだと、どんな良いシナリオを書いても価値がなくなってしまいますから、そのふたつは責任重大です。


マップチップやいくつかのキャラチップはフリーのものを使えば十分だとして、問題は花を添える背景やカットイン、そして顔グラフィックでしょうか(ゲームシステムが決まっている以上は一番の売りとなる所でしょうね)。

また、フリーではまかなえないキャラチップをどうするのかということもあるでしょう(別にドット絵である必要はないのかもしれませんけれど)。

さらに、地味ながらもメッセージウインドウのカラーやデザインなど、高いセンスがないといけません(これはプログラム担当の方の仕事……でしょうか?)。


いえ、まあ、さらっと言っていますけれど、それが一番難しいのですよね、ゲーム制作は。

アドベンチャーの類いだともう少しハードルは下がりますけれど、シミュレーションRPGの場合はゲームバランスもシビアで、そこが足を引っ張る可能性もありますし。

個人的には、プリセットの顔グラフィック表示の対話形式ではなく、会話シーンではキャラの立ち絵が表示されるようになると良いのかなと考えています。

……要は、イラストの上手い方におんぶにだっこをして、他の欠点を目立たなくするのが一番だということです。


何だか重複する内容も所々ありますけれど、私の意見としては以上です。

長文駄文失礼いたしました。



 正直、「この人は何がしたいんだ?」というのがロックの本音だった。メンバのモチベーションを下げたりプレッシャを与えるような発言が、あちらこちらに見える。人がせっかく盛り上げて、褒めて伸ばそうとしているところに、冷や水をぶっかけてきたのだ。ただ、言っていることはどれも正論で、なにひとつとして言い返せないのが嫌なところだ。

 思えば、彼女がブログで『ロボつくの批評』とでもいうべき記事を書いたときもそうだった。皆が『ロボつく』で盛り上がっているところで、彼女自身だって参加者のひとりだというのに、他人事のように冷淡かつ論理的に主張していた。そして『権利関係の規約に穴があるので、どこかで何かしらの問題が起きる可能性が高い』と彼女が発言した数ヶ月後、実際に『弾痕のメタファー』が不条理な企画落選となってしまった。そんな事実もあるから、なおのこと反論しにくい。

 彼女の言うとおり、SGCという制作ツールは、あまり質の高いものではない。ユーザインタフェイスは劣悪で、二〇年以上前の旧時代的なデザインのため、どうしても安っぽい印象になってしまう。システムの導入には手間がかかり、制作ツールとしてもメジャーとは言えないだろう。ただ、今回作成するのはロボットゲームである。『ロボつく大戦(仮称)』という名称の通り、某有名タイトルと同じ、シミュレーションRPGを作る予定なのだ。そして、シミュレーションRPGの制作ツールは、ほかにまともなものがない――これですらマシな方なのだ。

 さて、このモチベーションだだ下げ女に対し、どんな返信をしてやるべきか。しかし、ロックがそう考えている間にも、グループウェアの掲示板には再び書き込みがあった。



●追記 発信者:エターナル・ミキ

文句を言うだけだと、ただの『嫌な人』なので、とりあえずワタシの分かる範囲での解決策の提案を。


【メッセージウインドウが別窓になっていて格好悪いという問題】

全ての箇所に適用できるものではありませんが、メインウインドウに表示させるプラグインを見つけました。

ついでに、顔グラフィック表示もADVゲームのような立ち絵表示に出来るようです


これを導入したサンプルを何となく作ってみましたので、添付しておきます。

ご確認ください。<(_ _)>


PS.このSGCとかいうツール、本当に機能が弱いですね。



「……エルさん、スクリプト書けるんじゃないですか!」

 ロックは思わず、声を上げてしまっていた。添付されていたファイルを開いてプレイしてみると、エターナルが言っていたとおりの機能が実装されていたのである。それもご丁寧に、サンプルとして流し込まれているシナリオは彼女の企画『機兵少女フリージア』で、イラストまでちゃんと取り込んでいる。加えて、効果音やフリー音源などなども調達してきたらしく、しっかりと組み込まれているようだ。

 正直、ロックが適当にでっち上げたサンプルゲームよりも完成度が高かった。もちろん、ロックはプロのゲームクリエイタなどではないが、それでも別サークルでゲームを作成して完成までこぎ着けた経験がある。それを超えるものを、エターナルは「何となく」で作ったというのだ。書き込みから察するに、このツールを使ったことは今回が初めてということであるが、他のツールは使ったことがあるというような言い回しである。

 もちろん、彼女がスクリプトを書けるとは初耳であるし、ゲーム開発経験があるということも聞いていない。ただ、もしも本当にそれが出来るだけの能力があるのなら、彼女には是非ともそちらの担当を願いたい。そう思い、事前の根回しのために、ロックはエターナルにインターネット通話による会議を提案した。最初、彼女は「電話の類が苦手」だと渋っていたものの、なんとか通話アプリのIDを聞き出すことには成功した。

「エルさん、単刀直入に言いますけれど……ゲームのスクリプト担当をお願いします!」

「……そう言われるのが嫌だったので、ゲーム開発経験があるっていうことを黙っていたんですけれどね」

 ただ、ロックの要望に、彼女は良い顔をしなかった。

 もちろん、それは想定内のことである。

「他に人がいないので、今は暫定的にボクがスクリプトを書くことになっていますけれど……正直、負担が大きいんです」

「それは、分かりますよ。ゲーム制作で一番大変な部分ですからね、コーディングは。それでいて目立たず、ありがたがられず、むしろ文句ばかり言われたり……正当に評価されにくい部分ですからね。だから、やりたくないんです」

 ああ、やはりこの人は分かっているんだなと、ロックは確信する。そういえば、スノー・クロックがゲームバランス兼スクリプトになった際、彼女はそのことについても言及していた。たしか「スノー・クロックさんの担当している部分は一見地味ですけれど、一番大変な部分です」というものだっただろうか。

 また、先日などは某ロボットゲームマニアのおもてがわが、第三章に見据えられている彼自身の企画について、スノー・クロックに無茶な要求をしている場面があった。マニアであるだけに要求が細かく、高度なものが多いのだ。スノー・クロックは「無理」「出来ない」と返し、おもてがわは「えー、なんで実装できないんッスかー」とゴネていたものの、それをエターナルが「それは制作が慣れてからやるべきですね」「スノーさんも慣れてくれば出来るようになるかもしれませんから、今は『保留』というだけに留めておいた方が良いですよ」と、やんわりとフォローもしていた。

 考えてみると、今までにも幾度か、彼女はゲーム制作経験があることをうかがわせる発言をしている。「どんなツールを使って開発をするのですか」とか「知り合いにフリーゲームを作っていた人間がいて……そのホームページがこれです」「知り合いではないですけれど、このインディーズゲームの製作者さんとか、ワタシは好きなんですよね」といったものだ。そういえば、彼女の職業についてたずねてみたことはなかったが、あるいはプログラマかなにかなのかもしれない。それこそ、ゲーム関係の仕事をしているということも考えられる。

 ただ、やはり彼女の言葉は正論であるからこそ厄介だった。論理的で隙が無く、「スクリプトは損な役回りだ」ということも頷ける。以前、ロックが別サークルで主導したゲーム制作でも、やはりそのことで問題が起こったことがある。スクリプトを担当していたメンバが他のメンバからの突き上げを食らって、「俺がどれだけ苦労しているか、アンタら分かっていないんだろ!」という捨て台詞を残して抜けてしまったことがある。結局、その人物が抜けた穴を埋めるためにロックがスクリプトに入ったのだが、たしかにそのメンバが言っていたようにスクリプト記述作業は相当な労力が必要だった。

「少なくともボクは、スクリプト作業の大変さを分かっているつもりです。……それじゃ、ダメでしょうか?」

「それは、そうでしょうけれど……」

「もちろん、エルさんがスクリプトに入らなくても、『ロボつく大戦』を完成させることは出来るでしょう。でも、エルさんがやってくれれば、完成度は高いものになるとボクは思っています。ボクは、最初に言いましたよね。……どうせ作るなら、本気で良いものを作りたいと」

「SGC……あの開発ツールは簡単にSRPGが作れますけれど、どうしても作れるものに限界があります。理論上は『ウディタ』や『ツクール』や、いっそのこと『Unity』を使って作ることも出来ますけれど、それだとSRPGのシステムをゼロから構築しないとならなくて、今度は開発難易度が高くなりすぎて上手くいかない。だから、本気で良いものを作るという前提が、その時点で矛盾しているんです」

「いいじゃないですか、それでも。何か、問題あるのでしょうか? ……ボクは、エルさんがスクリプトを担当してくれたら、それだけでうれしいですよ。もしもエルさんがやることに文句をいう人がいたとしても、ボクならエルさんの立場に立ってフォローできると思いますし」

 今のは、少しずるい言い方だっただろうか。

 そう思ったものの、そうでも言わなければ彼女を説得することは難しいだろうとも思っていた。

「……分かりました、ロックさんがそこまでおっしゃるのであれば」

 度重なる説得で、ようやくエターナルが折れてくれたのは、通話を開始してから二時間後のことだった。もっとも、それがこのサークルにとって良いことだったのか、それとも悪いことだったのか――今このときも、そしてずっと後になっても、彼女には判断がつかなかったことであった。

 それでも、エターナルをスクリプトに据えてのち、作業は順調に進んだことは事実である。それ以前の段階から、第一章である『弾痕のメタファー』のスクリプトをロックやスノー・クロックが組んでいたのだが、これにエターナルが手を加えたことによって完成度が飛躍的に向上した。SGCの仕様だとシミュレーションRPGの戦闘部分と事前の会話イベントはひとつのスクリプトにまとめて記述されていたのだが、エターナルが「それだと見辛いですし、戦闘バランスを整える場合とシナリオを修正する場合で作業がバッティングして都合が悪いので、分けて編集できるようにしました」と、作業の効率化を実施した。先の立ち絵表示の会話システムについては各企画の監督である照月や橘から「もう少し、表示位置を調整できないか」という要望が出たのだが、それも一日とおかずに修正してしまっていた。

 また、エターナルは「機能実験のため」と称して、各種プラグインを集めてきてはサンプルシナリオに追加実装している。あくまでもシミュレーションRPG制作ツールとしての側面しか持たないSGCにアドベンチャーゲーム(ADV)形式の表示機能を追加し、戦闘パートの前後にADVパートという形で挿入したのも彼女だ。その際、背景画面の表示切り替えについて橘が「ブラインドカーテンを開け閉めするみたいに、表示が切り替わるのとかってあるじゃないですか? ああいうこと、できますか?」と問うのに「とりあえず、試してみます」と言って、一週間足らずの間に仕上げてきてもいた。やはり、彼女は相当に能力のある人間だったらしい。私用で薩摩とネット通話した際も「エターナルさんのおかげで、色々助かっています」という率直な感想をロックは口にしたりもした。

 だから、彼女の能力の高さがゆえに問題が生じるとは、そのときは思ってもいなかったのである。


    *


 スケアクロウは苛立っていた。何で、自分がマップ作成などという、訳の分からないことをしなければならないのかと。

 自分は絵師だ――少なくとも、そのように自認しているし、そのつもりでこの集まりにも入ったのだ。なのに、担当がイラストでないとはどういうことだろうか。

 大体、ツールが使いづらい。特にマップ作成エディタというこれは、説明書もなければろくなヘルプもない。そのわりにはマップチップとかいう素材だけは豊富というか、多すぎて訳が分からない。草原と湿原の違いもあってないようなものであるし、海のマップチップセットだけでも十個近くある。中にはそっくりそのまま、どこをどう見ても同じチップまであるのだ。

 各作品の監督から送られてきた指示も、まちまちだ。『明星のチューリングマシン』の橘なるは、なるほど分かりやすい例を挙げてくれたし、そもそもスケアクロウと名乗っている彼は『明星のチューリングマシン』という企画に惚れ込んで参加したのだから想像もしやすかった。そう、正直なところ『弾痕のメタファー』などという、クソくだらない意味不明な企画なんて眼中にない。それだというのに、照月とかいうメンヘラ女は彼に「海、そう、海なんですよ『弾痕のメタファー』は! なのでマップ担当のスケアクロウさんには海のマップを作って欲しいんです」などという無茶苦茶な注文を投げつけてくる。せめてもう少し具体的な情報が欲しかったのだが、あの薬物中毒女は「海のマップが欲しいんです。でも、アタシはそういうデザインとか苦手なので、そこはスケアクロウさんの思うような海にしてもらって良いですよ」ときたものだ。「いや、俺は絵師といってもメカ絵師だし! 背景とか風景は専門外だし! ……っていうか、そもそもマップ制作とかワケ分かんねぇよ!」とどれだけか叫びたかったのだが、このバカ女に下手に突っかかると面倒そうなのでやめておいた。

 それでとりあえず、やる気のある『明星のチューリングマシン』のマップを先に仕上げることにした。ただ、これも思い通りのものにならない。何よりも、ツールが使いにくいし、思った通りのパーツがない。だから、最近SNSでやたらと絡んでくるエターナルに相談することにした。

「背景を描いてそれをマップチップに変換する……という裏技もあるので、もしもスケアクロウさんが背景の描ける人でしたら、そちらの方が早く上げるかもしれませんね。あっ、変換作業は、ワタシの方で出来るので」

「いや、俺は背景とか描かないし」

「うーん、そうですか。まあ、絵師さんにも、色々なタイプがいますからね。なら……イメージスケッチを先に描いて、それに当てはめていくというやり方もありますよ?」

「だから、俺、背景描かないんだっつってんだろ」

「細かいスケッチではなく、ラフスケッチで全然問題ないですよ? 線を引いて、家の見取り図を描くようなものです」

「だから、そういうこと、やらないんだって!」

 役に立つんだか立たないんだか、よく分からないアドバイスだというのが彼の感想だった。

 そんなこんなで詰まっていると、スノー・クロックから「マップは早めに提出していただかないと、僕が戦闘バランス調整出来ないくて困ります」という催促が来た。

 それに被せるようにエターナルが「イラスト関係は後で差し替えできるものも多いですが、マップだけは出来るだけ早めに上げないと全ての作業が停滞します」という書き込みを掲示板に上げてくる。

 末尾には申し訳程度に「素早く完成度高く仕上げないといけないので、スケアクロウさんのポジションはスノーさんとはまた違った意味で大変な部分です」と書いてあるが、彼には皮肉にしか見えなかった。

「……とりあえず、『弾痕のメタファー』のマップ、ひとつだけは完成しました」

 開発開始から一ヶ月後、彼はようやく作成完了したマップを投函する。ただ、照月に伝えられたとおりに作ったつもりだが、語彙力貧困な彼女の言ったとおりに作ったそれは一面の海に、所々色の違う海水チップを添えただけのものにしかならなかった。ツールが使いにくく、伝えられたイメージがあれだけだったとしたら、せいぜいがこんなものだろう。いや、むしろ畑違いのデザイン作業で、これだけできれば頑張った方だろう――彼は努めて自分にそう言い聞かせ、納得しようとしていた。

 仮に照月が文句を言ってきたとしたら、そのときには「テメーの指示がいい加減なせいだよ、ボケが」と言ってやるつもりだった。それぐらい、慣れない作業で疲弊していたのだし、いい加減な指示しか出せない彼女に腹を立てていた。そして何よりも、こんな意に染まない作業をやらされていることに、いい加減飽き飽きしていたのだ。

 しかし、そんな彼の提出したものと、それに添えた掲示板の書き込みに最初に反応したのは照月ではなく――エターナルだった。



●一点、確認しておきたいことが 発信者:エターナル・ミキ

不躾な意見であることは承知しているのですけれど……多分、その深海マップチップの使い方は違うのではないでしょうか。

用例として、スケアクロウさんのものをベースにいじったものを、とりあえず上げておきました。

『メタファーマップ1改.map』がそれにあたります、ご確認ください。


なお、先にも申しましたとおり、ワタシにはオブジェクト配置のデザインセンスがないです。

そのため、配置は無茶苦茶で、美意識のかけらもありません。

ただ、作るだけであれば十分できますし、マップチップの意味についても理解しています。


イラストとはあまり関係ない部分でのセンスや知識が要求されるのは、ワタシも承知しています。

何か不都合なことや不明なことがあれば、ワタシで答えられる部分もあると思うので、遠慮なく聞いてください。

スケアクロウさんの場合、ひとりで悶々と考え込んでしまう傾向があるのが、少々、心配ですので……。


ちなみに、今回の件に関しても、実は単純にSGCのマップ作成ツールの機能が弱いところに根本原因があります。

RPGツクールなどのツールでは、このあたり、自動置き変えしてくれるのですよ。

それを手動で全てやらなければならない上、説明が一切ないのですから、間違えて当然のところではあります。



 そんな書き込みに添付されていたファイルを開いてみると、たしかに改良されたマップがそこにはあった。

 それも、一ヶ月かけて苦労の末に作り上げたスケアクロウのものより、遙かに完成度が高いものが。

 エターナルの言うところの深海マップチップは、スケアクロウの作ったものだとギザギザのタイル張りのような出来であるが、彼女の作ったものは別のマップチップを併用して自然な印象に整えてある。どうやら、どこかしらに成形用のマップパーツがあったらしい。

 また、一面に海が広がるだけだったスケアクロウのものに対し、エターナルが改良したというものには岩礁パーツや小島パーツなどが加えられている。その他にも渦潮やら灯台やら、過不足ないオブジェクトが配置され、奥行きのあるデザインに仕上がっていた。

「じゃあ、お前がやれよ!」

 本来は照月にぶつけるつもりだった怒りが、そこで爆発した。

 さらには間の悪いことに、エターナルがSNSで『ワタシでできることがあればお手伝いしますよ』と銘打ったメッセージを送ってきたのだ。

 怒りのままに、攻撃的な文面で返信をした。もう、放っておいて欲しかったのだ。それなのにエターナルは執拗に食いついて「大丈夫ですか」だのといった言葉を重ねてきたので、もっと強く言い返してやった。それこそ、先ほど口に出した「じゃあ、オマエがやれよ!」とも書いた。

 それでもまた、善人ぶった良い子ぶった返信でも来るのだろうと彼は思ったのだが――返ってきたのは、意外にも「嫌です。ワタシはやりませんよ」というものだった。

「本来はスクリプトだって、とてつもない労力の割に見返りが少ないから、やりたくなかったのです。その上にマップ制作までもやるとなれば、作業量がワタシの許容量を超えますから。出来もしないことを出来ると言うのは、無責任な行ないになってしまいます。あるいは、無理をすればなんとかやり遂げられるかもしれませんけれど……その場合、集中力が散漫となり、スクリプトもマップ制作も本来のワタシが持っている実力を百パーセント発揮することができないことでしょう。一般論としてもワタシ自身の経験からしても、それが分かります。そして、ワタシはそういう半端が嫌なのです」

「だから、出来る人がやればいいだろ。……俺は、出来ないっつってんだよ! 俺にはそもそも、こんなことが出来るわけがねぇんだよ!」

「スケアクロウさん。こういう言い方はしたくないのですけれど、それは出来ないのではなくやらない……やりたくないだけですよね? 何度も言っていますけれど、やりたくないというだけだったら、ワタシだってスクリプトなんてやりたくないんです。でも、やっているんですよ。……何故か、分かりますか?」

「知らねぇし! 何でもかんでも、努力しないでも出来るようなオマエみたいなヤツの心境なんて、分からねぇから!」

 本当は、分からないわけではない。ただ、分かりたくないだけなのだ。分かってしまうと、自分が惨めになってしまうから。

 そう、惨めなのが嫌なのだ。自分の力のなさを実感してしまうのが、たまらなく悔しかった。

 絵を描いたり文章を書いたり、そうした創作活動をする人間なら、誰にだって多少は承認欲求や虚栄心というものがある。

 そして同時に、その反対のこと――自分の無力さを痛感したり、他人に認められなかったりといったことには弱い。

「もう、構わないでくれ! 俺はもう、やめるんだ!」

 最後に言葉をたたきつけると、そのままSNSのブロック機能でエターナルとのつながりを切る。

 ただ、それは決して気持ちの良いものではなかった。


    *


 まるで、二年前の我が家のようだ。休み時間に掲示板やSNSのやりとりを確認しながら、雁間はふと思う。三年前、彼の家で深刻な不和が生じたときのやりとりを、まるきりなぞっている。

 国立大学出身のキャリア官僚である母と、工業高校出身の技術者である父。夫婦共働きで、一見すれば互いに高給取りの仕事人間である。そして雁間自身、中学二年生のそのときまでそう信じて疑っていなかったのだが、実態は少し異なっていたのだ。

 技術者である父は、国立大学出身の母に負い目を感じていた。技術者やエンジニアと言えば聞こえは良いが、所詮は高卒である。どれだけ技術を磨こうとも、将来なれるだろう役職はたかが知れている。いや、むしろ一生下っ端だという場合もざらにあるだろう。それに対して国立大学出身でキャリア採用された母は女性でありながらも出世街道を突き進んでおり、役職の名前も少しずつ長くなっている。雁間は給与明細を見たことはないが、おそらく、手取りは母の方が上なのだろう。

 もちろん、それまでは何とかやっていたのだ。それが変わったのは、父の勤める会社が経営方針を大きく変更することになり、それについて行けなかった父が辞表を提出したからである。雁間もその当時は父が自発的に辞表を出したのではなく、単純にリストラされたものだと思い込んでいたのだが――いずれにしても彼の父が会社を辞めたのだという事実には変わりない。

 もっとも、それまで二馬力で動いていた雁間家はそれなりに小金は貯めており、母親の給与だけでも今後暮らしていけるだけの収入はあった。それがそうならなかったのは、ひとえに父が「何でもできるキミとは違うんだ!」と、母を詰ったことにある。そして無論、男性社会の中で歯を食いしばって活躍しているハズの母に対し、それは禁句だった。「そう、私が嫌いだというのなら、一緒に暮らすのは辞めましょう」ということになり、気がつけば父と母は別居――母が実家に帰ってしまったのである。

 ただ、雁間は技術者である父が好きだったのであるし、将来は父と同じような技術者になりたいと夢見てもいた。だから、弟は母についていったのに対し、雁間はそのまま地元に残ることになった。一年後、受験を控えていたということもある。ただ、父はそんな諸々の事情を差し置いて、自分を見捨てないでくれた雁間に泣いて感謝したものである。そして、そのことに対し、当時の雁間もまんざらでもない気分だった――今思えば、その選択は愚策以外の何物でも無かったのだが。

「父さん、何とか再就職するからな。……オマエの学費も、稼がにゃならんし」

 雁間が授業を終えて家に帰ってくると、父はいつもそう言う。

 ただし、この三年間ずっと、毎日のように聞かされれば耳にタコができるが。

 いや、雁間が学校から帰ってきたとき、『この三年間毎日父が在宅している』という事実がおかしいのだが。

「……うん、そうだね。父さん」

「ほら、今日は『勝った』んだ! 久しぶりに、外食でもしようじゃないか!」

 一万円札を十数枚、扇のように広げて見せる父に、雁間は感情のない声で答える。

 たしかに、十数万円というのは大金だ。

 ただし、それを獲得するまでに何十万円、いや、何百万円を投資したのかということを別にすればだが。

 父の言葉に生返事をしながら、彼はスマホでSNSやグループウェアを確認する。


橘なる:シナリオが進んだとき、キャラのステータスが変化するようにして欲しいんです。

スノー・クロック:面倒な注文だなぁ。……『成長率補正』のステータスをつけるのじゃダメなんですか?

橘なる:うーん、それだと、ちょっとイメージと違うんですよね。

エターナル・ミキ:スクリプトでちょっといじれば良いだけなので、ワタシがやりますよー。


橘なる:戦闘中にカットイン演出を出来るようにして欲しいんです! ほら、このゲームとか、このゲームみたいに!

スノー・クロック:無理! システムの深いところをいじらないといけないから、手を出したら絶対ヤバイことになる!

エターナル・ミキ:あっ、それはスノー・クロックさんが担当している戦闘バランスの方じゃなくて、ワタシの担当しているスクリプトの領域です。どうにかならないか、ちょっと、色々と検討してみますね。


橘なる:ビームの演出、イメージだとこれじゃないですね。これ、薬莢が飛び散るエフェクトがついているじゃないですか。

スノー・クロック:いや、そこはいじれないし!

エターナル・ミキ:あっ、それ、現在のは自動指定で表示されているだけなので。ここで手動指定すれば、思った通りのエフェクトに出来ますよ。

橘なる:おお、すごいですね、さすがエターナルさんです! ……文句ばっかりのスノーさんとは、大違いですね!

スノー・クロック:はぁ? それは皮肉ですか、橘さん。……本当、いい加減にしてくださいよ!

エターナル・ミキ:えぇと、あの、橘さん。ワタシの手がけている部分とスノーさんの手がけている部分、知識がない人から見るとかぶっているように見えますけれど、全然、違いますからね。スノーさんが担当している箇所は、『既にあるものをいかに効果的に利用するか』というものなのですよ。それに対して、ワタシが担当しているのは『本来の仕様にないものを追加していく』というものです。もちろん、その見分けが難しくてスノーさんに投げているというだけだとは思うのですけれど……やはりそれを投げられるとスノーさんは困るわけで、だから『できるか?』と問われたら『無理!』と答えるしかないのですよ。なので、そういうときは『スノーさんが文句言った』と思うのではなく、ワタシの方へ投げてください。そして、スノーさんも『無理!』というのは構わないですけれど、そういう場合はまずワタシの方へ投げてくださいね。あっ、もちろん、ワタシが判断しても難しかったり無理だったりということはあるということは先に断っておきますね。

橘なる:承知しました、エターナルさんがそうおっしゃるなら、その通りにします!


 マップ担当をしていたスケアクロウがサークルから抜けてしまった後、リーダであるロックがなんとか火消しをしてくれた。そのおかげもあり、とりあえず延焼するということはなかったようだが、今度は別の場所に火が上がろうとしている。

 現在、第一章である『弾痕のメタファー』と併行して『明星のチューリングマシン』の制作が始まっているのだが、戦闘バランスや演出について、企画者の橘と戦闘バランス担当のスノーが対立しているのである。自企画に並々ならぬ思い入れがあり、内外問わず精力的に活動しているのが橘なるという人物だ。イラストレータであり、それなり以上に文章も書ける彼は、SNSやイラスト投稿サイトで『明星のチューリングマシン』のイラストやショートストーリーをアップロードし、いわば『明星のチューリングマシンクラスタ』とでもうべきファンを多数獲得している。彼の中の『チュリマシ』の世界観は日に日に膨れあがり、それゆえにゲーム制作でも要求が肥大化しているのだ。

 ここで火に油を注いでいるのが、エターナルだった。彼女自身、『チュリマシ』の長編小説なるものを二週間程度という短期間で仕上げ、小説投稿サイトにアップロードしている『明星のチューリングマシン』クラスタの猛者でもある。橘の『チュリマシ』世界観に少なからぬ影響を与えているのだし、同時に世界観を誰よりも――それこそ下手をすれば原作者の橘以上に、具体的に理解しているのがエターナルであると言っても良いのが現状だった。

 体裁としてはスノーを立てているし、事実、エターナル本人としても悪意など欠片もないのだろう。ただ、彼女はスケアクロウとのことで懲りることもなく、完璧すぎるゲーム制作能力を遺憾なく発揮しているのだ。もちろん、スケアクロウの件とは少し事情が異なるのだし、スノーもエターナルに対してスケアクロウほどの劣等感を感じてはいないようだった。ただ、エターナルが何でもかんでも橘の要求を実現させてしまっているからこそ橘の発言はとどまることを知らなかったし、そうなるとやはりスノーが橘の機銃掃射のごとき要求にさらされる。

 出来ること自体は悪いことではないし、むしろありがたいものだ。ただ、あまりに能力に開きがありすぎると、周囲は自らの無力さを思い知らされ、卑屈になったり苛立ったりしてしまう。そのことを、雁間はこの三年間、嫌というほど思い知らされているからこそ分かる。ただ、雁間の場合、それを客観的に見ていた方であるから、どちらか片方に肩入れできるわけではない。むしろ、どちらの心情も分かる気がするのだ。


『僕は、これ以上は無理です』


 やがて、スノー・クロックがその発言をするだろうことは、雁間にも予想がついていた。いや、他の人間にだって、予想は出来ただろうか。

 ただ、彼の場合はスケアクロウほど弱い人間でもなければ、無責任な人間でもなかったらしい。あくまでも『戦闘バランス調整』という役職を降りるというだけに留め、サークル脱退まではしなかった。既に着手していた『弾痕のメタファー』については、大枠の戦闘シーンは完成しているのであるし、リーダであるロックが「エターナルさんがスクリプトを精力的にやられていて、ちょうどボクの仕事が減っていたので」ということで、作業引き継ぎを快諾していた。スノーは今後、本来の役回りである『おもてがわ企画(仮称)』のシナリオ執筆に専念するという。

 そう、『おもてがわ企画(仮称)』――第三章に据えられている企画だ。これに関しては、雁間も他人事ではない。この企画の顔、メカデザインは彼が任されているのだ。内容は完全に固まってはいないものの、雁間は既に主役メカのラフスケッチを提出しており、企画主にして監督を務めるおもてがわからは「おわぁー、ガンマ君のメカ、かっちょえぇッスね!」と、喜びの言葉をもらっている。スノーがサークルそのものから抜けてしまっていたら、この企画そのものが頓挫しかねないところだったのだ。おもてがわも「今までスノーさんが執筆できていない状態だったんですけど、これで俺の企画に専念してもらえるというのは、不幸中の幸いッス! スノーさんのシナリオ、楽しみにしていますよっ!」と、むしろ歓迎するような書き込みをして、ひとまず落ち着いたかという所だ。

 雁間の家庭環境と違う部分があるとすれば、この場にいる誰もが父とは違う、分をわきまえた立派な大人だということだろう。彼はこの『ロボつく大戦(仮)』の制作メンバ最年少であり、他のメンバは事実、彼よりもずっと大人なのだ。スケアクロウに関してだけは残念であったものの、そもそもエターナルと諍いを起こす以前から、おもてがわや橘とSNS上でトラブルを起こしていた人物だということを彼は知っていた――他のメンバの悪口を言いふらすような人間がいないので聞こえてこなかっただけで、あれはなるべくしてああなったという側面が少なからずあるし、スケアクロウが抜けたことを残念がるメンバは誰ひとりとしていなかった。


「『弾痕のメタファー』完成です!」


 制作開始から二ヶ月。メンバ脱退や意見衝突などのトラブルはあったものの、第一シナリオの『弾痕のメタファー』は完成した。そして幹事役の薩摩が「オフ会やろうぜ!」と発案し――一同は再び、顔合わせをすることになった。ちなみに前回と同様、遠方組が東京に来る日に会わせてのオフ会である。

 参加者の数は前回よりも少なかったが、前回は都合が悪くてこられなかったメンバ――スノー・クロックなどを呼び寄せることが出来ていた。スノーの他の新しい顔ぶれとして、『弾痕のメタファー』のメカデザイナとして招聘されたヒキワリというメンバもいる。

 なお、顔ぶれが変わった中にあっても、やはり工業高校二年生の雁間が最年少であることには変わりない。次に若いのは十九歳だという新メンバのヒキワリ、次いで橘なるといったところだろうか。前回はモエという大学四年生のメンバもいたのだが、彼女は学業が忙しくなったということでこのサークル自体から抜けてしまっている。大学生メンバはもうひとり、『弾痕のメタファー』のシナリオ担当のひとりであるえーるもいるが、彼(彼女?)は前回も今回も都合が合わなかった。

 残るメンバであるロック、薩摩隼人、エターナル・ミキ、おもてがわしんじは社会人である。最年長であるロックは正確な年齢は秘密ということだが、三十代だということは薩摩との会話から察することが出来るのであるし、おもてがわは年齢不詳ながらも趣味の傾向から考えて四十代か五十代といったところだろう。エターナルは「まだ、何とか二十代ですよ」とのことだ。

「それでは、第一章『弾痕のメタファー』の完成を祝しまして……乾杯!」

 幹事役の薩摩がジョッキを片手に、乾杯の音頭を取る。

 ちなみに、年長組である薩摩のジョッキの中身は、ビールではなくウーロン茶である。

 未成年の雁間に気を遣ったというわけではなく、単純に『アルコールは脳細胞を殺す』と信じて、摂取を控えているらしい。

 まるで「どこぞのロボットラノベの軍曹みたいだな」と思ったのは、おそらく雁間だけではないことだろう――一応、このサークルのメンバは皆、ロボット好きなのだ。

「いやぁ、一時はどうなることかと思いましたけれど……二ヶ月でここまで来られるとは、僕も思っていなかったですよ」

「うん、うん、皆さんのおかげでアタシの『弾丸のメタファー』が形になって……本当、感動です! 特に、最後の詰めではロックさんがシナリオ執筆を手伝ってくれましたし、あっ、もちろんスクリプトで色々とやってくれたエターナルさんにもありがとうございますというところですし、なるさんのイラストも、オキタとかミナミとかオギとかすっごく良くて……そう、特にミナミのイラスト! あのポニテ、本当に良いですよね。ポニテ、ポニテは最高なんです! もう本当、なるさんにミナミのポニテを描いてもらえただけで、アタシ、十分満足できていたんですけれど……って、あっ、もちろん、他の皆さんにもいっぱいいっぱい感謝はしていますよ。何よりも、えぇと、えぇと……ヒキワリさん! ヒキワリさんのメカ、すっごく良いです! アタシ、『ロボつく』の応募でヒキワリさんのメカを見たとき『これだ!』って思って、他のなんかもうどうでも良くなっちゃって……」

 雁間の隣の席には仕立ての良い服に袖を通した照月が座り、一同に向け、止めどなくまくし立てている。元々、ともすれば鬱陶しいと思うぐらい多弁な彼女だが、今日は『弾痕のメタファー』完成祝賀ということもあるのだろう。いつもに輪をかけて、躁傾向である。反対隣に位置したメカイラストのヒキワリの肩をバシバシ叩いたり抱きついたりして、初参加の彼(ヒキワリは専門学校生だった)を困らせている。

 ちなみに、掲示板では積極的に発言して、ともすれば他のメンバと喧嘩腰の応対をしていたはずのスノー・クロックは非常に寡黙な人間だった。痩身で背が高いのだが、それと同時に顔も細長く、イケメンというのとは少し違う三十歳前後の男だ。ジッと視線を下に落とし、手元のジョッキや食器ばかりを見ている。ただし挙動不審にしているというよりも、泰然自若という言葉がピタリと当てはまる様子だ。イケメンイラストレータである橘が声をかけようとしていたようだが、スノーに鋭い眼光で一瞥され、ひとことふたこと述べた後はそそくさと退散していた。

 そうして孤立気味になっているスノーに声をかけていたのは、長身の女性――エターナルだった。最初、スノーは「誰だ、コイツ?」というような訝るような顔で彼女のことを見ていたが、途中でエターナルが改めて名乗ったのか、ある時を境にようやく合点したというような顔をする。もっとも、そのときにおもてがわが「スノーさん、飲んでいるッスかぁー?」と言いながらふたりの間に突っ込んでいったので、エターナルは仕方なしに反対隣のロックと会話をすることにしたようであるが。なお、雁間が聞いていた限りでスノーがオフ会が始まってからこれまでに口にした言葉と言えば「ああ」「いや」という、相槌の言葉が数回といった程度である。

 その頃には雁間もメカ描きというつながりで、ヒキワリと話すようになっていた。新宿駅近くにある有名専門学校に通っているという彼は、スノーほどではないものの口下手な性質である。ただ、彼の場合は口数こそ少なかったものの、自前のスケッチブックを取り出してさらさらと絵を描くという特技があったのでコミュニケーションに支障があるわけではなかった。何よりも、彼は一枚の絵を描き上げるのが異様に早く、この居酒屋オフ会が始まってから一時間の間に三体もの精密なメカ絵を描き上げていた。雁間も負けじとスケッチブックを取りだして描いたものの、一時間の内に完成できたのはせいぜい一体で、とても彼の速度には追いつけない。

「えぇと、ごめんなさい。盛り上がっているところ悪いですけれど、この居酒屋、そろそろ出ないといけない時間でして……」

 小学生と見間違えてしまうぐらい小柄な女性――リーダのロックがそう言ったときには、既に三時間が過ぎていた。ただ、こうして実際に顔を合わせられる機会は少ないということもあってか、一同、話は尽きることがない。大体、このサークルに所属しているものたちは『ロボつく』という企画を元にして集まった人々――世にも稀なロボット作品好きなのだ。

 結局、時間的な制約があるメンバを除き、河岸を変えての二次会ということになった。明日は北海道に行かなければならないというスノー、家は近いが明日の早朝に用事があるという照月、そして明日早朝の便で沖縄へ帰らなければならない橘などが帰宅したメンバだろうか。十八歳未満の雁間は、厳密にはこのままいることはマズイのだが――そのあたりはどうとでも誤魔化せる。いや、むしろ二次会場所として選んだファミレスでは、最年長であるロックがその小学生と見紛う見た目から「年齢を確認できるもののご呈示をいただけますでしょうか?」と店員に言われていたわけだが。

 ともあれ、つまめる程度の軽食とドリンクバー――そしてロックとエターナルはマグナムボトル(一五〇〇ミリリットル)のワインを注文して、ファミレスでの二次会は始まる。雁間は引き続き、メカ絵師であるヒキワリとスケッチブックにイラストをおこして、言葉少なながらもメカ談義に花を咲かせていた。多少の絵心のあるエターナルも最初はそれに加わっていたものの、何事もそつなく彼女も、イラストのレベルは雁間やヒキワリには及ばない。雁間も我流に近い部分があるが、彼女はそれに輪をかけて癖の強い絵柄なのだ。「ワタシは小説を書くことに時間を割いていますから、そちら一本の人よりどうしても劣りますからね」「それに、ワタシは楽しむためにしか描かないのですよ」ということらしく、しばらく描いて飽きたら、そのまま他の人々との会話に流れていった。絵を描く描かないでいえばロックもポップな絵柄の作品を描くのだが、彼女は彼女で「ボクは必要があるときにしか描きませんから」と淡泊なことを言う。

 そうして、サークルメンバとの二次会が始まって、どれぐらいの時間が経っただろうか。目の前の専門学校生は、未だに集中して描き続けているが、さすがの雁間も疲れてきた。コップが空になっていたので、ドリンクバーに飲み物を取りに行こうかと顔を上げたところで――隣の席の会話が耳に入ってきた。


「この間、ロックさんやおもてがわさんには言いましたけれど……あの程度のシナリオに二ヶ月も開発期間をかけるのはマズいですよ。本当は、一ヶ月で完成させないとならなかったはずです」


 発言しているのは、エターナルだった。

 年少組である雁間やヒキワリを不安がらせないためなのか、声をひそめている。

「ああ、照月は本当、気分にムラがあってダメだな。何とか完成したとはいっても……本当はあのシナリオ、ロックさんが書いたようなものだぜ」

「あっ、薩摩さん、それはオフレコ……」

「いいんじゃないか、別に。照月もいないし……エルさんになら、言っても問題ない」

 薩摩の言葉に、小柄なロックが慌てる。

 ただ、それを聞いていたエターナルは、むしろ納得したような顔だ。

「ああ、やっぱり、アレは照月さんの文章ではなかったのですね。……ワタシも文章書きですし、文章を見れば分かりますよ。あの人の文章にしては、整然としすぎていましたから。全部でないにしても、誰かが過不足がないように整理したんだろうなとは思っていました。ただ、えーるさんは忙しくてむこう二ヶ月ぐらいは作業できないと言っていましたし、あの人の文章はもう少しきれいな情景描写のはずなんですよ。そうなると、ロックさんかなぁと思っていたわけで」

「……って言っているが、ロックさん?」

「はぁ、もう……。彼女の名誉のためにも、黙っておくつもりだったんですけれどね」

 これは、聞いているということがばれたらマズイだろう。そう思い、雁間は再び、顔をスケッチブックの方に戻す。

 ただ、ここまで聞いてしまったからには、最後まで聞きたいと思うのが人情というものだ。

 だから顔をスケッチブックに向けたまま、彼は耳に全神経を集中させて年長組の会話を聞く。

「あれ? これって、俺が聞いていてもいいッスかね?」

「……っつーか、おもてがわ! ……オマエはこの間、ロックさんとオレがネット通話しているときに、ちゃっかりと隣で聞いていただろーが!」

「はぇー、そーでしたっけ? 俺、よく覚えていないッスけど?」

「おもてがわさんが、薩摩さんの部屋に? ……はっ、もしかして、お二人はそういうご関係┌(┌^o^)┐! 『おもてがわなら、オレの隣で寝ているよ』とか┌(┌^o^)┐!」

「ちげーよ! こいつが『乗り換え先の終電逃したー、駅のベンチで野宿だー』とか呟いていやがったから、偶々近くに住んでいたオレの家に泊めてやっただけだし!」

「おろ? もしかしてエルさん、お腐りになられている人ッスか? ……歪みねぇな」

「……おもてがわさん、腐女子とホモネタ好きはイコールではありません。下手なこと言うと、大変なことになりますよ? あと、ワタシは腐っていませんから! ただ……そう、男性が男性を愛してしまうというシチュエーションに萌えるだけです┌(┌^o^)┐!」

「そうです、ホモとBLは違うんですよ、おもてがわさん! ボクとしても、それをイコールで結びつけられるのは心外です!」

「へぇー、そうなんッスか?」

「おもてがわ……オマエ、その生返事やめろよな。オマエの悪い癖だぞ」

「うへへー、職場でも、よく言われるんッスけどね。……でも、俺、そんな生返事なんてしているッスか?」

 ただ、耳を澄ましても、しばらくはそんなくだらない会話が耳に入るだけだった。

 オフ会の駄弁りとなれば、脈絡がないのは仕方がないだろうか。

 それからもしばらく、そんな他愛もないやりとりが続いたようで、雁間も耳を澄ますのを辞めようかと思っていた。


「プロジェクトは時間をかけるほど、飛躍的に頓挫しやすくなるんです。今は良くても、このままだと後ろの方の開発で大きな問題が出ますよ」


 ただ、気を抜いたときにこそ、そういう重要な話題が飛び出してくる。

 だから雁間はドリンクのおかわりを取ってこようかと思って伸ばしていた手を慌てて引っ込め、再び傾聴する。

「長引くと、ワタシとスケアクロウさんが角を突き合わせたような事態が、もっと増えます。それに、今は皆さんの予定が合っていますけれど、時間が経つほどに予定が合わなくなってきて……次第に空中分解するんです」

「俺の企画なら、大丈夫ッスよ。シナリオはほとんどないんで! パパッとやって、パパッと終わるッス!」

「オマエが一番心配なんだよ、このバカが!」

「はーい、俺がバカでぇーすっ!」

「う・る・せぇ! ……本当、オマエが一番心配なんだよ、おもてがわ!」

 深刻な会話になり、皆が顔をうつむけそうになるところで、やたら陽気なおもてがわが絶妙の合いの手を入れる。

 先ほどから、その繰り返しである。

 しかしそのおかげか、表情が曇りがちだったエターナルも、クスクスと声を上げて笑っている。

「こういうセッティングしてもらえるのが、本当、薩摩さんのありがたいところですね」

「オウ、こういうことは任せておけ!」

「……でも、ワタシはあまり、薩摩さんには頼りすぎないようにしているんですよ。結構、無理されていますよね? ……薩摩さんは無理がたたって潰れそうで、ワタシはそれが一番怖いんです。多分、そのときが、一番の危機になると思うんですよ」

「いや、それは……」

「手早く、完成させてしまいましょう。開発開始が八月ですから、本当は十一月までに三章分ぐらいは完成させたかったところなのですよ。でも、今は十月ですから、遅くても十二月には第三章まで完成……ないしは一通り動くところまで仕上げるといったところでしょうか。それ以上伸びると、かなり危険です」

「あはは……。エルさんって、ボクが言いたいことをまるっきり代弁してくれますね。本当、助かっていますよ。いやぁ、これだと、ボクの立場がないなぁ……」

「うーん、実のところ、ワタシはロックさんに発言させないようにしていますからね。リーダであるロックさんの発言が増えてしまうと、どうしても言葉に強制力がつきすぎて、反発を招いてしまいますから。事務連絡と号令以外、ロックさんに言わせないように、先回りして発言するようにしているのですよ」

「ははぁ。本当、ありがたいことですね」

 エターナルの言葉は、雁間にも納得できる。実際、二週間ほど前、あわや分裂というぐらいに照月とスノーが大舌戦を演じたのだが――元を辿るとロックの発言が原因となっていた。

 そのときの気分や体調で作業速度が上下するのが、照月という女性の難点である。そうして最終調整が遅々として進まない『弾痕のメタファー』について、ロックが苦言を呈したのだ。それこそ「このまま制作が遅滞するようなら、リーダ権限でボクが仕上げ作業をやりますよ」というものだっただろうか。そのことに照月が反発し、がなり立てた。そしてそんな照月のワガママに、脇から見ていたスノーが激高して「ロックさん、さっさと強権発動して作品を完成させちゃってくださいよ」という趣旨の発言をしたのだ。

 幸い、そのときは照月もすぐに頭を冷やして事なきを得たのだが、あの発言がロックではなくエターナルだったとしたら、どうだろうか。多少の反発はあったにしても、そこまで大事にはならなかったかも知れない。むしろ彼女のことだから「なら、ワタシがシナリオのお手伝いをしましょうか?」と言って、一夜のうちに最高のシナリオを仕上げてしまっていたことだろう。彼女は二次創作小説も多く手がけていて、文体を似せたり、作者の意図を汲み取る能力に優れているのだ。確か、Pixivに『仮面ライダー』や『艦これ』、『まどマギ』の二次創作作品を多数掲載していて、いずれも高い評価を得ている。以前も『明星のチューリングマシン』の長編小説を二週間程度で仕上げてしまっているのだから、彼女なら本当にやってしまうだけの勢いがある。

 いずれにしても、リーダであるというその事実だけで、ロックが出来ることには限りが出てきてしまう。それを役職も肩書きもない気楽な立場から補佐して回しているのがエターナルという人物なのだ。彼女がいなかったら、果たして『弾痕のメタファー』は完成していただろうか。もちろん、ロックもスクリプトを書ける以上、形にはなっていたとは思うが――最悪、サークルが空中分解していた可能性はある。

「とにかく、制作のスピードアップが必要ということだな。第三章のおもてがわは、今ここで聞いていたから良いとして……第二章『明星のチューリングマシン』の橘さんには、オレの方から発破をかけておくよ」

「……お願いします、薩摩さん」

 年長組はそうして、今後のことを現実的に考えている。

 雁間は「この調子でいけば、全編完成まで余裕じゃないか?」程度に考えていたが、ことはそう単純ではないということだ。

 彼らは雁間が聞いていることに気付いた様子はないが、それでも彼は心に強く思った。

 自分は、まだまだ未熟だと。


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