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飛べない鳶の勇者生活  作者: 上瓶コルク
第一章
18/18

 17 灰色の夢

 ...。

 ...。

 ...んぅ?

 不意に意識が戻った気がして目を開いてみた。するとどうだろう。

 「!」

 さっきまでいたはずのあの現場はおろか、嫌に思っていたあの混沌とした霧すら忽然と消えている。そう、一言で言えば「無空間」だった。その言葉そっくりそのまま、辺り一面真っ白すぎて自分が立っているのかよくわからなくなるくらい。

 ん、あれ?僕、立っていたの?

 感覚的には立ったまま...な、気がする。確かめようと首を足元へ向けようとした。

 が、首が動かない。

 「?!」

 ついでに言うと、体全身はおろか、声を出すことすらできない。ただ、手の指先や唇など、あまり大きくない部分は動かせるらしい。

 ということで、試してみました。

 「...!」

 ほら、今確かに口を大きく開いて大声を出して助けを求めようとしたはずなのに、最後の「!」しかはっきりしない。

 ん、いや「!」ははっきり分かるものなのか?

 ...。

 知らん!知ったこっちゃない!

 まあいいよ。指先動くんだったら(生きているって分かるし)。


 さて、本題へ戻ろう。

 ここ、どこ?

 首が動かないので当然ぐるりと一周辺りを見渡す事も出来ないし、足も動かないので当然歩き回ったり、足の感触を確かめたりすることも出来ない。

 というか、今の状況だと足の感覚は無い。今までの経験上、大理石の床とか磨かれた石の床とか、つるつるした感じのところだと伺える。

 じゃあ、ここ建物の中?

 ん?えーっと、つまり、これって...。

 軟禁、いや、監禁状態だよ!

 てことはアレだ。

 今僕を縛っているのって、目に見えないだけであって本当はごっつい鎖とかでがんじがらめ状態になっているんじゃない?ほら、一応さっきまで青龍さんの部下に襲われていた、ってだけあってあり得るし。

 ...いやいや待て待て落ち着け。今の現状、別に腕や肩がきしむように痛いとかは無いし、瞼の上に何かが被さっているような感じもしない(仮にあったら絶対解かる)。てか、さらに言ってしまえば、普通拘束するのであれば今の僕の姿勢みたく腕を30°くらい広げた状態で放置、なんてありえないでしょ?足も少し...15°くらい?開いているし?僕だって伊達にRPGゲーム(ド〇クエとか)をやっていたわけではないんだから、この位は知っているんだぞ!

 まあ兎に角、僕は事実上拘束はされていないと見た。

 よかった。



 ...さて、安心したのは良かったとして、今度は暇だ。

 何だ?この時間。

 ゲームで言えば、死亡した後のラグタイム?

 待て、勝手にゲームと混同させちゃダメだ。ここって別にゲームの世界じゃない。今のところ魔法の一つも見てないし?あの不親切な髭モジャ爺さんがご丁寧に『転生界』だー、って教えてくれたし。てか、第一に僕は死んだわけではないんだぞ。多分。いや、絶対。

 ...。

 もうこの際どっちでもいい。いいよ!いや、良くないけど!

 まあーとりあえず、だ。

 何のためにこの空間が現れた?

 いやー、多分、現れた、と言うよりも入り込んできた、って気がするけどなぁ。

 だって人は普通意識が切れたら、死に至る以外はレム睡眠とやらをまたいつも通りに繰り返すんじゃなかったっけ?そこら辺の難しい知識は知らないけど、以前、例のぶっ飛んだ性格の姉がジェットコースターに乗って気絶したとき、意識が戻ってから「あー、すっきりした!ねえ、私ジェットコースターに乗った後、辺り一面満開のお花畑で綺麗な蝶々としばらくお散歩してきたの!いいでしょ、羨ましい?」なんてマジ顔で言ってきたことがあったし。確かに普通ならば「お花畑」のワードを聞くだけでマズいと察知するが、うちの姉は例外。日常茶飯事的な一言だったので正常と見た。うん、気絶しても普通は大丈夫。

 とー言うことは...?

 ...。

 さっきまで喚いていた脳内会議が一旦ストップされ、辺りはしんと静まりかえった。


 すると、まるでそのタイミングを見計らったかのように、目の前の風景が急に変わった。

 ぶわん!(←こんな感じな気がした)

 「っ!」

 目の前の景色は鈍く揺れると、真っ白だった景色に色を少しずつ混ぜるかのようにどんどん黒みを増し、やがてそれは誰もが見たことあるような、薄暗い病院の一室の様な背景を灰色一色で映し出した。ぐっと目を凝らして見ると、中央に大きく病院でよく見るような入院患者用のベッドがあり、その中では誰かが寝ている。トンビが見ている角度は、小学校低学年くらいの身長でベッドの足元側の左端っこから右斜めにベッドの枕側を見ているような感じなので、地味にベッドに横たわる者の顔までは覗えない。

 部屋、暗っ。ついでに言えば、もうちょい上から見たい。あ、あと...。

 そこまで考えていた所で、トンビはふと考えるのを止めた。

 じっと見つめていた薄暗い視界に、灰色だが見たことのある人影が入り込んできたからである。

 「...!」

 ま、さ、か...!

 トンビは血の気がすすっと引いていくのを感じた。

 入ってきた影、それはトンビが苦手とする人物の一人、母である美濃恵子と見れたからであった。

 「...」

 トンビから見て、この母は彼が今まで生きていた中で最も不思議極まりない存在だった。そう、なぜか心の内で彼女を家族ではないと批判する自分が唯一いる存在。ただの一方的な人間不信だったらそれでいい。だが、トンビは自分でわかるほど例外だと考えていた。

 要するに、トンビも彼方(あちら)から異質だと思われているのである。

 幼少期...と言うのもまだ早いかと思うが、一般的にそういう年頃の当時は特に辛かった。まだ当時は自我がほんの少し芽生えてきたばかりの頃であったのもあるとは思うが、それでも今思い返せば、あの時のように3日に一度のペースで他人のように睨まれたり、「全くあの子は...!」とこっちがまだわからないことをいいことに陰口をいっぱい叩かれたりされるのは子としてかなり辛い。

 ...一番、思い出したくない存在って言っちゃっていいのかな。

 事実上、僕は彼女の子であり、彼女が僕にとっての母である。これはトンビと彼女がよくいざこざを起こしたときになだめにかかった父に何度も言われたことである。

 んん?!

 そうだ、これは誰もいない今だからこそ悩めることではないか!

 うん、冷静に考えればやっぱりおかしい。おかしいよ。絶対何かあるでしょ。確かに僕はそういう類のミステリー小説とか日常的物語も嫌いではないことは自覚しているけど、これは疑っていいだろう。

 でも...これは正直怖くて言いづらい。

 僕は...。

 『っ!ちょっと貴方、これは一体どういう事なの?!』

 ひいっ?!

 トンビは急に割り込んできた恵子の声に身体をビクっと震わせた。

 また脳内会議に没頭しすぎて見忘れていたよ!

 あらためて目の前に意識を戻すと、恵子の近くに父である美濃鷹志がいつの間にか入っていた。こちらも同じく灰色でわかりづらいが、今まで仲良くしていたのもあってシルエットを見ただけでもすぐわかる。うん、間違いはない。ただ、ちょっと今より少し痩せている...?

 『しーっ。鳶高が起きちまうだろ?』

 『そんなことどうでもいいでしょ!』

 ちょーっと待って!待ってって?!

 今僕のこと、呼んだ?呼んだよね?!ねえどういう事?!

 だが目の前に映る光景は止まってくれない。

 恵子は鷹志に一枚の白い紙を突き付けた。

 『それよりもこれをみて頂戴!ここ!特にここ!』

 『...ああ』

 『ねえ聞いてるの?!ねえ』

 『静かにしてくれって。ああ、聞いてる』

 『もうっ?!いつになったら目が覚めるのよ!』

 ...。

 『目は覚めてる。意識は正常。普段通りさ』

 『じゃあ何で』

 『聞きたいのはこっちだよ』

 鷹志は紙から目を離すと恵子に向き直った。

 『...何故、鳶高を受け入れてくれない』

 『...』

 『何故、この子を愛しい我が子だと言ってくれないんだ』

 『...』

 『聞きたいのはこっちなんだよ。恵子』

 トンビは静かに息をのんだ。

 当然、トンビが今まで生きてきた中でこんな風景一度たりとも、一瞬たりとも見たことない。

 「何故愛しい我が子だと言って受け入れてくれない」...。

 僕は、嫌われているだけだろうか。

 だったら気が楽なんだけどな。

 でも...。

 ゆっくりと瞬きを繰り返した。すると、3回目くらいの所で急に辺りは暗転した。

 「!」

 同時に、どんどん船酔いしていくような感覚に陥ったような感覚になっていく。

 ああ...これだけなんだ。これしか見せてくれないのか。

 これをわざわざ見せて何をしたいの?何がしたかったの...!

 大きな不安と小さな怒りが心中でぐるぐると渦巻き、この世界が終わりを告げようとしている中、最後に一言と何かが聞こえた。


 《自分を強く、*******見失わないように...》



 何故か、途切れ途切れにしか聞こえなかったことに少しだけ後悔を覚えた。

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