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その16

 息を潜めて身を隠すなかで、イチノ達は視線の先に魔物の一団を捉えた。

 それは人間に酷似した魔物だった。濃い緑色の地肌の上に、毛皮らしき簡素な腰巻を身に付けている。軽く見積もっても2メートル半ばは超えているであろう、大柄で筋骨隆々な禿頭の魔物である。

 額の中央に生えた小さな角と尖った耳、下顎から突き出た巨大な犬歯と鋭い目つきが凶悪さを演出している。全身に刻まれた禍々しい刺青は、見た者の怖気を誘うようだった。


 それが6体。なかでも、リーダー格らしき魔物は他の個体とは異なり、肌が青白い。さらには、腰巻の他に毛皮のケープを身に纏い、さらには骨細工と貴金属の装飾品をジャラジャラと身に付けていた。

 オーク自身が鋳造したのだろうか。人間の世界では見かけない、歪な刃の武器を携えている。そのどれもが刺々しく、荒々しい。あれで肉体を斬られれば、最早処置の仕様があるまい。肉はグズグズに削ぎ落とされ、傷口から徐々に腐っていくことだろう。

 普通なら、そのような歪な武器では、まともに敵を斬れはしまい。しかし、彼らの優れた膂力は、強引にそれを成し遂げるのだ。


 魔物達は、邪魔な草花を手持ちの武器で切り裂き、踏み荒らしながら、不遜な態度で山道を闊歩していく。

 どの個体も屈強な肉体を誇り、筋肉ムキムキマッチョマンの変態にも通じる威圧感を放っていた。


 それに気圧されたのか、アッシュが蒼褪めた顔付きのまま呟く。


「お、おい……あれってもしかしなくても『オーク』だよな……?」

「まずいよ……オークっていえば、通常個体の1体でも、レッドランクの傭兵4人以上のパーティで挑む必要があるって言われるくらい強いのに……」


 クラウスは震え、竦む心身を抑え付けるように、ともすれば煩く鳴り始める歯を食い縛った。

 イチノは『オーク』という魔物の種族名を聞き、ガイドブックに記載されていた情報を思い出す。


 オークとは、亜人型に分類される魔物の中でも、極めて高い知能(あくまで"魔物"にしては)を誇る種族であり、上位個体になると人語を理解する者まで現れるという。

 通常個体は濃い緑色の肌をしているが、『リーダー格』となる上位個体は青白い肌、さらに上位の『将軍格』と呼称されるリーダー格を纏める希少個体は赤い肌、種族全体を束ねる『王』となる個体は黒に近い灰色の肌と分かり易く色分けされている。

 その物騒な見た目に違わず非常に好戦的で、種族を構成するのは雄のみ。交配は他種族の雌を孕ませることで、子孫を増やしていくのだとか。

 特に人型の雌を好み、孕ませた子は確実にオークになるらしい。

 魔物の強さとしても、通常個体ですら上位に入る種族であり、『王』ともなれば単純な強さだけでなく、個体の生命力も尋常ではないとのことで、ホワイトランクのパーティで挑まなければ討伐は難しいとされている程だ。


「……厄介だな」


 思わず、といった感じに渋い表情で呟くイチノ。

 つい先ほど死闘を演じたグミンなどとは次元が違う強さを誇るオーク。彼の姿を間近で見た少年達の表情は、一様に恐怖の色で染まっている。

 下手をすれば、彼らが錯乱しかねない。それを察したイチノは、オーク達に気付かれないように限界まで声を抑えつつ、少年達に囁いた。


「ここで大人しくしてれば、オーク達には気付かれないさ。このままあいつらをやり過ごしてから、機を見てフィルティマに帰還しよう」

「わ、わかった……」


 どうにか頷いたアッシュは、きゅっと唇を噛み締め、オークの一挙手一投足すら見逃すまいと目を見開く。クラウスも同様だ。イチノ自身も、表情や態度にこそ表していないが、相応の緊張状態にあった。

 いくら無双の強さを誇るネーヴェルが隣にいるからといって、それで恐怖を完全に抑制できるかと問われれば、答えは否である。

 全てがプログラムで動いていたゲームとは違って、この世界――現実――では、それこそ、いつ何時に何が起こるか分からない。それが万が一の可能性であっても、如何なる偶然が重なった結果、彼女を含めた自分達が窮地に陥らないとも限らないのだ。

 それを考えてしまうと、目の前の一団がイチノやネーヴェルにとっては取るに足らない雑魚であったとしても、その凶暴な外見も相俟って、どうしても緊張を強いられてしまう。


 どこまでも臆病な自身の性格を内心で罵倒したイチノは、隣にいるネーヴェルの手をぎゅっと握った。

 ネーヴェルもイチノが怯えていることには気付いていたらしい。彼女は握られた掌にそっと力を入れて、安心させるようにイチノの手を握り返す。

 無意識の行動だったのだろう。ネーヴェルに手を握り返されたところで、ようやく自分が彼女の手を握っていた事に気付いたらしい。ハッとしてネーヴェルを見つめたイチノは、柔らかく微笑んでくれる彼女の、その美しい銀色の瞳の中に宿る、意志の炎を垣間見る。


 その瞬間、胸の内に燻っていた不安という不安の一切合切が溶けて消えていくのを、イチノは確かに感じ取った。

 自然と緩んだイチノの頬を、ネーヴェルが空いた手で愛おしそうに撫でてゆく。そこで再び、先程までとは違い種類の緊張がイチノの胸に飛来した。

 顔面に熱が集中し、撫でられた頬が一気に赤みを増したところへ――


「おいっ! 何か、様子が変だぞ!?」

「――!」


 必死に声量を抑えた、アッシュの悲痛な叫び声。そこに隠し切れぬ困惑の色を感じ取った2人は、揃ってオークの一団に目を向けた。


 そこには、リーダー格のオークが不細工な鼻を空に向け、ひくひくと小刻みに動かす姿があった。

 あれはどう見ても、匂いを確かめようとする仕草であると理解したイチノは、跳ね上がる焦燥を落ち着かせるべく、思考を回転させる。

 仮に、自分達の居場所がバレて、オーク達と戦闘になった場合、どう動くべきか。

 オーク達のパーティ構成を見るに、リーダーは片手剣を2本ずつ背負った双剣士タイプであり、取り巻きの3体は片手剣に小盾を携えた近接タイプ、残る後方の2体は弓矢を主体とした遠距離タイプらしい。


 まずは、遠距離タイプの2体を無力化するべきだろう。前衛を無視して倒すのは、出来ない事はなさそうだが、アッシュとクラウスに危険が及ぶリスクが高い。ならば、まずは矢を放てないようにブラインドフォールドで視界を奪う。然る後に――


「――! 遠方から、さらなる反応……」

「げぇっ!? 数は……20体、か……」


 気配を察知する距離はネーヴェルの方が優れている。しかし、その数を把握する術に関しては、イチノの方が上だ。

 その理由として、ゲーム時の仕様である画面端のミニマップにあった『自身から一定距離内の味方を青い点、敵を赤い点で知らせる』機能が生きているからであるとイチノは推測しているのだが、今は関係のない話である。閑話休題。


 苦虫を噛み潰したように唸るイチノ。状況は頗る悪くなった。


 さらに悪い事に、どうやらオーク達にこちらの存在を気取られたらしい。匂いではなく、場に残された足跡で。どうやら、あのリーダー格のオーク――オークリーダー――は、優秀なスカウトの技能を持っているようだ。そして、周囲を警戒するような素振りを見せた後、背中の剣を1本だけ抜き放った。

 そのまま、唐突に天を仰ぎ、肉食獣の如き咆哮をあげる。

 獰猛な雄叫びを前に、身を震わせるアッシュとクラウスの息遣いが段々と荒くなっていくが、それに構ってやれる余裕などイチノにはない。

 僅かな間を置いて、遠方から似たような咆哮が轟いてきた。どうやら、20体の気配の正体は同じくオークらしい。

 オークリーダーの技能を鑑みるに、目の前の一団は斥候部隊か何かなのだろう。

 不運に不運が重なったような現状に、思わず天を仰ぎたくなるが、イチノはそれをぐっと堪える。


――それにしても、ここいらでオークと遭遇する可能性があるにも関わらず、採取依頼の難易度はイエローランクなどと詐欺もいいところではなかろうか。


 そんな、どうでもいい思考が脳裏の片隅を這い上ってくるが、すぐさまそれを打ち払ったイチノは眼前の危機に意識を向ける。現実逃避をしている暇はない。


 さて、敵には気取られてしまったが、完全にこちらの位置を掴んだというワケではないようだ。オーク達の陣形や警戒の度合いからして、『何者かがいた形跡がある。もしかしたら、まだ潜んでいるかもしれない』程度にしか捉えていないのかもしれない。

 集団の動きを見ても、積極的にイチノ達を炙り出そうとは考えていないらしい。斥候と思われる彼らが動かないということは、敵は既に付近から去ったという思考に傾いているということだろう。


 ならば、どうする。このままやり過ごすか。オーク達が向かっている方角は、イチノ達の帰り道とは異なっている。ここを無事にやり過ごすことができれば、帰り道にオーク達と遭遇することもあるまい。イチノとしても、無駄な戦闘は極力避けたいところだった。

 それとも、後続のオーク達に発見される可能性を考慮して、まだ居場所を見つけられていないうちに、こちらから打って出るべきか。アッシュ達を危険に曝してしまうことになるが、今ならば、不完全ながらも奇襲という形で先制できる。ネーヴェルとイチノが前に出れば、殲滅は容易い。


 オークの気配が近付いてくるにつれて、心臓の鼓動も高鳴っていく。

 筋肉の組織や密度が人間とは根本的に異なっているのだろう。人間と比べて、一回り大きい程度の体格しかないわりに、体重の方は随分と重いようだ。一歩一歩踏み締める足は深く大地にめり込んでいた。

 既に、先頭を歩くオークリーダーの目鼻立ちすら、くっきりと視認できる距離まで詰まっていた。


――ごひゅー……ごひゅー……。


 気の弱い者なら、それだけで平常心を掻き乱されるであろう独特な、それでいて悍ましい呼気がすぐ間近まで迫ってくる。

 しかし、彼らに目立った動きはない。

 これならと、イチノは改めて"やり過ごす"という決断を下そうとしたその時――


「うわああぁぁあああ!!」

「ッ――!?」


 極度の緊張状態を前に、アッシュの精神がぷっつりと切れてしまったらしい。

 発狂したように叫ぶアッシュは、背中の両手剣を抜き放ちながら、オークリーダーへと突撃していった。

 突然の襲撃者に動揺したオークリーダーだったが、奇襲するにしては開き過ぎている距離とアッシュの雑な身のこなしを見て取り、すぐに冷静さを取り戻した。襲撃者が取るに足らない未熟者であると看破したようだ。


「アッシュ!? ま、待って!!」

「くそっ! あいつめ、余計な真似を!!」


 クラウスの声は届かず、アッシュはひたすら前に突っ走っていく。

 その無謀な後姿を眺めながら、イチノは苛立たしげに毒づいた。

 こうなってしまっては、最早オーク達を殲滅する以外に、皆が無事に生きて帰る術は無い。

 茂みに隠れている意味も無くなり、アッシュを追って飛び出すイチノとクラウス。

 そこへ、この状況下ですら無表情を欠片も崩さないネーヴェルが並び立つ。


「イチノ様、下がってて。ここは私が――」

「いや、ネウさんこそ下がっててくれ」


 イチノは真っ直ぐにオーク達を見据えながら、確固たる意志を込めて言った。


「――ここは俺がやる」


 想定外の形になってしまったが、イチノはこの世界に対し、一歩踏み出す覚悟を決めた。

 今日まで採取の依頼をこなす中で、魔物との遭遇は何度かあった。そのいずれも、ネーヴェルに対処してもらったのだが……。

 しかし、敵と余裕で渡り合えるだけの力がありながら、いつまでもネーヴェル1人に戦闘を押し付けて、自分はその背中に隠れているだけなど許されない。

 殺しを忌避して、現実に迫っている脅威から目を背けるのはもう終わりだ。

 遅かれ早かれ、いずれは向き合わなければいけない問題だったのだから。

 ならばいっそ、勢いのまま突っ走ってしまうのも一つの手だろう。


 イチノの真剣な眼差しを受けて、ネーヴェルは心配そうに瞳を曇らせるが、すぐにそれを消すと、納得したように頷いた。


「そう。なら、私は後続のオーク達を始末してくるね」


 ネーヴェルはアッシュをイチノに任せる代わりに、自分は20体のオーク達を排除してくると提案した。

 事実、足手纏いを気にしなくていいのならば、ネーヴェルは容易くそれをやってのけるだろう。


「やれる?」

「余裕」

「わかった。気を付けて」

「んっ」


 短いやり取りを終え、ネーヴェルは凄まじい脚力をもって、その場から掻き消えた。

 後続のオーク達の元へと向かったネーヴェルを視界の端で見送った後、イチノはアッシュの背中を追い掛ける。


「くそっくそぉぉおお!! やられる前にやってやる……死ねぇぇえええ!!」


 絶叫しながら両手剣を振り被るアッシュの斬撃。しかし、その刃は敵に届かない。届くわけもない。

 つまらなそうに剣を振り上げたオークリーダーは、簡単にアッシュの両手剣を弾き飛ばしてしまう。

 己の武器を失うばかりか、その圧倒的な膂力に圧されたアッシュは大きく体勢を崩した。


 それは誰がどう見ても致命的なまでの隙であり、


「う、あ……」


 オークの冷えた眼光が怯え竦むアッシュの瞳を捉え、呆れたような鼻息と共にその腕が振り下ろされる――その刹那。


「オーバースマイトッ!」


 ゴッ! と、鈍器に頭をぶつけたような音が響き渡り、それと同時にオークリーダーの身体が不自然に傾いた。

 ぐらりと、屈強な肉体が仰向けに倒れていく。


「え……? な、なにが……」

「さっさとそいつから離れろ!」


 しかし、アッシュがそれを見届ける暇も無く、背後から怒声が叩き付けられる。桁違いの威圧感に肉体を撫でられたアッシュは、脊髄反射レベルでオークリーダーから離れた。

 慌てて背中を見せるアッシュを射貫こうと2体のオークアーチャーが冷静に弓を構えるが、それよりも早くイチノのブラインドフォールド――状態異常の暗闇――に視界を奪われた。これでは弓をつがえるどころの話ではなく、恐慌状態に陥ったオークアーチャーは弓を棍棒代わりに、出鱈目に暴れ始めた。


 アッシュは怒気を露わにするイチノの背後まで後退すると、震える足で飛び込むように、先程まで隠れていた草むらの中へ身を躍らせた。クラウスもそれを追う。

 オーク達に居場所が露見した手前、今更隠れる意味もないのだが、イチノの邪魔にならないようにと配慮した結果であろう。


 一方、消費する魔力量を増加させることで、魔法を単体指定から範囲指定に変更することができるというゲーム時の特性を利用し、咄嗟にオークアーチャー2体を無力化したイチノは、剣を構えて突撃してくるオークファイター3体に対し、即座に範囲指定のモーメントパルジー――状態異常の麻痺――をお見舞いした。

 全身に電流が奔るが如く、急激に肉体の自由が奪われた2体のオークが派手に転倒するが、それに耐えた残りの1体が死に物狂いの形相で剣を振り被ってくる。

 上段から大きく振り被られた剣がイチノを真っ二つにする光景を幻視し、クラウスは思わず瞼を閉じる。だが、アッシュだけは瞼を閉じず、次に起こる光景をしっかりと目に焼き付けていた。


 空気を切り裂く勢いで振り下ろされた剣が背筋を凍らせる音を奏でる。だが、その刃がイチノを切り裂くことはなかった。

 イチノはほんの半身程、横にずれただけで凶刃を躱すと、流れるように身体を回転させながら、杖の先でオークファイターの横っ面を引っ叩く……いや、そんな生易しい表現では収まらない。

 武器が武器だけに即死とはいかなかったが、彼我のステータス差は絶望的なまでに大きい。カウンター気味に殴られたオークファイターは牙を砕かれた挙句、意識を朦朧とさせて、踏鞴を踏む。その顔面は大きく潰され、片方の眼球が飛び出していた。

 あれだけ魔物に恐怖を抱いていたにも関わらず、一度覚悟を決めてしまえば、肉体は淀みなく動いた。その明らかな"異常"に疑問を抱きつつも、イチノは敢えて手を止めない。

 哀れな魔物の腹に、容赦無く回し蹴りを叩き込む。

 目にも留まらぬ身のこなしで放たれた蹴撃は、さながら鋼鉄を穿つ徹甲弾の如し。蹴りの一撃で15メートル以上吹き飛ばされたオークファイターは、不明瞭な視界ゆえに未だに滅茶苦茶に暴れ回るオークアーチャー達の近くへ、ボロ雑巾のように転がった。

 それを視認したイチノは、オーバースマイトから立ち直り、ふらふらと起き上がるオークリーダーと麻痺状態にある残りのオークファイター2体に対して、チェーンバインドを発動させる。

 ガチッと、不自然な姿勢で硬直したオーク達を気にも掛けず、すぐさま次の魔法を詠唱した。


 今までに放った魔法と違い、一瞬では発動できないそれは、数秒の間を置いて完成する。


「……フルライトニング」


 ボソリと、どこか気まずそうな、覇気の無い声で魔法の名を呟くイチノの視界の先、アーチャーとファイタ-の計3体が纏めて雷光に包まれた。

 鼓膜をぶち破る轟音が、網膜を焼き潰す稲光が、傍で見守っていたアッシュとクラウスの心臓を強く鷲掴んだ。


 後に残ったのは、黒い塵となって空に霧散していくオーク達の残骸のみ。


 チェーンバインドで固まったままのオーク達は、絶大な魔力の奔流に曝され、自らよりも後ろにいた同胞達が纏めて灰塵に帰したことを察し、その屈強な肉体を震わせ始めた。

 その絶望に満ちた表情が、目の前の存在と敵対してしまった事の後悔を容易に他者へと悟らせる。


 しかし、ここまでやった以上、イチノとて後には引けない。


「アッシュ、クラウス、武器を取れ」


 イチノはそれだけ短く告げると、パープルペインでオーク達に毒の状態異常を付与し、状態異常の効果時間を延長するエンダーサプライを唱えた。

 弾かれるように動き出したアッシュは両手剣を回収し、クラウスも弓矢を構える。

 少年達も、イチノが己に何をさせようとしているのか察したらしい。彼らの顔には緊張の色以上に、相応の覚悟が見て取れたが、忌避感等は一切浮かんでいなかった。

 死生観でいえば、安寧な世界でぬくぬく暮らしていたイチノよりも、過酷なこの世界で常に死と向き合ってきた2人の方がシビアなのは言うまでもない。


「フロントライン」


 イチノはまず、味方のステータスを上昇させる魔法をアッシュとクラウスに掛ける。彼ら程度の実力では、上昇するステータス量も雀の涙程であろうが、何もしないよりはマシという判断に基づいた行為だった。


「ディフェンドラプス」


 次いで、敵の防御力を低下させる魔法をオーク達に掛ける。これで、少しはアッシュとクラウスの攻撃も通るようになるだろう。

 あとは、毒に蝕まれたオーク達の生命力が限界まで弱るのを待つだけだ。


「こいつらのトドメは、君達で刺すんだ」


 イチノはそう端的に告げると、杖の先でオーク達を示した。


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