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飛べない鳶の勇者生活  作者: 上瓶コルク
第一章
10/18

 9 夜の一言

 こうしてなんやかんやとわちゃわちゃしているうちに一日は終わってしまった。

 ん、ご飯食べたのかって?

 仕方ないからご近所様がたに魚をもらって焼き魚で一日収めました(魚以外はゲテ...珍味料理しかないし)。

 その後は少し朱蓮さ...朱蓮に剣術を少し学びました。

 辛かったです。こんな羽目になるのであればサッカーなんかやらずに剣道部に入ればよかったよ。まったく、あのお団子橘花(きっか)姉め(※姉はお団子ヘアーなので)。

 そう、ついでに「さん付けはやめろ」と朱蓮から叱責をいただいたのでこれも少し辛かった。

 初対面の女声を呼び捨て?んなの出来ないって。頑張ったけど。

 「はあ...」

 疲れたよなー...。

 この一日をこれから毎日送るのか。

 いや、毎日送れるわけがないだろ。少し考えればわかるはずだ。

 今気づいたけど、朱蓮に出会った頃から僕は元の現世の事をすっかり忘れていた。いや、正確には考えている暇なんてなかったからともいえるのだが...しょうがない。

 さて、これからどうしようか?

 今後とも朱蓮をはじめとするこのヒル山賊さんがたにお世話になってもいいのだろうか?十中八九良くないだろう。仮に面倒を見てもらえる現状になったとしても、現世に帰る手立ては一ミリも見つからない。

 いや、そもそも僕はこの世界に本来ならいてはならない存在だ。おそらくだけど。

 『こっちの世界とのバランスが保たれていない』

 『女神様を支えるための唯一の生者』

 あの懐かしきカルドじいさんの台詞が浮かんだが、正直お手上げだ。

 いや、僕が女神の子供?

 んなわけないでしょ。だったら今頃現世で姉さんたちと暮らせているはずないでしょ。

 ...。

 ...。

 。

 いや、あり得るかもしれない。



 寝っ転がりながらただぼーっと窓の外に広がる美しい夜空を見上げた。

 こんな夜空、どっかで見たことがある。

 ...。

 そうだ、亡くなったばあちゃんの家で見たことがある。

 あの時はまだ小学1年生だったっけ?

 ただただ茫然と外を見ていたら、横からばあちゃんがそっと話しかけてくれたんだっけ...。


 『どうしたんだい、眠れないのかい?』

 『...』

 『おや、夜空をみていたのかい』

 『...』

 『お星さま、綺麗でしょう?』

 『...うん』

 『今頃お星さまの向こうからじい様もきっと私たちを見下ろしているのよ』

 『そうなの?』

 『ええ』

 『ねえ、そしたらさ、お星さまのところに行けばじいじに会える?』

 『...』

 『ねえ』

 『...そうねえ、きっと会えるかもしれないね。あなたの本当のおか...』


 「っ!」

 しまった。寝てた。

 慌てて起き上がると、辺りは真っ暗だった。

 ?!

 ここも夢なのか?

 布団はある。うん。

 近くにたたんでおいたマント、ある。うん。

 同じくショルダーバック、ある。うん。

 あ!剣は?!

 ...ない。

 「なんで」

 言いかけたところで急に右耳を誰かに引っ張られた。

 「いだだだだだだだだっ!」

 右耳に引っ付くものを放すと、それは同じく忘れかけていた小動物だった。

 小さなハムスターの様な外見をもち、懐いてくれれば大いに力を発揮してくれるというコールラット。

 「ルート...!」

 しまった。

 引き剥がす際に力強くやっちゃった、とあわあわしているうちにルートはトンビの手の平から器用に飛び降りた。

 「あ!ル」

 《わかっているよ。遠くへ行きはしない》

 ...。

 ...。

 ?!?!?!

 今、喋った。

 いや、喋ったあ?!

 「いやいやいやいや...」

 一気に頭がフリーズ。

 そして理解の遅い脳はだんだん言うことを聞いてくれなく...。

 《おーい、おーい、戻ってこーい》

 はっ!

 ルートが呼んでくれなかったらそのままシャットダウンしてしまうところだった!

 ...。

 よし、正気に戻ろう。

 「...」

 正気になんか戻れるかーっ。


 「あの、とりあえず今置かれている現状を説明してください」

 トンビはルートに尋ねた。

 《え?現状をセツメイってなに?》

 意外と幼い男の子の様なボイスを持つ彼は年も若いのかよくわかってくれなかった。

 うーむ...。

 ...。

 真っ暗な異空間でしばしの沈黙が流れた。

 《トンビ、大丈夫?》

 「ん?!だ、大丈夫だよ」

 いきなりの質問にトンビはいちいちびくびくしてしまう。

 ...我ながら、情けない。

 《いや、大丈夫じゃなさそうだね》

 「えっ?」

 ルートは僕の方に再び歩いてくるとよじ登ってきた。

 《僕はキミに出会ってからものすごい近い距離でキミを見てきた》

 「うん、」

 《キミは大丈夫なんて言ったけど、やっぱりどことなく寂しさと疲労感を感じるよ》

 「...」

 はっきり言ってもらって嬉しかった。

 でも、その一言に甘えられない。

 《カルドのじっちゃんが正しいのであればキミはこの世で最強の人間らしい。勿論、女神様っていう人物よりも》

 「そんなはずは」

 《あるんだなあ》

 そう言い切るとルートは肩に飛び乗った。

 《でも、一言言っていい?》

 「うん?いいよ」

 しばらく間をあけると、ルートは再び口を開いた。



 《キミはおそらくその使者ではない。僕はそう思うよ》



 君は使者ではない。

 ...そうか。

 「ルート」

 《ん?》

 「ありがとう」

 今宵はなぜだか心の底から安心出来たトンビだった。

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