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創作の協奏曲  作者: 久遠未季
第一章 創作の協奏曲(クリエイターズ・コンチェルト)
1/78

序、新しいロボットアニメの夜明け

はじめに


この作品はフィクションです。

ドキュメンタリィの類ではありません。

類似の事例が実在したとしても、偶然の一致とは言いませんが、事実と同一ではありませんのでご了承下さい。

序、新しいロボットアニメの夜明け


    *


『ゲーム、作りませんか?』


 スマホ画面にその文字が流れたとき、彼は迷っていた。

 家庭不和のこと、今後の進路のこと――そして自分が本当にやりたいことについて。

 絵を描くのは、好きだ。文章を書くということも苦ではないし、プラモを組み立てることや学校での機械工作も嫌いではない。

「ゲーム制作、か」

 思わず呟き、しかし今が夏期特別講義中だったということを思い出し、慌てて口をつぐむ。幸い、教師や級友たちには聞き咎められなかったようで、補習授業はつつがなく進行している。

 就職率の高い工業高校に入ったのは、確かに家庭事情による大学進学費工面が難しいからということもあるが、案外と機械関係の仕事は性に合っている。授業は難しくなり、辛くなっているものの、なんとか赤点はとっていないから問題ないだろう。

 だからこのまま、工業高校を卒業後は製造業に就職するという、当初抱いていた通りの進路でも不満はないはずである。

 それなのに、そんな将来設計に思いを馳せているときに訪れる、心の空白は何なのだろうか。


『イラストが描ける人、シナリオが書ける人……あるいは曲を作れる人。この場には、才能を持った多くの人がいます。皆さんの力を結集すれば、きっと良いものが作れるはずだとボクは信じています』


 SNSでそんな発言をしたのは、先に彼が応募して落選した、とあるコンペで知り合った人物だ。

 年齢不詳、性別不詳、経歴不詳――まあ、ネット上ではよくある話だが、ことさらに正体不明な人物だというのが彼が抱いた印象だった。

 ロックというペンネームで活躍するその人は、実のところ万年公募落ちの彼とは異なり、いくつかのコンペで受賞しているらしい。

 今回、彼が応募して落選したばかりのアニメ企画書コンペでも入選していたし、小説コンテストやイラストコンテストでの受賞経験もあり、果ては某有名動画の音楽Pでもあるらしい。

「僕が出来るとしたら、イラスト……かな」

 ロックPは先の公募で、彼が雁間出太のペンネームで応募したイラストをいたく気に入ってくれていた。

 だからこそ、彼はSNSでロックにフォローされたのだし、それがうれしかったから彼も積極的にロックとやりとりをした。

 ゲーム制作の誘いを受けたのも、そうした彼自身の積極的な行動の賜物だったのだろうと信じている。何よりも、自分のイラストを評価してくれた人からの誘いだから、断る理由もない。

 ただ、その誘いを受けるときに、どうしてか頭の隅をちらついたのが進路についてのことだったのだ。

「……これで、見極めようかな」

 高校二年生ともなれば、考える時間も残り少ない。

 普通高校へ行った中学時代の友人たちは「受験のために塾に入った」と言っていたのだし、それは就職が前提の工業高校でも変わらない。工業大学へ行ってさらに見識を広めたい――そんなことを考える連中は受験勉強を考え始めているのだし、そうでない生徒も溶接技能者などの資格を今のうちに獲得しておこうとしている。そして彼自身も、後者のつもりでいた。今日の補習授業も、そのひとつだ。

 自分が本当にどこまで出来るのか、あるいは自分が本当にやりたいものは何なのか。現実的に考えれば、このまま知識や技能を身につけて、エスカレータ式に技術者になることだろう。それがソフトウェア寄りなのか、ハードウェア寄りなのか。あるいは専門技能の中でもどこに特化するのかという違いこそあれ、基本、工業高校の生徒とはそういうものだ。そうでなければ、工業高校に入った意味が無い。

 でも、それでも――迷いがあるのだ。だからこそ、彼は『ゲーム、作りませんか?』という発言に、返信をするのだった。


    *


『今まで誰も見たことのないようなロボットアニメを皆で作ろう――ロボアニメをつくるぜ! 委員会(by株式会社オールプラネット)』


 面白い公募がある――それが、彼の第一印象だった。

 ロボットアニメといえば、古くは『鉄腕アトム』や『鉄人28号』に始まり、『マジンガーZ』などの東映アニメーションに代表されるスーパーロボット。そして『機動戦士ガンダム』のブームによって火がついた、いわゆるリアル路線のロボットなどがある。ただ、良くも悪くもロボットアニメの流行や新路線はそこで止まってしまっているというのが、彼が常々抱いている苛立ちだった。『新世紀エヴァンゲリオン』というのもあったが、あれはロボットとして扱うべきものではないし、そもそも後に続くものがないというか続けようがない。平成以降のガンダムシリーズはよく売れているものも多いが、もはやあれはロボットものというよりもガンダムというジャンルを形成してしまっているので、やはりふさわしくないと言える。もしかしたら、これが新たなムーブメントになるのではないか。そんな確信が、彼にはあった。

 長期休暇をとって帰国し、暇を持て余していたということもある。だから、薩摩隼人というペンネームで企画書の応募をしたのは、ほんの気まぐれに過ぎない。そして、その企画がかすりもせず、見事に落選したということも仕方が無いとは言える。それでも、この公募そのものが持つ力に惹かれ、自分も何らかの形で関わりたいと願ったことは間違いない。そして幸い、このアニメ企画書の公募は、何段階かに分かれているようだった。


1、プロアマ問わずアニメ企画書を募集します(三月締め切り)

2、選出された企画を元にしたキャラデザイン・メカデザイン・シナリオを募集します(六月締め切り)

3、各企画の短編アニメを制作して公開、再生数が多い作品をTVアニメシリーズ化します(年末~翌年を予定)


 彼が落選したのは、最初の企画書応募の部分。まだ、その次のイラストやシナリオの募集がある。イラストは全く描けないものの、シナリオなら――昔、劇団に所属して脚本を書いていたことがあるから、そのときの経験でどうにでもなるだろう。そう思い、選出企画の中で特に心を動かされた『明星のチューリングマシン』とやらのシナリオを書いてみたところ、思いの外に筆が進んですぐに書き上げてしまった。

 そのまま応募し、SNSで『シナリオ書きました』と呟いたところ、原作者の『橘なる』氏にすかさずフォローされ『読みました! 感動しました! ありがとうございます!』と、すぐさま返信が来た。そのときにはもう、「ああ、これは採用されたな」と確信した。何よりも、原作者にここまで素直に喜ばれ、評価されたのだ。落選するはずもない。何よりも、それ以降も橘なるからはSNS上での絡みが増え、彼女(あるいは彼かもしれないが)に信頼されているのだということがひしと伝わってきた。「アニキ!」とあだ名までつけられ、お互いに個人的な相談をしたりされたりするようにもなった。何よりも、彼が「自分は実際に銃器を扱ったことがある」ということを伝えたら、橘なるは「えぇっ、本当ですか? どうりで、すっごく緻密な軍事描写がされていると思いました!」と、思っていた以上の食いつきを見せたものである。ここまでくれば、この公募のシナリオ採用も、さながら勝ち戦だった。

 ただ、そうして勝ちを確信していながらも、少しの不安はあった。彼がシナリオを応募してからしばらく後、エターナル・ミキというペンネームの人物が『明星のチューリングマシン』のシナリオに応募してきたのだ。『チュリマシ(という略称がいつの間にか定着していた)』以外の作品にも目を通していたから、そのエターナルとかいう人物が、他の作品にもシナリオを投稿しているらしいことは分かっていた。それも、恐ろしいほどの文章力で書き綴られた作品は、薩摩も感心していたほどである。アニメのシナリオ募集なのに何故かやたらと地の文が多い小説形式で書かれているということは噴飯物だったが、メカニックや人工知能、そして人物の心象風景などの描写は緻密で完成度が高いことは認めざるを得ない。そして橘とのSNSでのやりとりでも、「エターナルさんとかいう人の作品、見ました?」とか「エターナルさんって、SNSはアカウントだけ作ってほとんど使っていないみたいですけれど、ブログやっているみたいですよ」「あっ、エターナルさんがブログで『ロボつく』の応募作品について記事書いています! うわぁ、私の『チュリマシ』も、すごくよく評価してくれてる!」「……って、この人、一〇万文字の長編小説にしてくれている! ……えっ、二週間で書き上げたの! ……って、完成度高すぎ!」と、話題に出てくることが増えてきていた。少し腹が立ったので「女っぽい名前だが、あのエターナルとかいうヤツ、あれでむさ苦しい男だっていう可能性もあるからな」と、橘には釘を刺しておいた。

 そんな中、他の企画の原作者とも、SNS上での交流を持つことが出来た。特に、『SMプロジェクト』のロック、『弾痕のメタファー』の照月などとはよく交流する。もっとも、『ジェットストリーム!』と『eternal force blizzard』の作者は少し言葉を交わせた程度でしかないし、『Star Carriage――星の乳母車』の原作者についてはネット上での連絡可能アカウントを持っていないようだった。特に照月という男(一人称は『アタシ』だが、これはネカマだと思う)は自身も『弾痕のメタファー』の企画者だというのに、橘なるの『明星のチューリングマシン』の熱狂的な信者になってしまった――というよりも橘なるに恋している節があるらしく、薩摩と橘と照月での絡みが非常に多くなっていた。『SMプロジェクト』の企画者であるロックという男(一人称が『ボク』だから男に違いない)については、話していて年代が近いということもあって、すぐに意気投合した。万事において公平な人物で、何事もそつなくこなす上に頭も切れる。『SMプロジェクト』については、薩摩は興が乗らなかったのでシナリオ執筆が難しかったが、ロック氏はそのことについては特に気にしてもいないようである。ただ、このロックまでもが「エターナル・ミキという方が書いた『SMプロジェクト』のシナリオ、なかなか良かったですね。……一部、ボクが想定していたシナリオにそぐわない部分はあるんですけれど、そこ以外はこちらの思惑を見透かしているんじゃないかっていうぐらい書けていますよ」と、エターナルとかいう人間を評価しているのだ。

 また、件のエターナルはともかくとして、他の企画参加者とのつながりも出来た。おもてがわしんじという男や、えーる、ぬんさ、モエ、スケアクロウといった面々だ。特に、おもてがわという男は面白い。『スーパーロボット大戦』シリーズを全てプレイし、七十年代や八十年代のロボットアニメに詳しく、ついでに黎明期の美少女ゲームやエロゲの知識さえも網羅している。四〇代か五〇代か――ともあれ、オタク第二世代といったところだろう。自分よりも年上であろうため、うっかりと敬語を使ってしまうことさえある。

 長期休暇中のほんの暇つぶしのつもりだったが、思いの外、多くの人間とのつながりが出来てしまった。そして、そのことを楽しんでいる自分がいる。半年後にはスイスの『部隊』に戻らなければならないというのに、このままだと抜け出せなくなってしまう気がする。それでも良いか――そう思った矢先に、事件が起きた。


●結果発表

『明星のチューリングマシン』

 シナリオ採用――該当なし

 キャラデザイン――該当なし

 メカデザイン――千子村正さん


 公式運営である『ロボつく委員会』が発表した公募結果が、それだった。

「シナリオが、選ばれなかった……?」

 エターナルに負けたわけでもなく、もっと他の誰かが選ばれたわけでもなく、ただひとこと『該当なし』としか記されていない。

 そしてそれは、他の全ての企画でもそうだった。『明星のチューリングマシン』『eternal force blizzard』『Star Carriage――星の乳母車』、小説ポータルサイトであるにもかかわらず、いずれの作品でも該当者なしという不可解な文字が躍っている。『ジェットストリーム!』だけは辛うじて採用があったが、あれは元々シナリオらしいシナリオがない作品であるから無理にひとつ選んだといったところだろうか。

 キャラデザインについてはさらに極端で、いずれの企画も採用されたものがない。一応、企画運営している小説ポータルサイトではイラスト投稿サイトとしての側面も持っているというのにだ。『明星のチューリングマシン』は原作者の橘なる自身がイラストレータであり、企画初段階から詳細なキャラクタ設定があったはずなのだが、それも不採用ということである。

 何よりも、目を疑ったのは――


(なお、『弾痕のメタファー』はメカデザインが選出されなかったため、ロボットアニメを作るという企画趣旨にそぐわないということで企画そのものを落選とします)


 共に『明星のチューリングマシン』を盛り上げようと言っていた、照月の企画そのものが潰されていた。事前の規約によると、企画として採用された時点で無条件に短編アニメ化まで進めるとあったはずなのだが、公式運営はその約束を一方的に反故にしてきたのである。それも、そんな一文が表示されているばかりで、ホームページ上からは上がっていたはずの『弾痕のメタファー』の企画書やそれを元にした各種応募作品へのリンクが完全に消されてしまって『なかったこと』として扱われている。

 当然、そこで薩摩は憤慨した。こんな馬鹿な話があるはずがない。まずは当事者である照月に確かめなければ――しかし、連絡を取ろうとSNSを立ち上げてみるも、照月のアカウントがどこにも見当たらない。よほどショックだったのか、どうやらアカウントを削除してしまったらしい。

 ただ、幸いなことに照月のメールアドレスは以前、聞いていた。通話はしないで専ら文章だけのやりとりであるものの、スマホ通話アプリのIDも聞いている。だからまずはメールを送ってみたものの、こちらは反応なし。通話アプリにも同様の内容を送ろうとも考えたが――思い直して、初めて通話機能を使ってみた。呼び出し音が鳴ること、二回、三回。十度目で、さすがに諦めようとしたが、そこでようやく接続音が鳴る。

「……はい、照月ですぅ」

 応じた声は、まるで酩酊状態でもあるかのような、どこかろれつの回っていないものだった。

 そして意外なことに――若い女性の声だ。

 橘への猛烈なモーションからして、てっきりネカマかなにかだと思っていたのだが、まさか女だったとは。

 休学中の大学生だとは聞いていたので、何をするでもなく家にこもっているオタク男を想像していたのだが、どうやら少し考えを改めなければならなそうだ。

「んー、あー、薩摩隼人だが……オマエ、大丈夫か?」

「えへ、エヘヘ……だいじょーぶ、だいじょーぶれすよ。……お薬、飲みましたからぁー」

「薬って……ヤバい薬じゃねぇよな?」

「んぅ、だいじょーぶれすよ、薩摩のアニキ。……ちゃーんと、パパに処方してもらったお薬ですから。ほら、アタシのパパ、お医者さんだって言ったじゃないれすかぁ」

 一瞬、どういう意味での『パパ』だろうかと思ったものの、この照月という人間がそういう器用なことが出来るはずもない。

 そういえば、家は大きくお金には困っていないような物言いをしていたこともあることだし、言葉通り父親が医者だと考えるのが妥当というものだろう。

 ついでに、電話口の向こうで「テルちゃーん、ご飯ですよー」「はーい、ママー」という声が入ってくるのが何とも据わりが悪い。

「……本当は、本当はですね。ちょっと、ちょーっとだけ、辛かったんれすよ。……でも、アニキが電話くれたんで、ちょっと落ち着きました」

「……そうか」

「えへへ、アニキ、優しいんれすねー。……あと、思っていたとおり、とってもダンディな声れす」

 グズグズと、鼻を啜る音がする。それと、ゴクンという、おそらく錠剤でも飲み下したのだろう音も。

 正直なところ、彼は薬物中毒で泣き虫な女なんて好みではない。彼の好みは、もっと自立した、バリバリに働けるような女性である。

 ただ、そういうふうに素直に礼を言われると、悪い気はしなかった。

「どうするんだ、これから。あんな……なんというか、一方的に前言を翻す、無茶苦茶なやり方をされて」

「うーん、本当は……れすね。何日か前に、公式運営のオールプラネット社からは、それっぽい連絡は来ていたんれすよ。……電話一本、れしたけどね」

「電話一本って……照月、それって先方、オマエのことバカにしてるんじゃないか? だって、契約は実際に顔をつきあわせて、書類で交わしているはずだろ? 橘さんだってロックさんだって、遠方に住んでいるっていうのにわざわざ東京までやってきて、書類契約を交わしたって言っていたぜ」

「うーみゅ、アタシ、そーゆー難しいこと分からないんれすけど……。でも、そういえば、あの……エターナルさんでしたっけ? あの『ロボつく』の評論記事をブログに上げていた人。あの人が、その中で言っていたとおりになったかなぁって。……ほら、『公開されているオールプラネット社の応募規約は一般の小説公募などと比べて非常に穴が多く、企画者の権利が蔑ろにされる危険性が高い』って」

「そういえば、あの人、そのせいで『ロボつく』運営の公式アカウントからフォローを切られていたりしたな。正直、『馬鹿なヤツだ』って印象しかなかったけどな。……案外、あのエターナルとかっていうヤツの言葉が、正解だったのかも知れない」

 ここでもまた、エターナル・ミキの名前を聞くとは思わなかった。

 それも彼の記憶の限りでは、照月がエターナルの話題を出したことは今まで一度も無い。

 エターナルは『明星のチューリングマシン』企画者である橘なるに絶賛されていたので、橘に横恋慕していた照月からすれば目の上のこぶだったのだ。

 そんな照月の口からエターナルを肯定する言葉が出てくるとなると、それだけ『ロボつく』公式運営に不審を抱き、『弾痕のメタファー』という企画そのものが潰されたことのショックが大きかったのだろう。

「……っと、話題が逸れたな。で、どうするんだ、オマエはこれから」

「どう、しましょうかね。……とりあえず、『チュリマシ』を応援しますよ。アタシの『メタファ』がダメだった分、橘さんに託します」

「……そう、だな。そもそも、オマエはこんな結果が出る前から、『明星のチューリングマシン』に惚れ込んでいたからな」

「むしろ、橘さんと角を突き合わせなくてよくなって、ホッとしたかも知れませんねぇ」

 彼の好みは、自立した女性だ。誰にすがることもなく、自分の足で立ち、困難があってもそれを自力で切り開くような人間が好きだ。

 だから、そうして諦めて、自分の大事なものを誰かに放り渡してしまえる照月のことは反吐が出るぐらい嫌いだった。

 それでも彼は――薩摩隼人のペンネームで接する彼は、そんな内心など微塵も相手に悟られないようにした。

 何故なら、そうして本心を語らず、嫌いな相手や苦手な相手に対しても公平に接することこそが大人の男だと信じていたから。

「とにかく、照月。今日は、ゆっくり休め。……あと、橘さんが心配するから、SNSのアカウントは復活させておけよ。一ヶ月以内なら、アカウントは簡単に復帰させられるからな」

「はい、ありがとうございます、アニキ……」

「……じゃあ、おやすみ、照月」

 それだけ言って、通話を切る。思わず、ふぅーと、長いため息をつく。

 公式運営が『弾痕のメタファー』を切り捨てたことにも驚いたが、照月が女だということにはもっと驚いた。

 ただ、思った以上に面倒くさい照月の性格を考えれば、それを理由にして切ったのではないかという気もするのだった。


『ゲーム、作りませんか?』


 SNS上で『ロボつく』企画者のひとりであるロックがそんな発言をしたのは、その数日後のことだった。

 そして何よりも、その際にロックが語る言葉が実にロックンロールだった。


『ボクの『SMプロジェクト』と共に選出され、短編アニメ化まで確約していたはずの『弾痕のメタファー』は非常に残念な結果に終わってしまいました。しかし、ボクはこの『弾痕のメタファー』という作品は、このまま終わらせてしまって良いものだとは思っていません。アニメ化こそ適いませんでしたけれど、ならばせめて他の形――ゲームという形で、ボクたち自身の手で『弾痕のメタファー』という作品をこの世に送り出すことにしようではありませんか! 幸い、ボクは所属しているサークルでゲーム制作をしていまして、その経験を生かす形でなら確実に完成までこぎ着けることが出来ます。何よりも、この『ロボつく』という企画に参加した皆さんは能力も高く、そんな皆さんとの縁を、何か形に残したいと思っていました。ですから『弾痕のメタファー』はもちろんのこと、それ以前の時点で選出されなかった企画、すなわち日の目を見ることのなかった企画を持ち寄って、ロボットもののオムニバス作品――『ロボつく大戦(仮称)』を作り上げたいと思っています!』


 その言葉に賛同し、参加を表明した人々の数は、なんとその後三〇分足らずの間に十人を超えた。

 もちろん、彼もそのひとりだったし、照月や橘、おもてがわ、えーる、スケアクロウ、スノー・クロック、モエ、雁間出太――そしてあのエターナルまでもが加わった。

 そこで、彼は再び確信する。

 ああ、これが新しいロボットアニメの夜明けなのだと。


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