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飛べない鳶の勇者生活  作者: 上瓶コルク
第一章
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 8 宿敵

8 宿敵

 「あー」

 お腹減ったなー。朝何も食べてなかったからかな。朝食べたやつ、あれ、テレビでしかお目にかかれないゲテモノりょ...げふん、珍味料理だったし。

 言っておくけど僕、珍味は本当に無理だからね?言ったよ?

 たとえばコンビニとかでお馴染みの酢昆布...などとトンビはぶつぶつ考えながら朱蓮の住む仮住居らしいところへと向かっていた。が、気づけば朱蓮と初めてあった因縁深い竹藪の中を歩いていた。

 「ほんと、綺麗だよなぁ...」

 景色に少し心を洗い流されていたとき。

 「それは何故か?」

 「っ!」

 はいっ?!

 そこまで遠くなさそうなところから男性の声が聞こえた。言葉は短かったが感情が強いせいか少し大きめに竹藪の中に響き渡ったのでトンビは少し気後れしてしまった。

 ...誰か、近くで争い事でもしているの?それとも喧嘩?

 あまり近寄りたくなかったがそうもいかなかった。何せ、その声の主はおそらくトンビの進行方向の先にいるのだから。

 行くっきゃないか...。

 トンビは忍びのつもりでそろそろと進行方向に向かって歩いた。五分程歩くと地面が急斜面になり、さすがに下れなかったトンビはそっと顔だけ下を覗いてみた。するとトンビのいる位置から10メートル程離れたところに、見たことのある影と見たことのない影が対立していた。

 なんだろう、この違和感。片方は見たことがある気がするのだが、なかなか思い出せない。

 うーん。


 「それでここ一番の腕とは認められないな」

 あ、見たことのない方の影が喋った。

 そうか、さっき聞こえたのはこっちの声だったのか。やはり声からして不満げな様子。

 「さっきも言ったはずだ。あいつはただの小僧ではない。だが、本気を出さずともねじ伏せることは可能だ」

 もう片方の影も喋った。

 ん、なんか聞き覚えのある低めの女声...って!

 「sっ」

 驚きのあまり声が出かけ、トンビは全力で口を塞いだ。

 何考えてるんだこの阿呆!自滅したいのか?!

 あっちも僕の気配に気づいたのか、左側にいた女性がこっちを一瞬振り向いた。

 よく見えなかったがおそらく黒い髪に白い肌。

 まぎれもなく、あれは朱蓮だった。

 てことは、まさかだけど右側にいるのって、えーっと...。

 「どうした、朱蓮」

 「いや。何でもないが、名前呼びするなと言っただろう、青龍」

 ナイス朱蓮さん!

 ...いや、ナイス言っている場合じゃなくて!

 あー、あれだ。心葉さんが言ってた。えっと、そうだ、あの人朱蓮さんと同じくらい強い人だっけ?てことはもう青龍さんにも僕バレているんじゃ?

 ...。

 逃げよう。

 そう思ったトンビが顔を引っ込めようとしたとき。

 「そこで何をしている。帰るぞ」

 「!」

 不意に後ろからサッと誰かが現れ、トンビを担ぐと広場方面へ連れていったのであった。



 「...すみませんでした」

 あれからしばらくして、トンビはまた朱蓮の家の居間に正座で座っていた。

 机を挟んで向かいには、腕を組み同じく正座をしている朱蓮が真顔でトンビを見下ろしていた。

 この様子、赤の他人がみると説教シーンだと思われがちだがそうではない。僕が自分から軽く頭を下げているだけだ。

 だって他人の内緒話無許可で盗聴していたし。

 僕だってされたら嫌だし。

 ここは日本人(現世人)の礼儀として一言謝っているのだった。

 ...なのだが。

 「なぜ謝る」

 「...はい?」

 「なぜ謝る必要があるんだ?」

 えー...。

 朱蓮さん《このひと》には通用しなかった。というか、聞くところによると、山賊は盗聴してナンボの職業らしく、朱蓮自身もよくやっているそうだ。

 だが、敬意として格上の人のことを盗聴してはいけないらしい。

 成程、今のところ敵なし(長老様を除く)の朱蓮には盗み聞きされるほどの人がいなかったからあんなに周りが静かだったんだ。

 トンビは一人でうんうん納得した。

 「成程...」

 「なぜそんなに頷いている?」

 「なんでもないです」

 即答すると朱蓮は少し首を傾げつつお茶をすすった。

 「あの、一ついいですか?」

 「なんだ?」

 僕が尋ねると朱蓮は少し驚いたような顔をした。

 「さっきの男性は青龍さん、でしたっけ?」

 「そうだが」

 「あの人とどういう関係なんですか?」

 そういうと朱蓮は少し気難しい表情になった。

 「あいつは...」

 「...」

 「一言で言えば、厄介者だ」

 厄介者?

 「それって...」

 「あいつは長老様の孫だ。時期ヒル山賊の長として有望な一人であり、その実力は折り紙付き。それゆえに部外者でありながら目立つ私を嫌っているのやら、実力の差を憎んでいるのやらで私にしつこくまとわりついてくる」

 「そうなんですか...」

 え、まって部外者って?

 「奴は私の事を宿敵だのライバルだの四の五の言っているが、私にしてみれば夏に徘徊する蚊と変わらん。が、長老様の命令として宿敵ということにしている。実力的に言えば...そうだな、油断すれば多少は深い傷が付くが、普通に立ち合えば擦り傷程度でどうにかなる。そんな奴だ」

 興味深い話、ありがとうございます。でも部外者とは...?

 「...」

 「何だ、まだ何か聞きたいのか?」

 うう、面と向かって聞かれると返せない。

 「いや...特に何も」

 「そうか」

 朱蓮はすっと立ち上がると髪を一つに結わえてキッチンの方へ出向いた。

 が、何かを思い出したかのようにふと顔だけトンビの方に向けた。

 「言い忘れたが、あいつとはかかわるな。さっき聞こえていた通りあいつはお前に興味があるらしい。くれぐれも立ち合いだけは勘弁しておけ」

 小声だが忠告も混じったその一言にトンビは少しの不安と緊張を覚えた。

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